22・わかったようで謎のまま
体調不良を引き起こすおんぶお化けをくっつけてくる人肉製仏の前に、学園のアイドルである三姫と二匹の狼は苦戦していた。怪文書みたいな内容だが事実である。
この状況を打破できるのは、謎の力を使いこなしてる俺しかいない。
だが、果たしてそうだろうか。
確信はないが、根ノ宮さんもやろうと思えばこのバッドステータスを解除出来そうな気がしてならない。
そのくらい余裕で出来そうなんだよな……。
なら、どうして俺にやらせるのか。
それは、俺が自らの内にある力の正体を理解し、きちんと制御するための練習としてやらせている──そんな意図が何となく感じるわけよ。根拠ないけどね。
根ノ宮さんが思わせ振りなだけで、やっぱ無効化しかできない可能性もあるしな。
何はともあれ、そんなことを考えつつ、玉鎮と白黒狼にしがみつく赤ん坊を引っぺがしてみた。
「へへ、悪いな。どうやったのかわからないが助かったぜ」
「……済まぬ」
「……かたじけない」
玉鎮はともかく白黒は無言でシカトしてくるかと思ったが、普通にお礼がきた。
ちょっとびっくりだ。
生意気なこと言いそうだったからなこいつら。主と同様にプライド高そうだし。
ペットは主人に似ると言うけど、式神もそうなのかね。
んで、お次は間狩か。
「余計な真似をするな」とか言って突っぱねてきそうだけどな。だから後回しにしたのだ。
かといって一人だけやらないのも後からグチグチ言われそうでね……。
仕方ない。やろう。
「……余計なお節介はよせ。このくらいの呪詛、一人で解ける」
手を差し伸べたら第一声がこれでした。
予想通り。
「ゴネるかねこんな時に。三歳児のほうがまだ聞き分けいいぞ」
「う、うるさい。来るな」
フラつきながらも俺から距離を取ろうとしている。
なんで助けようとしてんのに警戒されてんの?
「そんな強がり言ってる場合かよ」
どんな場合かというと、こいつらがフラフラしてる間に足の戒めを解いた屍楽天が、バカでかい火の玉を作り出し──あ、こっちに投げてきた。
「うっざ」
適当にそっちに手をかざし、詳細不明砲を放つ。
とりあえずこれぶっぱしとけば大体どうにかなる。まるで大味な格ゲーだ。
相変わらず何の手応えも反動もない。
だが。
「おおっ!?」
思わずガン見し、驚いた。
そして、激しい爆発。
見えない壁に当たったかのように、火の玉は盛大に弾ける。
それだけに止まらず、俺の一撃は火の玉をぶち抜いてさらに突き進んだらしく、直線上にあった屍楽天の顔の一つが粉砕された。
──以前までは、そうだった。
が、今は違う。
俺の手からそれが出て、突き進んでいったのが、ハッキリと見えたのだ。
真っ白な光線。
しかも、何の意味があるのかわからないが、一定間隔で光の輪っかのようなものが現れていた。いかにも大技の演出って感じで。
もし周りにこれが見えてたなら、俺の手から出た光線が、宙に浮いた光の輪を通過していったように見えたかもな。
そういう事だ。
……うん、ほとんどわからんままだね。
謎の衝撃波が謎のビームだったことはわかったが、それしかわからない。
ここからどうやって真実に辿り着いたらいいの? なんなんだよこの光?
光といえば、この施設も真っ暗かと思ったら、意外と照明がしっかりしてるんだよな。
つまり、最近までがっつり現役で使われていたわけだ。
ひょっとしたら他にもこんな悪巧みの隠れ家があるのかもしれんね。
日本全国ご当地アジトなんてな、はは。
「おお、迎撃したぞアイツ! しかもデカブツの頭まで一個やりやがった! よくわからんけどよ!」
「そうですわね。攻撃を撃ち抜いて命中したのだけはわかりますわ。それだけは」
やっぱり周りも見えてないようだ。
屍楽天も見えてなかったようで、避けるそぶりすらなかった。
まあ、見えていても、あの鈍臭さでは避けれそうにないか……作り物とはいえ、仏にも感知できないんだな、俺の光。
俺が凄いのかコイツが凄くないのか。両方かもしれん。
でも根ノ宮さんはこれが目覚めたからヤバいみたいな予知?をしたんだよな。
今のところそのヤバさがいまいち実感できない。
「ん?」
なんだろ。
なんか間狩達に斬られたり叩かれたり散々やられた部分が、ボコボコ沸騰したみたいに脈打ってる。
グボボボッ!!
「おおっ」
すげえな、一瞬で再生したぞ。
バトル漫画とかでしか見たことなかったが、リアルで目の当たりにすると、なんかこう……感動したわ。
でも俺にやられた頭は治ってないな。
こいつ、もしやビームで攻撃すると再生出来ないのか?
また新たな謎が生まれたな。
……というか、謎しかないな俺って。
どうして黄泉返ったのかもさっぱりわからんし。
そういう時のお約束として、脳内に音声ガイダンス聞こえてきたりするもんじゃね?
だんまりで全く教える気がないとか、ホント、俺の中に十六年も居候していた力は不親切だな。自力で理解しろってか。ンなこと簡単に出来るかよ。
やめやめ。頭切り替えよう。
「──スキあり」
「あっ!」
結論がまるで出そうにない思案を打ち切る。
油断していた間狩から、赤ん坊の形をした呪いを剥がした。
「この……卑怯者!」
「なんでやねん」
お祓いしてやったのになんちゅう言い草だ。
「そこの狼どもですらお礼したのにな。どういう教育受けてんだか」
「…………!」
痛いところを突かれたと言わんばかりに、間狩が唇を噛んで黙り込んだ。
親の教育を悪く言われたのが効いたのだろうか。ただの軽口だったんだがな。
「ま、口喧嘩は後回しだ」
もどかしげに何か言おうとした間狩に背を向け、屍楽天と対峙する。
「先にコイツを仕留めるとしよう」
生半可な攻撃は再生してしまうみたいだからな。俺がメインで叩きのめすしかないか。
覚悟しろよ肉仏。ビーム乱射のクソ戦法で封殺してやんよ。




