温泉を温めただけなのに火山が噴火しました
最近、
巣の近くに温泉が湧いた。
正確には、
いつの間にか湧いていた。
山の岩肌の隙間から、
白い湯気がもくもくと立ち上っている。
岩をどかし、
湯気の立つ水たまりに足を入れる。
「……ぬるい」
冷たくはない。
だが、熱くもない。
悪くはないが、
満足でもない。
「惜しいな……」
少し考え、
周囲を見回した。
人間もいない。
冒険者もいない。
「ちょっと温めるか」
そう思っただけだ。
首を伸ばし、
山の奥――
火山の方へ向けて、
ほんの少しだけブレスを吐いた。
ごく弱く。
慎重に。
調整もした。
(これで、じんわり温まるはずだ)
完璧な計算だった。
ゴゴ…
地面が、鳴いた。
ゴゴゴゴゴ……!!
山が、光った。
「え?」
次の瞬間、
火山が噴いた。
盛大に。
しばらくして。
再び温泉に浸かっていた。
「あー……
ちょうどいい」
湯が身体を包み、
鱗の隙間までじんわり温かい。
熱すぎず、
ぬるすぎず。
完璧。
「やっぱ温泉はこうじゃないとな」
満足して、
大きく息を吐き、
湯に身を沈めた。
――遠くで。
ドォン、
という音がした。
さらに、
鐘の音。
何度も。
温泉から上がると、
遠くの山肌に、
黒い煙が立っている。
そのさらに先。
……町があった。
「あれ?」
首を傾げる。
しばらくして、
人間たちが来た。
前より多い。
装備も、
なんだか洗練されている。
「災厄竜だ!!」
「今度は火山だ!!」
「ん?火山?」
結界が張られる。
魔術師が陣を組む。
祈る人間までいる。
(何事!?)
一歩下がった。
槍が飛んできた。
「話し合おう!」
と吠えたが、
聞いてもらえなかった。
翼を広げ、
空へ逃げた。
背後で、
人間たちが叫ぶ。
「温泉街は守られたぞ!!」
「災厄竜を追い払った!!」
……温泉街?
空の上で、
少し考える。
(温泉、楽しかったな)
その日から、
新しい呼び名が増えたらしい。
《火山を怒らせる竜》
《湯を血で染める災厄》
《近づくと山が噴くもの》
……盛りすぎじゃないか?
ただ、温泉がぬるかったのが嫌だっただけだ。
こうして、
**災厄竜《アウル=ヴァルグラディオス》**は、温泉好きになった。




