SF作家のアキバ事件簿227 ミユリのブログ ヲタクの敵はヲタク
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第227話「ミユリのブログ ヲタクの敵はヲタク」。さて、今回はスーパーヒロインの秘密がつづられた日記が行方不明にw
乙女の日記探しに秋葉原中が色めき立ちますが、果たして日記は置き忘れたのか、盗まれたのか?次々と容疑者?が浮上する中、真犯人は…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 消えた記憶
インバウンドの姿も消えた、真夜中のパーツ通り。髪を下ろし足早に歩く。誰かの笑い声に振り向く…
"アキバで働くミユリのブログ 4月30日。時折アキバの景色が違って見える時がアル。歩き慣れたパーツ通りの景色が、見知らぬ異国の通りのように見えるのだ。静寂に心をかき乱されながら、ショーウィンドウに飾られた"エスパー人形"にさえ、見張られているような感慨を覚える。リアル帰宅が大冒険になる。そして、思いつく。変わったのはパーツ通りではなく、自分自身ではないのかと"
雑居ビルの外階段を駆け上って扉を開き、部屋の中に消える。灯りをつける。
"世界は変わってしまったのか?私の予感は的中してしまったのか?"
チェストの奥にしまったUSBメモリィを探す。
「ナイわ」
絶望するミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜中にスピアのアパートを訪問。
「ミユリ姉様?どうしたの?」
「日記帳がナイの」
「何のコト?」
珍しくイラついてるミユリさん。
「だから、日記のUSBメモリィ。あの日記には全てが描いてあったの」
「え。全て?」
「…全てょ。テリィ様への気持ちや…私達のコト」
息を飲み、後ろ手に扉を閉めるスピア。
「"私達"ってまさか?」
「何もカモ全てょ」
「ウソ。つまり、姉様達が"覚醒"してるとか、してないとか?エアリやマリレがマルチバースのどの時空から来たとか?」
実にマズいストレートな逝い回しw
「だから、全て描いてアルの。どうしよう」
第2章 時空トンネルを探せ
真夜中。マリレは突然目を醒し、急いで照明をつけると近くのメモに、一心不乱にデッサンを始める。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1時間後。マリレの同僚メイドのエアリの部屋の窓がノックされる。窓の外にマリレが"浮いてる"。
「寝てたの?」
「真夜中に寝てて悪い?貴女みたいにロケットガール装備で宙に"浮いてる"よりマシでしょ?」
「夢で見たの!前よりもハッキリと」
窓から入ってきたロケットガールは鼻息荒い。
「何を見たの?」
「ジャーン!コレょ!」
「…何なのソレ?円盤餃子?」
マリレは持参したスケッチを見せる。
「この前、万世橋に忍び込んで、例の鍵に初めて触った時に見えた画像、ソレがコレ!」
「渦巻き…ね?」
「良くわかったわね!コレを見たの!間違いない」
力説するマリレ。戸惑うエアリ。
「ただの渦巻きだけど。ソレとも円盤餃子かしら。福島駅前の」
「宇都宮ょ…とにかく!すっかり忘れていたのに、さっき突然夢に出て来たの。だから、誰かに話したくて」
「光栄だわ。丑三つ時に叩き起こされる話し合い相手に選ばれるナンて…でも、続きは明日の朝にしない?」
すると意外にアッサリ矛を修めるマリレ。
「そうね!明日の朝にしよう。で、今宵は遅いし泊まっても良い?」
「良いわ。でも、貴女が寝袋ょ」
「この寝袋…テリィたんの匂いがする?」
寝袋についてる白髪を摘まむマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今年のアヲデミー賞を総ナメした怪獣SF映画"メカゴジラ-2.5"の御屋敷を出したらインバウンドに馬鹿ウケで世界中から客が推し寄せて大繁盛してるw
「はい!3番テーブル…姉様、犯罪を再現するの」
「…何?犯罪を再現?ねぇ15番の黒岩司令セット、未だかしら?」
「先ず、ミステリーの定石として、推理すべきは"動機"と"機会"ね」
僕の推しミユリさんには、御屋敷のメイド長をお願いしてる。元カノ会長のスピアはNo.級メイド。
「日記が消えた昨日なら"マチガイダ"で休憩してたわ。YUI店長がアレヤコレヤ話しかけてきてユックリ出来なかったけど」
「YUI店長が?…なるほど。彼には"機会"があったワケね」
「待ってよ。ねぇ犯人探しなんてヤメましょうよ。別に犯罪じゃないの。私がウッカリ何処かに置き忘れただけカモしれないわ」
しかし、既に探偵気取りで推理中のスピアは聞く耳を持たない。眉間にシワが寄っているw
「先ず、YUI店長が姉様の日記を読みたがってるかどうかが鍵ね。最近、私達はYUIさんから何を聞かれても無視していたけど、姉様の日記を読めば、彼の疑問は全て解決する。コレは立派な"動機"になるわ」
「…ねぇやっぱりヤメよう?ってかヤメて」
「姉様。私は姉様の身になって心配してるの。日記が見つからなくても良いわけ?USBを放置してたコトは?」
必死に想い出すミユリさん。
「そういえば1度会ったわ。レモンソーダを取りに行って…」
「ほら"機会"もあったわ」
「やあ!」
突然YUI店長が登場し2人を驚かす。
「YUI店長!?」
「今、何の話をしてたンだい?」
