11・苦労人クラウス
「着いたな」
加狩が乗ってる車に先導されるような形で、俺たちの乗ってる車がその後ろを走り、
道の駅から廃村まで、
特に、何の問題もなく到着することができた。
語るべきことなんも無し。
「何かあったらあったで面白かっただろうけどねぇ。キヒヒヒ」
「お前はむしろやる方だろ」
一度やられたからな。
経験者は語るというやつだ。
「いやぁ、何のことだかさっぱり」
あさっての方向を見ながら、変顔して、しらばっくれる風船屋。
もう機嫌取っても分け前は増えそうにないと諦めたのか、全く下手に出なくなった。本性剥き出しである。
「やっぱ加害者ってのは、やったことをすぐ忘れるのか……」
「いーじゃんそんなこと。いつまでも過去に捕らわれてたってよぉ、なーんも良いことないぜ? 前を向いて生きないと」
「いい言葉だとは思うが、お前に言われると寝言にしか聞こえねえな」
「ヒヒ、こりゃ手厳しいね。たかだか爆破の一回くらいでそこまで根に持たなくてもいいだろうによ。そんなんじゃモテないぜ?」
イラッ
「分け前もっと減らされたいか?」
「ちょ、それはちょっと勘弁してくれよぉ~」
「ハハハ、どうしたものかなぁ」
腕にしがみついてくる風船屋と、高らかに笑う俺。
恐ろしいほどの静けさな廃村に全くもってそぐわない、チープでのんきなやり取りだ。
「……何をクソつまんねえ漫才やってんのお前ら」
何か打ち合わせでもしていたのか。
少し離れたところで話し合っていた加狩とクラウスさんが、こっちに来た。
言うまでもなく今の言葉は加狩が発したものだ。
「このボケネコが悔い改めないからペナルティ与えようかなと」
「やめとけって。これからチームプレイするってのに揉めてどうすんだ。こんなろくでなしの言うことにいちいち腹立てんなよ……小学生かお前は」
「おいおい、揉めるなって言った奴が殴ってきたぞ」
「自分で言ってることが矛盾してんの分からないんだろ。小学生以下だな」
「あんだとコラ」
「皆さん落ち着いて、喧嘩ならこの件が終わってからにしてください。その後ならどうにでも自由にやって……」
「……んじゃ、行くか」
加狩が、ぼそりと言うと、
「ああ」
風船屋も、それに応じ、
「そうだな……」
俺も同意した。
互いの口と性格の悪さから次第に険悪なムードになってきたものの、なんとかなだめようとしてくるクラウスさんがかわいそうになってきたので、もうやめておいた。
その、みっともない振る舞いをしたという、ばつの悪さが、俺やこの二人の心にまだ残っているせいでこんなギクシャクしてるのであります。
「皆さん、仲良くやりましょう。仲良くです」
最後尾のクラウスさんが、まだ何一つ始まっていないこの時点で、少し疲れているように見えるのは、見間違いじゃないんだろうな。
悪いことしてもうた。
十億の眠る目的地、第二特別救病療養所へは、ここから十五分くらい歩いたところにあるらしい。
もっと近くに駐車したらよかったのでは……とも思ったが、霊的な力を持たない運転手さん達を巻き込むかもしれない。
運転手さん達も、この業界に関わってる以上、覚悟してはいるそうなのでそこは問題ないが……車までやられて、帰りの足がなくなったりしたら困る。
億単位の大金抱えて帰るのもなぁ。
嫌でも目立つだろ。
なので、離れた場所にある、あまり雑草の伸びてない空き地に停車してもらい、そこから向かうことにしたのだ。
私服の少年少女三人と外国人の神父さん一人が、誰もいなくなった村を歩く。
もし廃墟マニアだの心霊系配信者だのに見られたら、新たな怪談話が出来上がりそうだな。
まあ、最近はここに来る奴いないみたいだが。
かつてはいたけど、みんな腐れ死んだし、ここについての情報も、世間に広まらないように隠蔽されまくったらしいからね。
