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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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45・切り裂き妖精

「ヒッヒヒおしまいだよぉぉぉーーーーーー!!」


 女が降ってきた。

 笑いながら、一方的な終了宣言を叫びながら。


 ストレートの長い黒髪。

 顔の下半分を隠しているのは黒い布らしきもの。ほむらのようにマスクをつけてるのではない。取れないよう、頭の後ろのほうで結んでるのだろう。

 見えてる上半分だけで、なかなかの美人だとわかる。叫びのせいで台無しだが。

 身体のラインがはっきりわかる黒のタイツスーツを着て、腰にでかいスカーフみたいなものをつけている。女怪盗かな?


 武器は持ってない。

 いらない。いるわけがない。

 その手があれば武器なんか無用だ。

 爪で引き裂くのか、かっ切るのか。狙いは当然俺の首。矢印がずっと教えてくれてたから、わかってる。


 だから防ぐ。

 盾代わりに、左腕を差し出す。


 さあ、どうする……と思ったら、腕ごと首までやるつもりらしい。

 止まらない。欲張りだな。

 威力や切れ味によほど自信があるのか、叩きつけるように右手をおもいっきり──


「!!?」


「勝手に終わらせんなよ」


 落下してきた女の爪は、俺の首どころか腕すら斬ることはかなわなかった。

 激突。

 とても固いものに刃や尖ったものをぶつけた時の、金属音じみた、かん高い音が鳴った。

 しかし、それだけ。


 何かが砕けることもなく、何かが砕けた音もせず。


「へえ、大したもんだ」


 俺の腕だけでなく、女の爪もまた無事だった。

 折れも割れも砕けもしていない。

 なかなかの丈夫さだ。褒めてやってもいいだろう。喜んでくれるかはわからないが。


「けど、おしまいだな。お前がだが」


 俺がこうして囮になったことでまんまと引っ掛かった敵さんが、そのまま見過ごされるはずがない。

 逆にさっきの言葉を言い返して、にやりと笑ってやる。


「偉そうに笑ってんじゃ──!?」


 女の悪態が止まる。

 グロリア先輩の針が飛んできたからだ。

 ほら、やっぱり。


「ヒヒッ、こんなものごときでぇ!」


 女は、フリーな左腕で、飛来してきた細長いものを打ち払った。

 折れた針がぱらぱらと散らばっていく。

 いい反応だ。

 才能なのか努力によるものなのかはわからないが、ともあれ、この女は先輩の攻撃を退けることができた。

 ()()()攻撃は、ね。


「死んでも……悪く思うな!」


 走るというより跳ねるようにこちらに駆け出していた間狩。

 隙を生じぬ二段構え。

 この攻撃は、まあ、これはもうかわせないだろう。両手の爪による防御も間に合いそうにないな。体勢もよろしくない。防ぐより先に斬られてしまう。

 運が良ければ腕一本で済むか。


「ヒャッハハァ!!」


「むうっ!?」


 女の掛け声と、間狩の困惑した声。

 袈裟がけに斬り下ろす霊刀と、下から振り上げるハイキックが衝突したのだ。

 より詳しく言うなら、衝突したのは霊刀の刃と、ハイキックの先っぽ──手に生えてるのと負けず劣らずの長さと太さの爪──だ。

 女は、ほんの一瞬の間に足を異形化させ、それで間狩の一撃を防いだのである。器用な真似をするもんだね。


「足もかよ!」


 驚きの声が、間狩をのぞく四人のほうから上がった。

 ほむらの声だ。


「ヒッヒ怖い怖いぃ!」


 女は、さらに追撃されてはたまらないとばかりに背後に飛び退き、素早い動きで林の中に姿を隠した。

 野生動物──いや、それ以上の速さと身軽さで。


「……仕切り直しか」


 俺の首への、矢印の行列は消えていた。

 だが──このくらいで大人しく諦めたとは思えない。

 いったん離れて、再度俺に挑む気か、狙いを女性陣の誰かに切り替えたのか、どちらもありえる。まだまだ油断はできそうにない。


「フン、すばしっこい奴め」


