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11、異世界で前世の記憶の回想。

 クニツグ王太子殿下の計らいで、カナメさん夫妻こと──国王夫妻は長期休暇をお取りになって、ボクたちの家にて静養──実質居候することになって早二週間。

 カナメさんたちの身の回りの世話をする侍従・侍女の人数は世界サミットの前に宿泊されたときの半数以下、護衛の兵も外回りの兵は玄関と家への他の出入口だけになり、幾分かは過ごしやすくなりました。

 漸く、カナメさんたちが我が家に居る生活に慣れだした今日この頃……。

 “ソレ”はやって来ました。


 ──コンコンコン。


「はーい、少々、お待ちを」

 来客を告げる、ノッカーの音に偶々玄関の近くにいたボクが応答し、客を出迎えます。

「──はい、何方様でしょうか?」

 ──バタンッ!

 何故か条件反射で開けた玄関の扉を閉めてしまったボク。

 その直後、

「──めぎゅッ!?」

 ナニカが閉まった玄関の扉に激突。

 おそるおそる、閉めてしまった玄関扉を開けると、其処には玄関前に顔面を押さえて踞る少女が一人。

 視線を少し上げると、玄関の先には数台の天馬車が停車しており、それらの前に片膝を付いて頭を垂れて並ぶのは“シュモネス教の神官と神官兵”たち。

 そして、

「──チョー、久しぶり!

 マドカちゃん♪」


 ──ガシッ!!


 こうして、冒頭のシーンが出来上がったのです。



 ──さて、喧しいことこの上ない神代の御子のシャルにはお帰り願おうと、彼女の顔面をアイアンクローで掴んだまま投球フォームに入るボク。

 しかし、片膝を付いている神官と神官兵たちの中から、真面目そうで他の者たちより明らかに格上の神官が一人立ち上がり、ボクの前へと進み出てくると、

「お初にお目に掛かります。『神降ろしの御子』様。

 私は王都フンドゥリア『地の大神殿』において、地の枢機卿の下にて大司教を務めています、キョシウ・イダと申します。」

 挨拶を述べてきました。

「これは、どうも。

 それで、キョシウ大司教は如何様な御用で、我らが屋敷に?」

「──にゅがっ!」

 何か変な声が聞こえた気がしますが気のせいです。

 ボクは客人であるキョシウ大司教の次の言葉を待ちます。

「──実は、畏れ多い事ながら、折り入ってこの度『神降ろしの御子』様のお力をお借りしたくて、参った次第です。」

「……?

 ……分かりました。

 一応、お話しだけならお聞きしますので、どうぞ中へお上がりください」

 ボクは手にしたナニカを投げ捨てると、キョシウ大司教たちを伴って家の中へ。

 玄関入ってすぐにある応接セットにて、改めて、キョシウ大司教と対峙するボク。

 カナメさんにも同席してもらいます。

「──さて、それではキョシウ大司教、お話しの内容とは?」

「はい。

 実は先日に行われた世界サミットの議題にて、『シュモネス教(我ら)』が──いえ、『()()()()()()()()()()()()()』において、由々しき事態になりかねない事が起こりつつあることが示唆されました──」

 ──やはり、世界サミット絡みでしたか……。

 キョシウ大司教は話を続けます。

「──聞き及びのことでしょうが、いま現在、邪神を崇拝する『マルメッシャー教』の活動が目に映る形で活発化してきています。

 そして、つい先日、我らの元に“危惧していた悪い報せ”が入りました。

 “こちら側に神を降臨させる『祭器』の一つが奪われた”と。」

 『祭器』──確か、サミットで配付された資料の中に記述がありました。


 ──『神降ろしの祭器』──

 魔法文明時代に造られた物で全部で三つ存在し──正しくは三つでワンセット──、マルメッシャー教が邪神を降臨させて“神の実在”を証明した際に用いいられた。

 次に、同じく魔法文明時代の後期にシュモネス教が『精霊王』と呼ばれた精霊を依り代にして、地水火風の四柱の神を降臨させるのにも用いられた。

 そして、三度、この『祭器』が用いられたのが、“再度の邪神降臨”のおり。────


 ──そう、配付された資料には記述されていました。

「──この報告を聞いたサハーカ枢機卿は、“教皇猊下と全枢機卿による緊急会議”を開き、“幾つかの対策案”を採択。

 その採択された対策案の一つが“この世界が危機に陥ったときに世界を守護する為に顕現する『四竜』の復活”。」

 『四竜』?

