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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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2・忍び込むふたり

「さて、どうやって侵入しようか……」


 放課後の廊下。

 目の前にあるのは、美術室の出入口。

 窓から入ってくる日の光は明るい。

 この時間帯に夕日が差し込むような時期じゃないからな。まだ九月が始まったばかりだ。


 噂のターゲットがいる(かもしれない)のは、美術室の奥だ。

 入るのはたやすい。別に固く封鎖されてるわけでも寝ずの番人が置かれてるわけでもないからな。保管庫代わりに使われてる、それだけの部屋だから。

 ただ、その部屋はいいとして、美術室の戸には鍵がかけられている。

 だからそこを開けないと入れない。

 壊すなど、もっての他だ。バレたら停学食らう。


 美術部に見学に来たという建前で入ろうとしたのだが、どうも今日の活動はお休みらしい。困ったな。

 帰るか。


「へへ、俺に任せてくれよ」


 自信ありげに奥田が言う。

 好奇心を刺激されて単独で動こうとしていた俺を、放課後になった直後に捕まえて無理やりここまで引っ張ってきたのだ。


「ほら、コレ♪」


 奥田が、ポケットから銀色の金具のようなものを取り出し、ブラブラ揺らして見せつけてくる。

 鍵だった。

 その鍵の、紐で繋がれたもう一方には、プラスチックのタグのようなものがついている。

 「それ、どこの鍵だ?」なんて質問したりはしない。この場で出すのだから、どこの鍵かなんて決まってる。訊く必要なんかない。訊いたらアホである。


 謎なのは、なんでこのオカルト中毒がここの鍵を持ってるのか。そこが疑問だ。


「……よし、と。開いた開いた」


 鍵をまたポケットにしまい込み、美術室の戸を開けると、奥田はこそ泥みたいに背を丸めながら中へと入っていく。


 ……どんなやり方でその鍵を手に入れたのか、ちょっと知りたい気持ちはあるが……ここは抑えておこう。

 訊いたら、違法行為の一蓮托生になりそうな予感がしたのだ。

 知らなければ、この件が学校側にバレたとき「自分は何も知りませんでした」とギリ言い訳できそうなそんな感じがして、入手経路についての詳しい話を訊くのは止めておくことにした。

 それが吉と出るか凶と出るか。


「なにボサッとしてんだ? 誰にも見つからないうちにさっさと済まそうぜ」


 一足お先に侵入した奥田が、お前も早くこいと、招き猫みたいに指をクイクイッと動かして誘う。


「やれやれだな……」


 実のところ、こんな危ない橋を渡ってまで確かめる必要はない。

 日を改めて、美術部がやってる時にお邪魔したらいいだろと、そんな風に思っていたのだが……こうなったら入るしかない。

 入らないと、このバカを一人で行かせることになる。

 見殺し……とまではいかなくても、見捨ててしまうことになりそうだ。

 もし、呪いの人形の話が本当だとしたら、友人が一人減るかもしれないし、死にはしなくても、さっきの話に出てきた二年女子みたく、体調不良から学校にあまり来なくなるかもしれない。それは少しだけ惜しい。