「大した話じゃないわ!そうょ全然大した話じゃないンだけど!」
スピアのオーバーアクションに顔をしかめる店長。
「また俺には秘密の話か」
「そんなことより、昨日、何か忘れ物なかった?」
「忘れ物?」
YUI店長は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔。
「USBメモリィとか」
「コレか?コレは俺の日記なんだけど」
「ううん。良いの」
因みにコレは首からUSBを提げるのが流行ってた頃の話…YUI店長はドッグを焼きにキッチンへ去る。
入れ違いに顔を出す僕。手を挙げ挨拶。
「ねぇテリィ様にも話すべきと思う?」
「テリィたんに?意味ナイわ」
「やっぱり?」
目を伏せる2人。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーツ通りの自販機で、流行りの炭酸水"アースウィンド&ファイバー"を買ったが出て来ないw
いくらボタンを推してもダメなので諦めかけたら…僕の耳をかすめるようにして紫の電撃が飛ぶ。
「わ!わわっ!」
途端に自販機は"アースウィンド&ファイバー"を吐き出し始める。ゴロゴロと地面に落ちて転がるw
「テリィ様。そんなに食物繊維をお摂りになるのですか?お腹を壊しません?」
「いや、違うだろ。ミユリさんの"雷キネシス"も少しパワーを調節出来ないか?」
「テリィ様。お話しがあります」
急に真面目な顔になって僕を見る。嫌な予感。
「いいよ。だけど、ミユリさん達の秘密は、全部聞いたつもりだけど」
「いいえ。ソレが…テリィ様には知らせなくちゃと思いまして」
「ミユリ姉様!テリィたん!お邪魔?!」
突然現れるエアリ。僕達の間に割って入る。
「いいえ。全然…ね?テリィ様」
「え。そーかな。それで?」
「いいえ。テリィ様、もう良いのです。大した話じゃなくて。私ったらタマタマあっちから出て来たらテリィ様がいらっしゃったのでウレしくて…」
結論を急ぐエアリ。
「つまり!単なる偶然の出会い頭って奴ね?」
「あっそうなの。じゃテリィ様。ごきげんよう」
「ご、ごきげん…YO?」
何となく追い払われた気分だ。僕は、その場を気まずく立ち去る。見送るミユリさんはエアリに文句。
「あんな逝い方ナイでしょ?」
「だって、ヲタクと距離をおくと言ったのはミユリ姉様の方ょ?」
「ソレはそうだけど…」
プイと歩き去るエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。照明を落とし、闇の中でお一人様で頭を抱え、ジッとしているミユリさん。
「メイド長?ミユリさん?」
「トポラさん?私ったら、ちょっちボーッとしていて…今、リアル帰宅するトコロです」
「お邪魔だったかしら?」
慌てて帰り支度を始めるミユリさん。
「まさか。でも、もう帰らないと。気にしないでください」
「暗いバックヤードにメイド長がお一人様でいたのには、何か理由がアルのでしょう?メイドの悩みを聞いてあげるのも、秋葉原メイド協会公認カウンセラーでアル私の仕事なの。悩みがアルなら、何でも話して」
「いいえ。何でもありません」
ダメだわ、振り切れない。無駄に谷間を強調したメイド服で迫るトポラ。善意を装い踏み込んで来るw
「ミユリさん。1人で悩みを抱え込んじゃダメよ。でも、カウンセラーの私じゃ大げさかしら。だけど、コレだけは聞いて。私はね、ただのカウンセラーじゃないの」
「え。それじゃ何者ナンですか?」
「ソレはね…」
めっちゃ勿体つける。固唾を飲むミユリさん。
「ホントはね…貴女のヲ友達になりたいの」
露骨にガッカリ顔になるミユリさん。
「だって、そう思えば貴女も話しやすいでしょ?何でも相談して欲しいな」
「ええ。そうですね」
「そうなの!何か悩みがあるなら、私に話してくれないかしら」
露骨にウンザリ顔になるミユリさん。
「はい。でも、マジ何もナイのです」
「あ、そうなの?」
「では、ごきげんYO」
バックヤードから足早に立ち去るミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ・サンドウィッチズ"は僕達のアキバのアドレス。ヲタクやメイドの人間交差点なのだ。
「よぉスピアじゃないか。1人とは珍しいな。ミユリさんは?」
「姉様は、今ちょっと悩んでるのよ」
「未だ未練タラタラのカレルが、しつこく復縁を迫ってるとか?」
興味本意で聞いて来るYUI店長。
「そうじゃなくって!」
「じゃまた例の奴だな?YUI店長には話せないコトってワケだ」
「YUIさん。ミユリ姉様と私が店長に隠し事してるっぽいのを気にしてる?」
単刀直入だ。1歩引くYUI店長。
「まぁ良い気はしないね」
「だからよね。元はと言えば私達が悪いのよ。だから、YUIさんが"らしくないコト"をヤラかしたとしても私、責められないわ」
「おいおい。ちょっと待てよ。何の話?」
原爆投下。
「ミユリ姉様の日記が無くなったの」
「ちょっと待てよ。それじゃまるで俺が日記を盗んだとでも?」
「うーんソンなコトは言ってナイわ。ただ、ミユリ姉様と検討してたの。"犯人"の"動機"と"機会"を」
ますます頭から湯気を噴くYUI店長。
「ミユリさんまで俺を犯人扱いしてるのか?」
「いや、そうじゃないって。ただ状況を冷静に洗っていったら、タマタマ"貴方が浮かび上がって来ただけ。でもね、貴方が日記を盗むハズがナイじゃナイ」
時、既にお寿司。
