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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第二章・日常のあれこれ

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4・ハイウェイ・アイアンスター・その1

 封鎖された高速道路。

 果たして、この道の先にいるのは、どこのどいつなのか。


 やって来た理由や正確な人数まではわからないが、人間が侵入しているのは疑いようがない。

 わざわざバリケードをずらしたってことは車かバイクだ。徒歩なら、バリケードの合間を縫って移動するか、乗り越えればいいだけだからな。

 そこまで苦労して死地に飛び込んだ不運で馬鹿なそいつらは、もう手遅れなのか、まだ間に合うのか。

 助けが間に合ったら間に合ったで足手まといにしかならないから手遅れのほうがいいかなと思いながら、落車しないように天原さんに抱きついている俺だった。酷い話かもしれないが、見知らぬ間抜け共の命なんて俺にとっては鼻かんだティッシュ並に軽いのでね。



 奥へ奥へと、天原さんがバイクを駆る。

 ひたすら進む。

 他に動くものはない。

 こうしていると、まるでこの路線を俺達がまるごと貸し切ったかのような、そんな贅沢な気分にさせられる。


 静けさを、バイクの駆動音が容赦なく切り裂く。

 夜の道に聞こえるのはこの音だけだ。


「おや?」


 バリケードがあった場所から、だいたい二十分くらい経過しただろうか。

 その間ずっと、独占された高速道路で天原さんが二輪を響かせ演奏していると、ふと、前方に明かりが見えてきた。

 前方──といっても、かなり先のほうだ。

 道路沿いの外灯などではない。

 なぜなら、その明かりは道路の真ん中辺りに、不規則にあるからだ。


(車のヘッドライトか? ……いや、それだけじゃないぞ。何か……燃えてるのか?)


 まさか焚き火じゃないだろう。

 こんな所に来てまでやることじゃない。ンなことやりたいならキャンプ場に行ってやればいいだけなんだから。

 ……なら、あの火はなんなのか。

 侵入者が好き好んで何かを燃やしてるんじゃなくて、燃やされたか、壊されて出火したか。



「うっわ」


 到着すると、そこは玉突き事故の現場みたいになっていた。

 ひっくり返り、燃え上がる車。

 道路上に寝転がる、壊れたバイク。

 あちこちに散らばる、人間だったものの残骸。

 一見すると確かに悲惨な事故現場だが、しかし──これがただの事故なんかじゃないと見ただけでわかるほど、場違いで不気味な連中がいた。


 人間の死体らしきものにむらがる、鋼の巨体。

 蟲と自動車を混ぜ合わせたような怪物。


 荒廃した未来世界が舞台のゲームとかに出てきそうな見た目だ。


「こいつらが元凶ですかね」


「他にいると思うかい?」


「こんなのがウヨウヨしてるって、日本の山林って意外と生態系ヤバいのかな」


「ウヨウヨはしてないと思うよ。してたら社会問題だ。だがヤバいのは同感ではある。一刻も早く絶滅させるべきだろうね」


 俺も天原さんもバイクから降り、ヘルメットを脱……がなかった。

 頭部を守るためではない。

 ではなぜか。


 ……生き残りの侵入者がいたからだ。


 そいつらに素顔をさらして顔を知られたくないので、ヘルメットを被ったままなのである。

 視界が狭いのは戦闘で不利になるんだがな……全滅してくれてたらよかったのに。

 少し早く来すぎたか、くそ。


「お、おいっ、お前らっ」


 裾の長い黒の上着。

 ハチマキ。

 不自然なくらい上部に盛り上がった髪型。

 いかにも、わたくし暴走族でございますよという外見の男がこちらに気づいた。

 よたよたしながら慌てて駆け寄ってくる。

 右手にはバールを持っていた。形状的にそれしかない。ニュースとかだと『バールのようなもの』と言ってるが、なんでそこのところをぼかすのか前々から不思議だったりするがまあ理由があるんだろう。