 友人ってのは、親しさの度合いはともかく、多いほうがいいからな。


「世話の焼ける奴だぜ」


 俺が入ってくるのを待たずに奥へと向かう愚かな奥田の背中を見ながら、俺も、美術室へと一歩踏み込むのだった。



「ところでよ」


「なんだよ天外」


「その、呪いの人形ってのが本当にいたとしてさ」


「うん」


「どうする気なんだよお前。そんな、呪いかけてくるお化けなんてヤバいだろ。俺達もその二年の女子みたいに……」


「ハハッ。何だよ、今さらビビりだしたのか?」


 奥田が笑う。

 虚勢で笑ってるようには見えない。


「そこは大丈夫大丈夫。秘策がある、秘策が。大丈夫だから心配すんなよ」


 俺が心配してるのは無謀なお前のことなんですけどねえ。


「いやいや、霊能者でもないお前にどんな切り札があるってんだよ」


「まあまあ、それは実際に人形がいたら、呪いの人形がいたらわかるさ。……ほら、さっさと入ろうぜ。なんたって俺様には秘策があるからよ秘策が。秘策だぜ?」


「ああ、わかったから背中を押すなっつーの。あと同じこと何回も言うなしつこい」


「へへっ」


 美術室に忍び込んでから、すぐに保管部屋の戸の前についた。

 どこの学校にでもあるような、別段そんなに広くない、普通の美術室だ。奥の部屋に行くまで何分もかかるはずもない。


「よっ、と」


ガタッ、ガガガガッ……


 敷居のレールの滑りが悪いのか、保管部屋の引き戸が、重く固い音を立てながら横に動いた。


「毒を食らわば、か」


 ここまできたんだ。最後まで付き合ってやるさ。めっちゃ笑う絵も探してやる。



「どれどれ、悪いお人形さんはどこかなぁ~」


 おどけた感じで、きょろきょろと部屋中を見ながらそんなことを言ってみた。 

 一人だったり、間狩とかといるなら、こんなことは言わないが、友達といるからな。ついふざけたくなったんだよね。

 さて、後ろの奥田からは、どんな反応がくるか。


「目の前にいるぞ」


「えっ?」


 すぐさま返事がきてちょっと驚いた。

 くそ。

 こいつ、なかなかうまい返しをやりやがるじゃないか。俺としたことが、つい反射的に、前のほうを向いて──


「…………あら」





「ギ、ギぎ、ギギぎギぎィ」





 本当にいた。


「ギぎッ、ひ、引っかかった。まんまと、ギッ、私の餌が、ギ、ギギぎぎギィ……!」


 上半身だけの人形が、金属がきしむような不快な笑い声を発している。

 こいつが呪いの人形か。


 見た目は、どこからどう見ても、壊れかけだ。元々上半身しかない作り……ではないらしく、腰のあたりで、激しく破損している。

 破損はそこだけじゃない。

 教会のシスターが着ているような衣服やフードはズタズタに破れ、頭も、左半分が無くなっている。


 そんな悲惨なことになっていながらも、なお、この人形には美しさがあった。


 そして、この気配。

 こいつはまさか。


 俺がこいつの正体を悟った、そのとき、


「ひはは、逃げられねえよ天外」



がしり



 後ろから、いきなり羽交い締めにされた。

 誰の仕業かなんて決まっている。

 この場でそれをやれるのは、たった一人しかいない。


「おい、奥田、お前ちょっとっ」


 とんでもない力だ。

 おかしい。とてもこいつにこんな馬鹿力があったとは思えない。どうなってる?


「これが秘策さぁ。これで逃げられない……そう、逃げられないんだよ、とっておきの秘策で、お前はなぁ」


「……まさか、最初から操られてたのか」


「そうだよ。俺は最初から、導かれていたのさ。ゴスペル様になぁ。最初から、そう、最初っからなんだよ天外ぃぃ」


 なるほどな。この馬鹿力も、操られていることで発揮させられてるか、あるいはパワーアップさせられてるってことか。

 同じことをしつこく喋るのは、その副作用なのかもしれない。こんな口調じゃなかったからなこいつ。


「ぎぎギィ、あの娘だけじゃ、足りない、足りないぃぃ……わっ、私が、元通りになるのを、ギギ、早めるっためにぃ……!」


「ゴスペル様ぁ、どうか、どうかこいつの生気も、どうか吸っちゃってくださいよ。殺しても死にそうにない奴です。食いでがありますぜぇぇ」


「そうか。そういうことか」


 こいつらの会話で、だいたいの想像がついた。

 きっと、奥田はなんらかの理由で、二年女子が襲われたところに出くわしたか、あるいは一緒にいたのだ。そして、女子はこいつに生気を吸われ、一方奥田はというと、こいつのところに餌を連れてくる役として選ばれたと。

 吸ったところで、あんまりうま味のない男だと思われたのかもしれない。

 だからここの鍵も持っていたのか。


「やっと、やっとゴスペル様に、生け贄を捧げられる。やっと生け贄を。感無量だよぉぉぉ」


 えっ。


 もしかして、それってつまり……この数日間で、さんざん失敗したのかお前?

 それで、やっと連れてくることができた、初のマヌケな獲物が俺だったのかよ。なんて嫌な真実だ。


「悪りぃな天外。おとなしくゴスペル様に吸われてくれよ。俺も辛い、とてもつれぇんだ。でも、悪いけど、辛くても仕方ないんだよぉ」


「いや断る」


 いくら友人の頼みでも、おとなしく食われてやるほど、お人好しでも無力でもない。まして、操られてるならなおさらだ。


 ふん、と両腕を動かし、羽交い締めを力で振りほどく。

 馬鹿力を出していようと強化されていようと、しょせんは人間の力。

 この通り、あっさり振りほどける。


 簡単に、とっておきの秘策(笑)を破られ、一瞬のことで反応できていない奥田。

 呆然としている奥田の首を、片手で掴む。

 今度は俺のターンだ。


「ぐが!?」


「おお、こんなのがいたのか」


 授業中や休み時間では見えなかったが、今ははっきりわかる。

 天使の羽が生えた杭のようなものが、奥田の胸の真ん中──心臓の真上あたりに刺さっていた。

 こうして見えるようになったのは、奥田がここに来たことで、本格的にそこの人形の干渉を受けるようになったからなのだろうか?