「言っとくけどさ。今後スピア達が秘密を打ち明ける時には、その時は俺のコトは無視してくれ」
背を向けるYUI店長。怒ってる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜のパーツ通り。思い切り電柱を蹴るYUI店長。
「ソレ、アキバ特別区の財産ょ」
「トポラさん。てっきり誰も見てないと思って。すみません」
「何か嫌なコトでもあったの?」
秋葉原メイド協会の公認カウンセラー、トポラだ。
「いいえ、別に何も。俺なら全然ご機嫌ですよ」
「なら良いけど、ちょっと2人で話さない?」
「え。そりゃ良いなぁ」
美人メイドの誘いに鼻の下を伸ばすYUI店長。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜のパーツ通り。愚痴をコボすYUI店長。
「人の気持ちナンて知れたモノょ。通じ合ったと思っても、1片の雲のように流れ飛ぶだけ。泣くな友、泣いたって一昨日は一昨日。昨日じゃナイ…ソレを1つ1つ受け入れていかないと、とは思うのですが」
「可哀想なYUIさん…貴方が変わったの?」
「俺じゃナイっス」
真顔で突っ込むトポラ。
「推し?」
「俺には、未だ残念ながら推しはいません」
「アキバの腐女子ってヲタクを見る目がナイわね。
例えば、ミユリが良い例だわ。カレルと付き合ってもお似合いとは思えない。ましてや、テリィたんナンて」
余計なお世話だw
「トポラさん。実は、そのミユリが問題を抱えているらしくて」
「問題?」
「何でも日記をなくしたらしいんです。スピアが言うには、その日記盗難事件の第一容疑者として、ミユリは真っ先に僕の名前を挙げたらしい。ヲタ友だと思ってたのにヒドいと思いませんか?」
「何なら、私からミユリに話してみましょうか?」
思わズ身を乗り出すトポラ。
「いいえ。良いですよ。自分で何とかしますから。ソレじゃ店に戻りますので行かなきゃ」
「そうね」
「ミユリ達には言わないで。俺から聞いたって」
次の十字路で2人は別れる。YUI店長の背中を見送ってから、電柱の影に隠れてスマホを抜くトポラ。
「パニックセンター」
「73290です」
「どうした?」
声を潜めるトポラ。
「興味深い事態が発生しました。応援を要請します」
第3章 年増メイドにヲタク野郎
ロープレ喫茶がキテる。腐女子狙いで客は美人美学生役。イケメン教師とオプションで不倫も出来る。
「そうだね。遠近法を忘れずに」
金を払った腐女子達が一心不乱にスケッチする中をイケメン教師が見回る。課金に応じて学生に絡む…
「ややっ?マリレ?コレは感激だな」
素っ頓狂な声を上げるイケメン。美学生達は何者?と鋭い視線を向ける。その先にいるのは…マリレ。
「感激って何ょ?」
「マリレが御帰宅してくれたコトさ。確か、去年の暮れの"サンタクロース&幼女フェア"以来じゃナイか。かなり御無沙汰だったね」
「ヤタラ絵を描きたくなったの。悪い?オプション代は払うけどイーゼル、使っても良い?」
慌ててイーゼルを立てて油絵の用意するイケメン。何と逝っても、マリレは大切な太客の1人なのだw
「線はクッキリ描いて。もっと陰影をつけるんだ…あ、いや、その、最高料金の"ドジっ子コース"は3分に1回絡むコトになってルンで」
「…ヲ黙り。話しかけないで」
「わ、わかった。じゃツンデレってコトで」
キャンバスに向き合うマリレ。やがて、描き始めるのは、あの"渦巻き"。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバの人間交差点"マチガイダ・サンドウィッチズ"のカウンターで描き物をしているミユリさん。
突然元TOのカレルが隣の席に腰掛けて驚かす。
「カレル?」
「未だテリィたんと付き合ってるのか?」
「いいえ。テリィ様は私の御主人様のお1人ょ」
カレルを正面から見据える。視線を落とすカレル。
「御主人様ね。俺も御主人様、奴も御主人様か」
「カレル。貴方が怒る気持ちもワカルけど、私の気持ちをわかってくれないかしら」
「おい、待てょ!俺達はもう別れたんだ。わかり合う必要ナンかナイだろう」
立ち上がり歩き去るミユリさんの背中に捨て台詞を吐くカレル。口を真一文字に結び去るミユリさん。
その様子をマグ片手に見ているトポラ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"タイムマシンセンター"。僕が"秘密の部屋"で分厚い資料を読みふけっていたら館長から声がかかる。
「テリィたん、面白い?」
「あ。勝手に読んですみません」
「良いのょもっと読んで」
慌てて資料整理のフリ。僕は、休暇中のスキマ時間にセンターの薄茶のベストを着てバイト中なのだ。
「1947年、ロズウェルにおけるUFO墜落事故の隠蔽には、ある国際機関が資本を出していたとの説がアルわ。その説に実証はナイけど、結果として数々の虚偽が暴かれたコトも事実ょ…とにかく!バイト中は"秘密の部屋"の資料は、好きなだけ読むと良いわ。ただし、読むべきなのはウルトに…ソレから…あぁ良いのがアルわ。アサトね」
「"Among YOU"?」
「彼の説は主流ではないが、熱心な支持者がいることも確かだ。墜落したUFOがタイムマシンだったと信じる私達にとっては、とても興味深いモノょ。
読んで感想を聞かせて。テリィたんも真実を知りたいのでしょ?」