てっきり機関がやったのかと思ったが、また別の組織によるものだそうだ。
その組織は加狩家と懇意にしてるとか。
だから、詐欺事件と十億置き去りなどの情報を、このカブトムシ使いが知ることができたのだろう。
風船屋が知ったのは、多分、今から行く療養所の持ち主だった『知賢院』からの情報提供なんじゃないかな。
依頼を受け、風船屋が、あのサバゲー部隊や指揮者OL、化け物の死骸、トラック等の処分を任された一件。
うまいことやられてしまったあの一件。
それをきっかけに、風船屋か、あるいは風船屋の上司がそこの組織とパイプをつないだ……もしくは、既にその前から繋いでいたのか……。
クラウスさんの場合は……所属してる騎士団が有する独自のルートからだろうか。
あるいは、バチカンからの命令か。
俺を殺しにやってきたあの二人も、東の国でこんな悪霊の王が生まれて何ちゃら~だのほざいていたからな。根ノ宮さんみたいな、わかる奴がバチカンにいるってのは確定だ。
俺も、ゆくゆくはそうした情報収集のアテを持ったほうがいいかもしれないな。
こんなことあったよと教えてもらうだけでは、この先ずっと受け身の対応しかできない。
こちらから積極的に災いの種を見つけ、潰していきたいもんだ。
今後の情報の仕入れについて、あれこれと思考を膨らませていると、
「ここだ」
全員の足が止まり、加狩が言った。
ここだと言われるまでもなく、もう遠目からわかっていた。
いったいどんな実験が行われていたのか、何が起きて廃棄されたのか、謎に包まれた療養所が目の前にあった。
なかなか大きい。
木造百パーセントかと思ったのだが、わりとコンクリ多めの造りだ。だからか、原型もほとんど残っていて、壁や天井も崩れていない。
これなら探索中にいきなり崩落して埋もれるなんてこともなさそうだ。安心した。
外見からは……怪しい気配や不吉なものは、感じられない。
だから、霊的な力を持たない普通の連中が、何も恐れず入っていけるのだろう。怪物の大口に自分たちから飛び込んだこともわからずに……。
「……見た目は、ヤバくないな……。チッ、うまく隠し通してやがる」
金色に輝かせた左目で建物をじろじろと眺める加狩。
「そうですね。私の『守護者の剣』にも、何の反応もありません。ないです」
クラウスさんが静かに言った。
(なるほど、その剣が身を守るための対策か)
何の守りも用意してないわけないと思っていたが、剣がそうだとはね。
剣なんだから当然攻撃にも使えるだろうし、まさに攻防一体の武具だな。
「キヒヒ、だったら見てないでさっさと入ろうぜ。お外で突っ立って観賞会したってよぉ、なんも解決しねーだろ?」
からかうように風船屋が言う。
抜け目ないこいつのことだ。
ここに来る前に、とっくに式神を飲み込んでおいて、呪いなどの対策を済ませているに違いない。
「そりゃそうだ」
見てるだけでは話は進まない。
その通りだ。
「なら……とっとと、行くとするか。そこの生意気極まりないお嬢ちゃんが、焦れてギャアギャアわめかないうちによ」
「そうよぉ。あたしってば、いいとこのお嬢様なんだからぁ、ちゃんとエスコートしてくれないと駄目よぉ? わかった? 雑用係さぁん?」
また始まった。水と油すぎる……。
「と、とにかく、中に入りましょう。争いは良くありませんよ」
すっかり調停役と化したクラウスさんが二人の間に入った。
損な役どころの星のもとに生まれたのかもな、この人。
そんなこんなで、
あらかじめ合鍵を用意しておいた加狩が、正面玄関の両開き扉を封じている南京錠を開け、全員で中に入った。
最後に入ったクラウスさんが、律儀に扉をしめる。
その時だった。
玄関や待合ロビーの天井から、濃度の濃い──俺の目だと、うっすらどころかもはや泥のように見えるほどの──呪いが、激しく降り注いできたのである!




