19・最深部
「やったぜ♪」
「やったぜ、じゃないわよ全く。馬鹿げた破壊力ね……」
病院の玄関ロビーには肉片が散乱している。生焼けハンバーグが大爆発したような状況だ。
俺を押し潰す気かってくらい化け物が群がって来たので、真面目に一匹一匹倒すのもめんどいから詳細不明砲の両手撃ちでまとめて消し飛ばしてやったのだ。
「やはり範囲攻撃は正義」
「どんな正義だよそれ」
玉鎮が理解できなさそうにしていた。まあお前じゃわからないか、このレベルの正義は。
「何はともあれ、片付いたのだから先へ、いえ、下へ参りましょう」
グロリア先輩が率先して地下に向かおうとする。使命感凄いな。
「エレベーターで行けたらいいんだが、そりゃ無理だよな」
「玉鎮、お前はすぐそうやって横着しようとする。悪い癖だ」
「あのなぁ氷雨ちゃん、やらなくていい苦労はただの徒労なんだぜ?」
「ただの屁理屈だな」
「真理だぜ」
「ふむ、一理ありますね」
「ほら見ろ、グロ先輩もそう言ってんだろ。二対一だぞオイ」
「その略し方やめなさい」
……和気あいあいってこういうことを言うのかな。ただの揚げ足取りバトルロイヤルに見えないこともないが……まあいい。
はよ下に潜ろう。
「ゲッ」
「あっ、風船メスガキ」
地下へと続く階段の前で、頭の上部分が黒くなってる金髪シャギーボブの俺っ娘に鉢合わせた。
「誰が風船メスガキだよ誰が! 風船屋だっつーの!」
ネコ系プリン頭女子、怒りの抗議。
ぼそっと小声で、間狩が「よく言った」と褒めてくれたのがかすかに聞こえた。
「クソみてえな呼び方しやがって…………まあ、それより、ここに戻ってきたってことは、そういうことだよな。あんたらも下にいる何かが目当てかよ。ケッ、耳が早いねぇ」
あのバブルガムなんちゃらって色とりどりの式神を周りにふわふわ漂わせながら、プリンネコがおどけたように舌を出す。
こちらはこちらで戦ってたらしく、辺りには化け物だったもののパーツが散らばっている。
「あんたらもってことは、お前もか。……ああ、わかった。そういうことね。ここの奥深くにいるらしいヤバイのを、スカウトしに来たと」
「安愚羅会のほうでも、地下施設の情報を掴んだようね。一人だけとは腑に落ちないけど……さては、あなたの独断ね?」
「キヒヒ」
根ノ宮さんの問いにプリンネコが笑いを返す。答えはないがその笑いが肯定みたいなものだろう。
「下にいんのが、そこのアンちゃんみたいに話が通じるならいいんだがよ、キッヒヒヒヒッ。んじゃお先!」
唐突に地下へと駆け降りていく。
止める間もなくその姿は見えなくなった。まだ化け物がいっぱいかもしれないのに、無茶しやがるぜ。
それも、強さに裏打ちされた無茶なんだろうがな。
「ほっといていいのかね」
「助ける義理も必要もない」
間狩が一言で切って捨てた。
少し経つと爆発音がしてきた。下で一戦交えてるようだ。
「おー、やってるやってる」
「逆に好都合ね。あの娘が注意を集めてるうちに最深部へ行きましょう」
「行くのはいいですが根ノ宮さん、ルートは?」
当然の疑問を間狩が口にする。
「ここに入ってるわ」
聞かれた根ノ宮さんが自分のこめかみを指でトントンした。
知恵さんから施設のマップについてある程度は教えられたらしい。
「その地図も当初のものだから、それから内部が改築されてるかもしれないけど、そこは私の力で見極めるわ」
「ソナーみたいな能力でもあるんすか」
俺がそう言うと、根ノ宮さんは唇に人差し指を当て、「企業秘密よ」と色っぽく返してきた。これ以上は聞くなのサインである。
しつこく聞いて険悪になるのも俺には何のプラスにもならないし、なので素直にやめとこう。
「……ほとんど出会わずにすんなりこれたな」
「流石は根ノ宮さんですわね」
「一家に一台、ってか?」
三姫の言うように、いかにも戦時中という風情の地下施設をひたすら下へと進んだが、化け物とはほとんど遭遇しなかった。
皆無ではなく、ほとんどというのは、二回ほどバトったからである。
「俺の出る幕なかったな」
うっぷんを晴らすかのように三姫が化け物どもを秒殺したのを見てるだけだった。
遠くからは『バーン!』だの『ドカーン!』だの不定期に聞こえてくる。あちらは連戦らしい。
こっちはというと、一際大きな部屋への入口らしき両開きの大扉前にまで来ていた。
内部地形を知る探検者とさっぱり知らない探検者で、はっきりと明暗が分かれた形になった。一人で来ないで仲間待ちすりゃ良かっただろうが後の祭りだ。
さて。思考を切り替えよう。プリンネコのことはもういい。
この中にどんな大物が待ち構えているのか、今はそれだけを考えるべきだ。
「開けるぜ」
玉鎮がハンマーの一打をぶちかまし、大扉を吹っ飛ばすように開けた。斬新なドアの開け方であった。




