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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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16・それでも俺は喰ってない

 腐らせるのが駄目なら武器で仕留めよう。


 そんな意図があちらさんにあるならば、明確な殺意が無いとおかしいのだが……しかし、こいつら下っ端戦闘員からも、どこからも、矢印の行列が伸びていない。

 変だ。明らかに変だ。


 ……もしや。


 たまたま、ここで腐り果てた人間たちから孵化した蠅がこんなにたくましく育って武器の使い方もマスターしたと。

 昆虫なんてのは反射で生きてるようなものだから、殺意や敵意や悪意なんかないと。

 自分らの巣に生き物が飛び込んできたら、エサにするために、武器持って捕まえに行くと。

 ミュータント・ファイター・フライズの爆誕だ。


 ……なんて、そんなバカなことがあるわきゃない。


 なら、こいつらは何なのか。

 どういう理屈で現れたのか。


(…………いいや。考えるのは後だ)


 今はまず、この蠅どもを叩きのめそう。

 矢印が出てないことについて思案するのはそれからでいい。どうせ、そんな致命的なことじゃないからな。

 出てようが出てなかろうが、やることはいつも通りだ。


 怪異は打ち倒す。

 呪いは引っこ抜く。

 それだけだ。



 ある程度距離を詰めたところで、蠅戦士(こんな雑魚に気の効いた名前をつけるまでもない)どもは、一斉に飛びかかってきた。

 連携などなく、ただ同時に襲ってきただけだ。

 やはり矢印は見えない。


「喰らえ──『烈火青(れっかせい)』」


 加狩が、片腕を振るう。

 軽く振っただけにしか見えない。事実そうだろうと思う。

 なのに、その腕にしがみついていた無数のブルーカブトムシが──猛烈なスピードで、加狩のほうに向かった蠅戦士に飛んでいった!


 同時に鳴り響く重い炸裂音。

 避ける間もなくまともにくらった蠅戦士の身体に、握り拳ほどの穴がいくつも空いていく。

 しかも勢いは止まらない。

 ブルーカブトムシの群れは一匹目の体を貫通すると、そのまま背後にいた二匹目まで楽々と穴だらけにしていた。


 あの威力。かなりのものだ。

 あれじゃ物陰に隠れるとかしても意味ないな。



「ヒヒ、やるじゃねえの、加狩の姉ちゃん!」


 笑う風船屋。

 床に降り立ち、また式神をガムみたいにクチャクチャ噛んでいる。

 その小柄で生意気な姿に、鉄槌や斧による死がみるみるうちに迫っていく。

 どう防ぐ?


「んー、それなりに素早さはあるけどよ……」


 プーッと式神ガムを膨らませ、のんきに棒立ちしている風船屋の前にフワフワモコモコの式神が割って入り、立ち塞がった。

 だからといって蠅どもが止まるはずもない。

 ためらいなど一切なく、邪魔するものは全て蹴散らさんとばかりに、ハンマーを、斧を、槍を──



「──BOMB」



 パン、と、

 風船屋が膨らませていた式神ガムが軽快にはじけ、

 同じ音を立てて破裂した式神によって──蠅戦士どもの得物が破壊された。


 ハンマーの先端にして象徴といえる鉄の塊が、破片を散らして吹き飛んでいく。斧や槍も同様だ。

 風船屋は、ただ立っている。


 さらに、複数のフワモコが壊れた武器の持ち主たちにまとわりつくと、


パパパパパァンッ!


 楽しい祝い事のときみたいに軽快な破裂音がいくつも重なり、爆発でメチャクチャになった蠅戦士の残骸が、何匹分も床に撒き散らされた。


「ダメダメだね。俺を仕留めるにゃトロすぎんぜ」


 攻防一体。

 やはりこいつの式神はスキがない。

 風船屋本人に攻撃さえ届けば勝てるだろうが、そんなことくらい本人だって百も承知のはずだ。どうせ奥の手のひとつやふたつあるに決まってる。



「いや、それにしてもえげつないねぇ、お前ら。大惨事だ」


 普段はおちゃらけているのに、いざ戦闘となるとこれだからな。


「戦ってる間は容赦って言葉が頭から抜けてんのか? こんな程度の奴らが相手なら、少しはスマートにやれよ」


 殺し合いなんだから仕方ないのはわかるが……にしても、もっとこう、見映えを考えた倒し方もあるだろうに。

 そう内心で思いながら、蠅戦士を三体ほどまとめて絡めとっていた触手を、ぎゅっと握り込む。


ぐぐぐ…………ぐちゃああっ!!


