表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第一章・超人復活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/172

41・背に腹はかえられず

 胸に大穴が空いたままの俺は、人間としてではなく死体として扱われた。

 それは正しい。

 こんな大ダメージ受けて応急措置もないままなんだから生きてるはずがない。


 でも俺は生きてるんだな、これが。

 人間やめてるからね。

 自分でもよくわからない謎の光を扱う超人だからね。


 そんな超人である俺は雑に抱えられ、雑に車のトランクに突っ込まれ、雑な運転で目的地まで運ばれていく。

 俺は完璧に死んだふりをこなせているのだろう。誰一人として脈をとったり息をしてるか確認したりしない。

 呼吸を止めたままでいるのは辛いかと思ったが、やってみたらずっと止めていられた。どうやら俺にはもう酸素は不要らしい。なら俺はさっきまで何を吸ったり吐いたりしていたのか。

 生き返ってから今に至るまで、わからないことがひたすら積み重なる。


 車は長いこと走り続けた。

 真っ暗な(といっても俺の目なら普通に見通せるのだが)トランクの中にずっといるため、時間が無駄に長く感じる。

 だが、そのことを差し引いても、やはりなかなかの移動時間だったのではないか。


 しかし終わりはいつか来る。

 瞑想でもしてゆっくり待とう。


 どのタイミングで動き出してやろうかなと楽しく悩み続けていると、やがて車が止まり、エンジンの音が消えた。

 トランクが開く。

 太陽の光が眩しいが、顔をしかめるのは堪えた。

 ここでそんな生きてる人間に相応しいリアクションしたら、全て水の泡だ。


 無表情のままぐったりしていると、またしても雑に抱えられ、雑にカートに乗せられ、雑にどこかへ運ばれていく。

 大きなカートだ。

 カタカタと車輪が床を擦る音。

 カツカツとカートを押す人物の靴が床を叩く音。

 どちらの音も二つぶんある。

 カートにしては人一人仰向けの体勢で置いてもなお余裕がある。もしかしてこれタンカなんじゃないのかとも思ったが……そんなのどっちでもいい。運ばれる先のほうが気になる。

 まあ、きっと例の廃工場の中なんだろうけどさ。

 スナイパー女が言ってた「あの人」とやらが待ち構えている部屋にでも通されるんじゃないかな。

 と思っていたのだが。



「……仲良く放置かよ」



 カートもといタンカに乗せられたまま、殺風景な空き部屋に安置された。

 部屋の扉が閉まった後、カチャカチャ音がしてたから、鍵はかけたんだろうな。


 足音や気配が去っていくのを感じ取り、目を開ける。

 目を閉じてたときから目蓋越しにわかっていたが、部屋の中は意外と明るかった。蛍光灯は半分ほどしか天井にくっついていなかったが、光量などどうでもいい。どのみち明かりなどいらない眼だ。


 監視カメラとかは…………ないな。

 ま、こんな部屋にわざわざつける必要ないか。


 首を曲げ、お隣にいるニット帽の男のほうを見る。

 うん。

 お顔は見事な土気色だ。

 やっぱ死んでるな。完膚なきまでに死んでる。

 俺の名演とは違う、嘘偽りのない、マジの死だ。


 俺が初めて殺した人間。

 それが隣のカートの上で、冷たくなっていた。

 もう動くこともない。

 死んでいる。

 口元に手をそえてみたが息はかからない。やっぱり死んでる。


 だが、それだけだ。


 正当防衛だとか、殺しにかかってきたんだから逆に返り討ちにされても仕方ないとか、言い訳する気も正しさを主張する気もない。


「どうでもいいや」


 いちいち気にすることでもないしな。

 命を大切にする系の主人公じゃあるまいし、ウジウジと気に病んだり悩んだりするのも馬鹿馬鹿しい。忘れよ。


「それより胸の傷は……」


 おっかなびっくり触れてみる。

 穴は、空いたままだった。

 治ってなかったらしい。


「ま、そうだよな」


 もし塞がっていようものなら俺を運んでいた連中がそれに気づいて、めっちゃ動揺していたはずだ。

 となると……この身体、再生能力は大したことないのかもしれん。


「おお、入ってく入ってく」


 試しに手を突っ込んでみると(トンネル開通してるんだから当たり前だが)どんどん奥へと入っていく。なんか不思議な気分だ。

 ついに背中のほうに手の先が出た。

 手を抜くときに、傷口というか断面というか、あちこち触れてみたが痛みはない。

 完全に痛覚がバカになっている。

 でもそれで良かった。

 こんな大穴が空いたんだ、痛いなんてもんじゃないはずだからな。この無痛ボディに感謝だ。


「んで、これからどうするか」


 今の俺はまさしく獅子身中の虫である。

 正々堂々大暴れしてもいいし、潜入ものの映画やゲームみたいにコソコソ地道に一人ずつ消していくのもありだ。


「その前にこの穴どうにかならんかな」


 なんかトンネル開きっぱなしってのもマヌケじみてて格好がつかない気分だ。

 これはきっと、この世で俺しかわからない悩みだろうな。


「……………………」


 部屋の中をうろうろしながら悩んでいると、ふと、俺が仕留めた人間がまたしても目についた。


「ん~~」


 マズそうだが……この際、いいか。

 背に腹はかえられないしな。





 胃腸はやめといた。消化しかけのものとか消化し終わったものとか食べたくないし。

 脳も……珍味っぽいが、あまりそそらないので手をつけなかった。海外だと猿の脳を食べるとか、そんな話あったな。

 結局、首にかじりついて血液すすって心臓取り出して喰らって。

 それからスネとかモモとか二の腕とか千切って食べてたんだけど、気づいたら穴が塞がっていた。


 おかげですっかり血みどろ。

 どっからどう見ても非の打ち所のないゾンビにしか見えないだろう。

 今後は、もっとこう……上品な食べ方とか、編み出すべきだな。

 毎回毎回三歳児みたいなグチャグチャドロドロな食事するのも情けない。



 まあ腹一杯というか胸一杯になれたし、喉も潤ったからいいや。細かいことは気にしない気にしない。

 さて、動くか。

 腹ごなしに丁度いい。

人食い主人公良かったと思ったら、ブクマや星(評価ポイント)をつけてみてくだされ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