アサトを熱心に薦めてくれる館長。コレで時間旅行のマニアでなければ楽しいヲタ友になれそうだが。
「テリィ様」
振り返ると"秘密の部屋"の扉のトコロにミユリさんが立ってる。途端に館長の顔から笑みが消える。
「行ってくれば?どーせ私と話すよりよっぽど楽しいのでしょ?」
「え。…ちょっちスミマセン。ミユリさん、何?」
「テリィ様。お話があって。お時間ありますか?…でもココでは…」
背中で聞いていた館長が振り向くと…鬼の形相だw
「じゃTシャツを買いに逝こう。新しいデザインの奴が出来たンだ。きっと似合うょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
去年の売れ残りのSSサイズのTシャツ。ミユリさんが着るとピチピチだ。コレで水に濡れたら…萌えw
「何か変わったことでも?」
「別に大したコトではありません(テリィ様、目がイヤらしいわ)」
「え。で、何?」
髪を耳にかけるミユリさん。
「テリィ様は何か?」
「え?僕は別に…ねぇこんな日本語会話の初級編みたいな会話なら向こうでも出来ただろ?」
「ですょね…ちょっち心配なコトが起きたの。今まで黙っていましたが、私、スタンドアロンのPCでブログをつけてました」
首を傾げる僕。
「ソレが館長の前では話せないコト?」
「ソレが…普通の日記とは違うのです。何と逝うか科学者の日誌みたいなモノで。その日の出来事の記録です。とにかく!その日記に全て描いていました。私にとって大事なコトとか…その中には、テリィ様のコトもいくつか含まれています」
僕は、真剣になる。
「その、何だ、僕達の間に起きたコト全て?」
「YES…あ、違います。体位とか、そーゆーコトではなくて、その日記には、マジ何もかも描いていました。私達のコトも全部。あの音響兵器で撃たれた夜の出来事とか。なのに、その日記が昨日から突然なくなったのです」
「え。日記をなくした?」
ヤバい。
「じゃなくって!」
「違うの?」
「いいえ。多分何処かに置き忘れたのです」
なかなか事実を認めないミユリさん。
「じゃどーゆーコト?」
「ただ一時的にちょっち…もう一度良く探してみます。きっとトンデモないトコロから出て来ると思うので」
「ねぇミユリさん。具体的にどんなコトを描いたのか教えてくれナイか?」
激しく首を振るミユリさん。
「とにかく!絶対見つけます。ですから、心配スル必要はありません」
「そ、そーだょね。心配ナイんだょね?」
「きっと、明日の今頃は、ヒョッコリ見つけて取り越し苦労だったって笑ってる。だから…私に1日ください。スピアとかには、未だ言わズにいて欲しいの。必ず見つけ出すって約束しますから。お願いです!」
一方的に話して歩き去るミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もう何処に逝っちゃったの?」
"マチガイダ"でコッソリ家探しを始めるミユリさん。何気にフロアに目を凝らしソファをまさぐる。
「ミユリ姉さん。さっきカレルから電話があって店にいるか聞かれたけど、特別に何か話したいワケじゃナイょな?」
「なぜソレを?」
「なぜって?」
声かけしたYUI店長につっかかるミユリさん。
「カレルと話したくナイなんて…私、そんなコト1度も話したコト無いのに」
「え。だって、出禁にされた後も未練たらしくストーキングされてルンだろ?」
「プライベートな話じゃない。何でソンなコト、YUIさんが知ってるの?」
さすがにムッとスルYUI店長。
「いや。だって、ミユリが元TOをハガした話は有名だぜ?まぁソンな話ですら、最近は俺に語ってはくれなくなったけどな」
「だからヘンに感じるの。私がカレルとのコトを何か話したがってる、とか、話したがってナイとか…ソンなコト、私、日記にしか描いてナイのに」
「日記?ミユリ、日記をつけてるのか?乙女だな」
ハッと口に手を当てるミユリさん。
「乙女…かしら?」
「なぁミユリ。何をそんなに怒ってルンだ?」
「嫌だ。私ったら…何だかイライラしてたみたい。ごめんなさい」
ムリヤリ苦笑いして済ませるYUI店長。まるでフランス人みたいに肩をすくめて、天を仰いでみせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。僕達はミユリさんの家探しの邪魔にならないようYUI店長がパーツ通りに出したテーブルでランチしてる。マリレは紙ナプキンにお絵描き中だ。
「こんなトコロでヤメてょ」
「何を?」
「そのワケワカンナイ絵を描くコトよ。こんなに人がたくさんいるのに」
口を尖らせるエアリ。
「でも、大分ハッキリしてきたの」
「ソレ、異様だってば。テリィたんからもヤメるように言ってちょうだい」
「え。何を?」
僕は"タイムマシンセンター"の"秘密の部屋"で、館長からしつこく薦められたアサトの本を読んでいる。
「ねぇテリィたん、どうしたの?聞いてる?」
「あ。コレはアサトの本ナンだ。コレが意外と面白くてさ。"超能力者達は、地球上で生きるための肺機能や頭脳がなかったのであろう…"おい、エアリ達は肺や頭脳がナイって描いてあるぞ」
「テリィたん…あのね、ソンなコトよりマリレに何か言ってやってよ。私が言ったんじゃ聞かないから。見てよ。この絵」
エアリにひったくられる前に、紙ナプキンに描いた絵を僕に示すマリレ。あ、因みに2人ともメイド服だ。何たって、ココはアキバだからね。
「だいぶハッキリしてきたな」
