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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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5・ダウナー美少女の誘い

 驚いた。

 こいつが来るとは。いや、これは驚いた。


 俺とこのダウナー女──加狩霧香との間には、友好度も好感度もゼロに等しい。

 俺からしたらクラスメートの親戚に過ぎないし、この女からしたら単なる親戚のクラスメートだ。会話だって間狩の実家で少ししか交わしていない。

 互いのことなんか全く知らん。


 そんなスカスカの薄い関係でありながら、なぜ、このキツいツリ目の気だるげな女が、わざわざ来たのか。

 ……警戒すべきだな。


「隣……いいか?」


「え?」


 俺が答えるよりも先に、

 どかっと、ベンチに大きめの尻を降ろしてきた。

 いい尻だな。

 食いでがなかなかありそうだ。


 そこは気に入った。


「まだ何も言ってないんだけど」


「あー、いちいち気にすんなって。どうせ断わる気なんかなかったろ? それによぉ……私は始めっから座るつもりだったからな。なら、返事待たなくても、どのみち同じじゃん。一応、聞いてやったけど」


 加狩は反り返って顔を天空に向け、背もたれに両腕を乗せていた。

 全力でベンチに身体を預けている。

 敵意はないが遠慮もない、か。これはめんどくせえぞ。


「無作法な女だな。よくもぬけぬけと。横になって寝てりゃ良かったぜ」


「それはダメダメ。全然良くないぞ、それ。そんときゃ、その平凡ヅラがケツの下敷きになってたとこだ」


「怖いこと言うなよ。顔がひしゃげるのは勘弁してくれ」


 俺の顔はこれ一個しかこの世にないんだからな。替えはないんだぞ。


「ふふ、案外、そのほうが色男になったかもしれねーぜ?」


 なんともまあ、口の減らない女だなコイツは。

 口から先に生まれてきたのか?


「そんな美容整形お断りだよ。──で、ご用件は?」


 すっかり話の主導権を握られているので、強引に本題に移らせて、一旦リセットする。

 このままこいつのペースに乗せられて会話するのはまずい気がしてきたからだ。

 それに、俺ってそんなにペラペラと口が回らないからな。


「つれない男だね」


 加狩霧香が、笑った。

 さて、どうやって困らせてやろうかと、そんな意地の悪さを含んだ笑いに見える。


「いろんな女と仲良くしてる割には……女のあしらいに慣れてない感があるぜ」


「当然だろ。別に俺は何もしちゃいない。勝手に女のほうから俺を囲ってくるんだ」


「ふはっ、言うねえ~。世のモテない男に聞かれたらミサイル撃ち込まれそうなことを真顔で抜かしてやがる。いや凄いねお前」


「本当のことだからしゃーない」


 だけどな、その女の大半が俺に敵意や殺意持ってるんだぞ。

 酒池肉林じゃなくて四面楚歌だ。そんなのうらやむ奴なんているか?


