42・ディバイン再び
「あり得ない事なんだよ、人とアサルトマータが共闘するなんてさぁ」
ミスショットはそう断言した。
「利用するとかじゃなくて、同等の関係を築くってのはー、まあ、普通は無いねぇ。アタシらにとって人間ってのはね、言っちゃ悪いが、使い道のある虫みたいなものさ、フヒヒッ。使い捨ての道具にするか、徹底的に関わらないか、その二択しかねえよ」
「そっか、存在を認知されない力があったんだよな。関わらないのも簡単なわけだ」
「ああ」
きっとディバインのやつもそのつもりだったんだろうけど、俺が見つけたことで、こんな展開になってしまったのだ。
見つけてなかったらどうなってたことやら。
「使い捨てってのは、あいつの性格上、まず無いね。むしろ、あいつが俺に申し訳なく思ったりしてるくらいだよ。俺があれこれ率先して動いてるからさ」
「物好きだねぇ」
「こちらにもこちらの都合があってね」
「あの箱女に力を貸して、どんなメリットがあるのか知らないが……いや、そこはいい。興味があるのは、タダ働きの理由じゃあないんだなぁ……」
文字通り、目と鼻の先。
丸メガネの奥の、緑の瞳が、ギロリときらめいたように見えた。
共闘があり得ないとか言われても、俺とあいつがコンビ組んでるのは揺るぎない事実だ。覆しようがない。
タダ働きと言ったが、そこも、実際はそうではない。
なんだかんだで騒ぎを鎮めるために動いてるんだから、機関からそれなりの金額をいただけるはずだ。金払いはいいからなあそこ。
では、何がそんなに、この狙撃人形の関心の元なのか。
「回りくどいのは嫌いだ。さっさと言ってくれ」
「急かすねぇ。もっとじっくりお話ししたいのに……あーあー、そんな渋い顔すんじゃないよ全く。…………興味があるのはさ、おたくの実力とディバインのことだよ」
「ディバイン? 何を今更」
俺の実力はともかく、ディバインについてはよくわかってるはずだ。
お互いのことは存分に知り尽くしてるはずだろうに、興味もくそもないだろ。
「どうしてあんなに、あの頑固者な箱入りポンコツが、おたくに懐いてるのか。それが実に不思議でねぇ。とても、ヒジョーに興味をそそられちまったんですわ。お分かり?」
いやらしくニヤケながら、ミスショットが答えた。
懐いてる?
ディバインが?
そうなのか?
付き合いが浅い割にはまあまあ仲良しではあるが、奴がそんな駄犬じみた態度を俺に取ってるようには思えない。こいつの勘違いじゃないのか?
「懐いてるって程じゃないよ。それなりに息の合う相棒みたいなもんだ」
嘘である。
息など、それなりにどころか、たまにしか合わない。
「いやいや、あれはもう懐いてるとしか言えないよ。鈍いねアンタも。しかも、しかもだよ! 自我が無くなって操られてるだけとはいえ、あの火力馬鹿のブレイザーを真正面から潰してのけるたぁね! いや、これもまた実に驚いたよ。一体なんなのかなキミ」
「なんだと思う?」
「そんなダルい返しいらないから。はよ言え」
低いトーン。
楽しげにしてたはずのミスショットが突然嫌そうな顔で切り返してきた。
何だよこいつ……こいつマジで……。
面倒臭いことを自分が言う分にはいいが、自分がそれを聞かされるのは嫌だってか。それは筋が通らないだろ。
「……なら言ってやる。よく聞け。俺はただの人間、どこにでもいる男子高校生……って言いたいところだけど、精神的にはそうだとしても、肉体的には化物になっちまってんだ。面白くない話だけどさ」
「知ってるよ。触手が大活躍していたの見たし。背中から何本も長いの生やして、あんな破壊力を叩き出すのは、それは……うん、人間とは言えないねぇ」
「その通りだ」
死んで甦ると、誰でもこうなるものなのか。俺が例外過ぎるだけなのか。
「で、そんなあり得ないイレギュラーなアンタがさぁ…………ひとつ、この辟易してきたループにくさびを打ち込めないものかと、そうなり得ないかと、期待しちまったのさ」
顔と顔がぶつかりそうな距離で、緑髪の美女がにんまりと笑う。
「いや、そう言われても」
そんな期待されたって困るのだが。
「ループ壊しのやり方なんか知らんし、そもそも、そんなことやれるのかどうかもわからないよ」
