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38・追いかけて三対一

「あたた」


 狙撃された部分をさする。

 穴は空いていない。

 たんこぶもない。

 赤くなってるかもしれないが、そのくらいならどうでもいい。

 普通なら、頭の中身が反対側から飛び出て問答無用で即死していたところだ。

 だが俺は普通ではないので、おミソが派手に飛び出たりもしなければ超特急であの世にも行かない。

 この通りピンピンしている。


 良かった、人間やめてて。


「弾が当たったとこがハゲたらどうしよ」


「ヘッドショットされてそれで済むなら恩の字じゃないかい?」


「そりゃそうですがね……」


 だからって「ハゲるくらいで済んでラッキー」とは言えねーよ。

 俺まだ高校生やぞ。

 フサフサだった頭が寂しくなるのを素直に受け入れられるような歳じゃないんだからさ。


「にしても、どこの誰の仕業だろ」


「安愚羅会の反主流派……だろう。待ち伏せだね。現状で君を狙撃しようとするような者は他にいまい。それとも、君は別口の恨みを買っているのかな?」


「ないっすよ。まあ、知らないうちに恨まれてるって事なら、あるかもしれませんが……それにしたって、頭を狙ってくるほど恨まれてるとは……」


「うん、その年でそれは考えづらいね」


 なら、やっぱ安愚羅会とやらのスナイパーが、ちょっかいかけてきたと見ていいか。

 運転手さんじゃなくて俺を狙ってきたってことは足止めじゃない。

 つまり、俺に廃工場に来られたらまずいってことなんだろう。

 だからこうして先手を打ったが効果薄に終わったと。


 ……だったら二発目がくるはずだよな。


「……………………んん?」


 ──音沙汰なし。

 うんともすんとも。


 二発目が来るかと思ったが、待てど暮らせど、一向に来ない。

 謎のスナイパーには一発しか弾丸の持ち合わせがなかった……なわけないよな。


「引き下がったんでしょうか」


「あり得るね。一発目がまるで効いていないからな。私がスナイパー(あちら)の立場なら、二発目の狙いを定めたりせずに、一目散に逃げるよ」


「なら、逃がさないほうがいいですよね」


「それはそうだが、待ち伏せされて……あ、おい、待ちなさ──」


 天原さんの言葉を最後まで聞くことなく、俺は駆け出した。


 俺だからこんなもんで済んだが、他の面子なら助かりそうにない。

 放送不可レベルのグロ待ったなしだ。

 犠牲者が出る前に仕留めとくとしよう。優しいな俺。



 殺気の飛んできた方向はわかっている。

 走る。

 道路沿いの斜面を駆け上がり、その上にある林の中に突っ込む。

 何か手がかりでも見えたり感じたりしないだろうか?

 意識を集中して、周囲を凝視する。

 そうしていると……


「……おお!?」


 驚きの声が出た。



 切り取り線みたいなものが、おぼろ気に見えてきたからだ。



 うん、ハッキリ見える。

 宙に黒い点線が浮かび上がっている。

 最初はぼんやりしていたが、今は色濃く見えている。

 よく見ると、点線の一つ一つがトゲみたいな形状をしていた。


「……矢印?」


 そう、これは矢印だ。

 あれか、これってもしかして、殺意の線……ってやつか?

 点線──矢印の列は、雑木林のさらに奥ではなく、横へと伸びている。

 俺を撃った野郎(男かどうか不明だが)のところまで伸びてるのか?

 まあ、今こうして見えてるのなら、そうなんだろう。

 つまりスナイパーは山の方に逃げ込んではおらず、道路沿いの斜面の上辺りを横移動してることになる。


「……これを追いかけてけば、俺に一発かましてくれた奴に会えるって寸法か……至れり尽くせりだな、我ながら」


 どんどん便利になっていくな、俺の目玉。

 ついに敵を捕捉するためのナビまでついてきたぞ。

 できれば、目的地ならぬ目敵まであと何メートルあるのかも知りたいが、そこまで望むのは調子に乗りすぎか?