「女にそこまで執着もないしな。断っておくが、男が好きってことじゃないぞ」


 ノンケだからな一応。


 グロリア先輩のあの清純お嬢様ぶりがいいなと思うこともあり、

 ミスショットのおっぱいがいいなと思うこともあり、

 ナユタの妖しげな美貌がいいなと思うこともあり、


 そういうことだ。


「わーったわーった。それはいい。お前の性癖なんかなんだっていいよ。人それぞれだ。私が知りたいのは……そだな、お前の他の欲についてだよ」


 そこで言葉を区切ると、


「……金銭欲はどうだ? まさか、金にも興味ないってことはないだろ? 世捨て人じゃあるまいしよぉ……」


「金が欲しいかどうかってことなら、そりゃ人並みにあるさ。金がないと何もできない娑婆に生きてんだから」


 現代日本に住んでてお金いらんって人間いたらすげーよ。

 いるとしたら、たまにテレビ番組で紹介とかインタビューとかされてる、山奥や無人島で暮らす仙人みたいな人だな。

 それくらいしか思いつかない。

 俺は仙人ではなく人外だが、高校生として生きてるから金は必要だし欲しい。


「なら話は早い」


 加狩はさっきベンチに座ったばかりだというのに、もう立ち上がった。

 何のために座ったんだお前。


 腰に左右から両手を当て、ゆっくりと、もったいぶりながら、加狩は俺の真正面に来ると、



「埋蔵金……私と探さないか?」



 試すような、挑戦的な目。

 加狩は、俺をじっと見下ろしてきた。

 こいつは立ってるけど俺はまだベンチに座ってるからな。

 目線の高さが合わないからこうなる。


 にしても、埋蔵金ときたか。


「埋蔵金」


「そ、埋蔵金」


「……そうか。それはまた、スケールがでかいね」


「乗り気になったか?」


「いやいや、せっかくの儲け話に誘ってもらって悪いが、辞退させてもらうよ。俺には難しい。手に余る。モグラの妖怪にでも頼むんだな」


「いや……勘違いすんなや。その埋蔵金じゃねーっつうの」


「ならどの埋蔵金だよ。お前さ、埋蔵金の意味わかってんのか? 埋まったり、埋められたりしてるから、埋蔵金なんだぞ?」


「それはそうだけどよ、そうじゃないんだよ……」


「んん?」


「いいかいユート君、耳の穴かっぽじってよーく聞きたまえ。キミが言ってるのは、正しい意味での埋蔵金。一方、私が言ってるのはぁ……ズバリ、たとえとしての意味。隠された大金に対してのたとえだ。わかるかな~~?」


「そーゆーことか」


「うん。そーゆーこと」


「だったら尚更辞退しとくわ。絶対まともじゃない金だろそれ。ヤクザとか、政治家とか、金持ちとかの裏金だろ。関わりたくないよ」


「はー……化け物が、んなもんにビビんなよ。つまんねーこと抜かすなや。萎えちまうぜ」


「ビビるビビらないの問題じゃないんだよ。そんなのともし揉めたら、どれだけ面倒なことになるのかもわかんないのかお前」


 叩き潰すのはいいが、後始末が大変なんだぞ。

 下手したら、敵に回した連中を後腐れないよう皆殺しにしなきゃならないかもしれないんだからな。


「それがねぇ、そうでもなくてよ」


 くるりと反転すると、


「……何がいい?」


「はぁ?」


「鈍いねぇ。ジュースだよジュース。何が飲みたいのかって、聞いてんだよ」


 いや鈍いって言われても。

 わかるかそんなん。


「ん、あぁ、そうだな。じゃあ……」


「……コーラでいいな。お前、そういう顔してるもん」


 またしても。


 俺の返事を待たず、加狩はすたすたと自販機のほうに向かって歩いていった。


 さっきのベンチの件もそうだが、こいつ、ダルそうにしてるくせに、性根がせっかちすぎる。

 なまけるのが好きだが待たされるのは嫌いらしい。 

 あとコーラを飲みたそうな顔ってなんなんだよ。初めて言われたわそんなこと。


「──しかし、またおかしな話を持ってきやがったもんだ」


 ベンチから離れたところにある自販機。

 そこで飲み物を購入している加狩を眺めながら、さっきの話を振り返る。


 埋蔵金。

 おおやけにはされない大金。


「こいつの性格にはお似合いではあるな」


 せっかちだがダラけてる。

 短い期間でガッと一気に稼いで、それ以外の時期は無気力にゴロゴロする。刹那的な一攫千金タイプだ。

 ベーリング海のカニ漁師とか天職なんじゃないかな。


「ま、暇だし、聞くだけ聞いてから改めて断ってやろ♪」


 なんて底意地の悪いことを考えていると、左右の手にペットボトルをぶら下げながら、加狩が戻ってきた。


 さて、どんな話が聞けるやら。

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