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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第三章・人形狂想曲

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58・誰が、誰を直したと?

 ガラテアの語った真実。

 それは、短絡的ともいえる乱暴な手段だった。


 完璧な美しさではなく、完璧な強さのヒトガタを作れば、きっと愛しの彼が興味をそそられて戻ってくるんだってさ。たとえあの世からでも。


 どうだろうね。

 かなり無理があると俺は思う。

 だが、こいつは、本気で言っている。

 なんでそこまで確信してるのか謎だが、こいつは迷うことなくそのための方法をずっと行ってきたんだろう。諦めることなく何度も。

 嫌な努力の積み重ねだ。


「また豪快な方向にアプローチの舵を切ったもんだね」


「でなければ意味がありませんから。美しさの対極とも言える要素を追究してこそ、彼の関心を引けるというもの」


「理屈としては正しいように聞こえるな」


 順序だって聞かされると、こいつの発想は、全体的にはまとまっているのではないかと思えてくる。

 だが、ところどころ破綻してるのも確かだ。根拠が弱いという以前に、理屈がブッ飛んでる。


 ……でも、神話や伝説って、だいたいそうだったりするんだよな。

 「こうはならんやろ」って部分があっても「なっとるやろがい」で無理やり通してるというか、結果論で細かい矛盾や無茶を踏み潰してるというか……。


「当初は、芸能をチョイスするつもりでしたがね。異なる技能を競わせても優劣を決めるのは至難と判断してやめました」


 ああ、それは無理だろ。

 お菓子作りの腕と機織りの腕とバレエの腕でどれが一番優れているか決めろとか言われたら俺なら審査ボイコットするわ。


「賢明だな。それで、強さを競わせるために、八体の人形どもにノールールの異種格闘技戦みたいなことをやらせたのか」


「闘争は結果がわかりやすいですからね。一人になるまで壊し合えば、最後まで残ったものが完璧な強さを有していると結論づけるのは容易です」


「それはわかった。だが、どうしてそれを繰り返す?」


 間狩が問う。


「過去に、その最後の一体──『完全なる一』という存在になった人形がいたのだろう? そこにいる淫猥な木箱女もそうだと聞いたぞ?」


 淫猥とか言うなよ。もういいだろあの件は。


「……あのな、ちょっと間狩」


「なんだ」


「いや、今の質問だけどさ、そんなの聞かなくてもわかるだろ理由」


「どういう事だ、天外優人」


 いちいちフルネームで呼ぶの邪魔くさいから止めてほしいんだがな。


「だから、その最後の一体になった奴が、こいつを作ったピグマリオンって王様のお気に召さなかったんじゃないの。で、戻ってくる気配が一向にないから、この美人さんはまた一からやり直した……そんなとこだろ」


「あ、そっか。だから何度もやってんのか」


 間狩ではなく、玉鎮がそう言って納得した。

 では間狩はどうしたのかというと、俺に正論をかまされたことがちょっと悔しかったのか、無言のまま顔をかすかにしかめ、下を向いている。

 時折、こうやって子供っぽい仕草をやるんだよな。

 退魔の仕事と厳しい修行でローテ組んでるような人生送ってきたせいで、情緒ってのがあんま育ってないのかね。真面目ちゃんはこれだから。


「そのピグなんたらもさぁ、やたらと好みにうるさいんだな」


「芸術家ってのはそんなもんさ。しかも王様ときてる。こだわりは二倍どころか二乗だ。並大抵の完成度じゃ鼻にもかけないだろうな」


「──事実、そうなのでしょうね」


 ガラテアは言った。

 疲れのようなものが感じられる声だった。


「遊戯が終わるその度に、新たにアサルトマータを作らねばならないのが、かなりの手間暇がかかりましてね」


「そうなるか。アサルトマータを倒すとなると、やり過ぎなくらいのダメージを与えないといけないしな。その結果、粉々になったり、跡形もなく吹き飛んだり、あるいは崩れ去ったり……そんな奴らを直して次のゲームやらせるのも一苦労か」


「直して……とは?」


 ガラテアが訊いてきた。


「いや、言葉まんまだけど」


「また妙なことを言いますね。わたしがですか? わたしが、いったい誰を直したと?」


「んん?」


 妙なことを言うって、こっちのセリフなんだが。


「あんたがやらずに誰がやるんだよ。雇われの人形職人でもいるのか?」


「いいえ。アサルトマータたちは全てわたしのお手製ですよ。ピグマリオンの真似事ですがね。彼の残した技術やアイデアを使って製作したのです」


「じゃあやっぱりあんたしかいないだろ。破壊されて機能停止した人形を元通りにして、次のゲームに参戦させる……そうなんだろ? そうしてきたんだろ?」


 ディバイン達の話ではそうなっていたぞ。

 だからこそミスショットみたいに、終わりのないループに飽き飽きした者まで出てきたんじゃないか。


「……ああ、なるほど」


 何かを理解したように、ガラテアがつぶやいた。


「ふふ、そうでした。勘違いさせていたんでしたね。その勘違いを、あなたやそこの人間のお嬢さんたちも、事実と信じ込んでいたと」


「……勘違い?」


 ディバインが言った。

 全く意味がわからんという顔で。


「そう、勘違いです」


「どういう意味なのか教えてもらえないだろうか、我が作り主よ」


「いいでしょう」


 いったい、何が俺達の勘違いだっていうのか。

 不穏な空気が漂う中、ガラテアは──衝撃の発言をかました。





「わたしは、あなたやそこの二体を復活などさせたことはありません。一度たりともね。それは、あなた方に限らず、他のアサルトマータもまた同様です」





「…………は?」


「どうしました? 聞こえなかったのですか? ……やれやれ、そんな木箱を被っているから聴覚が妨げられるのですよ。おかしなディバインですね、今回のあなたは。本来はマントのはずが、なぜこうなったのか……」