率直に驚く僕w
「でしょ?ロープレカフェで教えてもらったコトを参考に描いてるの。要は遠近法ょ」
「テリィたん、マリレを注意してよ。コレ、明らかに油断し過ぎだわ」
「待ってょエアリ。こんなの、ただのスケッチだし」
てんで取り合わないマリレ。
「とにかく、ヲタクの目を引くような行為は危険なの!頼むからもっと用心して暮らそ?でないと…」
急に口をつぐむエアリ。視線の先に横一列になってパーツ通りをノシ歩くカレルと東北チアガール達がいる。カレルが僕達を見つけツカツカと歩み寄る。
「俺は全部知ってるぞ」
そう一言、僕に告げて歩き去る。目で追うエアリ&マリレ。そして、訴えるような目線で僕に尋ねる。
「何なの?」
「さあね」
「カレルは何を知ってるのかしら」
今度は、僕が肩をすくめて天を仰ぐ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ"に入ると、もはやミユリさんが恥も外聞もなく家探ししてる。その尻を追いかける僕。
「ミユリさん!きっとカレルが日記を盗んだんだ」
「そんな、カレルが盗んだなんて!そもそも、盗まれたんじゃなくて、何処かに置き忘れただけカモだし」
「でも、さっきカレルが"俺は全部知ってるぞ"って僕に捨て台詞してったぜ?」
ミユリさんを後ろから追っかけながら主張スル。
「ミユリさんの日記を読んで、ミユリさん達の正体を知ったに違いナイょ」
「誤解です。カレルは、テリィ様が私達が別れる原因になったと思ってるだけ。だって、少なくとも彼はこの1週間、マチガイダには来てナイし」
「御屋敷には?」
かぶりを振るミユリさん。因みに、ミユリさんもメイド服だ。何たって、ココは(以下省略)
「御屋敷にも来てません…あああっ」
「どーしたの?」
「いえ、ちょっち…」
カウンター席にあった古いCDに触った瞬間、ミユリさんの脳内に稲妻が走ってフラッシュバック!
「カレルが来たようです」
CDを手に振り返るミユリさん。話が見えない。
「誰が?」
「カレルです」
「でも、ココ1週間は来てないンだろ?」
今度はミユリさんがかぶりを振る。
「でも、見えたのです」
「何が?」
「一瞬だけですけど…誰かが神経が張り詰めた状態でモノに触ると、触ったモノに残留思念が残るコトがあります。ごく最近、カレルはこのカウンター席で、このCDに触った。その瞬間が今、見えました!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ロープレカフェでイーゼルに向かって、一心不乱に油絵を描いているマリレ。
絵は徐々に仕上がって逝く。暗い、恐らく地下空間に浮く螺旋状の"何か"。
黄と黒で彩色スルと"何か"はトラ縞模様になる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
新幹線ガードの下でバスケをしてるカレル。
「カレル」
「ミユリ?何しに来た?まさか俺と復縁…」
「ナイわ。CDを返しにマチガイダに来た?」
「ソレかょ」
ボールを仲間に渡し、ミユリさんと金網のフェンス越しに話すカレル。
「YUI店長にズッと借りっぱなしになってたんだ。あのユッスーのCD」
「ねぇ今まで推しとTOの関係だった2人が別れるって、想像していた以上に大変なコトょね」
「ソレは…」
突然ボールがフェンスに当たり振り向く2人。
「ごめん!早く来いよ、カレル!」
カレルは手を挙げて応える。フェンスを挟んで再び歩き始め、なるべく感情を殺して語るミユリさん。
「そんな時、ヲタクって、らしくないコトとかしちゃうじゃナイ?突然の"推し変"とか"TOチェンジ"とか…その原因が何だったのかを知るために"らしくないコト"をしちゃうの。ねぇ意味わかる?」
「わかるさ。ただ、俺にはミユリに知られたら困るような秘密は何もないよ」
「つまり…私には秘密があって、だから、別れようと言ったと思ってるのね?」
突っ込むミユリさん。
「多分ね」
「じゃCDを返しに"マチガイダ"に来てくれた時に、その秘密を探るチャンスが貴方にはあったワケだわ」
「何?秘密を探るチャンス?」
フェンスの切れ目で向き合う2人。
「何を言ってルンだ?何の秘密だよ?ミユリは自分の正体を知られるコトが、そんなに怖いのか?事件の日からミユリの態度が変わったのは、その秘密のせいなのか?」
「カレル、お願い。何か私のモノを持ってるのなら、今すぐ返して」
「ミユリのモノって何だよ。ミユリとの思い出のコトなら…ソレだけは返せないぜ」
プイと背を向け、コートに戻るカレル。
「カレル」
フェンスに寄りかかり、唇を噛むミユリさん。
第3章 死後の世界
"senior class art exhibit"
ロープレカフェ。今日のテーマは"展示会"。美しく仕上がったマリレの作品はイーゼルに載せられて展示中。"客役"で御帰宅した僕達は頭を抱える。
「テリィたん、マズいわょコレ」
「うーん確かにな」
「傑作でしょ?自分でも意外な才能にビックリしてルンですけど。"センセ"にも傑作だって褒められちゃった!」
右手に有頂天のマリレ。左手に溜め息つくエアリ。左右に正反対のメイドを抱えてトンだ両手に花だw
「マリレ。こんなモノをサラすナンて、貴女、どーかしてるわ」
「何でょエアリ」
「だって、誰が見てるかワカラナイのょ?」
灯りを消した地下室のような閉塞感アル暗闇。宙に浮かぶ縞模様の渦巻き。コレは…まるで臨死体験?
