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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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51・アイアンVSシルバー

 日本人女性にしては高身長ではある人物の生身の拳。


 二メートル超えの巨体を全身くまなく銀の鎧(の形状をしている守護霊)で覆っている男の拳。


 どちらに軍配が上がるかなんて勝負やる前からわかりきってるこの一戦。

 質も量も違いすぎる。

 もしこれが賭けだとしたら、賭けそのものが成立しないでお流れになってしまうレベルだ。

 前者に賭ける奴なんか誰もいない。前者の勝ちなんて、もはや大穴狙いなんて生ぬるいもんじゃない。奈落の底だ。


 本来ならば。





 右拳同士がぶつかる。

 激突音。

 人間のパンチから出たとは思えない音が、この場にいる全員の鼓膜をぶっ叩く。

 これを聞かされたらどんな寝起きの悪い者でも飛び起きるに違いない。目覚まし時計のアラームにしたら大ヒットするんじゃないかな。実際に使用したらご近所さんからの苦情が酷いことになりそうだけど。


「んぃい……!」


 不気味な鎌使いの少女が、たまらず耳を押さえた。

 抱えていた大きな鎌は……あれ?


 ない。

 なくなってる。

 ずっと持っていたはずなのに、どこにどうやって隠したものか。刃も柄も真っ黒に塗られていたあの大鎌が消え失せている。床にも置かれてない。


(手品師かな?)


 面白いことをする少女だ。

 どんなタネかわからんけど、それを解くのは……今じゃなくていい。

 後回しだな。

 あの少女が敵として挑んできてから見破ればいい。消えた鎌の謎を暴くのは、それからでも遅くないだろう。急ぐことはない。


 それよりも。

 ぶつかり合った拳が、一体どうなったかだが──


「──ほう、固いね。丈夫な式神だ」


「それはこちらのセリフだ。俺の拳に耐えきるとはな。まさか、そこの小僧同様、貴様も人間ではないのか?」


「いいや、人だよ。ただ、後天的な特別製ってだけさ」


「女の身で、よくそこまで鍛え上げたものだ」


 拳を引き、間合いを取りながら、

 『鉄人』天原さんと、

 『完全なる』オーバザイルが、互いを感心し、褒め合う。


 どちらの拳も、元のまま。

 折れたり砕けたり形が歪んだりもしていなければ血も流れておらず、痛がってもいない。


 はい。双方ノーダメでした。


(今のはどちらも、様子見って感じの一発じゃなかったのにな……)


 これには俺も少しびっくりした。

 どちらのパンチも、全力ではないにしろ、かなりやる気の一発だったはずだ。

 しかし相殺された。

 これでもう、天原さんもオーバザイルも、体感でわかっただろう。

 目の前にいるのはただの雑魚敵ではなく、自分のことを仕留めるだけの力量がある、強敵だと。


 天原さんが、背筋を立てて構える。

 丁寧に片付けていられる場合でもないと思ったのか、吸ってた葉巻も消さず、プッとそこらに吹き捨てた。

 左足を前に、右足を後ろに。

 パンチもキックもやれる構えだ。


 オーバザイルが、前傾気味に構える。

 こちらは、握った両拳を顔の高さまで上げた、殴ることを優先している構えだ。


 小手調べはこれまで。

 ここからが──様子見も加減もない、バチバチの本番となる。


「意気揚々と飛び込んできただけあるねぇ、あのグラサン女。あー、やっぱ私がやればよかったかなぁ……でもこっちを譲るのもな……」


 騎士アンジェリカが悔しげに二人を見ている。

 天原さんとやり合えなかったのが残念極まりないが、けれど俺との勝負を捨てることもできなかったと、自分を納得させるぼやきを漏らしながら。


「なんで、楽しいことってのは時間をずらさず、いくつも同時に起きるんだろ……なあ、魔物のボクちゃん、君はどう思う?」


「そううまく物事が起きるもんか」


「らしいな。良くないことは順番守ってスイスイ来るくせに、良いことになると渋滞しやがる。ムカつくぜ世の中の流れ」


 規模のでかすぎる怒りだな。

 俺がそう思ったとき、鉄と銀がぶつかり合った。


「お、始まった始まった」


「始まったのはいいけどさ、騎士のお姉さん。渡る世間のままならなさがわかったところで、そろそろこっちも始めないか? 観戦したいってんなら待ってもいいけど」


 実のところ、俺も見たいしなこの一戦。


「んー、やりたいっちゃやりたいが……あっちが気になってしまって集中できなさそうだしな、私。凄くいい感じに打ち合ってるし」


「うん、どちらも一歩も引かないって感じだ。殴るわ蹴るわ」


「どーすっかな…………」


 打撃の命中する音が絶えず響く中、

 ヤバい大剣の持ち主は思案に黙り込んでいたが、やがて、


「…………よーし、お前はこれ見終わってからにしよう! 後だ後! どうしても急ぐわけでもなし、だったらせっかくの最前席、見なきゃ損ってもんだよな!」


 そんなことになった。

 はい、俺たちの勝負、先延ばし!



 意見が一致し、俺と騎士さまが観戦モードに入る。

 だからって油断はしてない。

 あちらも大剣を背中の鞘に納めてないしな。いつでも始められる。

 俺とこの女は敵同士なんだから、和気あいあいで仲良く打撃戦を見てるってわけにはいかない。

 気を抜いてしまって隙を突かれたらみっともなさすぎる。そこはしっかりしないとな。



「ヌウゥア!」


 銀の大男が吠え、右拳を突き出す。

 既にその全身はあちこちが凹み、曲がっている。

 拳の跡が残っている。

 靴底の跡が残っている。

 中身にもダメージが届いているはずだ。痛烈な打撃を食らってのけぞったり苦しんで叫んだりすることも一度や二度ではない。


 けれど、それは天原さんも同じだ。

 被弾した回数ならオーバザイルよりも少ない。しかし、受けた打撃の重みは、天原さんのほうが深刻だ。

 口元や鼻、頭から血を流し、黒のスーツはどこもかしこも破れている。

 動きが鈍くなったりおかしくなったりしてないから、骨が折れたりとかはしてないと思うが……。


「おっと!」


 胴体を狙うオーバザイルの拳を、天原さんがバックステップで回避。

 これまでの攻防でもうだいたい見切ったらしく、余裕をもって間合いの外に出ることができた。

 オーバザイルの拳の届く範囲外。

 誰の目にも、そう見えた。


 だが。



「──とでも思ったかぁ!!」



 銀の全身鎧が、してやったりというように叫び、そして。


 その、銀の腕が。


 ロケットパンチのごとく籠手だけが飛んで、ぎゅるぎゅると猛烈に回転しながら天原さんの腹部に命中したのだった──!

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