 思い返すと、美術室についたあたりから、こいつの喋りは変になっていた。もしかすると、その時点でがっつり凝視したら、これを見抜くことができていたんじゃないか?


 ……まあ、その時でも今でも、どっちでもいいか。

 オカルト馬鹿が一人操られてるだけだ。大した問題じゃない。


 様子見気分で杭を軽く引っ張ってみる。

 すると──ほとんど抵抗もなく、ぬるりと抜けた。


「はうっ」


 抜いた瞬間、アゴを打ち抜かれて失神KOされたボクサーみたいに、奥田が白目を剥いてがくりと脱力した。

 手にかかる重量が、一瞬でぐっと増す。失神したから体の力が一気に抜けたんだ。

 と言っても、たかが人ひとり分の重さ。俺からしてみれば、さっきも今も小枝を掴んでいるようなものだ。軽い軽い。

 けれども、掴み続ける理由もない。

 手をパッと離す。

 保管部屋の床に、奥田が、泥のように、ぐちゃりと崩れ落ちた。


「好都合だな」


 これからやることを見られなくてすむ。口封じの手間が省けた。


「ぎギギィ、無駄なあがきを、に、人間ごときが、ギギぎギ……」


 ゴスペルと呼ばれた人形の、目の前の空間に白い煙のようなものが渦巻き、天使の杭を形どっていく。

 奥田に刺さっていたものより、ずっと太くて長い。

 太さの直径は五センチくらい、長さも一メートル以上はある。人を殺せるサイズだ。


「ギギィ、ば、ば、罰として……串刺しの刑に、ぎギぎぎギィ……!」


 その言葉から察するに、操るためのものではなく、やはり攻撃用のものか。

 宙に浮いて微動だにしない杭が、いきなり飛んできた。かなりのスピードだ。


「オラッ」


 当然ながら殴って壊す。


 速いは速いが俺の反応が間に合わないような速度ではない。しかも殺意の矢印が俺の胴体のど真ん中に延びている。こんなもん当たってたまるか。


「ギッ……!?」


「まったくよ、困ったもんだよな。まさかこんな目と鼻の先に、アサルトマータの生き残りが潜んでるなんてよぉ」


「ギギぎィ!? な、なぜ、その名称を、知っているの……!?」


 動揺するゴスペル。

 ただの獲物だと思っていたら、やけに強いうえに自分の種族名のようなものまで知ってたら、そりゃ動揺もするわな。


「わかんないのかよ。そっか、そのザマじゃ無理もないか。だいぶイカれてるみたいだしな。あのビルで俺に()()()()()()()()()()記憶から飛んじまったか。まあ、俺もお前みたいなのがいたなんてよくわからなかったし、そこはお互い様か」


「ギぎィ、ま、まさか、それってつまり──」


「そういうことさ。おたくがどうにか逃げ延びたのか、この辺にまで飛ばされたのか。それはこの際どうでもいい。肝心なのは、俺が後始末しなくちゃいけないってことだ。意味はわかるよな?」









「──おい、起きろ。起きろって」


「……ん、んん? あれ? 天外?」


「まだ寝ぼけてんのか? いつまでこんなとこで寝てんだよ。帰るぞほら」


「あれ、おかしいな……なんでお前なんだよ。しかもここ……うちのクラス、じゃん。なんで?」


「なんでも何も、お前がここで寝てた。用事があって学校に残ってた俺が、たまたまお前を見つけた。それだけだよ」


「美術室は? 花岡さんは……? いっしょにいたのに……どこ行ったんだ?」


「さあな。明日聞いたらどうだ? 明日になったら元気に登校してくるさ。きっとな。それより……人形はどうした?」


「人形? なんだそれ……? フィギュアのことか? そんなの、興味ないぞ俺」


「いや、それならいいよ。その様子なら大丈夫そうだ。……さ、もう夕方なんだから、そろそろ校門閉められちまうぞ。さっさと行こうぜ、ほら」

優人「あ。笑う絵のこと忘れてた」

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― 新着の感想 ―
そんなもん食べたら腹を壊す……そういえば元気溌剌になるんだったかアサルトマータは。
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