「質問です。

 いまキョシウ大司教が仰った『四竜』とは何ですか?」

「あ、はい。

 『四竜』とは──」


 ──『四竜』──

 キョシウ大司教が話してくれた内容によれば、『四竜』とは先の『祭器』の項目で出てきた『精霊王』たちが担っていた『側面』。

 しかし、シュモネス教が四柱の神を降臨させる為の依り代に『精霊王』たちを用いたため、世界を守護する『四竜』の消滅を避けるために『精霊王』たちは“『四竜』の力を分離”して、『竜器』という形にして残しました。


「──話を続けます。

 そして、『四竜』の復活にはいまお話しした『竜器』と“強大な力を持つ『四大精霊』”が必要になるのです。

 が、まずは“『竜器』の回収”が最優先、ということで、足の速い『飛行船』をお持ちの『神降ろしの御子』様にお力添え願えないかと、こうして、罷り越した次第です。」

 そういうワケですか……。

 ああ、なんか話が一気に世界存亡的なことに……。

「──『神降ろしの御子』様。どうか、我らにお力添えを!」

 キョシウ大司教はソファから立つと、床に片膝を付いて頭を垂れて、そう懇願してきます。

 お供の神官と神官兵たちもキョシウ大司教に倣い、片膝を付いて頭を垂れて、

「「「どうか、『神降ろしの御子』様、この通り!」」」

 ……さて、如何したものでしょうか?

 ボクは同席してくれているカナメさんに、視線で問い掛けると、

「円殿、これはこの世界──カドゥール・ハアレツの危機。

 私──いや、一国家の主──フンドゥース国王として、円殿にお頼みする。

 どうか、この危機を回避する為に円殿のお力を貸していただきたい!」

 ……あー、カナメさん、いや、国王陛下にそう言われてしまうと、もう断りようはありません。

「分かりました。

 ボクの力など微力ですが、皆さんのお手伝いをさせていただきます」

「ああ、有難う御座います。『神降ろしの御子』様」

「「「有難う御座います! 『神降ろしの御子』様!」」」

 ──はぁ、まったくとんだ事になってしまいました……。



 ──さて、ボクこと──神降ろしの御子の協力を取り付けたキョシウ大司教は喜び勇んでサハーカ枢機卿への報告のため、乗ってきた天馬車に乗って帰っていきました。

 しかし、

「ねえ♪ ねえ♪ ねえ♪ マドカちゃん♪ マドカちゃん♪ マドカちゃん♪ ……」

 コレも一緒に連れて帰って欲しかったです。

 シュモネス教の天馬車の内、一両だけが居残り、ボクがキョシウ大司教を見送っている隙を突いて、神代の御子のシャルが家の中に侵入していたのです。

 彼女の護衛を仰せつかっている神官兵たちは、

「──本当に、すみません。

 シャル様がはしゃぎ疲れて眠るまで、どうか、シャル様のお守りをお願いします!」

 と、頭を下げるばかりで、アレを止める気はゼロの模様。

 キョシウ大司教との話し合いに同席してくれたカナメさんは、キョシウ大司教が帰った後に王宮に電話で連絡を入れると、使われている部屋へと引きあげていきました。

 おかげで、応接セットには実質、この家の人間はボクだけ。

 まあ、アイナちゃんがいますが、カナメさんの時と同じく身分社会の壁により、なにも出来ない案山子状態。

 その結果、

「ねえ、ねえ、無視しないでよ、マドカちゃん。

 遊んでくれなくもいいからさ、お話しくらいはしようよ、ねえ……」

 ウザさ百倍のシャルは野放しに。

 如何したものでしょうか、と、頭を悩ませていると、

「──ちょっと、アンタ!

 なに、円くんにベタベタしてるのよ!