「いや、待ってくれ。しかし、それでは私は……まさか…………」


 何かに気づいたのか、呆然として、臨戦態勢どころか棒立ちとなってしまっているディバイン。

 まあ呆然もするよな。あと本来は木箱じゃなくてマントだったんかい。正直そっちのほうが俺的に衝撃だったわ。


「……………………」


 ディバインは黙り込んでしまった。

 これはしばらく駄目そうだ。


 なので、代わりに俺が続きを聞くことにした。


「なあ、それだと辻褄が合わないぞ。だったら、なんでこいつらは以前のことを憶えてんの?」


「記憶の引き継ぎをしただけです」


「つまり、復活させたりしたんじゃなくて、新しい身体の、その……頭脳だか記憶装置だかに……前の身体の記憶をコピペしたのか?」


「コピペ……ああ、そうですね。そのやり方で合っています。完膚なきまでに破壊されたアサルトマータを直して再起動させるなど私にはできません。彼でも無理でしょうね。おそらく」


「じゃあ、だとするとディバインだけでなく……」


「はい。そこの二体も、脱落した他の五体もオリジナルではありません。自分がオリジナルだと、そういう記憶を植えつけただけの──別個体です」


 別個体。

 ただの、模造品。


 ディバインはそのことをいち早く察し、理解し、そして絶句して動かなくなった。

 では、こちらはどうなっている?


 二体のほうを、見る。


 ミスショットは「あちゃー」って感じで、ショック受けてるというより軽くガッカリしたくらいの様子で、口を半開きにしながら天を(この場合は廃ボーリング場の天井だが)あおぎ、

 チック・タックは、まるで全てわかっていたかのように、何の驚きもなく、肩をすくめて皮肉げに笑っていた。


 びっくりしすぎてフリーズしてるレオタード剣士とはえらい違いだ。


「余裕あるな君ら。ディバインなんて、その結論に達して止まっちゃったのに」


「まー、そりゃねぇ……驚くよりもさ、潰し合いやめといてよかったなあって、そっちの心境がデカくてさぁ。ヒヒッ、いい判断したよアタシも。次なんて無かったんだからねぇ」


「僕はおおむね分かっていたけどね」


「そうなんか?」


「うん。キミやディバインと違って、僕が最初から持ち合わせている特性は『時』だからね。その力があるから、記憶の劣化もないし、瞬時に憶えることもできる。にもかかわらず……再びゲームに参戦すると、記憶が不完全な部分がある。破壊されたときに失われたものだと思っていたけど……」


「ヒヒ、その先は言わなくてもわかるよ」


 ミスショットの、丸メガネの奥にある緑の双眸(そうぼう)が、きらりと光る。


「意図的なくらい、決着や結末についての記憶が抜け落ちてる──だろ?」


 代わりに俺が先んじて言った。理由は特にない。なんか言ってみたかったのだ。


「そういうことさ、ユート。それを怪しまなくて何を怪しむんだって話だよね」


「ふむ……その様子では、気づいたのは今回ではないようですね、時のヒトガタよ」


 ガラテアが、チック・タックのほうを見る。


 古代の美女と男装の麗人が、

 優雅な碧の瞳で、不敵な黒の瞳で、

 それぞれの視線を合わせた。


「ええ、その通りですよ我らが作り主。前々回辺りから、記憶の保全に注力しておりまして。無論、それだけではなく、ゲームのほうも手抜きはせずに参加していましたが……まさか、あんな始末屋がいたとは。危うく今回もチョキンとやられるところでしたよ」


 チック・タックは右手を自分の首筋に近づけると、人差し指と中指で、ハサミの仕草をしてみせた。


「あれに関してのデータは絶対にあなた達に残らぬよう、徹底していましたから。それでも違和感が残るとは、どうやら私はあなたを侮っていたようですね」


「お褒めにあずかり光栄です」


 片腕を腹部の前辺りで曲げ、もう片方の腕を後ろに回し、礼儀正しく一礼するチック・タック。

 そうしているとまさに紳士だが、おっきな胸の膨らみが、全力でその考えを蹴り飛ばす。


「褒美として、次の遊戯からはあなたを破棄することにしましょう。良かったですね。もう壊し壊されを繰り返さなくてもいいですよ?」


「フフッ、次ですか。これはおかしなことを仰る。次などありませんよ。この生き残りゲームも、そしてあなたも。神話の影に消えていった芸術家を追い求めるのも、もはやここまでと観念してもらいましょうか」



 ガラテアとチック・タック。

 両者の穏やかな会話の中に、段々と危ういものが混じってきている。


 これは、話し合いから殺し合いに移り変わる予兆とみていいな。

 ディバインもそろそろ立ち直るだろうし、たぶん、そうなったあたりでボス戦の開幕となるだろう。ならなかったら戦力外だ。

 どうなることやら。

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