第4話 「1998年ー③ー」
「庁内のアナウンスで呼び出してすまないね。」
「とりあえず、そこのソファにかけたまえ。」
相良警視総監は2人のことを気遣い、近くにあるソファに座るように促す。
「失礼します。」
2人同時に一言を終えるとソファに軽く腰を掛けるが、内心、心臓が今にも飛び出しそうな勢いだ。
相良は2人が座るのを確認した後、ゆっくりと反対側の席に座る。
そして、数秒間の沈黙の後相良の口が開きこう告げる。
「さて、申し訳ないのだが渡部刑事部長のほうからすでに話は聞いているのだよ。」
まさかの言葉に2人は開いた口が塞がらない。
敦史は「なぜ、警視総監が知っているのか。」と瞬時に考えたがわからずじまい。
典子は考える余裕もなくただ正気を失った人のように抜け殻のようになっていた。
「話の続きを始めるよ。それとは関係のない話なのだが、
以前、君たちが担当していた【東京都連続不審死事件】の捜査資料及び調べたものも含めて
今日中に警視総監室まで持ってきてほしい。」
「承知しました。お渡しするのですが、
それが原本ではなくコピーだと言った場合はどうなりますか?」
「五十嵐敦史くん。君は実に面白いことを言う人だね。
異動・昇進の話は白紙及び出世街道からは外れてもらうよ。」
「そうですよね。わかりました。本日中にお持ち致します。」
「よろしく頼みましたよ。五十嵐敦史警部・五十嵐典子警部。」
「はっ。」
威勢の良い声とともに警視総監に完璧な毛入れをする2人は部屋を後にする。
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ー13:00 五十嵐家ー
五十嵐夫婦は午前中の出来事があったため、特別措置として午後からは休みにしてもらい、
警視総監のあの話について話し合っていた。
「ねぇ。敦史。警視総監の話はどうする?」
妻の典子が夫の敦史に鋭い切り口で質問してくる。
敦史は、数秒間の悩んだ末に答えを口にする。
「俺は、コピー品を渡して何かあった時のためにこの家の隠し金庫に入れておくべきやと思う。」
「たしかに!その方法はいいね。そうしようか。」
2人の出した答えはあっさりと決まってしまった。
その結論が吉と出るのか凶と出るのか今はまだ2人には知る由もない。
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14:00過ぎ 警視総監室
「それで、例のものは持ってきたかね?」
「はい。これになります。渡したのは分厚いファイル1冊だけだった。」
もちろん警視総監はこれがコピー品だとは気づかなかった。
警視総監はファイルを受け取るとデスクの1番下にしまってあったファイルから
2人の進退にかかわる用紙を取り出し、それを渡した。
「とても助かったよ。この事件は忘れてくれ。上からの命令でね。
私も逆らったらどうなるのかわからんのだよ。許してくれ。」
なんと、相良警視総監は上からの命令で苦渋の決断をさせられたというの「嘘」である。
「はい。心得ております。この件は夫婦ともども記憶の中から消去しておきますので
どうかご安心ください。それではお忙しい中ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
敦史の後に典子はお礼を言うとともに深々と頭を下げる。
「いえいえ。そんなかしこまらないでくださいよ。
こちらのほうからお願いしたのですから逆に感謝していますよ。」
「それでは、またなにかあれば個別に連絡します。」
「失礼しました。」
軽度の敬礼と会釈をすると、警視総監室から姿を消していった。
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1998年 過去編 全3話 完結
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時は戻り、五十嵐敦史がいると言われている「石川県」を訪れた3人。
指示されていた1台の黒いワンボックスカーの近くまで行くと
中から出てきた2人の男の正体とは?




