ex.護るべき剣
物語が始まる少し前、ユリウス視点のお話。
昼下がりの下町は、いつも騒がしい。行商人の掛け声に、子供の笑い声、時折すれ違う酔っ払いの歌。
そんな喧騒の中、俺は杖を片手に歩きながら、隣であくびをかみ殺している青年を横目に見やった。
「なあ、ユリ」
「……なんだ、坊ちゃん」
「坊ちゃん言うな」
レオンは少し不機嫌そうに言うが、目尻は笑っていた。
子供の頃からずっと呼んでいる呼び名を、今さら改めるつもりはない。俺にとっては、皮肉半分、愛称半分だ。もっとも、本人は前者だと思っているのだろうが。
「で? なんだ?」
「明日の依頼、覚えてる?」
「当たり前だ。坊ちゃんじゃあるまいし」
「そんなに忘れた事ないだろ?!」
「忘れてない奴は寝坊しない」
「はいはい、優秀なお目付け役なことで」
レオンがため息混じりに肩をすくめる。その仕草が妙に軽やかで、見ているだけで周囲の空気まで明るくなる。……まあ、それに何度救われたことか。
肩を並べて歩きながら、ふと気づけば俺は口元を緩めていた。
こんなやりとりが、いつまで続くんだろう。
彼が子供の頃からずっと、剣を振るう彼の背に俺が魔術を添えてきた。気がつけば、それが当たり前になっていた。
明日の依頼も、その先の冒険も、然るべき地位についた後も、きっと厄介事だらけだろう。だが、こいつの隣に俺がいる限り——
「何にやけてんの」
不意にレオンがこちらを覗き込んできた。
「……にやけてなどいない」
「絶対にやけてた」
「……気のせいだ」
「ふーん。じゃあ、そういうことにしとくか」
杖を握り直し、俺は軽く咳払いをした。
「ほら、寄り道してると宿の主人に小言を言われるぞ」
「ユリは堅物だなぁ」
「俺がしっかりしなきゃ、お前は野宿することになる」
「……否定できない」
くだらない会話を重ねながら、俺たちは帰り道を歩いた。
夕陽が石畳を黄金色に染めて、二人の影を長く伸ばしている。
明日も、その先も。
この相棒となら、きっと乗り越えられる——そんな確信が、心の奥で静かに灯っていた。




