6・ハイウェイ・チートモンスター
深夜の高速道路。
打つ手も精根も尽きた暴走族。
食欲を満たそうと襲いかかる鋼の蟲。
──そして、颯爽と現れた、二人の豪腕退魔師。
言わずと知れた、俺と天原さんだ。
思わぬ形でやりたくもない人助けをすることになったが、これでいいのだろうか。
この手の連中が素直に感謝して、全て見なかったことにしてくれるのかと問われたら、かなり怪しいものがある。
「助けるならさっさと助けろや」
「救助なんか頼んでねーよ」
と、馬鹿げたイキリ逆恨みすらしかねない人種だ(多少偏見が入っているのは否定しない)。
だから天原さんが蟲とガチンコしてる間もずっと静観して、暴走族が全滅してくれるのを期待したんだが……かなり食い下がったようで、生き残りはまだ四人くらいいる。
弱いけど、しぶとい。
こいつらのほうがよほど昆虫みたいだな。夜でも昼でもお構いなくブゥンブゥンやかましいとこもそっくりだ。
二十分……いや、十分くらい遅れてやってきていたら、都合よく全滅してくれてただろうにな。
天原さんが安全運転してくれてたら……。
いやはや、この世というのは、ホントうまくいかないもんだね。
ま、こうなったものは仕方ない。
後のことは七星機関の方々に無茶振りしよう。
俺は暴れる役、あちらは揉み消す役。
それでいいのだ。
「流星脚!」
駆け寄っていく速度をそのまま生かす。
一番距離が近い鋼の蟲に、二秒で思いついた技名を叫びながらスピードの乗った飛び蹴りをかます。
命中。
俺の蹴りを避けることはおろか反応すらできず、その巨体が横殴りされたように吹き飛んでいき、お仲間と激突。
二匹とも派手に砕けた。致命傷だろう。
もう動けそうにもないし、もし、まだ息があったら後で止めを刺しておくとする。
「ども。レスキューヒーロー到来っと」
暴走族の生き残りはポカンとしている。
そりゃするよね。
ヘルメットに普段着という同年代っぽい少年が、自分たちがまるで歯が立たなかった怪物を一ターンに二匹潰したんだから。
「……で、いいの?」
「は、はぁ?」
生き残っていた暴走族。
全員、何がなんだかもうわからないという顔だ。
その内の一人が、かろうじて、とぼけたような声で聞き返した。
「いや、だからさ、逃げたら? 助け来たんだからさ。それとも、このままあいつらの夜食になりたいの? こっちとしてはそれでも別にいいけど」
質問の意図が掴めないようなので、分かりやすく教えてやる。ここまで言えばどんな馬鹿でもわかるだろ。
「……………………い、行くぞお前ら……!」
真っ先に動いたのはパンチパーマだった。
「おい待て一人だけ……!」
「置いてくんじゃねーよコラァ!」
「こ、こんなとこで死んでられっかよぉ!」
残りの三人もパンチパーマを追いかけるように逃げ出していく。
バイクを飛ばして、封鎖されていた場所からここまで、だいたい二十分。
生き残り連中はあの疲労具合なら数分で走れなくなるだろう。そこから疲れた体にムチ打ちながら足を動かして、封鎖場所まで何時間かかることやら。
封鎖場所からここに行く前。
天原さんは、スマホで手短に機関へ連絡していた。
『自分と天外優人が現場に向かう』『自分達より前に侵入した者がいる』と。
なので、生き残り連中がたどり着くよりも先に、機関の人達が封鎖場所に到着しているはずだ。生き残り連中は、その人達に保護されたあと、全て他言無用と釘を刺されるのかもね。
でも、全部喋ったところで誰が信じるって話だけどさ。オカルト雑誌くらいしかまともに受け取らないだろう。
最悪、頭がおかしくなったと思われて精神病院送りじゃないかな。
──なんてことを考えつつ、頭の上で組んだ両手をダンクシュートのように振り下ろす。
段ボールを潰したかのごとく、鋼の蟲のボンネットに両手がめり込んでいく。
その衝撃で、逆ウィリーしたみたいに鋼の蟲の後部が跳ね上がった。シーソーの一方にいきなり重量がかかったら、もう一方がバンと勢いよく上がるのと同じ理屈である。
「ゴゲボッ……」
ビクビクと体を震わせ、ヘッドライトの光が弱まる。じきに緑色の煙を吹いてただの車に戻るだろう。
「お、今度は突進か」
猛スピードで突っ込んできた一匹を、避けることなく、受け止める。
見事受け止めた。
実際は数歩ほど押されたが、そんなもの誤差みたいなものだ。
「ふんぬ…………よいさぁ!!」
グッと力を足腰に込め、一気に持ち上げると、反り返りながら後ろに投げ飛ばす。プロレス技でいうブレーンバスターってやつだ。
ベキャアアッという音。
車の屋根にあたる部分が、キレイに潰れたようだ。
しかしまだピンピンしている。
「悪霊退散フック!」
大きく振りかぶった拳を仰向けの腹に叩き込む。
代わりばえのない悲鳴が上がる。
また一匹仕留めた。
「アッハハハ、どいつもこいつも図体のわりには打たれ弱いな、まったく!」
すぐ近くで、天原さんが楽しげに鋼の蟲をボコボコにしている。
その蟲はサソリのような尻尾を活用することもできず、無数の拳を叩き込まれて息の根を止められていた。バトル漫画の主人公だなまるで。
「……駆除完了、かな」
ヘルメットを外し、髪をかきあげながら天原さんが言った。
俺と天原さんの周りにあるのは壊れた車やバイクのみだ。
そう、周りには。
「同意したいとこですが、まだですね」
「ほう?」
「大物が来るみたいなんで」
俺のセンサーに引っ掛かる悪しき気配。
さっきまで相手にしていたのとはランクが違う、そう感じさせる何かが、道路に面した斜面の上、山林の奥からこちらににじりよってきているのだ。
「フフ、つまりここからが本番ってことだね」
「うーん……どうでしょうか」
歯切れの悪い俺に、天原さんが怪訝な顔をした。
そうして話している間も、ゆっくりと時間をかけ、何かが近づいてくる。
そして大物は現れる。
木々をなぎ倒しながら俺と天原さんの前に姿を見せたのは──いくつものトラックを繋ぎ合わせたかのような、長く、巨大な百足だった。
なお、来ることはわかってたので、溜めていた詳細不明砲両手撃ちで頭部車両を消し飛ばして倒した。完。
優人「トラックなんぞに見せ場も情け容赦も無用」