 炎や怪物に目を奪われていたが、よく見たら他にも生き残りがいる。

 血の気の多そうなあんちゃん達がバールや鉄パイプ、バットなどで鋼鉄の蟲どもと応戦しているが、効いてるようには見えない。

 打撃音だけは威勢がいいが、焼け石に水のようだ。


「あらら。この子、仲間を見捨てるのかな」


「そりゃこの状況なら仕方ないでしょ。あれじゃジリ貧すぎますもん」


「どれだけ頑張ったところで、無駄死ににしかならないのは、まあそうだね。ワンチャン朝まで耐えれば時間切れがあるかもしれないが……」


「お、おい、そのバイクに乗せろ。いや、貸せっ。いいから早くしろっ!」


 天原さんの言葉に割って入るハチマキ。

 運良く致命傷を負わなかったようで、腕から血を流してはいるが、まだまだ声に元気がある。

 どうも乗り物は全部やられたらしく、こちらのバイクを貸せとぬかしてきた。


「貸せといわれても、我々は帰りをどうするんだい? タクシーでも拾えと?」


 天原さんがいつもの口調で、肩をすくめながら、からかうように言う。


 さてここで問題。

 余裕のある相手ならともかく、この状況で、この手合いにそんなことを言えば、どうなるでしょうか?


「うるせえ、いいからどきやがれ!」


 答え。

 こうなる。


 面白いくらい一瞬で頭に血が上り、ハチマキはバールを振り上げ、天原さんに叩きつけようとした。


(終わったな)


 当然終わったのはハチマキのほうだ。

 何も知らないとはいえ、ただの不良ごときがよりによって鉄人に襲いかかるとは。

 外見は女性ライダーにしか見えないだろうが中身はパワー系なんだぞ。


ぱしっ


 右手でたやすくキャッチ。

 バールは、簡単に受け止められた。


「いいっ!? な、な、な、なんなんだテメエ!?」


「それはこちらの台詞だよ。こんな危険なもので殴ってくるなんてね。どういう教育を受けてきたのやら」


 まともな教育は受けてないんじゃないの。

 受けてたら、そんなものを人めがけて振り下ろさないって。


「は、離せっコラァ! 手を離しやがれっ!」


 無理やり引き剥がそうとするが、天原さんの手は固定されてるかのように微動だにしない。腕力差は歴然すぎた。


「ひっきりなしに叫ぶわ暴れるわ、見苦しいったらないね」


「なんだとこのガキィ!」


 今度はこっちに噛みつくのかよ、忙しい男だな。

 だいたい俺をガキ呼ばわりできるほど歳離れてないだろ。せいぜい、二歳か三歳くらい年上ってくらいじゃないの?


「ん?」


 金属ボディの昆虫、そのうちの一匹がこちらを見つけ、脚やタイヤを器用に動かして意外に素早く接近してきた。


 狙いは……ハチマキか。


「緊急避難」


 それを見ていた天原さんは、バールを背後に振った。

 すると、本来のバールの持ち主はどうなるか。


「ひゃあああ!」


 バールを掴んでいたハチマキが天原さんの頭上を飛び越え、後方へ軽々と投げ飛ばされた。


「おぐぇっ!」


 背中を強く打ち付け、ハチマキがみっともなく呻く。

 受け身でも取れたら激突のショックを軽減できたのだろうが、こんな奴がそんなテクニックを持ち合わせているはずもない。

 もがきながらピクピク痙攣している。大丈夫なのか。


「えらいダメージ受けてますよ」


「生きたまま喰われるよりはずっとマシじゃないかな?」


「酷い二択っすね」


「生き残る選択肢を与えてあげたんだから、慈悲だよこれは……それよりも」


 鋼の蟲が、天原さんをじっと見ている。獲物を変更したらしい。

 その瞳が怪しく光り、眩しいヘッドライトとなって天原さんを照らした。


「キシャアアアア!」


 金属と金属を擦り合わせたような、耳障りな鳴き声。

 鋼の蟲は天原さんに狙いを定めると、一直線に突き進んでいったのだった──

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