 潰し殺した次の瞬間、何本もの触手が絡みついている隙間から、濁った青い体液が吹き出てきた。


「うわ、しくった」


 俺の触手が蠅汁まみれになっちまったよ。

 ……そりゃ、潰したらそうなるに決まってるよな……。


 これは手痛いうっかりだ。

 なんでそんなことに気づかなかったんだ俺のバカ。

 タオルどっかにないか?

 仮にも医療施設の類いなんだから、一枚や二枚あってもいいだろうに。くそ。

 何も考えてないみたいに飛び込んできたから、触手伸ばして楽にまとめて縛れたのが逆にまずかった。その流れで、こんなことなど造作もないとばかりに、カッコつけて握り潰したせいで……。


「あーあ、余裕ぶっこいて一気に始末なんかやんないで、一匹ずつ叩きのめせばよかった…………ん? どしたの二人とも?」



「「お前が言うな」」



 二人のツッコミがきれいなハーモニーを奏でた。

 何も言い返せなかった。



「……案外大したことなかったな」


 蠅戦士の一団はあっさり全滅した。

 奇怪な術を使ってきたり、炎とか酸とかを口から吐いたりしてくるといったこともなく、ただ武器で襲いかかってきただけだった。そんなのに負けるわけがない。

 それでも普通の人間よりはずっとタフで力もあったが。


「見た目はまあまあインパクトあったがよ、それだけだね。こんな程度なら、下のバカもとっくに全員轢き潰してんだろーな」


 関係は良好ではないが、実力だけは認めているのだろう。風船屋の言葉には信頼めいたものが感じられた。

 そんな中、


「…………まずい」


 加狩の顔色が変わった。


「なんだ? 忘れ物でもしたか?」


「ああ」


「冗談のつもりだったんだが……今から自宅にUターンでもするってか?」


「そうじゃない」


「じゃあ何だってんだい? 加狩の姉ちゃんよぉ」


 じれったそうに風船屋が言う。

 気持ちはわかる。確かに俺もちょっとじれてきた。


「一階はきっと、そのノンストップとかいう異常な乗り物に蹂躙(じゅうりん)されてるんだよな?」


「だから何度も言ってんだろ。あんなもん止められねーよ。バリケード置いといたって無駄だぜ。独壇場さ独壇場」


「だったら、クラウスの兄さんの遺体と聖剣も……メチャメチャに潰されて、もう床のシミに……」


 加狩が黙り込む。

 俺も黙り込む。

 風船屋はわざとらしく口に手をあてて「あらまぁ」と言った。



 嫌な沈黙が、二階を支配した。



 死体はおろか、よりによって聖剣まで跡形もなくなったとなれば確かにマズイ。

 俺たちがクラウスさんを殺して聖剣を頂いたとか、そんな風に思われても……おかしくはない。

 なにせ、俺はシスター二人組から一度聖剣と聖槍を奪って逃走した過去があるのだ。まさかそれがここで効いてくるとは。


 包み隠さず言ったところで、信じてもらえる可能性は宝くじの一等賞より低いだろう。

 遺体や遺品の代わりにシミがある部分の床を切り抜いて「これ、クラウスさんと聖剣です」って送りつけたら余計にブチ切れられそうだ。


「これまずくね? どうあがいても絶対に間違いなく邪推される流れだろ」


「……そうなるね。その場合、槍玉にあげられるのは……」


「わかってるよ。俺だろ? 俺がクラウスさんを食い殺して聖剣を奪ってバキバキにへし折って不燃ゴミの日に出したとか、そう思われるかもしれないってんだろ? 最悪だよ」


 なんもしてないのに状況が俺を追い詰めようとしてくる。どうなってんの? 俺が悪いのこれ?

ユート「殺してでも、うばいとる」

クラウス「な、なにをする、きさまらー」

(流れる悲壮なBGM)

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 あの聖剣、アイスソードだったのか…(違
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