60・次から次へと現れる分家
おかしいな間狩ママの解呪は2話くらいで終わらせて次の章に行くはずが
気がついたら加狩なんてキャラを急遽作って登場させている……教授、これは一体!?
また新たな間狩の親戚が出てきた。
間狩、八狩ときて、今度は加狩である。
やはり歴史ある名家だけあって、交流の途切れてない血縁が多いみたいだ。普通の一家じゃなかなかこうはいかない。
親等が近い人達が次々お亡くなりになっていくと、親等が遠い者同士ってあまり親しくもないから、次第に疎遠になっていくという。同じ一族であることによるメリットが無いのなら、自然と縁が薄まり、親戚付き合いもやらなくなるのだ。逆にいうと、メリット発生したら無理やり縁を強めようとしたりもするんだな、これが。
宝くじとかで大金手に入ったら、知らない親戚から電話がジャンジャンかかってくるってやつだ。
怖いね、金の魔力って。
生き恥をさらすことを恐れなくなる。
……血の繋がりの良し悪しや、人の欲望はともかく。
話を戻そう。
さも遠慮とか協調性といったものはママのお腹に忘れてきましたと言わんばかりの態度をとる目つきの悪いダウナー系美少女の名前は、加狩霧香。
青色カブトムシ式神(名前不明)を使役するようだが、どう使うのかまではわからない。この女の退魔師としての立ち振る舞いについてまでは、間狩に聞いてなかったからな。
片方のライトが壊れた車みたいに、左目だけ爛々と光らせ、俺をじっくり見ている。
(見当はつくがね)
さっきの発言からして、その輝く瞳で俺の力とか性能とかを見極めてるのは間違いない。やる気のなさとは裏腹に芸達者だ。
どんな異能を駆使するのかまだわからないが、敵に回すとこの二人よりも厄介そうな予感がする。単にこの二人がちょろいだけかもしれんけど。
武器は見当たらない。
素手か、風船屋よろしく式神オンリーか、手元に収まる程度の道具を使うのか。
持ってこなかった……と考えるのは、あまりに楽観的だ。なので油断せず、隠し持ってると思うことにする。
「妖魔にやられた呪いを妖魔に解かせる……ハハ、毒をもってなんとやら、ってか? 本家の者がやることとは思えないねぇ。アハハハッ」
俺達が入室してから、使用人らしき女性達が持ってきた、紅茶やケーキ。
チーズケーキを口に運びながら加狩が笑う。
面白いからというより、馬鹿にするためのような笑いだ。
「……背に腹はかえられない。それだけだ」
間狩はその挑発には乗らなかった。さらりと回避する。
俺相手だとあんなにムキになるのにな。
猫舌なのか、紅茶をしつこくフーフーしては、ちびちび飲んでいる。
「しかもだ、魔性許すまじがモットーの雷華お嬢様まで同意するとはね。いつもの潔癖さはどこ行っちゃったんだ?」
「やれやれ、今度は私に飛び火ですか。節操のない人ですね」
「答えたくねえならダンマリでも結構だけど?」
言い終えると、またしてもアハハと笑う。
「私はただの見届け人ですよ。この怪物が、おかしな真似を仕出かさないようにね。私はあなたのようなだらしない暇人ではありませんので」
「ハハ、言うねえ。あの泣き虫雷華ちゃんが偉くなったもんだ」
「そんな昔の話を蒸し返されてもね……。それに、人の事を言える立場ですか? 彼女にはあなたも泣かされていたでしょう?」
「チッ、口の減らねえ女だ」
痛いところを突かれたらしい。
初めてこの女の不機嫌そうな顔を拝見できた。
どうやら、まだ他にも間狩には年の近い親族がいるようだな。それも強そうなのが。
今はこの場に居合わせてないようだが……いずれ姿を現すのかもな。
「なんだよ、まだ他にもヤバい女いるのか」
「ああ、何をするかわからない危険な奴がな……って、ちょっと待て。他にもとはどういう意味だ」
「お前以外にもいるのかって聞いてんだよ」
「無礼討ちにされたいのか?」
「お前何のために俺を呼んだんだよバーカ」
「ちょちょ、二人とも落ち着くっスよ。無理に仲良くしろとは言わないけど、すぐ罵り合うのは駄目ですって。ここはこのちーちゃんの顔に免じて、ね?」
そう言われたら仕方ない。
俺も間狩も引き下がることにした。
なんかね、あんまり迷惑かけたくないタイプなんだよな、この人ってさ。
人柄がいいのかな。
少なくとも、この洋間にいるメンツの中では、断トツでそうだと思うが……でも、俺と間狩を止めたのも、解呪の件が中止になるのを防ぐためであって……善意から止めたわけじゃないよな。
でも、打算で動いてるのだとしても、できるだけ波風立てさせたくない姿勢は好感が持てる。俺を含め、好戦的な輩しかいないから、なおさらだ。