 円くんが迷惑してるじゃない!!」

 救世主が現れました。そう、良藍です。

 良藍はボクに纏わり付くシャルを睨め付けるや、敵意丸出しに、

「円くんから、離・れ・な・さ・い!」

 シャルを引っ剥がしに掛かります。

 しかし、シャルは引き離されまいとボクにしがみ付き、

「なによ?! マブ友なんだから、これぐらいいじゃない!」

「「マブ友?」」

 シャルが口にした単語に、オウム返しに問うボクと良藍。

 それに対して、シャルが答えます。

「わたしはね、マドカちゃんの前世のノーマちゃんとは幼馴染みでマブ友だったんだから!

 当然、生まれ変わりのマドカちゃんともマブ友なのっ!」

 ……なんとも、メチャクチャな言い分です。

「ハッ、何よ。

 あたしなんて、円くんとは生まれてからの幼馴染みで夫婦なんだからね!」

 そして、良藍は対抗意識を燃やして、シャルと顔を突き合います。

 そこからは、もう、子どものケンカよろしく、お互いが相手を誹り罵り合う、見るに堪えない状況に。

 そんな中、ボクはふと“シャルが言った「──前世のノーマちゃんとは幼馴染みでマブ友だったんだから──」”という詞に引っ掛かりを覚え、前世の肉体(このからだ)に遺る、前世かのじょの記憶の海へとタイブします。



 ──ボクの前世──この肉体からだの本来の持ち主の名はノーマ・ル・ウツフといいます。

 両親はシュモネス教の信徒で、生まれながらにして『聖道具使い』の高い素養があったノーマは、将来の幹部候補としてシュモネス教の養育施設へと預けられました。

 それから、数年後。

 ノーマはシュモネス教か掲げた壮大な計画『神の奇蹟』の中核を担う『神代の御子』──“高位次元の存在の神の内に潜り込みアクセスして、ヒトの意のままに『神の奇蹟』を起こすデバイスとして選出された人物”──の『お世話係兼将来の補佐役』に抜擢されました。

 そして、一人目の『神代の御子』の『シャル・スーペ・ツベクート』と出会ったのです。


 シャルのお世話係になったノーマには同じくシャルのお世話係のジッニ・ア・サハーカという同僚がいました。

 ──そう、サハーカ枢機卿です。

 正直、何故に彼女が二千年以上も生き存えているのか謎ですが、間違いなく、現在の地の枢機卿は、この肉体からだに遺る記憶の中のジッニに間違いがありません。


 前世の記憶の海の中をさらに泳ぎ進め、次なる記憶を覗きます。


 ノーマがシャルと出会ってからの十余年の記憶。

 それらの中から、強く記憶に遺っているものを幾つかビックアップ。


 最初の一つは、出会ってから間もない頃の、ある日の出来事。

 その日、シャルが唐突に、

「隠れんぼ、しましょ!

