第2話 「1998年ー①ー」
突如として警視庁公安部内部極秘対策課(通称内対課)に異動になった五十嵐敦史。
1998年も残すことあと数日と迫った中、警視庁刑事部長の渡部嘉郎から連絡を受け、
五十嵐夫婦は刑事部長室へと向かうのであった。
「失礼します。」
扉を叩くノック音とともに五十嵐敦史は警視庁刑事部長の渡部嘉郎がいる部屋へと入る。
「どうぞ。お入りください。」
五十嵐夫婦は渡部が座っているデスクの前に横一列になると衝撃的なことを告げられる。
「君たちのことは、私の耳にも届いてるよ。そこでだ、この事案は極秘で君たち夫婦にお願いしたい。」
渡部のその一言に五十嵐夫婦は苦悶の表情を浮かべるが、それを押し殺し答える。
「わかりました。それでどのような事案でしょうか。我々であれば引き受けますよ。」
「それはありがたい。早速なのだが、取り急ぎ向かってほしい。」
「承知しました。支給車を手配して現場へと急行いたします。」
渡部から渡されたのは表に「極秘」と書かれた1冊のファイルだった。
その中身には、とある工場で麻薬等の密売及び製造を行っているところがあり、
手が空いていて尚且つそこは男女2人だけしか出入りを許されていないところだったからだ。
場所は警視庁から離れた町の郊外にあり、今はもう使われていない廃工場のようだ。
「それでは、頼みましたよ。また現着したら連絡を欲しい。君たちだけで大丈夫なのだろうが・・・
万が一のためにも私の部下で手が空いているものを支給応援に向かわせるように手配をしておこう。」
五十嵐夫婦は渡部に一礼をした後、その場を立ち去り現場へと向かっていった。
ー14:30過ぎ 警視庁内駐車場ー
「さて、現場に向かうけど何か違和感に感じたことはあったか?」
五十嵐敦史は妻の典子にそう告げると思い当たる節があるのかすぐに返答が返ってきた。
「そうねぇ。私が感じたことでよければなんだけど、まずはなぜ私たち夫婦なのか。」
「たしかに。ほかにも男女2人っていうのはいるからな。他にはある?」
「あと1つだけでいいのなら何かそこにあると思って間違いない。」
「というと?」
敦史は気づいてないのか典子の言葉に不思議そうに首をかしげる。
「あなた、気づいてないの?」
典子が敦史にそう告げると敦史はいまいちピンと来ていないのかわけのわからない表情になっていた。
「それなら、私から話すわ。あの刑事部長、絶対に何か私たちに隠している感じがした。」
「確かに、私たちは現場経験もそれなりに積んできていて警視庁内での成績は優秀だけれど、
ついこの間、子供も生まれたばかりで適任なのかもしれないけれど・・・。
最後部屋を出ていく際に不気味に微笑んでいた。」
「確証はないけれど、裏で何か隠し事をしていたり企んだりする人は
最後に笑うって刑事ドラマの鉄板じゃない?」
典子の言葉に納得したのか、「確かに。言われてみればそうだな。」と
思わず言葉が口から出る敦史。
「さて、こんなところで話してばっかだと怪しまれるからまた家に帰ってから話しましょう。」
「そうだな。」
五十嵐夫婦の会話はそこで終わる。
ー16:00 東京都郊外にある廃工場ー
1台の覆面パトカーが廃工場前に停車し中から五十嵐夫婦が降りてくる。
「よし、準備はいい?」
敦史の掛け声とともに典子は拳銃を両手で構えると同時に敦史も同様に準備に入る。
廃坑上の扉の前に着いた2人は気配を消し、扉をゆっくりと開ける。
扉の先には明かり一つなくそこに広がっていたのはただ暗く気味の悪い空間がそこにあった。
「え?」
思わず2人はお互いの顔を見合わせ周囲に拳銃を向けあたりに誰かいないか探るが誰もいない。
「警察だ。そこにいるならおとなしく持っているものを下ろして前出てきなさい。」
敦史の低い声が倉庫に響くだけで、そこには誰1人としていないようだ。
「やはり、誰もいないようだ。」
「おかしいわね。やっぱりあの刑事部長何か隠しているわよ。」
典子の言葉に頷くだけの敦史。
しばらく沈黙の時間が流れ、帰ろうとした矢先聞き覚えのある声が奥から聞こえてくる。
「やあやあ。意外と来るの遅かったね。お2人さん。」
その声の正体は警視庁刑事部長の渡部嘉郎だった。本来であればそこにいるはずのない人物。
五十嵐夫婦は何が起こったのか状況が理解できないまま展開は進む。
「君たちには、尊敬している部分があるが・・・。やはり君が原因だよ。」
「公安部所属で内部極秘対策課所属の・・・敦史くん。」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる敦史。
「どうしてそのことを渡部部長がお知りになっているのですか?」
「なんでって言われてもね。それは教えない秘密なんでね。」
「とにかく、この事案は本当なのだけれど今は知られてはいけないんでね。」
典子は完全に青天の霹靂のごとく動揺して固まっている、
「さて、皆さんもう出てきていいですよ。」
渡部の一言と手を叩く合図とともに30人くらいの輩が五十嵐夫婦の前に現れる。
30人の輩は手に武器を持っていてどう見ても2人には勝ち目がなく、下手をすれば・・・。
2人は背中を向けて目の前の相手に拳銃を向けるが分が悪すぎる。
「このまま、殺しちゃってもいいのだけれど取引しようか。」
渡部は2人に取引を持ち掛けた。
「取引?」
典子が今更何のことがあってその言葉が彼の口から出たのか知る由もないのは百も承知なので、
声を荒げた口調で渡部に聞き返す。
「そうだ。取引だ。敦史くんは今の部署で残ってもらってかまないし、
何なら、課長のポストを用意しよう。彼女はもう済みなんでね。」
この男は一体何を言っているのか2人には理解しがたくいまにも発砲してしまいそうな勢いだ。
「そして、典子くん。君には移動と昇進をセットで用意しよう。
詳しくはこの取引に応じればの話だけれど・・・・・・。」
渡部刑事部長に頼まれて向かった廃工場には誰もいなく、
中から現れたのはまさかの本人で取引を持ち掛けられた五十嵐夫婦。
2人が出した結論とは?




