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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第三章・人形狂想曲

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53・果てのない繰り返しの果てに

 八体の危険な人形ことアサルトマータによる、ルールも、情けも、周囲に被害を出したり無関係の人間を巻き込むことへの罪悪感も無用の生き残りゲーム。

 勝った者が負けた者の力を奪い、最後の一体になるまで繰り広げられるこの大乱戦には、継続が成り立たなくなった、あるいは停滞したときのために、実は九体目の人形が控えていたのである。



 エリミネート。



 人形たちを一掃し、力ずくでゲームを終了させるために大ナタ──いや大バサミを振るう始末屋だ。

 そこにいるのに誰も存在を認知できない、誰も九体目が存在すると知らなかった、まさに知られざるアサルトマータ。

 しかし俺にはがっつり見えていた。


 見えてることも知らずにノコノコ現れたそいつをフルボッコにして脅し、吐かせた事実。

 それは、このゲームの主催者もまた人形──この始末屋がそうだったように、おそらくそいつもただの人形ではなくアサルトマータだろう──であり、その目的は、八体の闘争の末に理想の乙女を作り出し、人形たちの作り主を呼び出すことであったのだ。


 ……なんで?


 なぜ理想の乙女を作ると大元が現れるのか。

 わからない。

 わからないが、そこはきっと、そういうものなんだと飲み込むしかないのだろう。いやホントになんでなのかな。



「……ってことらしいが、心当たりは?」


 美女の形をした三体の顔を見渡す。


 光のディバイン。

 死のミスショット(水と炎持ち)。

 時のチック・タック(ドリルとカラスと崩壊持ち)。


 主催者であるアサルトマータと、アサルトマータの作り主が何者なのか、この生き残りの人形達に聞いてみたが……顔を見た時点で、返事の予想はついていた。


 心当たりなんて、まるでない。


 言い方に多少の違いはあったが、三体ともこの意見で一致していた。

 だろうね。わかってたよ。

 ピンときてない顔してたもん。


「そのさぁ、作り主って奴? そいつのために、その、理想の乙女とやらを作るってのはわかったよ。理屈はわかんねーけど。でもさ、間狩よ……これ、ずいぶんとやり方が強引じゃね?」


