プロローグ
夜の草原に、眩い光が咲き誇っていた。
巨大な円形の舞台を中心に、色とりどりの光が空へと伸び、幻想的な音楽が夜風に乗って広がっていく。
空中では無数の光球が舞い、火を吐く獣が火輪をくぐり抜け、空中ブランコの上ではスライムが軽やかに宙を跳ねていた。
歓声は嵐のように渦巻く。
数千人の観客が、目の前の奇跡を食い入るように見つめていた。
それはもはや迷宮ではなかった。
誰もがそう感じていた。
――これは、世界最高のサーカスだ。
中央舞台に立つ一人の男。
黒いコートを翻し、右手には星空のように輝く指輪。
華岡 大地
かつては名もなき最弱ダンジョンマスターだった男だ。
「さぁ……次の演目に移ろうか」
その時だった。
大地を取り囲むように、重い鎧の音が鳴り響く。
白銀の甲冑に身を包んだ騎士たちが、整然と観客席を割って現れた。
聖印を掲げた旗が夜空に翻る。
聖騎士団――教会直属の迷宮討伐部隊。
「異端のダンジョンマスター華岡大地。
その存在は神の秩序を乱すものと認定された。
直ちに迷宮を閉鎖し、抵抗するならば排除する」
場内に緊張が走る。
しかし大地は、ただ小さく息を吐いた。
「……お客様の前で無粋だな」
静かに指輪へ魔力を流す。
星屑のような光が舞い上がり、舞台がゆっくりと回転を始めた。
次の瞬間、空間が歪む。
現れたのは、重力を無視した迷宮構造。
幻想の獣が咆哮し、無数のトラップが光を放つ。
聖騎士たちは一瞬で陣形を崩され、空へと投げ出された。
戦いは、あまりにも一方的だった。
やがて静寂が戻る。
観客席から、割れんばかりの歓声が沸き上がった。
大地はゆっくりと振り返る。
満員の客席、涙を浮かべる子供たち、笑顔の仲間たち。
そして静かに告げる。
「――本日の公演は、これにて終幕だ」
光が収束し、巨大なサーカス迷宮は夜の闇へと溶けていった。
これは
最弱から始まった、一人の男の物語である。