だいぶ無茶苦茶言ってくれるよこの緑髪メガネ。
「まあ、無茶振りだとは思う。でも、どうにかしてくれそうな予感もするんだよねぇ」
「具体性が無さすぎる……」
今のところ雲を掴むような話の域を出てないぞ。潰し合いの繰り返しを終わらせる、そのきっかけすらわからん。どうしろと。
「どうもしなくていいよ」
「?」
いやおい、くさびを打ち込むうんぬんの話はどこいったんだよ。
やってくれるの期待してるとか、しなくてもいいとか、前言撤回もはなはだしいぞ。支離滅裂やないかい。
「いや、実のところアタシもどうしたらいいかわかんねえんだよね、ヒヒッ」
「おいおい」
「ま、そうだね…………うん。まずは、膠着状態を維持したら、その先どーなるのか。そこを追究したいね」
「以前にもあったのか? 決着がどうしてもつかないことが」
「あったよ。アタシと、チック・タック、それとコラプスだけ残ったことがね。あの時はさぁ、三体とも似たり寄ったりの戦力持ちでねぇ。アタシがスパイラルの力を、チック・タックがディバインとブレイザーの力を、そしてコラプスがフラッドとネヴァモアの力をもっててさ。いやー、どうにもケリがつかなかったよ」
ディバイン脱落したのか。
どうせ思わぬ反撃(笑)でも受けて壊されたんだろうな。南無。
チック・タックか。
まだお目にかかってない、最後のアサルトマータ。
見た目や能力については既に聞いているが、どんな感じの性格なんだろうな。
「その三つ巴やってた時も、どんな結末だったかは覚えてないんだ」
「うん。どうしてなんだろうねぇ。何かが起きて終わったってのは、なんとなくさ、記憶のどこかに引っかかってんだけど……詳しくは…………うむむ」
「不自然だね」
「だろ?」
おかしいよな、それ
そんなピンポイントで覚えてないことなんてあるわきゃない。流石におかしすぎる。
これはもう意図的に何者かに消されてんじゃないかという思いが、俺の中で膨れ上がってきた。では誰がやってるのかというと容疑者は一人しかいない。こいつらの創造主だ。どうやってそいつを表舞台に引っ張り出したらいいものか。
それに、どこまでこのスナイパーが真実を語ってるかも怪しい。不都合な話をカットして喋っていてもおかしくないからな。
ホントめんどくせえ。
わからないことだらけで手探りで事態を解決するのなんかやってられないと、そろそろ泣きが入りそうになってきた、その時、
ドゴンッ!
下の階から──何かが景気よく吹き飛んだような轟音がした。
なんだ、誰かのカチコミか。
「無粋だねぇ。せっかくイチャついてるってのにさぁ」
発砲音。
一発や二発ではない。
しかも、音が凄い。パンではなく、ドゥンって感じでよく響く。
拳銃の音とは思えない。バズーカでも使ってるのか?
「誰だ?」
「すぐにわかるよ。そのうちねぇ」
「にしても凄い音だな」
「ああ、ありゃアタシの舎弟どもの銃声さぁ。活力や生命力と引き換えに、威力や精度を高めてンだよ。ま、そこまでしてんのに、侵入者にはさっぱり当たってねーけどなっ! フヒッ、フヒヒヒッ!」
「笑ってる場合なのか……?」
発砲音はしばらく続いたが、やがて静かになった。
「あーあ、みんなやられちまったか。別にいいけどさ。ヒヒ、代わりなんざぁいくらでも作れるからよぉ」
どうやらミスショットに魅了されていた奴らは全滅したらしい。
あの少年もだろうか。
なんか癇に障る口調だったから、どうなろうと同情する気にならんな。
暗闇で満たされている廃デパート内を、またしても沈黙が支配する。
いや、そう思われたが、ドカドカという階段を上る足音が沈黙を踏み潰した。
近づいてきている。
二階を通り過ぎ、三階。
三階の床を早歩きで、こちらへとどんどんやってくる。
「ほら、来たぞ。囚われの王子様を救いに乗り込んできた、勇敢なお姫様だ」
現れたのは、まあ、予想はだいたいついていたがディバインだったのだが、
「大丈夫かユート! やはりこのディバイン、大人しく待ってなどいられん! 居ても立ってもいられず参上した!」
どこで調達してきたものか(おそらく根ノ宮さんかグロリア先輩から頂いたのだろう)、全身を、文字のようなものが書かれた包帯まみれにしたミイラ女のごとき姿であった。




