ex.淡い感情
旅の途中の出来事
日が傾き始め、森の中に赤金の光が差し込んでいた。
レオンとユリウスが夕食の材料を探しに行っている間、残されたノエルとセラフィーヌは焚き火の支度をしていた。
枝を組む手を止め、セラフィーヌがそっと息をつく。
それだけでノエルには分かった。彼女の笑みの奥に、疲労がうっすらと滲んでいる。
「……セラさん、少し休んではいかがですか?」
「え、でも……」
「無理は身体に良くないですよ、かえって長引いちゃいます。ね?」
ノエルはそう言って、火打石を受け取ると代わりに手際よく火を起こし始めた。
セラフィーヌは口を尖らせかけたが、結局は素直にその場に腰を下ろす。
「……なんだか子供扱いしてない?」
「子供扱いではありませんよ」
ノエルは苦笑する。
「私が孤児院で面倒を見てきた子たちと比べれば、セラさんはしっかりしている。けれど、私から見ればまだ守るべき年頃なだけです」
セラフィーヌは小さく黙り込んだ。
焚き火の火花が、夕闇に散って消える。
彼女の横顔は炎に照らされ、普段の勝気さよりもどこか幼さが際立って見えた。
「……ノエルは優しいのね」
ぽつりとこぼれた言葉に、ノエルは少しだけ目を瞬いた。
「優しい、ですか」
「ええ。なんだか、安心する。……私『お姉ちゃん』だったからさ。いつも“強くなきゃ”って思ってて、誰かに甘えるなんて出来なかった。でも――」
ノエルは焚き火の炎を見つめたまま、静かに息を吐いた。
「……私は聖職者です。目の前の人を救うためにいるのであって、誰かを特別扱いしているわけではありませんよ」
「わかってるわ」
セラフィーヌはすぐに言った。けれど、その声はどこか震えていた。
「セラさんは本当に強い子です。けれど、強さの中に弱さを隠してしまう。だから……時には頼りなさい。そうすれば、もっとたくさんの世界が見えるはずですよ」
セラフィーヌは驚いたように目を瞬き、やがて小さく笑った。
その笑顔は、まだあどけなくて――しかしどこか、大人びた感情を孕んでいた。
これ以上、彼女の心を揺らしてはいけない。
ノエルは視線を火に戻し、淡々と火に枝をくべた。
彼が隣にいる少女の気配から不思議と胸に温もりを残していることに気付くのはまだ先の話である。




