16・その名は七星機関
「七星機関……」
物々しい名前じゃない辺りが逆にリアルだな。
どのくらい昔からあるんだろ。名前的には最近のように思えるが……。機関とかついてるしな。
「歴史とか長いんですか?」
「そうね。長いといえば長いわ。この名前で呼ばれるようになったのは戦前くらいからね」
大正とか明治とかそのへんか。
「それ以前は『降魔寮』とか『御劔衆』とか言われていたの」
強そう。
「ちなみに、御劔衆の名前の由来にもなった一族の末裔が、そこの女剣士様なんだぜ」
玉鎮から思わぬ補足が入った。
なるほどな、つまり妖怪退治のサラブレッドか。
「へー、そりゃまたずいぶんと由緒正しい家柄なことで」
「だから特別なワンコを二匹も従えてるのさ。式神・天狼をな」
「歴代の当主が一体しか使役できなかったのに、間狩さんは二体使役できたのです。才能のなせる業ですね」
さらにグロリア先輩から追加情報がきた。
「ああ、あれか……あんま強くなかったけどな」
つい口を滑らせてしまった。
間狩のほうから、獣の唸りのような音が二種類聞こえてきてるが……まあいいや。流石に襲ってこないだろ。
「あの二体を相手にして無傷とは、怖いわね」
「見たとこ武器無しぽいっスけど、よく倒せたもんっスね! そんなヌルい式神じゃないっスよ、あの狼さんらは! はーびっくりびっくり!」
「でもそんな強くなかったし」
二種類の唸り声がさらに大きくなった気がするが、襲ってこないならどうでもいいや。
ついでに間狩の視線も厳しくなってきた気がするが、これは今に始まったことではないのでそういうものだと受け入れる。
「んじゃウチが案内しまっスね! データ取りはその後よろしくお願いしますよ!」
変なお薬使ってそうなくらいマジ無駄に元気だなこの近未来バイザー姉ちゃん。
「ま、いいけどさ。人体実験とかやめてくれよ」
「わーってますよ! そんなのしないっス!」
とは言ってくれたものの、嫌な予感がひしひしとする。いまいち信用ならない。
……何やらされるんだろ。
「なんじゃこれ」
知恵さんに連れられるがままに施設の奥へ奥へと案内され、やってきたのはだだっ広い殺風景な空間だった。
とにかく広い。天井も高い。
途中でエレベーターに乗ったりもしたからまあ地下なんだろうな。
そんな空間の中で、俺の目の前には家くらいでかい灰色の人型──ゴーレム? ゴーレムってやつ? とにかくそんなのがいる。
コンクリなのかそれとも石なのか、材質はよくわからんけど、とにかく固そうだ。
今にも襲いかかってきそう……ではないけど、まあ襲ってくるよな。
これと戦えってことなんだろう。
「あー、もしもーし、用意と心の準備はいいっスかー?」
壁に嵌め込まれているらしきスピーカーから軽い声が聞こえてくる。
「その前に、このデカブツ何なんですか?」
「それはウチが作り出した傀儡っスね。人呼んで人形使いのちーちゃんとはウチのことっス」
「これは確かにそうね。ちーちゃん呼びと違って聞いたことあるわ。それでもほんの数回だけど」
根ノ宮さんの声もする。
てことはあんたもこの『データ取り』とやらに許可出したのかよ。酷いことやらせるもんだ。こんなのナイフ一本でライオン倒せってほうがまだマシだぞ。
男子高校生VSストーンゴーレムとかなんちゅう地獄マッチだよ。
「さあ、頑張って下さいな!」
……もしかして、データ取りとか建前で、本当は俺を亡き者にしたいとか、そんなことないよな……?
って訝しんでたらゴーレムが動き出した。いや傀儡だっけ。
そんなのどうでもいい。こいつを素手でどうにかしないとミンチにされかねない。
俺の頑丈さにも限界あるだろうからな。叩かれるのはまだいいとしても潰されるのは避けたいぞ。
「どこまでやれるかわからんが、やってみるか」
「その意気っスよ!」
ゴーレムが拳を振り上げ、俺を殴りつけようとしてくる。
自分の力を試してみたくて、俺はそのでかい拳に自分の拳をぶつけてみた。
右拳をぎゅっと握り、力を込める。あのわけわからない透明な力を溜めるイメージをする。手の内に宿すイメージ。
なんかいい感じに力がみなぎるのを感じながら、前に踏み込んで右拳を突き出し──
バゴォォオオン!!
ゴーレムの右拳が──いやそれどころか腕だけにとどまらず肩まで砕けた!?
「うわ簡単に壊れた!」
一方、俺の拳は…………うん、無事だ。
痛くもない。骨が折れたり指が潰れたりもせず、強い衝撃を感じたくらいか。手応えってやつなのかな?
「なんだろ、理屈はわからんけど強えぇ……」
わけがわからないが凄い技がまた増えた。
この拳を、そうだな──よし。
俺はこの技を『原因不明拳』と呼ぶことに決めた。
『詳細不明砲』もそうだが、いつか理屈がわかったら改名しよう。それまでは、頭をすげ替えて回復する某ヒーローの攻撃みたいな技名でいいや。
「ウソ!? 真っ向から迎撃しちゃったっスよ!」
「とんでもない馬鹿力ね。玉鎮さんの渾身の一撃と大差ないわ」
「あー、あの子もあのハンマーで思いっきりやると、アホみたいな威力を弾き出すっスよねー」
馬鹿力って。
もっとましな言い方ないのかよ。それとさ、なんか玉鎮の奴に流れ弾当たってねえか。
「……やべっ」
つい考え事に夢中になってたせいで、ゴーレムの前蹴りが飛んできたのを避けられなかった。
いや、ギリ回避できたけど止めたんだ。
今繰り出した拳の威力に後押しされて、この重く固い蹴りを耐えられる自信が湧いてきたからさ。
「うおっ、重……!」
腰を落とし、両腕を✕の字にクロスさせて防御。
トラックがぶつかってきたかと勘違いするくらいの衝撃が来た。嫌な体験だったな……。
「……あれ、意外と大丈夫だな」
あの時みたいに軽々と吹き飛ばされて走馬灯が再放送されるかと焦ったが、普通に耐えた。
最低でも、防御姿勢のままズズズと後ずさりさせられて、急ブレーキかけた車のタイヤ痕みたいな線を床に残したりするかと思ったんだけど、俺の五体はびくともしなかった。
それどころか、反動でゴーレムがよろめき、尻餅をついている。
しかもその足裏には✕字型のヘコみが残されていた。俺の腕の跡だ。
「うわ…………ち、ちょっとこれ、引くくらいヤバいっスよ」
「同感ね。ここまで頑強だと恐ろしいものがあるわ。とんだ怪物を引き入れてしまったわね」
「ガチの化け物っスね!」
怪物言うな。それと楽しそうに言うな。
……で、この後どうなったかと言うと。
両手に力をみなぎらせて乱打したら、ゴーレムが粉微塵に砕け散り、俺は知恵さんと根ノ宮さんをさらにドン引きさせましたとさ。完。




