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8・新たなる姫君

「あたた……」


 頭や肩をさすりながら立ち上がる。


 別に骨も折れてなければ打ち身も無いのだが、人間だった時の癖でつい反射的に痛がってしまった。

 だが、いかに頑丈でも、俺と間狩の予期せぬ合わせ技の前では無傷とはいかなかったようで、手足や胴体があちこち焦げている。

 見えないが顔や髪の毛もそうだろう。アフロになってたら嫌だなぁ……。


 けれど、火傷特有のあの煮えたぎる痛みがない。

 こんなに焦げて黒いのに俺の身体は全くヒリヒリしないと言う。


 おかしい。


 中まで火が通ってない生焼けだとしても、ここまで痛くないとか変だろ。

 鈍感とか通り越して無痛のレベルじゃないのか?

 肉体が死んでないタイプのゾンビかよ俺は。


 顎に手を当て座り込み、痛いはずなのに痛くないのはなんでじゃろなと全裸で思考する。


 なぜ全裸かというとありのままの自分をさらけ出したくなったのではなく、何も着てないよりはマシだった死人用の長シャツが跡形もなく燃えたからだ。

 つまり今の俺は、よく言えば大理石とかでできた彫刻、悪く言えば変質者だ。芸術家ならいいがおまわりさんはこないで。


 それと股間のアレは無事だった。


 元気にプラプラしてる。



「わざとじゃないにしろ、弁償しなきゃならないかな、これ」


 爆炎で吹き飛んだ先にあった自動販売機は、俺のクッションとなったせいで見事にスクラップと化していた。

 壊れた箇所からいくらでも中身がボロボロ溢れ出てくるジャックポット状態である。


 俺はその大当たりにあやかろうと、パックのりんごジュースを拾って中身を一気にすすった。

 俺はオレンジよりアップル派なのだ。


「あー」


 冷たくてうまい。


 これだよこれ。このくらいでいいんだよ。


 慣れ親しんだ味の液体が胃袋へと流れ込んでいく。

 甘さと酸っぱさ、そして喉ごしの良さ。


 どろりとした人の温かな生き血とは、また違った良さがある。


「……あいつ、どうなったんだろ」


 間狩は俺と同様に吹き飛ばされたのか、それとも耐えきれずに燃え尽きたか砕け散ったか。

 あれだけ頭に血が上っていたのに追撃してこないのだから、無事ではないはずだ。


 確認のため、二個目のりんごジュースを手に、戦場跡みたいになった中央吹き抜けへと行ってみる。

 みたいになったも何もその通りなのだが。


 そうそう、いつまでもお宝を剥き出しにしておくのも気恥ずかしいので、そこらの死体からズボン借りた。

 パンツは……他人が穿いたやつを使うのも何か嫌だからやめといた。

 だから直にズボンなんで、感触がいつもと違う。変な感じだ。



「いねぇな」



 爆心地に来てみるとそこらの地面から黒い煙がモクモクと上がっている。

 草木やベンチは跡形もない。

 間狩の残骸も転がってないか確かめたが、特に無かった。


「ふふっ、偉そうなこと(のたま)っておいて自分が灰も残さず消えたんじゃ世話ないな。短気は損気か」


 これでひとまず問題なし。

 かくして生き残ったのは俺だけ……


 ……いや、まだ二匹いる。あの白黒が。


 間狩が一人独学で剣術やオカルト的な術を会得したとは思えない。

 それに、ここに来たということは、誰かの差し金か依頼のはずだ。

 間違いなく、あいつには仲間か上司、あるいは雇い主がいる。


 そいつらに俺の情報をチクられたら今後もこんなバトル漫画じみた襲撃が続きかねない。

 きっとまだぐったりしてるだろうから、さっさと口封じせねば。


 俺は吹き抜けをそのまま進み、俺が吹っ飛ばされた側のちょうど反対にある玄関ロビーに行こうとした──のだが。


 見覚えのある誰かさんが床に倒れている。いや、横にされているのか?