「気をつけるんだな。俺の次に狙われそうなのは、おそらくお前と先輩だぞ。今のやり取りで因縁ができたからな」


「気をつけろ? ……フッ、誰にものを言っている。まさか、私が隙を見せるとでも思っているのか?」


 自信たっぷりに言う間狩。

 昨日宙ぶらりんにされた奴がよく言えたもんだなオイ。まあ俺も人のこと言えないけどさ。


「ところで先輩、今の女ってさ、誰なのかわかります? 俺は全くわかんないし、心当たりもナッシングなんだけど」


 俺と間狩のほうにグロリア先輩が寄ってきたので、訊いてみる。

 先輩の、指と指の間には、数本の針。

 いつでも、どの方向にでもすぐ投げられるように持っているのだろう。


「……該当しそうな方が、一人いますわ」


「どんな人っすか」


「フェアリッパー。イギリスの闇に暗躍していた、異能を用いる違法組織スコルピオ──その一員に、あのような手足の女性がいたとか」


(スコルピオ)ね。いかにも危険そうな名前だ」


 そんな組織あったんだ。

 ……ま、ないほうがおかしいか。こっちの国にも安愚羅会とかいろいろあるしな。

 法で裁けないような特殊な力があれば、それを悪用する奴らも自然とくっついて固まるか。


「いたってことは、抜けたんだ」


「抜けたというより、スコルピオそのものが無くなったのです。何年も前に」


「何年も前……ですか?」


 ここで間狩も話に入ってきた。

 なにか気になることでも、あったのだろうか。


「どうしたの? 間狩さん」


「いえ、欧米のとある闇組織が内紛の末に崩壊したと、数年前に分家筋から聞いたことがありますが、もしや……」


「おそらくそれですわね。スコルピオは当主の後継問題で三つに割れて、共倒れに近い形でいずれも潰れたそうですから」


 内紛って、安愚羅会もそんなことなってたな。組織内で影響力高かった眼帯おっさんがそそのかされて。


「やばい組織って、まとまりないんですね」


「真っ当ではない組織というのは、往々にして不安定なものですわ。しかもそれが、己の力に酔いやすい異能持ちで構成されてるとなれば尚更……」


「反発や暴発も起きやすいと」


「ええ、その通り」


 モラルが薄いうえに力に溺れてる奴らが集まれば、おのずと不発弾の貯蔵庫になるのも仕方ないか。


「それであの女は無職になって、何年もフラフラしてたところを俺退治に誘われたと」


「イギリス国内の正規組織によって、スコルピオの残党は残らず刈り取られたという話でしたが……彼女は難を逃れたのですね」


「よりによって一番ヤバそうなの取り逃がすって……」


 しっかり刈り尽くしてくれよ。どぎついのが残ってるじゃんか。どこ見て刈ったんだよどこ見て。

 使えねえ正規組織だぜ、まったく。


「いや、逃れたのではなく追っ手を全てなぎ払ったのかもしれないぞ。あの手強さならあり得る話だ」


 うんうん、と間狩が『わかった感』を出して何度も細かく頷く。

 一人で勝手に納得しているようだ。

 要するに、強い自分の一太刀を防いだのだから、アイツもまた強いと。回りくどい自画自賛だな。


「あんなのまで引き入れるとか、どんだけ俺を殺したいんだか」


「それだけ高く評価されてるってことだよ、天外くん」


 大人の女性の声。

 天原さんだ。

 ギャル二人を引き連れ、天原さんが歩いてきた。

 堂々と、葉巻までくゆらせながら。


 いつでも迎撃できるよう、互いの死角をカバーするように周りを見ている後ろの二人と違い、天原さんはこちらしか見ていない。

 しかし、隙は無い。

 どこから攻めても対応されそうな、そんな気にさせる立ち振舞い。

 さっきの女が懲りずに近くで息を潜め、また降りかかろうとしていても、この人だけは狙わないだろう。


「そう言われても、あまり嬉しくないですよ。低評価のほうがありがたかった」


 苦笑いしながらそう返す。

 すると天原さんは、


「情けないこと言うんじゃないよ。男の子だろう?」


 俺の胸に拳を当て、ノックするように数回叩くと、歯で葉巻を挟んだまま、力強く頼りがいのある笑いを見せてくれたのだった。

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