「コレが何だって言うの?まあ、描いた自分でも何なのかワカッテナイんだけど」
「あのさ。マリレの絵をケナしてルンじゃナイ。絵を展示するコトが危険につながってると心配してルンだ」
「危険なの?だって、アレが何なのか、描いた本人だってわかってナイのょ?」
うーん全くだw
「だ・か・ら!余計危険ナンだ。今、アキバの地下では謎の組織による"エスパー狩り"が進んでる。だから"覚醒"した腐女子は目立つ行動は控えないと」
「ソレじゃミユリ姉様がテリィたんにしたコトは何なの?人前で超能力を使って、堂々とテリィたんに告ったじゃない。姉様は良くて私はダメなの?不公平だわ。同じメイドなのに」
「確かに…ミユリさんは軽率だった(でも告白は大歓迎さ)。でも、仮にもミユリさんは人の命を助けたんだ。意味のワカラナイお絵描きとは違う」
カチューシャをとって、頭をポリポリと掻いて歩き去るマリレ。人混みに消える。僕は溜め息をつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
トポラは、南秋葉原条約機構が寄越した"応援"と和泉橋上で落ち合う。メイド服を来た姉妹メイドだ。
「ミユリの日記は、SATO創設以来の謎を解く最大の手がかりになるわ」
「ねぇトポラ。参っちゃうわ。たかが乙女の日記探しで私達を呼んだの?」
「たかが乙女の日記探し?」
トポラに睨まれ、震え上がる姉妹メイド。
「悪かったわ。ギブアップ」
「タダの乙女の日記じゃないの。"エスパー"が人類進化の未来形なのか、単なる突然変異体なのか。ソレを判断スル上で決定的な証拠になるわ。何しろ、日記を描いたのは秋葉原でもトップクラスの優秀なメイド長で、萌え業界のエースだから」
「OK。で、日記が何処にあるかの見当はついてるの?」
あまり気乗りしてない姉妹メイド。
「モチロンょ。ターゲットは、バスケ屋で元TOのカレルって子とモメてる。貴女達は、ソコから洗って頂戴」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先に洗ってる。
カレルのアパート。律儀にチャイムを鳴らすミユリさん。こーゆー学級委員みたいなトコロが萌えだ。
「ミユリさん」
背後から声をかける。振り向くミユリさん。
「何かあったら呼んでくれ」
踏み込む気のナイ僕に苦笑するミユリさん。
「ROG。どーやらドアには鍵がかかってナイようです。突入します…カレル!いないの?」
反応ナシ。スタスタと入って逝くミユリさん。
「鍵をかけないなんて不用心だな。急いで探そう。彼の部屋は何処?」
扉から声をかける。ミユリさんは勝手知ったる我家って感じで、一直線に歩いてカレルの部屋に入る。
「私の日記を見つけたら即、撤収します。"覚醒"した腐女子の運命がかかってます。何が何でも見つけなきゃ」
チェストを漁るミユリさん。僕はベッドの下に手を突っ込むと…奴とミユリさんのツーショット画像w
ナイトプールでビキニのミユリさんが笑顔満面で媚び媚び光線を連射。ミユリさんもなかなかヤルな…
その時、何者かの襲撃!
「テリィ様、逃げて!…うぐっ!」
「ホラ、お立ち!このクタバリ損ない!」
「私がフルネルソンをキメるから、姉さんが腹パンチでトドメを刺して!」
腹キックを喰ったミユリさんが吹っ飛ぶ。相手はメイド2人で手慣れたツープラトン攻撃を仕掛けて来る。
「殺るわょ!正拳、胃袋突き!ワン、ツー!」
「ぎゃあ!ぐふっ」
「大変だっ!カレルが帰って来たぞ!」
実はデマカセだったが、マジでホントの御帰宅だ。慌てて敵も味方も一緒クタになり窓から飛び出すw
「…私、負けましたわ」
「こんな時に回文?この年増メイドにヲタク野郎、覚えてなさい!」
「無理だ。とても覚え切れないな」
第4章 このヒロインを愛しいと想う
美術系ロープレ喫茶。一心不乱にキャンバスに向かうマリレ。静かにソレを見守るイケメンのセンセ。
「どうやら、ソレがお気に入りの題材らしいな」
「何か創作意欲をかき立てられるのょねぇ」
「らしいな。素晴らしい作品だ。だが、タマには違うモノを描いてみたらどうかな?」
腕組みしてイーゼルを見つめるセンセ。ソンなセンセに初めて気づき、面倒臭そうに振り向くマリレ。
「違うモノって?」
「みんなが果物を描いていた時、君は渦巻きを描いていた。みんなが人物画を描いていた時、やはり渦巻きを描いてた。確かに君に絵の才能があるコトはわかった。でも"死後の世界"ばかり描いていたンじゃ単位はあげられないぞ」
「"死後の世界"って何?」
脳内に夜の墓場的な陳腐なイメージが浮上。
「君が描いてる、このポストモダンな縞模様のコトさ。敢えて言うなら、臨死体験した人が描く"死後の世界"に似てるってワケだ。今風に言えばマルチバースに続く時空トンネル、最近流行りの"リアルの裂け目"って奴カモしれん…とにかく、君には素晴らしい抽象画の才能があるコトがわかった。あのね、君の才能がMOTTAINAIから言ってルンだよ。他のもっと芸術的なモノにも目を向け、その才能をもっと開花させルンだ。例えばアレを見ろ」
石膏模型のミロのヴィーナスを指差す。
「裸婦?」
「そうだよ」
「OK」
スケッチブックに丸と線で人形の線画を描く。3秒で仕上げてスケッチブックをイケメン先生に示す。
「うーん…君は信じる道を行き給へ」
うなずくマリレ。初めてセンセの逝うコトに従う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ"のテーブルの上に腰掛けているエアリ。僕はベンチに腰掛けてる。傍らに立つマリレ。
「先ず先に断っておくけど、コレはミユリさんが悪いワケじゃナイ。だから、ミユリさんを責めないで欲しい。実は、彼女は日記をつけていた。日記には、その日に起きたコト全てを描いていたらしい。例えば、先日の音響兵器の発射事件のコト、ミユリさんが誰かの命を救ったコト。自分が何者で何をしたのかなどなど」