 見付け役はノーマちゃんね!」

 そう言うと、ジッニを有無を言わせず巻き込んで、隠れんぼを始めました。

 出会ったばかりのノーマは“御子に逆らうのいけない”との思い込みから、シャルの遊びに付き合います。

 そして、ジッニを見付けてから数時間──いくら、捜せどもシャルが見付からず途方に暮れるノーマとジッニ。

 時は夕食時。

 已む無く、大人の手を借りようと食堂に行くと、そこには、

「──うわ~♪ このシチュー、美味しい~♪

 お代わりちょ~だい♪」

 いままで、捜し続けていたノーマたちの気など知らずに、暢気に夕食を食べているシャルの姿。

 その姿にノーマは僅かながらに殺意を覚えました。


 次に取り上げる記憶はコレです。

「ノーマちゃん、交換日記をしましょうよ♪

 大人たちに内容がバレないよう、この『暗号魔法文字』っていうの使って」

 そう言われ、ノーマは必死に『暗号魔法文字』を勉強して会得しました。

 しかし、

「『暗号魔法文字』って、覚えるのムズいぃ~。

 もう、ヤダぁ~。

 やっぱ、交換日記はいいや」

 シャルがイキナリの手の平返し。

 当然、その時のノーマはまたも僅かな殺意を覚えたのです。


 その次は、こちら。

 しょうもないイタズラを繰り返すシャルに、ノーマはついに堪忍袋の緒が切れ、逃げ回るシャルを捕まえようとしていたときのことです。

 シャルを追い掛けている途中、ジッニに──この頃のジッニはシャルのお世話係でありながら、別行動が増えていました──出会し、

「ノーマったら、楽しそうね」

「そう思うのなら、シャルのお守り役を代わってもらえませんか?」

「やーよ。

 端から見ているから面白いのであって、当事者になるのはストレスでお腹に穴が空いちゃいそうだから、ゴメンだわ。

 それに、シャルの相手が務まるのは後にも先にもノーマだけよ」

 そんな会話を交わしました。


 そして、世界大戦によって文明が崩壊した後──。


 世界大戦のそもそも元凶が“再臨した邪神が世界中にばら撒いた『邪心』”だった事が判明。

 その『邪心』を浄化するべく、編み出されたのが“『魔王』と『勇者の剣』システム”。

 細かな仕組みや真の目的──あるかどうかは不明ですが──は知らされませんでしたが、“『魔王』を『勇者の剣』で討伐し、それを繰り返すことで『邪心』による負の感情の増幅を防ぐ”のだとか。

 しかし、『最初の魔王』が出現したとき、異変が起きたのです。

 なんと、“再臨した邪神”は『神滅』と記録資料に記されている道具で以て、“降臨直後に元居た高位次元へと追い返される”僅かな時間の間に『邪心』を世界中にばら撒き、そして、“邪神自らの力のほぼ全てを()()()()に置いていった”のです。

 その置いていった“邪神の力”が『最初の魔王』に混じり込み、最悪の事態を招きました。


 ──“全盛期の邪神の力”を伴った『魔王』──


 その当時の、世界大戦を生き延び残された人々にはその様な強大な災禍に抗う術はありませんでした。

 なにしろ、『初代の対魔王討伐専用勇者』が、偶々『魔王』が気まぐれで一つの町を消し飛ばした際の余波に巻き込まれ、『魔王』と会敵する以前に落命。

 それになにより、先の世界大戦で『英雄』と呼ばれた猛者たちは死に絶えてしまい、強大な災禍に立ち向かえる者は皆無。

 誰もが絶望に打ち拉がれる中、一人の少女がこう言いました。

「──みんな、何悄気てるの?

 まだ諦める時じゃないよ!

 わたしたちにはまだ、神の『奇蹟』がある!

 ──そう、『神代の御子』である、わたし──シャル・スーペ・ツベクートは“こんな時の為にいる”んだから!!」

 シャルの──『神代の御子』の発した言葉に希望を見出す人々。

 誰も彼もがシャルの言葉に喚起し、奮い立ち、『神代の御子』を讃えます。


 ──ですが、……。──


「──馬鹿シャル!

 分かってるの?

 いまだ『神代の御子』は貴女しかいないのよ!」

 『神代の御子』は本来、最低でも三人以上でないと『神の奇蹟』を“ヒトの意のままに運用”が出来ない。

 何故なら、『神代の御子』は自らの『魂』を“神の内側へと潜り込ませて、アクセス──ハッキングし、こちら側からの『奇蹟の内容』を入力する”のが役目なのです。

 そして、“神の内側に潜り込んでアクセスするのに必要なのは『()()()()()()()()()』”。

 ──詰まり、

「いま、“『神代の御子』の役目に就いたら、()()()()()()()()()()()()()()()()”んだよ!

 そしたら……、シャルは……──」

「──わかってるよ。

 実質、死んじゃうことくらい」

 ノーマの悲痛な叫びに、シャルはいつも通りの笑顔でそう返します。


 ──どうやら、ボクの前世は表面上はシャルの事をウザたがっていたようですが、その心の内は現在のシャルが言っていた通り、マブだったのですね……。


「それにね、知ってるんだ。

 ノーマちゃんが、『二代目の勇者』に選ばれたこと」

「──!?」

 息を呑むノーマ。

 いくら絶望的状況といえども便宜上『魔王』を放置する訳にはいかないので、次なる『勇者』を探すも、先にも述べた通り『英雄』は死に絶え、『勇者の適正』がある者を見付けるのは至難。

 そんな中、偶然にもノーマに『勇者の適正』があることが発覚──尤も、ノーマの『勇者の適正』は歴代最低でしたが──。

「ノーマちゃんが死地に赴くのに、ノーマちゃんのマブ友のわたしが何もしないなんて、そんなの絶対あり得ない!」

 シャルは俯くノーマの手を取り、さらに続け様に、

「わたしとノーマちゃんの活躍で、『魔王』なんてとっちめちゃって、みんなを救っちゃおう!

