14・十億の在処
結局クラウスさんはそのまま、うっちゃられた。
我ながらひどい事をしている気もするが、あんなにあっさり死ぬほうにも責任の一端はあるのではないかと強く思う。
降り注いできたのがヤバい呪いだったのは確かだよ。
そこは認める。
でも女の子二人が造作もなく凌いでたのに、いかにも『剣一本あればそれで十分』なんて風体しといて、振り向いたら腐ってましたってのは情けなくないか?
念仏唱えてやる気にもならんぞ。
そこそこ腕のたちそうな昼行灯が実はかなりの強キャラだった──ではなく、未知数が未知数のまま死んだというのが率直な感想だ。実力がどのくらいあったのか、まるでわからないままこの世から退場しちゃった。
ローブ姿の謎のキャラがそのまま中身を見せずに舞台ギミックでお亡くなりになったようなものである。打ち切りエンドかよ。
と、まあ。
残念な聖剣使いの人生は惜しまれつつもここで打ち切られはしたが、俺や加狩や風船屋の人生は(俺の場合は人外生だが)まだ終わりそうにない。
さっさと十億見つけてこんなヤバい場所からおさらばしよう。
生き腐れの呪いの元凶?
知ったことか。
税金のかからない四億をポッケに入れて悠々自適の生活を目指すんだよ。スローライフってやつだスローライフ。好きなときに寝て好きなときに起きるんだ。
たまに暇潰し感覚で退魔師としての仕事やったりするけど、基本は働いたら負けってスタンスでゆるく生きていくのさ。
「──ところでよ」
加狩、風船屋、俺。
この順番で療養所内部を探索していて、ふと、大事なことを今思い出した。
「んー?」
階段を上がり、二階の廊下を歩いている最中に最後尾から話しかける。
四人パーティから三人パーティになったから、俺が最後尾なのだ。
風船屋が振り向く。
何かあったのかと、二人の足が止まった。
「どうした、化け物くん。フフ……まさか、ここまで来といて、怖じ気づいたってこたぁないよな?」
耳に染み込むような気だるい声で、加狩が挑発的に問いかけてきた。
「とぼけたこと言うもんだな良家のお嬢さんは。俺みたいなのが、こんなことくらいでビビるかよ」
「んじゃ何よ」
「いや、お前ら、どこに十億あるのか少しはわかってんのかなーって。念のため、確認をな」
「いや全然」
「俺も」
「…………ウッソだろお前ら」
そんなアホな。
どっちも知らないとかそりゃないぜ。
二人ともではなくとも、どちらか一人はわかってるだろうと思ってただけに、これにはびっくりだ。
「きっとあそこじゃないかなみたいな、当たりをつけてる場所もないのか?」
首を横に振る二人。
それすらもないんかい。
「待て待て。だったら加狩、お前どこに向かおうとしてたんだ今。迷いなく二階の階段上ったろ」
「いや、とりあえず、上の階の奥から調べていこうかと……」
「とりあえずって……」
そんな悠長なことやれる場所じゃないぞここ。
俺はまだまだ大丈夫だがお前らいいのか? 余裕あるのか?
「……だってよ、別にさ、ややこしい変な隠し方なんてしねぇだろ。一時的に潜んでるだけで、こんなとこを終の棲家にしたいわきゃなかっただろうし。いつ警察が嗅ぎ付けてきてもすぐ持ち逃げできるよう……奥のほうの部屋の、ベッドの下とか棚の裏とかに、雑に隠してんじゃないか……なんて思うわけよ。で、警察以外にも、怖いもの知らずの暇人どもが肝試しにお邪魔してくるかもしれないのに、その気になれば、窓からだって入れる一階なんかに……十億は置かないだろ」
そこまで一気に言うと、加狩は、深く一呼吸した。
「だから二階から見て回ると。理屈としては正しいように聞こえるな。聞こえるが……だとしてもだ。何もわかってないのと大差ないぞ」
「……地道に、一部屋一部屋、しらみ潰しにやるしかないねぇ」
「手探りすぎる……。だいたい、もしそいつが几帳面で心配性な奴だったら、絶対わからないように巧妙に隠してる可能性だってあるんじゃないか?」
「るっせーなぁ……次から次へとごちゃごちゃ抜かすなよ。男のくせに」
「また古い価値観だな。今は女が戦地に飛び込んで男が無事を祈ったりする時代だぜ?」
「いや、そこまで極端なことにはなってねーだろ」
「お前らまさにやってんじゃん。男そっちのけで」
間狩たち三姫だってトリオで動いてるしな。最近はそこに俺も混ざりだしたが。
もし学校の生徒に知られたら裁判もやらずに即はりつけにされそうだ。
「キヒヒ、言えてる」
「そりゃまあ、それはそうだけど……」
「だろ?」
「……ンなこたぁ、どうでもいいんだよ。どのみち、ここで駄弁っててもラチが明かねーよ。相談したって、お宝の在処がわかるわけじゃないだろ……? わかったなら、先に進むぞ先に」
「そうするしかないか……はぁ」
「ため息なんぞつくなよ。もっとやる気出せって。十億ちゃんが、私らに見つけてもらうのを、今か今かと待って……………………ん?」
加狩が何かに気づき、言葉を止めた。
何か、音がする。
揺れも、かすかにあるな。
これは……外からか?
こういう時にソナーが効いてくれたらいいのに……この中だとまともに聞き取ることができないから、実に間が悪い。
「この音…………まさか!」
何かを察したのか。
風船屋が、音の聞こえてくる方向にある窓に素早く近づく。
窓の前に垂れ下がっているボロボロのカーテンを、邪魔だとばかりに乱暴に引きちぎって、外に目をやった。
「……来やがったのか、あの野郎。いったい誰が口を滑らせやがったんだ」
低い声で、唸るようにそう言った風船屋の目線の先にあったものの正体は──
頑丈な装甲に覆われた、大型のブルドーザーだった。
「……うわ、なんだありゃ」
加狩が唖然としている。
無理はない。
戦車の主砲食らっても平気そうな見た目のブルドーザーが、砂煙あげてこっちに来るんだもの。
「『ノンストップ』」
風船屋が、たった一言つぶやいた。
「ノンストップ? あれのことか?」
「そーだよ、天外の兄さん。地響き鳴らしてこっちに向かって来てる、あのバカげた鉄の塊が……更地崎って奴の式神だ」
「仲間か?」
「仲間っちゃ仲間だ。俺は好きじゃないがね。ウマが合わなくてさ。とにかく暴れ方に品がねぇ」
あの様子じゃそうだろうな。
「お前にそう言われるって、よほどだな。ところで、あれは止まりそうにないように見えるんだが」
「ただ縦横無尽に走って激突するしかやらねぇからな。面白みもなんもねぇ。こないだのお家騒動の時にウチから抜けてくれりゃよかったのに──ああ、こりゃ止まらんな」
「のんきに言ってる場合じゃないだろ。突っ込んでくるぞ……!」
さすがに焦っている加狩がそう言った通り、化け物みたいなブルドーザーは、この療養所へと速度を特に落とすことなく接近して──
爆撃でもされたのかという轟音と、激しい衝撃。
この療養所に、まさしく本当の意味で、激震が走ったのだった──