 誰かさんの傍らには、あの二匹が不安そうにお座りしていた。


 その一人と二匹のすぐそばに立っているのは、これまた見覚えのある人物だ。


 ある程度まで歩みを進めると、白黒二匹は俺に対して警戒の唸りをあげた。

 あげたところで「はあ、だから何?」としか思えない。

 さっきまでグロッキーだった奴らが脅してきたところで、誰も二の足を踏まねーよ。


「どーもこんばんわ、グロリア先輩」


 穏和そうな、いかにも箱入り娘という様子の、豊かな金髪と胸囲が目を引く女子高生に挨拶する。

 挨拶は基本だからな。


「今晩は。えぇと……」


 きらきらとしたサファイアの瞳がこちらを静かに見つめてくる。

 男子生徒は言うまでもなく、女子生徒も魅了してやまないと評判の瞳だ。


「優人です。天外優人。一年生の」


「……ユート、ね。そう、そんな名前なのね。ごめんなさい、知らなくて。貴方はわたくしのことを知っていたのに……」


「気にしないで下さいよ。先輩は有名人ですから」


 ──そこにいたのは、白夜高校三大美少女の一人。


 『鏡姫(かがみひめ)』こと、二年生の、御華上(みかがみ)・グロリア・イージスさんだった。


 日本人の父方もフランス人の母方も高貴な血筋だとか。詳しくは知らんけど。

 ……まあそんな血統書付きの令嬢さんがこんな場所にのこのこ来たってことは、()()()()()()()()

 当たり前だが。

 血肉が飛び散ってるのに一切ビビってないし。


 この調子だと最後の一人も援軍に来るんじゃねえの。嫌なモテ期だね。


「あなた一人で役不足なくらいと思い、見物気分だったのですが……最初から三人がかりで挑むべきでしたわね。あなたが後れを取るほどの、こんな大物が潜んでいようとは」


「一騎駆けした挙げ句に、不覚をとり、申し訳ない……」


「謝らなくていいわ。むしろ、謝るのは手助けしなかった、わたくし達の方です」


 どうやったかはわからないが、間狩は自力で生き延びたのではなく先輩が助けたらしい。

 守りに秀でた能力なのかな。

 ……いや、判明してなどいないのに、勝手にそう解釈して思い込むのは危険だ。

 判断材料の一つとして留めておくだけにしよう。

 柔軟な頭でいないと駄目だ。勘違いした結果しくじるとか、自分の掘った落とし穴に落ちるような不様は晒したくない。


「……………………やっぱ、他にはもういないみたいだぜ、先輩! そいつでラストっぽいぞー!」


 背後から場違いな声が聞こえてきた。


 三人って言ってたしな。

 もう一人いるのはわかってた。


 記憶違いじゃなければ、この荒っぽいハスキーボイスは隣のクラスの、あの問題児……


「……B組の、嵐姫(あらしひめ)か」


「おうよ!」


 振り向いて声をかけると、ぶっきらぼうな返事が帰ってきた。

 やっぱり三人目もお姫様か。

 二度あることは三度あるとはいうが……嫌な予感が見事的中した。


 三大美少女最後の一人、玉鎮(たましずめ)(らん)である。


 小麦色の肌に、肩まで雑に伸ばした真紅の髪という組み合わせの美少女が、大きなハンマーを肩にかけ、挑発的な笑みを見せている。


 下は別段おかしくはないが、上はスポブラだけつけてブレザーを着ていた。

 ワイルド系だな。

 なぜシャツ無しなのがわかるのかというと上着の前が全開だからだ。健康的なお腹がエロい。


 髪の毛と同様の色をした右目と黒い左目のオッドアイは、油断せずに俺の挙動を見逃すまいとしている。

 奔放な普段の態度のわりに抜け目がないな。


 なかなか手強そうだ。


 二対一とか予想外の事態になって事故りそうでやだなぁ……ただでさえ、既に一度事故って死んでるのに……。

 やるならタイマン二回にしてくれないかな。連戦でもいいからさ。


 ちょっと下手に出て聞いてみるか。ダメ元だ。

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