「そうだな、玉鎮。あまり効率的ではない。話だけ聞く分には、まるで蟲毒だ」


「あー、確かに確かに。そだな、言われてみたらその通りだわ」


 退魔師二人はなんだか察するものがあったようだ。

 コドク。

 漫画やラノベでたまに見る言葉だ。


「それって、毒持ったいろんな生き物を壺に全部ぶっこんで、中で喰い合いさせるってやつだろ? 最後の一匹になるまで」


「そうそう、最も強くしぶとい一匹が、蟲毒で孤独になるってわけよ」


「はいはい面白い面白い。優勝。で、生き残った一匹を呪いとかの触媒に使う……みたいな感じか?」


「ああ、それで合っている。よく知っていたな、天外くん。説明しようかと思ったのだけどその必要もなかったか」


「俺も少しは知恵をつけてんだよ」


「ふぅん……」


「……へっ、どうせ漫画とかで得た知識だろ」


「あっこら、余計なことを」


 安いジョークを俺に軽くはらいのけられた玉鎮が、恨めしそうに痛いところをついてきやがった。

 仕返しのつもりかこの野郎。

 女だから野郎じゃないけど性格はがさつな男みたいなもんだから野郎でいいや。


「…………はぁ。感心して損した」


「なんだよ、ソース元が漫画だろうと昔の文献だろうと知ってることに変わりはないだろ」


「あるに決まってる。漫画と、現実の呪術をごっちゃにするな」


「それ言ったら俺の人生つーか人間やめたあとの展開こそ、よほど現実味がないハチャメチャだぞ」


「それはそれ、これはこれだ」


 切り捨てるように間狩が言った。

 几帳面というか、真面目というか……これだから優等生は困る。

 少しは俺を見習って不真面目さを学んでほしいもんだ。ついでに玉鎮、お前も間狩の真面目さを学んどいたほうがいいぞ。



 呪術の話はそのくらいにして。


 俺に掴まれぐったりしてるエリミネートへの尋問を続けよう。

 まだ、肝心なことを聞いていないからね。


「事情はわかった。あとは、その人形と、作り主って奴の名前や見た目に……そうそう、どんな能力持ちかも教えろ。これが一番大事だ」


 事前に知ってるか知らないか。

 これだけで、もしバトルになったとき、勝率や被害は劇的に変わるからな。

 敵を知り己を知れば──というやつだ。

 ……まあ、俺は己の性能をまだよく知らないから、その点では不利ではあるのだが。

 敵もわからん。

 己もわからん。

 これでよくやってこれたもんだ。

 チートじみた肉体や能力のおかげで今までずっと余裕こいてるけど、そうじゃなかったらあの病院の屋上で間狩にバッサリやられて二度目の死を迎えてたんじゃないかな。


「……い、言えない。壊されたくは、ないけれど……しかし、い、言えませんわ……」


「壊されたくはない、か。妙だな」


「なにが妙なのだ? 壊されたくない、死にたくない、消えたくない。それは誰でもそうだろう?」


「まあ、それはそうだけどなディバイン、でもこいつ、ビビりすぎじゃないか?」


 どうもこの、エリミネートという人形は……不思議なほど、やけに破壊されることに怯えている。


 他の八体はそうではなかった。

 負けることを嫌がって逃げたりはするが、壊されること自体はそこまで恐れてないというか、悔しがったりはしても、どこか、破滅型じみた潔さがあったように思える。

 もともとそんな風に作られてるのもあるのだろう。

 が、やはり。

 何回も繰り返しているのが、大きいのではないか。もはや壊れるということに慣れてしまったのかもしれない。


 ミスショットにしても、同じことを延々とやるのに飽きてきたから試合放棄したいと言ってるに過ぎず、ガラクタになるのを怖がってる感じではない。

 チック・タックもそんな感じではあるが……こいつの場合、それとはまた別の何かがあるように思える。

 ディバインはやる気満々ではあるが根が残忍冷酷ではないので、人間に酷く迷惑をかけてまでゲーム続行するということには、ためらいがあるようだ。

 いずれにしても、こいつらに、恐れの感情はないように見える。既に脱落した他の五体もそれに関しては同様だろう。


 八体のアサルトマータがそうなら、この始末屋だってそうなんじゃないのかと思うんだけどな……。

 いくら感知されることが無いといっても、思いがけない理由でバレたり、もしくは範囲型攻撃に巻き込まれたりと、イレギュラーな出来事ってのは、起きるときは起きる。

 だから不測の事態なわけで。

 なら、そうなった結果、こいつが不慮の事態で壊れてしまっても、主催者はやり直させるはずだ。あんただけゲーム参加してないからリトライ無しね、って冷遇するのもおかしいだろ。

 それとも、これまで一度も壊れたことがなくて、それで怖いのか? 何事も一回目ってのは大抵不安になるものだからさ。


「……言えば、わ、わたくしは、決して許されないわ……あのお方の、い、怒りを、不興を……」


「ああ、そういうことか。なるほどな」


 あのお方とやらを怒らせて、やり直しを拒否られたくないのか。

 そうか。

 真っ先に考えつくド本命の理由なのに全く思いつかなかった。アホだな俺も。


「ベラベラ全部教えたらもうやり直させてもらえないってか。それもそうだな。その考えは抜け落ちてたわ。俺としたことが」


「ち、違うわ。違うのよ、それは……」


 否定する声が、段々か細くなっていく。

 体力が弱ってきたためではない。徐々に回復しているはずだ。なので精神的に追い詰められてきたせいだろう。


「なにがだよ」


「あぁ、お許しを。わ、わたくしは、口が軽すぎました。申し訳、ございません……ガラテア様、ど、どうか……お慈悲を……」


 エリミネートが、俺にではなく宙に目をやり、うわごとのようにつぶやいた。

 ガラテア?


「……おい、今、なんて言った?」


 ガラテアと、こいつは今言った。

 聞き間違いではない。確かに言ったぞ。


「ちょっとこっち見ろ。お前今言ったよな? そいつがゲームの主催者なのか、おい……って…………」


 言葉が、止まる。

 あるものを、見てしまったからだ。



 俺の頭部と、このズタボロ人形の胸部真ん中に向かって外から行列を作っている、俺しか見ることのできない殺意の矢印を。



「ま──」


 まずいと言おうとしたが、避けようともしたが、そんな暇もなく。


 ヒビの入った窓ガラスを粉々に打ち砕き、二発の弾丸がロビーに乱入して、矢印に誘導されたかのごとく──。

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― 新着の感想 ―
蠱毒なんてろくなことに使わんからちゃんとした製法知ってるほうが駄目だと思う。
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