 そしたら、いつになるかはわからないけど、わたしとノーマちゃんの像が作られて、きっと未来の人たちはわたしたち二人を崇め感謝してくれるよ!

 「世界を救ってくれて、ありがとう!」って!」

 そう言って、ノーマにとびきりの笑顔を見せるのでした。


 そうして、シャルの尊い犠牲を以てこの世界に“手にする者に神の力を貸し与える『神剣』”が齎され、『神剣』と『勇者の剣』を携えた『二代目勇者』のノーマは、十日以上にも及ぶ激闘の末に『最初の魔王』を討ち果たしたのです。



 記憶の海の中から、現実へと上がるボク。


「円くん!」

「マドカちゃん!」


 すると、記憶の海にダイブする前は見るに堪えない言い争いをしていた良藍とシャルが、何故か、二人してボクの顔を覗き込んでいます。

 瞬き一つ。

「如何したのです? 二人して。

 ボクの顔になにか付いているのですか?」

 意味がわらず、キョトンと二人を見詰め返します。

「……よかった~……。

 円くんが居眠りしてたから、あたしらちょっとイタズラ為てたんだけど……──」

「……心配したんだよ……。

 ……つい、調子にノって、いろいろやっちゃったんだけど、マドカちゃん、反応どころか起きる気配もなかったから……──」

 ……ああ、ナルホド。それでですか。

 確かに、ボクの着衣は乱れて肌が露出しています。

 ボクは乱れた着衣を正すと、──


 ──ガシッ! ガシッ!


 良藍とシャルの顔を掴みます。

「──ちょっ、円くん、爪たってる!?」

「──にゃっ!?」

 掴んだ二人の顔を引き寄せて、二人の耳元でボクは囁きます。

「良藍、以前にも注意しましたが、他人様がいる前でかような行為はセクハラです。

 シャル、貴女はボクの前世が口酸っぱく言ってましたよね。おフザケは大概にしないと、終いには堪忍袋の緒が切れるって」

 同時に握力を強めます。

「──にゅわっ! 円くん、顔の皮膚、剥がれ……──」

「──ぴきゃっ! これ、ぜったい、爪が刺さってるぅ~……!!」

 そして、最後に、

「いいですか、二人とも。

 特にシャル!

 ボクはですね、先程まで、この肉体からだに遺る前世の記憶を思い返していたのです。

 おかげさまで、シャル──貴女のことを僅かばかりなりにも理解しました。

 が、人が真面目に物事に取り組んでいる最中、何為出かしてるんです? これは、良藍もです。

 まったく、反省してください!」

 そう言って、一際強く二人の顔を掴む両手の握力を強めた後、二人を解放します。

「……ごめん、円くん」

「……ごめんなさい、マドカちゃん」

 ──はぁー……。

「ところで、マドカちゃん。

 マドカちゃんはノーマちゃんの記憶を思い返したんだよね?」

「ええ、そうですよ。」

「なら、わたしとノーマちゃんとの“あ~んなこと”や“こ~んなこと”をマドカちゃんに知られちゃったのね♪」

「そうですね。

 “殺意が湧いたこと(あ~んなこと)”や“殺意が湧いたこと(こ~んなこと)”を知りました。」

「……なんか、円くんの言葉のニュアンスおかしくない?」

「何もおかしいことはないですよ。

 ねえ、シャル」

「……は、はい、そ、そ、そだね、マ、マドカちゃん……」

 流石はボクの前世とはマブ友と豪語するだけのことはあります。シャルにはボクが発した言葉のニュアンスがどういう意味が含まれているのかわかったようです。


──夜。

 あれから、シャルはなんやかんやと居座り続けて帰る素振りもなく、結局のところ彼女は今晩、我らが家に一泊する事に。

 そして、夕食後──。

「──にゃはは♪ マドカちゃん家のお風呂って、広~い♪」

「シャル! “お風呂では泳がないよう”にって教えましたよね」

 さて、どういうワケか、ゲストを含めた女性陣全員が、皆で一緒に入浴する事に。

 当然ながら、カナメさんたちの護衛の兵が家の外を巡回警護をしているので、全員が湯浴み着を着用しています。

 ファナとササルーエさんの周りにはメイド三姉妹がいて和気あいあいと雑談に花が咲き、良藍はボクと背中合わせに湯に浸かり、シャルは他の皆の迷惑を考えずに湯舟の中で泳ぐ始末。ただ、アイナちゃんだけは身分社会の壁を意識しすぎているのか一人だけ皆から離れた場所で入浴しています。

