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灰に眠る光  作者: 東達
灰に眠る町
19/25

ex.護るべき剣

物語が始まる少し前、ユリウス視点のお話。

 昼下がりの下町は、いつも騒がしい。行商人の掛け声に、子供の笑い声、時折すれ違う酔っ払いの歌。

 そんな喧騒の中、俺は杖を片手に歩きながら、隣であくびをかみ殺している青年を横目に見やった。

「なあ、ユリ」

「……なんだ、坊ちゃん」

「坊ちゃん言うな」

 レオンは少し不機嫌そうに言うが、目尻は笑っていた。

 子供の頃からずっと呼んでいる呼び名を、今さら改めるつもりはない。俺にとっては、皮肉半分、愛称半分だ。もっとも、本人は前者だと思っているのだろうが。

「で? なんだ?」

「明日の依頼、覚えてる?」

「当たり前だ。坊ちゃんじゃあるまいし」

「そんなに忘れた事ないだろ?!」

「忘れてない奴は寝坊しない」

「はいはい、優秀なお目付け役なことで」

 レオンがため息混じりに肩をすくめる。その仕草が妙に軽やかで、見ているだけで周囲の空気まで明るくなる。……まあ、それに何度救われたことか。

 肩を並べて歩きながら、ふと気づけば俺は口元を緩めていた。

 こんなやりとりが、いつまで続くんだろう。

 彼が子供の頃からずっと、剣を振るう彼の背に俺が魔術を添えてきた。気がつけば、それが当たり前になっていた。


 明日の依頼も、その先の冒険も、然るべき地位についた後も、きっと厄介事だらけだろう。だが、こいつの隣に俺がいる限り——


「何にやけてんの」

 不意にレオンがこちらを覗き込んできた。

「……にやけてなどいない」

「絶対にやけてた」

「……気のせいだ」

「ふーん。じゃあ、そういうことにしとくか」

 杖を握り直し、俺は軽く咳払いをした。

「ほら、寄り道してると宿の主人に小言を言われるぞ」

「ユリは堅物だなぁ」

「俺がしっかりしなきゃ、お前は野宿することになる」

「……否定できない」

 くだらない会話を重ねながら、俺たちは帰り道を歩いた。

 夕陽が石畳を黄金色に染めて、二人の影を長く伸ばしている。


 明日も、その先も。

 この相棒(主君)となら、きっと乗り越えられる——そんな確信が、心の奥で静かに灯っていた。

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