騒然となるエアリ&マリレ。
「頼むから2人共ミユリさんを責めないで欲しい」
「だから、何なの?」
「だから…」
やたら突っ込むエアリ。
「その日記が消えた」
エアリの横に腰を下ろす。少し話そうとしたら、エアリはアングリと口を開け呆然と空を見上げてる。
「誰かが盗んだの?犯人は誰?」
「心配だろうけど、ミユリさんが残留思念を拾って必ず日記を見つける。だから、彼女に任せてくれ…おい、聞いてるか?エアリ」
「残留思念?姉様は残留思念を拾えるの?」
ヘンなトコロに驚いてるエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
閉店間際の御屋敷。1人で洗い物をしているミユリさん。ソコへフラリと御帰宅して来るエアリ。
「もう閉店ですけど…エアリ?もうお料理は作れないけど?」
「ゴハンはナポリタン牛丼で済ませました」
「そう。悪いけど、カウンターの中に入るのは遠慮してくれる?ソレとも皿洗いしてく?」
応えずカウンターの中に入って来るエアリ。ミユリさんの前に立つ。洗い物の手を止めるミユリさん。
「テリィたんから聞きました」
「そう…テリィ様は何て?」
「姉様は、日記に全部描いていたって」
エアリが何をしに来たかがわかり視線を落とすミユリさん。カウンターの宇宙人の人形で遊ぶエアリ。
「ソレで、エアリは何が言いたいの?」
「日記に全てを描くナンて賢いとは言えナイって思うの。姉様らしくナイわ」
「確かに。なくしてから初めて気づいたわ」
「姉様。私は1週間前から気づいてた」
1週間前?
「待って、エアリ。貴女、何を逝ってるの?」
「姉様、ごめんなさい!姉様が残留思念を拾えるナンて知らなかった。だって、姉様の超能力は電撃だけだと思っていたから…自分で名乗り出るまで私を見守っていたのね?恥ずかしいわ。許してください。もう2度と姉様の日記を盗んだりしません!」
「(えっ犯人はエアリだったの?残留思念ナンて私、拾えないンですけどw)エアリ。あぁエアリ!」
脳内大混乱中のミユリさんを尻目にエアリの独白。
「姉様!確かに、私達にとっては致命的なコトだった。秋葉原で目立ってしまうのは"覚醒"したスーパーヒロインにとって、極めて危険なコトょね?だって、地下では謎の組織が"エスパー狩り"をしてルンですモノ。先日も姉様は、姉妹メイドに襲われたでしょ?やろうと思えば一瞬で相手を黒焦げに出来たのに、姉様は超能力を隠した。見直したわ」
「あ。でも、アレは…テリィ様って意外と"ヒロイン敗北シーン"萌えなのょ。切ない顔で悶えてみせるとイチコロなの」
「やっぱし!そして、ヒロピンAVは、そーゆー世界中の男子に支えられ、今やcool Japanの尖兵に…」
閑話休題。
「でも、姉様とテリィたんがどんな関係なのか、私は確かめる必要があった」
ポシェットからUSBメモリを出すエアリ。
「姉様の本心が良くわかったわ。ソンな姉様に信用出来るTOが出来たとわかって、私は心からウレしいって思います」
ミユリさんの瞳を覗くエアリ。今、光線が出ればエアリは黒焦げだが…ゆっくりと微笑むミユリさん。
「テリィ様には、誰が犯人か話した?」
「いいえ、言ってないわ。メイド同士の秘密です。御主人様には内緒で良いかと…でも、その日記を読んだら、また姉様が羨ましくなったわ。私もテリィたんから詩集を送られて…タップリ愛されてみたい」
「…」
ミユリさんは答えない。が、真っ赤になる。ソンなミユリさんを振り返り肩をすくめてみせるエアリ。
「姉様。戸締まりには気をつけてね。窓の鍵も付け替えないと。空を飛ばないスーパーヒロインって意外に不用心なのょね」
あ、コレは未だ"ムーンライトセレナーダー"が"ロケットパンツ"で空を飛ぶようになる前の話だ。
「で、コレからはテレパスも増えるコトだし、テリィたんには思念波防御のコレをかぶってもらおうかと思って。彼の雑念や妄想が晴れるまで」
「ソレって一生、晴れないわ。少し可哀想」
「秋葉原最凶のスーパーヒロイン"ムーンライトセレナーダー"のTOでしょ?それぐらいは我慢してもらいましょ」
メイド達は、肩を震わせて笑う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ミユリさん、気に入ったょ!最凶だ!」
ミユリさんがくれたヘッドギアは特殊部隊用のフリッツタイプ。前後に「SF作家」と大描きしてある。
「どーせなら"ベストセラー作家"の方が良かったけど…でも、カッコ良いなー!ありがとう」
閉館した"タイムマシンセンター"。薄茶色の時間旅行ベストを着用、ひとり残業で書庫整理中の僕。
首から"時間旅行者"と描かれたパスケースw
「私、いつもこんな時間に現れる常連さんになっちゃいましたか?」
「いっそのコト、¥2500でナイトの年パスを買わないか。僕のガイドと"タイムトラベラー弁当"がつくけど」
「お買い得過ぎます…テリィ様、日記が見つかったの。もう安心です」
書庫の戸口に現れたミユリさんを手招き。
「え。見つかったの?」
「はい。どーやらコンカフェに置き忘れたみたいです。さっき、ヲタ友が届けに来てくれました」
「ミユリさんのヲタ友って…」
ミユリさんは、資料棚にもたれかかって、得意技の媚び媚びモードの上目遣い。コレはタマランなー。
「御主人様?」
「いいえ、お客様系じゃなくてヲタ友でした。ソレも、とても大事なヲタ友です」
「ふーん」
誰だろう。
「私の不注意で、テリィ様に余計な心配をさせてごめんなさい。でも、なぜ私が日記を描いていたのか説明させてください」
「そんなコトは良いんだよ」
「良くありません」
僕が背を向け資料の整理に戻ると、ミユリさんが小走りに駆け寄って必殺の上目遣いで僕を見上げる。
みんな、最近リア充してるか?リア充は良いぞ!
