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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第二章・日常のあれこれ

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8・見覚えのない少女

また新キャラ登場。

 綺麗さっぱり宿題を一掃して。

 これで二学期がいつ始まっても問題はないが始まらないならそれでもいい。

 そんな夏の夜。


「あっついな」


 寝苦しい夜だった。

 お日様が沈んでも暑いままなのは今に始まったことではないが、暑いものは暑い。おのれ地球温暖化め。


「耐えられないこともないけどな」


 ベッドの上で天井を眺め、ひとり呟く。


 人間だった頃なら、とっくに冷たいシャワーを浴びてからの冷たい炭酸飲料という流れをチョイスしていたはずだ。

 それもいいけど、まず部屋の温度を下げれば済むだけの話なのだが……俺の部屋には扇風機はあれどクーラーはない。

 あるのは居間のみ。

 そして両親は涼を求めてそこで寝ている。

 いくら暑いからといっても、高校生にもなって親と一緒に寝るつもりはない。暑いんだからそうしとけという誘惑もあるが、気恥ずかしさが(まさ)った。


 それに、超人になってからの自分は、気温の変化に耐性がついている。

 暑いことは暑いが、具合が悪くなるとか、汗がダラダラ止まらないとか、そういうことはなくなった。多分寒さにも強くなっているだろう。

 それでも暑いことに変わりはないが。


「散歩いこ」


 外の気温も部屋の中とほぼ変わらないけど、気分転換だ。


 適当に着替え、玄関に向かう。

 最近、やたらと夜中の行動が増えたな……と思いながら、俺は外に出た。

 ただの散歩だ。靴じゃなくてサンダルでいいだろ。


「どこ行くかな……」


 行くも何も、元々、この外出に目的なんか無い。


 自分に問いかけるように独り言を言ったところで、まともな答えが出るはずもなく。



「……結局ここか」


 自宅からそう遠くないところにある憩いの場。

 俺がシスター二名に襲われた、あの公園である。


 正式な名前は『あじさい公園』なのだが、その呼び名を使う町民はまずいない。

 大きな鯨をモチーフにした、尾びれに当たる部分が滑り台になってるアスレチック風の遊具がインパクト抜群なため、『くじら公園』の愛称で親しまれている。なんならこっちが正式名称だと勘違いしてる人も多い。俺もずっとそうだとばかり思っていた。

 真実を知ったのは、中二の頃。

 夕食時。

 母さんから聞かされて、びっくりして味噌汁こぼしそうになった記憶がある。中一だったかもしれないが。


 そんな、昔から知ってる公園の、いつもの風景は暗く染まっていた。夜だからね。

 あちこちに立っている外灯の下だけが、かろうじて色彩を保っている。

 一般人には頼りがいのあるそんな光も、闇でも視界が利くうえに気配探知やソナーも使える俺には無用のものだ。



 そんな公園に、先客がいた。





 少女だ。


 それも、とびきりの美少女。

 遠目でもわかるくらいの、天使みたいな美少女だ。





 髪の色は灰色っぽい。

 長さは、肩にかかるくらいの、ストレートボブ。

 年齢は中学生くらいに思える。

 身長は……う~ん、百五十ちょいかな。

 どちらも、プリン頭の爆弾魔と似たり寄ったりって感じだ。


 蒸し暑い夏の夜にもかかわらず、サイズの合ってない、でかいパーカーを羽織っている。

 袖も長い長い。手が見えない。萌え袖とかいうやつになっている。

 下は、生足にスニーカー。

 パーカーの裾の下に隠れてわからないけど、短パンでもはいてるんだろう。


 見覚えはない。

 俺の脳内ファイルを漁ってはいるのだが、この少女に該当する人物のデータはどこにも見つからない。


(よそから来たばかりなのかな)


 最近この辺りに引っ越してきた子が、夜中に寝つけず、たまたまこの公園を散歩していた──あり得ない話ではない。

 ……いやまあ、ないこともないが時間的に無理あるし、そうじゃない可能性のほうが高いねこれ。


 そうじゃない可能性。

 しかもその可能性が、女の場合。


 これまでの苦い経験からして、だいたい敵だ。

 言いたかないが俺はとにかく女運がない。回転ノコギリの悪魔と契約してんのかってくらい、ロクな目に合わない。

 何度も初対面の女性に敵対的な行動をとられた。

 しまいには胸元に穴まで空けられた。


 この子は、どうなのだろう。


 やっぱ敵かな?

 今度は首を切り落とされるのかな?

 流石の俺でもそこまでやられたら死ぬのかな? そんでまた復活するのか? 今度は化け物を超えた化け物になってしまうのか?


 笑えない疑問が、次から次へと泡のように胸の内から浮上してくる。

 俺があれこれ思考している間、少女は、波に身を任せる布切れみたいに、頼りなげに揺れていた。


ゆらり、ゆらり


 空気を撫でるように、やんわりと、手を動かす。

 舞っているのだろうか。


 夜の公園という無人の舞台で、

 外灯というほのかなスポットライトに照らされ、

 音もなく、灰色の髪の美少女がぶかぶかのパーカーをまとい、舞いを披露する。


 その、どこか幻想的な光景に、俺はつい魅入られていた。

 舞踊とかそんなの全く興味なくて、見てたらどんどんまぶたが降りてくる俺にしてはとても珍しいことだ。

 我ながらそう思った。


「…………?」


 少女が、こちらを向いた。

 唯一の観客だった俺に気づいたようだ。


 さて。

 ここから、この子はどういう態度で俺に接してくるのか。

 平和に終わってくれたらいいんだけど……そうは問屋がおろさないか。どうだろう。

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