それはそうと口回りのクリーム拭けよな。子供じゃないんだから。
「このままここでお茶会しててもギスギスするだけだし、もういいだろ。間狩、勿体振らずに、お前のお袋さんにさっさと会わせてくれよ」
「……わかった。ついて来るがいい」
洋間を出て、再び廊下へ。
今度は四人ではなく、さらに一人増えて五人だ。だるそうにしている加狩が最後尾にいるからである。
「ここだ」
ある和室の前で間狩が止まった。
「ここが、母様のお眠りになっている部屋になる」
じゃあ寝室なのかと聞いてみたが「いや違う」と返ってきた。
てっきり寝室に案内されるものだとばかり思っていたが、そうではなかった。
まあ、凶悪な呪いをかけられてるというしな。呪いを抑えつけておくための特別な部屋をあつらえて、そこに寝かせているんだろう。
「男性を、しかも人間ではない者を招き入れるのは初めてのことだ」
「バージンか。ハハッ、優しく入ってやれよ、怪物?」
えげつない冗談が一番後ろから聞こえてくる。
どう返しても間狩の機嫌を損ねてしまいそうだ。聞かなかったことにしとこう。
だけど、疑問はつい出てしまった。
「男性は……って、あれ? 間狩の父さんはどうしてんだ?」
「あの人は来たことはない」
間狩の声が冷え込んだ。
まずい。地雷踏んだかも。
「最初こそ、女系である間狩の家に婿入りしたことに不満もなかったようだが、段々と母の完璧さが重荷になったらしい。今ではこの屋敷にも戻らず、実家に戻っている。私も、もう何年も顔を合わせていない」
「女系ね」
そーいうことか。
自分より格上すぎる嫁に耐えきれなくなり別居してると。
その事実をこいつはもう納得してるんだな。現に、今の説明には何の迷いもなかったし。
うっかり地雷踏んじまったと思ったが、不発に終わってよかった。感情的になってわめかれたら、口論になるよりめんどくさいからな。
それと、間狩の婆さんもこの屋敷にいるが、今回の件についてはちゃんと容認しているとか。
愛娘が助かるチャンスかもしれないしな。
それでもまあ、やはり立場上、俺と会うのもどうかということで、この場に顔を出したりはしないそうだ。
婆さんは退魔師としてもまだ現役でピンピンしてるが、爺さんのほうはとっくにお亡くなりになってるんだってさ。
「女系だろうと何だろうと、俺なら全部丸投げして悠々自適に過ごすけどね。プライドさえ捨ててしまえば、ヒモとか男の理想の生き様だし」
「そこまでキッパリと言い切れるのは……逆に凄いですね」
八狩がよくわからない感心をしている。
おかしい。
そこは「最低ですね」とか言うべきところじゃないのか?
なんだろう……何となくだが、騙されやすい女の匂いがするぞ。駄目な男にコロッと引っかかりやすいというか……。
「凄いですねって……」
まさかの発言に加狩が引いていた。
下世話で図々しい女でも常識はそれなりにあるらしい。
「──失礼します、母様」
間狩は廊下に座り込み、中に一言かけてから、障子をゆっくりと開いた。
「──!?」
驚きのあまり、間狩が絶句する。
部屋の真ん中で死んだように眠る女性。
その枕元に、もう一人、女性が座っていた。
「お、お前は……」
「……知った顔もいるし、知らない顔もいる。それと……人ではない者も。よりによって本家に妖魔を引き入れるとは、実に大胆なことをするものね」
まだ若い女性だ。
俺達とほぼ同年代だろう。
うなじくらいまでしか伸ばしてない髪は、間狩と同様、混じりの無い銀髪だ。
どこの制服かはわからないが、黒のセーラー服を着ている。
すぐそばに置かれてあるのは、両刃の……石の剣か? 見た感じは、そうにしか見えないが……。
その剣の反対、俺達から見て右側には──鎧武者の頭だけが浮いていた。
大きな二本の角を生やした、メカっぽい頭。ロボットアニメの主人公機の頭部みたいなカッコ良さがあるが、半透明なのでこれも式神なのだろう。
「ゲッ、こいつまで来てたのかよ。ウッゼえなぁ」
心底嫌そうな声で、謎の美少女に対して加狩が言った。
一方、美少女の反応は、何もなし。
たったそれだけだが、二人の間柄が、なんとなく理解できた気がする。
美少女は、自分に対して露骨に悪態をついた加狩のことなど、聞こえてないかのように気にもとめず……静かに、間狩へと語りかけた。
「氷雨……あなたの気持ちはわかります。わかりますが……だとしても、悪鬼羅刹の力を借りるなど、この亜狩灼夜、決して見過ごせませんね」
おかしいな気がついたら亜狩なんて(略




