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24・長い夜が終わる

 かくして俺は、今回の件における諸悪の根源である悪い人工仏をやっつけた。

 強いことは、まあ強かった。

 この三姫だけで挑んでいたら、案外返り討ちにあっていたんじゃないかな。事実、呪いの赤ん坊をくっ付けられて困ってたし。


「──静かになったわね」


 根ノ宮さんが言ったのは、きっと風船屋の事だろう。

 こちらのことで気が回らなかったが、確かにドカンボカン響いていたあの爆発音が聞こえてこない。


「死んだかな」


 なんて言ってはみたものの、誰も賛同してくれなかった。

 そりゃそうか。

 言い出しっぺの俺でさえ、そんなこと、さらさら思ってないんだから。


「ハッ、アレがそんな簡単にくたばるタマかよ。どうせ飽きて帰ったんだろうさ」


 玉鎮のその意見には、俺も同感だ。

 あの子は無鉄砲そうに見えて意外とガードが固いし引き際も心得ていた。ヘマをやらかしてもリカバリできる頭はあるはずだ。

 ここにいてももう旨味がないと見切りをつけ、あの気色悪い筋斗雲に乗ってさっさと帰宅しててもおかしくはない。


 複数の足音がする。


「あれ、もしかして『浄』って人たちが来たのかな」


「それは──ないでしょうね。仮にそうだとしたら、もっと慎重に、安全圏を広げながら進むはずです。この足音には、そんな迷いやためらいはありません」


「なら先輩、誰がこっちに……」


 入口の扉の向こう、薄暗い通路から、何者かがやって来る。



「──んだよ、もう終わっちまってるぜ旦那」


「旦那はやめろ。俺はまだ二十五だ」


「へいへい」



 現れたのは、人間の男らしき二名だった。


 ふむ。

 ここに来たってことは、間狩達の同類とみて間違いないだろうね。何も知らずについうっかり来れるような場所じゃないからな。


 若い男は俺と同い年くらいか。

 いかにもチャラ男という感じで、茶髪の髪を肩まで伸ばしている。ピアスだの首飾りだの指輪だのとゴチャゴチャしてて、軽薄さのアピールに余念がない。

 手に持っているのは一振りの剣。

 日本刀ではない。

 西洋の、いわゆる両刃の剣だ。その剣もまた、間狩の刀と同様、霊的なものを宿しているように見えるし感じられる。こいつと間狩のどちらが強いんだろ。


 チャラ男から旦那と呼ばれたもう一人の男性は、こちらはうって変わって真面目そうな人だった。

 丸眼鏡をかけ、七三に分けた黒髪と、地味な背広。わざとらしいほどに社会人ぽさを演出している。

 頭の軽い不良生徒と頭の固い新米教師と言われたら納得してしまいそうなペアである。

 こちらは素手だ。

 いや、厳密には手袋をつけている。

 妙な模様の描かれた手袋だ。やはりこれも霊的な力を宿している。

 武器ではないだろう。それならガッチガチの手甲にするはずだ。魔法使いの杖みたいな、異能の力をよどみ無く使うためのサポートアイテム枠なのかもね。


 二人は敵対的でもなければ警戒もしていない。

 三姫や根ノ宮さんの知り合いか同僚かな。


「根ノ宮さん、あなたも来ていたのか。相変わらずフットワークの軽い人だ」


「それを言うなら車椅子ワークかしらね」


 丸眼鏡の男性が苦笑いする。

 この人も根ノ宮さんのジョークはどうやら苦手らしい。なんか親近感がわいてきた。


「……麗しの三姫様が勢揃いも珍しいけどよ、なんか見慣れない奴がいやがるな。しかも、人間じゃないときてる」


 チャラ男が嫌なものを見る目を俺に向けてきた。

 差別的な発言をするのも秒読みだとすぐわかる目付きだ。化け物がいたら無害有害問わず石をぶつけるタイプだな。


「そんな奴がいるのか?」


 俺はおどけてキョロキョロと周りを大袈裟に見渡してみた。


「オメーだよ!!」


 おお、乗ってきた乗ってきた。


「何が「そんな奴いるか?」だよ。舐めやがってこの怪物野郎……いい度胸してんじゃねえか」


 カッとなりやすい気質なのか、怖い顔で睨んできた。

 チャラ男がチンピラにクラスチェンジしたぞ。


 ……大して変化ないなそれ。


「お、馬鹿にされたことくらいはわかるんだ。チンパンジーくらいの知能しかないと思ったんだが、認識を改める必要があるな」


 ストレートに煽る。

 仲良くなれそうにないタイプだから嫌われても構わない。どうせこのままなら揉めるのは避けられない運命だと思うので、だったら挑発して冷静さを失わせとけ。

 熱くなった方が負けなのは勝負の鉄則だからね。

 ……間狩もそうだけどさ、刃物使う輩って、どうしてこうも短気なんじゃろな。ワシには理解できんわい。


「こ、この……!」


 顔真っ赤やん。


「なあ旦那、殺っちまっていいよなあれ! 人間じゃないのは間違いないんだからよ、ブッ殺してもいいもんなぁ!?」


「落ち着け。お前の意見には同感だ。俺も化け物なんかと仲良くするのは御免だからな。が、しかしだ。彼女らと共にいるのなら、敵ではないだろ」


「だけどよぉ」


「その通りよ。ここにいたターゲットを仕留めたのも、彼なのだから」


 屍楽天の残骸を指差し、根ノ宮さんが諭すようにそう告げる。

 チャラ男はそれでもなお殺る気満々だったが、最後には渋々引き下がった。根ノ宮さんを怒らせるのは嫌だったとみえる。


「優人くん、あなたも気を付けなさい。流れるようにスラスラと罵倒を吐くのは駄目よ。いたずらに敵を増やしても、何もいいこと無いんだから」


「うーす」


 怒られた。



 こうして、いきなり現れた二人と俺との間に緊迫したものが漂いはしたが……。

 緊迫止まりでそこからバトルになることもなく、浄の連中が来て慌ただしく事後処理が始まり、また本拠地へ舞い戻ることとなった。

 風船屋はやはり退散したらしい。逃げる姿を浄に目撃されたとか。やっぱピンピンしてやがったか。


 さて。


 いくつもの謎は残ったが、この一夜の出来事は、一応の解決をみた。

 次はいよいよ自分自身の今後を考えないとな。 

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― 新着の感想 ―
 「うっす」もいいですが、「サーセン」も捨てがたき……
煽りスキルのセンスがあるキャラ好き
息をするように煽るなこの子 良いぞもっとやれ
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