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6・やだ、私の力、強すぎ……?

 こちらの方が圧倒的だとわかれば、焦ることも、逃げを最優先することもない。


 手加減なしでボコボコにしてやる。


 ──さあ、もがいてみせろ犬コロども。


「黒いの、これはただ者ではないぞ!」


「言われずともわかっているさ、白いの!」


「ふーん、まだ戦意喪失しないのはたいしたもんだけどよ、白旗か尻尾振ったほうがよくないか?」


「ほざくな悪鬼め!」


「いい気になるのも今のうちと思え!」


 やめる気はないらしい。

 なら、まだ打つ手が残されてるんだな。もしくは玉砕覚悟の構えか。


 どちらでもいいさ。


 俺はどうも悪者サイドらしいからな。

 正義の味方の都合なんて知ったことかとばかりに、力で叩き潰してやる。他に手段ないから物理で攻めるしかないんだけど。

 手からビームとか出せないものかね。

 腕力と頑丈さが並外れているのはもうわかったから、飛び道具系が欲しい。


 自分の芸の無さに悩んでいると、白いほうがショートしたみたいに雷を放ち始め、一方で黒いほうは火だるまと化したかのように炎をまとい始めた。

 青い雷の白狼が俺の右側に、青い炎の黒狼が俺の左側に移動する。

 挟み撃ちだ。

 どちらかがやられても、無事なもう片方がクリーンヒットすれば良しという戦法なんだろうか。変則的な捨て身だな。

 両方いっぺんに倒されたらどうするんだろ。


「「滅び去れっ!!」」


 阿吽の呼吸で白黒が俺に迫り来る。


 さっきより速いぞ。本気の攻めってことか。


「おおっ……!?」


 完璧な同時攻撃だ。

 細かいことはわからないが、きっとそうに違いない。

 戦いのプロが見たらわずかなズレとか指摘するのかもしれないが、ズブの素人な俺にはそう見えた。


 当然だが避けられない。


 さっきと違って今度は属性攻撃がプラスされてる。受け止めたら感電や火傷は免れないだろう。

 戦いのプロならかすかな綻びを見つけて凌ぐのかもしれないがズブの(略)


 だから迎撃することにした。


「とやぁっ!」


 慣れないせいで変な噛み方した気合いと共に、両手を素早く左右に突き出す。

 こんなやり方で敵を吹っ飛ばすのバトル漫画で見たからな。事前学習は済んでいるって寸法よ。

 後は本当に何か出てくれるかどうかだが……南無三!





──ドンッ!!





 出た!

 見えなかったが何か出た!

 衝撃波とか空気とかか!?


 自分でやっといてさっぱりわからないのも情けないが、なんにせよ、二匹は弾かれてクルクル錐揉みしながらロビーの床に落ちた。

 飛距離はさっきの吹っ飛ばし程ではないが、受けたダメージは甚大らしい。

 どちらも動けなくなって痙攣してる。

 油断させるための芝居にしては迫真すぎるから、マジで虫の息のようだ。


「よっしゃあ!」


 やってみるもんだ。


 窮地に追い込まれたら秘められた力が~とかフィクションでよくある話だけど、本当にあるんだな。なんか感動しそうだ。


「……ぐはっ、ば、馬鹿な……」


「も、申し訳ありません、氷雨さま……」


 息も絶え絶えといった二匹の狼。

 どう見ても戦闘続行は不可能だろう。


 つまり俺の勝ちである。


 人の事を悪鬼だの何だの言いやがっていい気味だ。


「んん…………どんなもんだぁ!」


 戦闘面における能力の開花と、ケチのつけようがない完勝。

 二重の嬉しさがこみ上げてきたので、溜めてからもう一回雄叫びを上げた。



 思いがけないにも程がある一戦だったが、得るものはあまりにも大きかった。


 俺の伸び代は、かなりのものがありそうだ。

 バトル向き以外にも日常で便利な技や術を閃いたりしていけば、それを悪用……いや活用して、一儲けできるかもしれん。


「支払いしても残額が減らない術とか編み出せないかな」


 調子に乗りすぎてあまりにも図々しいことを口走ってる俺だった。



「……いつまでも喜んでる場合じゃないな」


 無傷の勝利に酔ってるのもここまでにして逃げないと。

 いつ屋上のやべー女が日本刀片手に追跡してくるか、わかったものじゃない。


「こいつらどうするかな」


 数少ない手の内を知られた以上、生かして返せないのはその通りなんだが、ほっといてもお陀仏になりそうなのに追撃してまで息の根止めるってのも、後味が悪い。


「はぁはぁ……やるなら、さっさとやれ……」


「……我らを生かしておけば……ごふっ。き、きっと後悔するぞ……」


 半死の二匹が、漫画やゲームでしか聞いたことない負け台詞を吐いている。


「そっか。そこまで言われたら不安になるし、ここで縁を断っておくべきだな」


 本来ここでカッコつけて見逃すのが主人公やクール系、あるいは武人系のやることだが、俺も必死なんだ。

 やるなら遠慮なくやれと言ってるのだから容赦なくお言葉に甘えさせてもらおう。


「やめろっ!」


「危なっ」


 さっきの謎攻撃を狼どもにまた撃ち出そうと片手をかざした時、間狩が飛び込んできた。

 伸ばした腕を慌ててひっこめ、振り下ろされた刃から、間一髪で逃れる。

 俺の硬さならこの女の一太刀も耐えられそうな気もしたが、青白い光をたぎらせる日本刀が未知数すぎたのでやめといた。

 避けられるなら避けといたほうがいいよな。


「遅かったな」


 早すぎると思ったが、そのまま言ったら侮られそうだから余裕ぶっておく。


「見ての通り、自慢の飼い犬どもはご覧のザマだ。平気で人に襲いかかってきたぞ。保健所送りにすべきだな」


 どうせ話し合いの余地はないので、機嫌取りをしても意味はない。


 なので煽る。


 冷静さを少しでも削っておいたほうが精神的なデバフになるはずだ。

 判断力を低下させるに越したことはない。


 こいつがここに来たということは、ヨシモトさんだったものは滅ぼされたか動けないかのどちらかだ。

 頼りになる者はもういない。

 自力でどうにか打開しないとならないのだから、打てる手は何だって打っておかなきゃいけないんだ。


 幸いなことに、今のところは間狩の速さに対応できている。

 だから避けられた。

 まだ本気の速さではないのかもしれないけど、それは俺も同じだ。


黒業丸(こくごうまる)白陽丸(はくろうまる)。ご苦労だった。後は私がケリをつける」


 そんな名前だったのかこいつら。

 きっと和風だろうなと思ったが、やっぱそうか。

 わりと記憶に残りそうなカッコいい名前だけど残す意味はないんだよね。どうせここで飼い主共々殺すわけだし……。

 そうならない可能性もあるかもしれないが、この雰囲気からして無理だなそんなの。


 そんなわけで、状況に流されるままだった俺は、流れ付いた果てに、夜の病院で死体に囲まれながらクラスの女子と一騎討ちとなったのだ。


 ……ああ、どうしてこうなったんだろ。

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美少女?とキャッキャウフフの組体操始まるよ?
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