「だって、マドカちゃん、十人近くで入っても、このお風呂まだまだ広いんだから、泳いだってイイじゃん♪

 それに、大神殿にはお風呂なんて無いし……。」

 まあ、確かに……。この世界──カドゥール・ハアレツでは一般家庭にまでお風呂は普及しておらず、住民向けの湯屋があるのも水資源が豊富な中規模都市以上か水道が整備されているインフラが整っている街くらい。

 例外的にレストウラ帝国のように前文明の遺産──特にインフラに関係するもの──が残っている地域や、入浴する習慣がある地域では一般家庭にまで普及はしているとのこと。

 閑話休題。

「なる程、シャルの言い分はわかりました」

「じゃあ、自由に泳いでイイよね♪」

「それとことれとは話が別です。」

「──ふにゅぅあぁーっ!」

 聞き分けないの者には躾が必要です。

 ボクは契約している水の精霊の『ぷるるん』の力を借りて、お風呂の湯を操作してシャルを捕まえます。

 水流の縄に絡め捕られたシャル。

 流石はぷるるん。水が豊富な場所ではほんのちょっぴりの魔力消費だけで、このような芸当が出来てしまうとは!

「シャル、“お風呂では泳がないよう”にって、言・い・ま・し・た・よ・ね」

 シャルを絡め捕っている水流を操作し、彼女と目を合わせて改めて言い聞かせます。

「……ひゃ、ひゃい。

 もう、お風呂では泳ぎません」

「はい、よろしいです」

 どうやら、シャルは反省したようなので、水流による拘束を解いてあげます。

「なら、マドカちゃんとスキンシーッぷ!?」

 水流の縄から解放されたシャルはそう言うと、ボクに向かってダイブしてきたのですが、

「残念ね。

 あたしの目の黒いうちは、“お風呂で円くんとスキンシップ”なんて、シャルには許さないわ!」

 良藍が間に割って入り、ダイブしてきたシャルをラグビーボールの如く脇に挟んでキャッチ。

「うにゅぅ~……。

 昼間に同盟(共犯関係)結んだぢゃん、ラランちゃん!」

 良藍の腕の中でジタバタと暴れるシャル。

 しかし、異世界転移特典で身体能力が常人以上に向上している良藍はビクともしません。

「其れは其れ、此れは此れよ、シャル。」

 そう言うと、良藍は脇に抱えていたシャルを降ろすと、シャルをボクに近付けさせないように通せん坊。

 そして、シャルがボクに近付こうと場所を動けば、良藍も動き、鉄壁のガードを誇ります。

「む~、ラランちゃんのいぢわる~!」

「では、シャルさんが良藍さんを引き付けているうちに、えい!」

「あー! ファナちゃん、ずるゐぃ~!」

 いつの間にやら、ササルーエさんたちのところから、こちらに来ていたファナ。

「ちょっ、お姫様、なに、円くんに引っ付いてるのよ?!」

「隙あり!

 マドカちゃん♪」

 ファナの闖入に良藍が気を取られた隙にシャルが、良藍の脇をすり抜けて抱き付いてきます。

「んなっ!?」

 伏兵の登場による動揺の隙を突かれ、シャルの突破を許した良藍。

「離れなさい!」

 そして、昼間に見た光景が再現されるのでした。



 ──翌日。

 今日も普段通りの護身術の朝稽古を終えて、お風呂場に続く脱衣所で汗を拭いていると、

「──マドカサマ!」

 イドちゃんがやって来て、



「昨日、お見えになってキョシウ大司教が、つい今し方、いらっしゃいました。」



 そう告げたのです────

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