26・三下が来た
・前回のあらすじ
いきなり現れたギャル二名。
彼女達から、七星機関には中立派、自由派、過激派がいることを教えていただいた。
根ノ宮さんは中立派。
ギャル二名は自由派。
敵対視してきたチャラ男とサラリーマンぽい人は過激派。
以上。
「色々興味深いことを教えてくれたのはありがたいけどさ、用件は? まさかそれだけじゃないよな」
「んー、そう言われてもよ。そこまで考えてねーわ」
「根ノ宮さんがどんな変なの拾ってきたか、見たかっただけだし~?」
珍獣か俺は。
……って事は、俺の存在は機関の中で知れ渡っているとみていいだろう。
こうしてギャルが見物に来たくらいだ。まだまだ招かれざる客がお邪魔しに来てもおかしくない。それは今回みたいにただの客ならいいけど刺客かもしれないのだ。
ますます帰りづらくなってきたな。自宅が戦場になるのは嫌だぞ。
だからって、ずっとここで、時間をひたすら潰すのもなぁ……。
「邪魔するぜ」
帰宅するかどうか悩んでいると、また聞き慣れない声がした。
こいつら俺の部屋に待合室感覚で入ってきやがる。せめてノックしろよ。
俺の返事など最初から待つ気などないとばかりに、声の主はすぐ入ってきた。
今度は男だ。まあ声でわかってたが。
若い。
俺とどっこいどっこいくらいだろう。
真っ赤っかに染めた髪を筆先みたいに立てている。
そのうえ人相も悪い。無駄に額に皺寄せて、睨むようにこちらを見ている。
いかにも馬鹿なやられ役の見た目だ。
「ケッ、もう来てやがる。耳の早い奴らだなオイ」
ギャル二人を視界に入れ、雑魚みたいな男が、不愉快そうに眉や唇をひん曲げた。
「……井上。過激派の使いっぱしり」
九鬼さんが、こちらもまた、男への不愉快さを隠そうともせず、小声で俺に告げた。
なるほどね。見た目通りの三下で、ギャル達との仲は険悪と。
「オイ、お前が例のクソ化け物か? そこのビッチ二人と何をよろしくやってたんだよ。全く、お前ら尻軽すぎだろ。人間じゃなくてもいいのかよ?」
「アンタよりはマシだね」
「どーかん」
「ヘッ、お前らみてぇなのは、こっちが願い下げだ」
おいおい、いきなり三人まとめて喧嘩売るのかよ。威勢のいい奴だな。
「ずいぶんと口が悪い野郎だ。見た目も中身もチンピラか」
「あぁ? んだと?」
赤筆頭はずかずかと大股で近づいてくると、俺の胸ぐらを掴み、額と額がくっつきそうになる距離でガンつけてきた。
「言ってくれンじゃねえか、腐れバケモンの分際でよ。あんま舐めた口きいてっと潰しちまうぞ、あ?」
「す、すいまひぇん」
俺に首根っこをがっちり掴まれた赤筆頭が、前歯の半分以上が失われた口で謝罪してくる。
ギャル二人の制止を(そんなに止める気なかっただろうが)無視して、男をボコボコにしてやったのだ。
こいつもただではやられまいと、電撃バチバチほとばしる警棒(勢いよく振ると伸びるやつ)で反撃してきたが、持ってる手を掴んでグシャりと握り潰してやった。
後は心とか鼻とか前歯とかがぼっきり折れるまでヘッドバットを顔面に叩きつけるのを繰り返した。本気ではない。本気でやれば頭が破裂しかねないからな。
なので、ほどほどに加減しながら、見るに見かねたギャル達が真剣に止めに入るまで、ひたすらぶつけ続けましたとさ。
「いいか、本当は全身余すとこなく粗びき肉にしたいところだが、根ノ宮さんの手前、このくらいで済ませてやる」
「は、はひ」
「わかったなら失せろ。次またふざけた真似したら、誰が止めようとしても絶対殺すからな。覚えとけ」
手を離すと、粘土の塊を落としたみたいに、赤筆頭は床に崩れ落ちる。
のろのろと、這いずるように、メチャメチャにされた右手を無事な左手で押さえながら、部屋から逃げ去っていった。
「……怖いよアンタ」
容赦ない責めを目の前で見せられ、九鬼さんはドン引きしていた。
「ああ……いや、別にそんな怖がらなくていい。ムカつく野郎をわからせてやっただけだ。誰彼構わず暴れないよ」
「んふふ、でもカッコよかったよ。草食ぽいと思ったけど、意外とワイルドなんだね」
「それはまあ、そーだな。あのクソ野郎がのされたのは、正直、気分良かったしよ」
「ホントに強いんだね、キミ……」
どこか興奮した様子の塞霧さんが、じわじわとそばに寄ってくる。
俺の腕を手に取り、かなり豊かな胸を押しつけるように抱き抱えてきた。
おお、なんだこれ。
むにゅうという質感が腕から伝わってくる。気持ちいい。これが女の子のおっぱいってやつなのか。
生まれてこのかた、彼女のかの字もなかった俺が、初めて受ける衝撃。
神経が右腕に集中しているのがわかる。柔らかいのに弾力もある。相反してないかこれは。おっぱいって矛盾でできてるのか。なんてこった。
「ほらぁ、落ち着いて、ね?」
その効果は抜群で、みるみるうちにあの馬鹿雑魚への怒りが収まった。
女の子の胸って沈静効果あるんだな……知らんかった。
「んでもよ、きっとあのカス、泣き寝入りなんかしねーで仲間に泣きつくぜ。間違いなく、後からお礼参りに来るだろうな……」
「もしかしたら、ウチらにまで逆恨みするかもね。あ~いう弱虫ちゃんってプライドだけはやけに高いから~♪」
「フン、何人で来ようと同じことだ。あんたらの分までひねり潰してやるよ」
気持ちいい感触を楽しませてくれたお礼にな、とは、言わなかった。恥ずかしいし。