 とか思いながら生い茂る草を踏み潰し真面目に走っていると、スナイパーらしき者の姿が、ついに視界に入ってきた。


「──なぜこちらに!?」


 ライフル担いだ誰かさんが驚いている。

 女性の声。

 大人の女性っぽい声だ。

 フードを深く被り、夏場なのにコートまで羽織っている。暑くないのか?


 逃げてる素振りはない。

 河岸を変え、今度はこの辺りに陣取って、また海岸沿いの道路を走る車へと狙撃再開といこうとしていたのかもな。

 その矢先に、さっきまでいた場所じゃなくてこっちに一目散に来られたら、まあビックリもするか。


「奥田!」


「あいよ!」


 樹上から別の誰かの声がした。

 その声の主は、オクダというらしい。こちらの声は大人の男性だな。人の言葉がわかる猿という可能性もあるが。


「気をつけろ、私の弾丸がろくに効いてない! かなりの固さだぞ!」


「ふふ、それは斬り甲斐があるねぇ」


「あんたは相変わらずそればっかだな、滑首(すべくび)の旦那!」


 さらに別の声。

 スナイパーお姉さんとは別の方角から、粘着質な男の声と、足音が聞こえた。

 木の上からオクダが、その人物をスベクビと呼んだ。

 口調からして馴染みの間柄のようである。

 そっちを見る。


 あまり陽が差さない林の中にも拘らずサングラスをした男性。

 髪を無造作に伸ばしたおっさんだ。

 手には杖を持っている。

 一見、視覚障害があるように見えるけど……斬り甲斐とか言ってたから、まあ仕込み刀なんだろうな、その杖。

 強そう。


「三対一か」


 護衛付きとはね。

 てっきりスナイパー一人だけかと。


「ふふ、ふっふふ、そうだねぇ坊主。後先考えず追ってきたのが運のつきだと思いねぇ。一人で来るとは豪気なことだが、それが命取りよ、ふっ、ふっふふふ」


 笑いながら普通に歩いて俺のほう来てるよおっさん。全然杖ついてねえし迷いもねえ。

 こりゃ余裕で見えてますわ。


「スプラッシュの(あね)さん、威力優先で頼むぜ!」


「言われずとも百も承知だ! むしろこうなったら好都合! 邪魔が入らないうちに仕留める!」


 あーそっか。

 ダラダラやってりゃ天原さん来るよな。

 あの速さとスタミナだ、俺が三人相手にドンパチやってりゃどこにいるかわかるだろ。


「ひとつ聞いていい?」


 時間稼ぎ。

 それと、なぜ狙われたかの疑問を解消するための問い。

 ダメ元で聞いてはみたものの、有無を言わさず襲い掛かってくるかと思ったが……意外や意外、返事がきた。

 返事をしてくれたのは、木の上の男からスプラッシュと呼ばれた、スナイパーの女性だった。

 本名とは思えないし、コードネームだろう。


「いいだろう。冥土の土産にしろ」


「そんなつもりはないんだが……まあいいや。あのさ、何で俺を狙ってんの?」


「お前が我々にとって最大の邪魔者になると、そういう結果が出たからだ」


「結果ね」


「そうだ」


 そうらしい。

 つまり、根ノ宮さんみたいなのがそっちにもいるんだろうな、たぶん。


「後は、まあ……お前への仕返しを頼まれた」


「あらま」


 それはまず無いと思ってたのに、まさかの怨恨かよ。

 どこでそんな恨みを買ったんだか。

 記憶の引き出しを引っ張り出しまくって原因究明したいが……今はそれどころじゃないな。


 まあいい。

 死なない程度にぶちのめして聞き出そう。その方が早いしその手に限る。

 この連中のお喋りのほうが俺のあやふやな記憶よりずっと信頼できそうだ。


「土産はこのくらいでいいか?」


「今のとこはね。続きは拳で聞き出すことにするかな」


 さて、暴れるぞ。

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