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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第二章・日常のあれこれ

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17・第三の少年、現る

 死の糸と死の気。

 致命必殺の能力を有する者同士の戦いは、いよいよここからが本番となりつつある。

 綾辻那裕太と風切北斗。

 果たして、この二人はここから、どのような結末を迎えるのか。



「降りてきたら?」


 宙で微動だにしない北斗に、ナユタが落ち着いた声で言った。

 理由もなく高い所に登っているワンパクな友人に「ずっとそんなとこにいないでさ、こっち来なよ」と呼びかけるような、のどかな言い方だった。

 しかしその呼びかけは、のどかとは程遠い人生の終わりに直結している。応じたが最後、跡形もなくなって消え失せる結末が待っているのだ。


「遠慮するよ。死地に自分から降り立つのは馬鹿のやることだからね」


「──ひひ、怖くて降りれないの間違いだろ」


 第三者の声。


 その声は路地裏の奥から聞こえてきた。

 まだ若い。

 ナユタや北斗とさして大差ない、少年の響きだ。


「そっから動けないのが全て物語ってるぜ、糸使い」


 路地裏の奥から、声の主が堂々と姿を現した。


 現れたのは──やはり、二人と同じくらいの年齢の少年だった。


 いかにも生意気な小僧という顔は、しっかりと日に焼けており、

 二人よりも頭一つ分ほど背が高く、

 濃いめの茶髪を、背中まで伸ばしている。


 下は、丈の長い、膝辺りまである短パン、

 足はサンダル、

 上はTシャツ一枚に首飾り。


 これでもかと夏を満喫している真っ最中という姿だ。女とヤる事しか頭にないチャラ男の幼虫みたいな感じである。


「うるさいよ、遠廻大悟(とおまわりだいご)。どうやってここを嗅ぎ付けたのかわからないが、見ての通り取り込み中なんだ。お前の出る幕じゃない」


「そう、つれないことを言うなよ優等生。ひひっ」


 遠廻大悟と呼ばれた日焼け少年が、短パンのポケットに手を入れたまま、肩をすくめた。

 典型的な水と油の関係だ。


「こんにちは」


 さらなる新手に、穏やかな表情を浮かべながらナユタが挨拶した。

 手というより萌え袖をひらひらと振って、友好的な態度を取る。まだ敵なのかハッキリわからないので。


(敵だと、したら、順番に、相手したいのだけど……)


 あまりこの二人の関係はよろしくないようだが、それでも、二対一になられるのはナユタとしては避けたい事態であった。

 ナユタは、自身の力の使い方を、直感でだいたい把握できている。

 けれど、実戦経験は全くない。

 ナユタにとってこの糸使いの少年との戦いが、記念すべき人生初の殺し合いなのである。


(でも……それに、しては、上手くやれてる……ようだ)


 自分には並々ならぬ戦いの才能があるのかもしれないと、ナユタは内心で自賛していた。


「キミも、私に挑むのかな?」


 率直に聞いてみた。

 もしそうなら、一旦引くことも視野に入れている。戦いの経験が浅いのに、同時に襲われたら対応がおぼつかなくなりそうだからだ。

 複数を相手にするのは、もっと戦闘というものに慣れて、セオリーをある程度理解してからにしたい。

 ナユタはそう考えていた。


「そのつもりで来たんだが、先を越されちまった。俺としてはさ、二人がかりでおたくを捕まえて、分け前も半々でいいんだが……」


「断る。お前の助けなんて僕は必要としてない。とばっちりを食らって死なないうちに立ち去るんだね。言っておくけど、僕はお前が巻き込まれそうになろうと手を止める気はないよ」


「……捕まえる? 私を?」


 ナユタは大悟の言葉に疑問を抱いた。


 宙に浮かんでいる、風切北斗と名乗った少年は、自分を殺そうとする理由について「この世にいてはならない存在だからさ。まあ、それだけではないけどね」と語っていた。

 それだけではない、他の理由。

 それが『捕まえる』ことだったのか。

 でも、殺したら、捕まえても意味がないのではないか。なのにどうして私のことを殺そうとするのか。本末転倒じゃないか。

 いや、そんなことよりも、誰がそんなことをこの二人に頼んだのだろう。


 ナユタの脳内に芽生えた数々の疑問。

 それらに答えてくれたのは、北斗ではなく、大悟だった。


「ああ。おたくの綺麗な首に賞金がかかってるんだよ。ざっと百億円」


「ひゃく、おく、えん」


 現実味のない金額だと、ナユタは思った。

 電車を乗り回しながら総資産を競い合うテレビゲームでしか見たことのない桁である。

 いったいどこの金持ちが、そんな冗談みたいなふざけた額を自分にかけたのか。ナユタにはまるで身に覚えがなかった。


「生死を問わない、死体でもいいから連れてきてくれ──それが先方の依頼でね。金に目がくらんで引き受けちまったはいいが、今の見てたらブルってきたぜ。臆病風に吹かれて動かなかったおっさん連中のほうが正解だったかもな」


「でも、その割には、怖がって、ない」


 その通りである。

 本当に恐ろしくなったのなら依頼など気にせず逃げればいいのだ。なのに、逃げないだけでなく、姿まで晒して平然としている。腰も引けていない。

 遠廻大悟。

 この少年もまた、並大抵の実力者ではないのだ。

 末恐ろしい子供たちであった。


「ンなことないさ。怖がってるよ。怖いもんは怖いからな。抑え込んでるだけだ。それはともかく……」


 大悟は、十メートルほど上方で動かぬままの北斗を見上げた。


「おい眼鏡、いつまでそこで偉そうに見下ろしてんだ。口だけ動かしてよ。とばっちり食らうも何も、ビビッて固まってんなら──」


 言葉は最後まで言えずに途切れた。

 尻尾巻いて逃げ帰るんだな、と、言おうとしたのだが、雨あられと死の線が路地裏全体に降りかかってきたからだ。それも無差別に。


「ケッ、癇癪(かんしゃく)起こしやがったか」


 大悟が毒づいた。



ぎゅ



ぎにゅるるるぅ



 景色が歪む。蜃気楼でも発生したのだろうか。


 いや、違う。


 空気の屈折率によるゆらぎではない。

 大悟の頭上にある空間そのものが、捻れ、曲がったのだ。

 死の線はその捻れに抵抗することはできなかった。一本残らず、あさっての方向へと逸れていった。

 音もなく、路地裏の地面や、周りのビルの外壁に、いくつもの大きな斬り傷が生まれる。大悟が逸らした糸をまともに受けたせいだった。

 大悟にはかすり傷ひとつ無い。


 わざとなのか偶然なのか、その内の何本かは、ナユタや、張本人である北斗のほうへと飛んでいったが、

 劣化し、ボロボロに崩れ、

 防御用の糸に相殺され、

 何の成果もあげることなく討ち死にした。


「冷静沈着に見えてこれだからな。気の短い奴だぜ、全くよ」


 頭を左右に振りながら、呆れたように大悟は言った。


「やはり、ただ者じゃ、ないね」


「お互い様だ」


 ナユタが、大悟のほうを見て、微笑する。

 大悟もまた、口の端を吊り上げ、皮肉げに笑った。

 北斗などもはや眼中にないとばかりに。

 その二人の態度が、さらに北斗の怒りに油を注ぐ。


 乱入者を交えながらの戦いは、ついに佳境を迎えようとしていた──

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