「聞いてください。私が私達のコトや、テリィ様のコトとか全部描いたのはバカだったと思ってます。
でも、私が描いていた日記は、決して科学者の実験日誌のようなモノではありません。私は、テリィ様と、この秋葉原で出逢った時の気持ちを言葉にして残しておきたかっただけ。いつか私が死ぬ時に、今の気持ちをちゃんと思い出せるように。だって、私は、この気持ちのママで、いつもいつまでももいたいから」
一気に告った彼女を見つめて、このアキバ最凶のスーパーヒロインを、心から愛しいと思う。
ふと高まる衝動を感じて、慌てて視線をズラす。逃さない、とばかりに上目遣いで迫る彼女。
「僕に読ませてくれる?日記」
背後の棚を整理するフリをしながら僕。
「ううん。読まない方が良いと思います」
「ダメ?」
「ダメですぅ」
微笑み、ユックリとかぶりを振るミユリさん。超萌えだ。マジ、リア充って最高。健康にも良さそう。
も少し食い下がってみる。
「どうして?だって、ソレを読めばミユリさんのコトがもっとわかルンだろ?例えば…僕のコトをどう思っているとか?」
「ソレはもうハッキリとわかります」
「だから…ダメ?」
ミユリさんは微笑む。チャーミングな笑顔。大好きな眼差し。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ"がパーツ通りに出したパラソル付の白い丸テーブル。林檎やサンドや缶コーラが並ぶ。
「またソンな本を読んでるの?」
僕が課題図書?の"among you"を読んでいるとメイド美人のエアリが横に座る。僕は顔を上げる。
「マリレを見てょ」
もう1人のメイドは、コーラの空き缶を前に、ボンヤリと遠くを見ている。幽体離脱の1歩手前だ。
「テリィたん」
「ナンダョ」
「ちょっと考えていたの。例の渦巻き。何か意味がアルから見えたんだろうなって」
コーラを1口飲む。
「マリレ、焦るな。そして…悩むなよ」
「そーゆーテリィたんは、ヤタラ上機嫌ね。もしかして、姉様の日記が?」
「うん見つかった」
色めき立つマリレ。
「どこにあったの?」
「ヲタ友が返しに来てくれたンだって」
「ヲタ友?誰?」
遠くを見てソッポを向くエアリ。僕は声をかける。
「みんな、ドッグ食べるか?」
「一緒に行くわ」
「no thank you」
立ち上がるマリレ。エアリは僕の本を手にする。超スピードでパラパラとめくり、一瞬で読み終える。
「くっだらないわ」
しかし、カバーの袖に印刷された著者近影に著者と一緒に写っているトンネルの写真を見つけて叫ぶ。
「テリィたん!マリレ!ちょっと来て」
僕達は走って戻る。
「どうしたの?」
「見て。マリレが見たのって、このトンネルじゃないの?」
「どれどれ」
著者アサトの背景に写っている…渦巻きw
「あら。確かにコレだわ」
「コレ、一体何処にあるんだ?」
「さあ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜のパーツ通り。1人歩くミユリさん。
"5月9日。この日記を描くのは数日ぶり。しばらく日記を描けなかったけれど、その間、私はゆっくり考えるコトが出来た。テリィ様と出逢う前、私は私の人生に何かが起きるコトをひたすら願っていた"
見上げる"メカゴジラ -2.5"カフェのネオン管がカラフルに明滅している。店の中に入るミユリさん。
"…退屈な日常を打ち破ってくれる何かが起きて、この秋葉原や"覚醒"した自分が、突然もっと価値あるモノに生まれ変われば良いのにと願ってた。その想いが叶ってテリィ様が私に致命傷を与える音波攻撃を防いでくれた時、やっと気づいたコトがある。こうして、世界が広がれば広がるほど、同時に悩みも大きくなるモノなのだと"
コンカフェの窓からパーツ通りに出るミユリさん。
"だから、私は私の秘密の1部を隠すコトにした"
レンガ塀の凹みにUSBメモリィの入ったタイムカプセルを推し込み隠す。その上からレンガをハメる。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"日記"をテーマに、秋葉原を挙げての日記探し騒動を描いてみました。ジュブナイルを志す以上、日記は思春期に必須のアイテム。半世紀前の若かりし頃を思い出しながら描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、GWが来ても、終わっても関係なくごった返してる国際観光都市アキバに当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。