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灰に眠る光  作者: 東達
灰に眠る町
16/18

ex.ひとの火とながい夢

 むかしむかし、まだ世界がいまよりずっと小さかったころ。

 人々は名前もない土地で、風といっしょに生きていました。


 おなかがすけば森へ行き、狩りをして。

 土をたがやしては、おいもの芽が出るのを待ちました。

 けれど冬の寒さはきびしく、病気もあって。

 あしたを生きられないひともたくさんいたのです。


 それでも、人はあきらめませんでした。

 石をけずって刃をつくり、火をおこし、

 次の子や孫のために、少しずつ「生きる知恵」をのこしていきました。


 そうして長い長い年月がたち、人々はひとつの大きな国をつくりました。

 それが「ヴァルディアン」王国です。


 人々は働き、笑い、そして学びました。

 新しいものを生み出すことを喜び、生きることのたいせつさを知っていきました。


 けれどある日、北の山の向こうからきた旅人が言いました。

 

「山のかなたには、ふしぎな民がすんでいる」


 その民は、とてもながいあいだ生きられる力を持っていたそうです。

 百年も、二百年も生きることができると。

 人々はうらやましがりました。

 

「そんなに長く生きられたら、どれだけたくさんのことを学べるだろう」と。


 でも、まもなく気づきました。

 その民は、あたらしいことを何ひとつしようとしませんでした。

 まいにち、ずっと、同じ魔法をくりかえし。

 ただ自分たちの命を長らえることだけを願っていたのです。


 そして、もっともこわいことに──

 死んだひとの「たましい」までも使おうとしていました。


 おじいさんの「たましい」を、小さな子どもの中にとじこめる。

 それを「すばらしい」こと言い、笑って祝っていたのです。


 その話を聞いたヴァルディアンの王さまは、たいそうおそれ、そして悲しみました。

 

「死は終わりではない。

 やがて新しい命を育む、世界のめぐりのひとつなのだ」と。


 王さまは山の向こうの国に使いを出し、言いました。

 

「子どもたちの「たましい」をいじめるのは、やめてください」


 けれど、あちらの王は笑いました。

 

「おまえたちのような短い命にはわかるまい」


 こうして、ふたつの国は戦うことになりました。

 だけど、戦いは、すぐに終わりました。

 

 そのあとに広がったのは、沈黙と涙でした。


 倒れていたのは、大人だけでなく、子どもたちの姿もあったのです。

 彼らは戦いを選んだのではありません。

 大人たちに「たましい」を押しつけられ、戦わされたのです。


 王さまは剣をおき、空を見あげて泣きました。

 

「子どもは、子どもとして生きるべきだ。

 未来は、未来を生きる者のものなのだから」


 それからというもの、

 ヴァルディアンの王の血を引く者たちは、

 立派な大人になるまでは町でふつうに暮らすようになりました。


 人々の中で笑い、働き、涙を知り、

 生きるということの大切さを学ぶために。


──だから、この国では今でもこう言うのです。


「命は火のようなもの。

 短くても、だれかの心をあたためることができる」

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