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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第一章・超人復活

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21・屍楽天

 仏とは、とんでもなくざっくり言ってしまえば、人があらゆる執着を捨てて悟った境地といえる。

 つまり、人から仏に『成る』わけだ。あるいは『至る』というべきか。


 それを逆手に取り、執着に囚われた者どもの血肉を材料に、仏を『造り出す』ことを目論んだ一派がいる。

 捨てるのではなく、これでもかと上乗せすることで産み出される、いわば魔仏とでも言うべきか。

 非人道的な所業によって、そんな闇の神仏を産み出そうと企んだ。

 覚師教団と名乗っていたその集団は、旧日本陸軍の内部に食い込み、その庇護の下、様々な実験を繰り返していた。

 しかし七星機関の知るところとなり、完膚なきまでに弾圧され、壊滅した。念入りに、跡形もなく潰され、存在した痕跡すら消されたらしい。関わっていた陸軍の一部将校も、その時に粛清されたようだ。

 戦後日本を支配したGHQにすら、この件は察知されることなく終わった。


 その悪しき研究者集団の狂気が産み出した、一つの成果。



「それが、我々が今遭遇しているこの存在──屍楽天よ」


 根ノ宮さんがそう語った。

 料理人の悪ふざけじゃなかったようだ。


 という思いは黙っておく。

 既にさっきの発言で間狩の怒りを買っているが、さらに追加購入するわけにはいかない。これ以上買うとオマケで日本刀の斬撃が付いてくるかもしれないからだ。


「なら、コイツは兵器ってことなのかい?」


 玉鎮が問う。


「陸軍にはそうプレゼンしたのだと思うわ。でなければ、援助してもらえるはずがないもの。実際は好奇心の産物でしょうけど」


「……好奇心、ですの?」


 それだけの理由でこんなおぞましいものをこしらえたのかと、そう言いたそうに、グロリア先輩が苦い顔をしている。


「いつの時代も、倫理を無視して未知を求める連中はいるものよ」


 それを聞いて、近未来的なバイザーを付けた、ある人物のことを思い出した。


「根ノ宮さん、説明はそこまでにすべきかと」


 間狩が得物である霊刀を構えた。俺にではなく産まれたての邪悪な仏さんにである。

 二匹の白黒も実体化して牙を剥いていた。俺に(以下略)


「そろそろ襲ってきそうです」


 まあそうだろうさ。

 あの肉仏、中腰で今にもこっちにジャンプしてきそうな体勢してるからな。


 のんびり由来話なんか聞かずに不意打ちしてもよかったのだが、根ノ宮さんが朗読みたいにやんわり詳しく語ってくれたのでついつい耳を傾けてしまった。

 ま、どうせ無理だとも思ったけどね。

 頭がいくつもついてて死角無さげだし、あの肉塊から出てきた時点で、とっくにこちらに意識向けてきてるもん。だいたい、作り物とはいえ仏様の不意とか突けるのか?


「後手に回るのも怖いけど、先に仕掛けるのもな……」


「臆したか?」


 また挑発してきやがったなこの銀髪。

 どんだけ俺に対抗意識燃やしてんだよ。俺に負けたくせに。


「慎重なだけだ」


「表現を変えただけだな。ならそこで棒立ちして好機が来るのを待っていろ」


 間狩が一歩前に出る。


 また一歩。


「たとえ鬼神魔王が立ち塞がろうと、私は突き進む。ひたすらに我が道を切り開く。二の足を踏む暇など…………ない!!」


 白黒の狼を伴い、銀髪の乙女が跳んだ。

 グロリア先輩と玉鎮も後に続く。

 俺は黙って見ている。何かあった時のカウンター役になろうかと。



 屍楽天が、その長い腕を伸ばし、間狩を捕まえようとしたが……あまりに遅すぎる。

 容易く避けられ、それどころか逆に腕一本切り落とされた。


「なんだぁ、ぜんぜん痛がんねーな。効いてないってこともないんだろうがよ!」


 別の腕が間狩に殴りかかったのを、玉鎮の鉄槌が迎え撃つ。


「オラァ!!」


 ジャストミート。

 大きな拳の肉や骨が砕け、耐えきれずに指がちぎれて飛び散る。


「大人しくなさい!」


 グロリア先輩があの太い針を同時に何本も飛ばし、屍楽天の脛や足の甲へと突き刺していく。

 よくやれるもんだ。意外と腕力あるのか、それとも特殊な力による発射なのか。


「縛!」


 右手人差し指と中指を立てて突きつけると、針と針を繋ぐような鎖……のようなものがぼんやりと現れ、そして屍楽天が両膝をついた。


「なるほど、あの鎖で歩けないよう縛るから「縛!」なんだ」


「……鎖って、何のこと? もしかして、そんなものが見えるの?」


 怪訝そうに根ノ宮さんが聞いてくる。

 てことは、これもまた、実体化してない式神みたく、本来見えないはずのものなんだろう。


「はい、ばっちり」


 最初、目の焦点が合ってない時みたいにどこかぼやけていた鎖は、くっきりと見えている。


「あれも式神……なんすかね」


「いえ、違うわ。それは恐らく、呪縛の術式が具現化しているように見えているのよ。信じられないことにね」


「何で俺だけ見えるのかな」


「わからないけど興味深いわね。私でもそう思うくらいだから、知恵さんが知ったらひたすら検査やデータ取りされそうね」


「うわ嫌だ」


 モルモットみたいな扱いされたくねー。


「ンなのたまったもんじゃないぜ」


「大丈夫よ。彼女にはまだ倫理や良心が残ってるから」


「ホントっすか……?」


 なんて会話をゆったりやってる間も戦闘は続き、悪趣味な仏像に女子高生三人と二匹の狼が群がるという、風邪引いた時見る悪い夢みたいな光景が展開されていた。


 なんだ、俺が参戦しなくても勝てそうだぞ。



 と、楽できそうだなーと思ったのもつかの間、


『怨ッッッッ!』


 さらに腕を減らされた屍楽天が甲高い声で一言叫ぶと、三姫がよろめいた。

 しかも、気分悪そうにしたり、片膝をついたり、頭を押さえたりしている。

 俺は大丈夫だがあいつらには効いたらしい。根ノ宮さんも無事だ。存在としての格の差なのかな?


「おやぁ?」


 梵字ってやつが身体中に書かれた赤ん坊が、三人にしがみついている。

 いや、三人だけじゃない。白黒狼コンビにもだ。


 …………ははーん、読めた。

 つまり、産まれたばかりの耳なし芳一みたいなあれもまた、呪縛の力なんだろう。他に考えられない。

 グロリア先輩の針に付いてた鎖もそうだが、じっと目を凝らさなくても霊的なものが見えるようになってきた。成長したのかな俺。

 ま、それはいい。

 そうとわかれば善は急げだ。


 最前線の二人よりも少し離れた位置にいるグロリア先輩の下へ向かい、()()()を引き剥がす。

 取れろ取れろと念じ、手に力を込める。

 腕力ではない。よくわからん不思議なパワー来いと両手に集中すると……お、なんかホンワカして──。


「ほいよ」


 何の抵抗もなく取れた。

 もっと手こずるかと思っただけに、我ながら驚きだ。

 文字まみれの赤ん坊は、空気に溶け込むように、すぐに消え去った。


「あ、あら、身体が軽く……何をしたの?」


「呪いを解いたんだと、思います。まあ、その、たぶんね」


 自分でもよくわからないから説明しようがないので各自判断してほしい。

 さあ、それより間狩と玉鎮も助けないとな。白黒は……どうでもいいけどよ!

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