38・魔弾の射手・その1
弾丸が飛んできた。
しかもフラッド目掛けて。
胸元を狙って破壊したってことは、核を潰すつもりだったのは確実だ。
それをやりそうな心当たりはある。ディバインから既に聞いていたからな。
八体いるアサルトマータの一体。
犯人はそいつだ。
だが、今知りたいのはそこではない。
「どこから撃ってきやがった……!?」
犯人が誰かより、どうやって当てたかのほうが謎だ。
この状況、この体勢。
事務所の土台までも吹き飛び、土が剥き出しになってるところに俺とディバイン、そしてフラッドがいた。落ちてきたと言うべきか。
それはともかく、俺も、ディバインも、自分の脚で立っていたが、フラッドは仰向けでゴミのようになっていた。
なら、どこか高所から、斜め下に向けて撃たないとフラッドの胸元に当たらないはずなんだ。
でもそんな建物はない。
離れた場所になら、ここからでもわかるくらい高い建物がいくつかあるにはあるが、遠すぎる。
あれじゃ角度的に無理だ。計算しなくてもわかる。
「どこかはわからん。しかし、誰がやったのかはわかる」
「それは俺もわかってるさ。──ミスショット、だろ? でも今そこは気にするところじゃない。どう撃ったかが問題なんだよ」
「フン、愚問だな。ここまで飛ばしただけに決まってるだろう? 奴の弾丸は自由自在。死の力を込めれば込めるほど、威力や飛距離、精度も増す」
精度って……それで済ませていいのか。
こんな正確に、しかも生き物のように飛ぶ方向まで自在に操れたら、もはや高速の小型ドローンじゃん。
「聞いてないんだがそんな話」
「そうか。だが今聞いたから問題ないな」
殺すぞこのポンコツ。
「ギガガ……カヒッ、キャヒッ。しっ、しくじった、ハヒッ。しくじっちゃッヒヒヒィ……」
壊れかけていたフラッドの身体が、本格的に崩れていく。
弱りきった状態で核をぶち抜かれたのが決定打となり、狂ったように笑いながら、ボロボロと、衣服もツインテールも何もかも、あっけなく崩壊していく。
フラッドの最期だ。
あとは、土に還るだけ。
だが、それをただ、黙って見物するわけにはいかない。
追わねば。
滅びゆくフラッドから湧き出してきた、二つの力。
一つはフラッド自身のもの。
もう一つはブレイザーのもの。
その二種類の力が、炎と水の力が、宙を漂っている。
すぐに、吸い込まれるようにどこかに流れ込んでいくだろう。
つまり、
「その先にいるんだよな」
ミスショット──狙撃を大の得意とするアサルトマータが。
このチャンス。
決して逃すわけにはいかない。
逃せば、いずれ俺やディバインがターゲットにされる。
向こうはディバインの感知能力の範囲外からバシバシ撃ってくるはずだ。俺に撃ってきてくれたら、敵意の矢印が行列作るからそれを頼りに居場所が掴めるが、ディバインばかり狙われたらどうしようもない。
俺のほうに狙いをシフトさせることができれば……って、そんな考えは後回しだ。今は行かないとな。
触手を引っ込める。
こんなの出しっぱなしにして外を走ったら大変だ。機関が揉み消しに奔走することになる。
シャツが破れてしまったのはもうどうにもならないから諦める。
触手ガードによって短パンは無事だった。
しかし足元はお留守だったので、残念なことに履き物は消し飛んでしまっていた。さよならサンダル。君はいい履き心地だったがフラッドとディバインがいけないのだよ。
「んじゃ行くわ」
「ま、待て! 私も──」
「駄目だ。そのザマじゃ足手まといにしかならない。ここで待っててくれ」
「ぐっ……」
粘られるかと思ったが、やはりダメージはかなりのものがあったらしい。
しつこく食い下がらず、悔しげに引き下がった。
「安心しろ。コアだか核だかは、壊さずちゃんともぎ取って戻ってくるからさ」
「……それは助かるが……最悪、破壊しても構わん。核を持ち帰ることより、奴を倒すことを、生き残ることを考えてくれ、ユート……」
「おっけい!」
これ以上話をしてるともう追いつけなくなるかもしれない。
右手親指を立ててニヤリと笑ってから、俺は炎と水のオーラ……とでも呼ぶべきものを追跡することにした。
弱ったディバインのことは根ノ宮さんと先輩にお任せしよう。
銃器の使い手とはあまり相性がよろしくないんだけど、ま、何とかなるだろ。少し死人が出ても致し方なしだ。
鉄筋コンクリの建物を跡形もなく吹っ飛ばすような存在が敵だと、これで根ノ宮さんも認知しただろうし、そのくらいの犠牲は出てもしぶしぶ許してくれるはず。
その根ノ宮さんと先輩のほうを見ると、なんか、人が倒れていた。
それも一人や二人じゃない。
しかも、離れた場所にも、何人かアスファルトの上に転がっている。
スーツ姿のOLもいれば、片手に買い物袋を持ったおばさんに、ジョギング中らしき軽装の男性、若い警察官、小汚ないホームレスの中年親父と、実に様々だ。一貫性がまるでない。
唯一共通してるのは……その全員が手に拳銃を持っている、もしくはそばに拳銃が落ちてることくらいか。
走りながら考える。
あいつらはミスショットの手下だろう。
それしかあり得ない。
どうやったのかは不明だが、俺達かフラッド、あるいは両方の動きは把握されていたようだ。
拳銃は、どれも壊れてるように見えた。
二個くらいしか見てないので、くまなく確認したわけではないが、おそらく全て破壊済みなんじゃないか。
壊したことで、ミスショットの支配から解放されて気を失ったとか、だいたいそんな感じだと思う。
(なるほど。そいつらへの対応で根ノ宮さんも先輩も忙しかったのか)
にしては、銃声とか一発もしなかったが……そこはまあ、サイレンサー機能とか、アサルトマータが持つ、周りの意識をそらす力の応用とか……なんかしたんだろ。
何人もで発砲しまくっただろうに一向に警察が駆けつけてないのが、その証拠だ。まさか一発も撃ってないってことはあるまい。知らんけど。
わからんことだらけだ。
困るね。
手下を使って二人を妨害したのは、参戦されるのを嫌がったからか?
ただでさえ俺という協力者がいるのに、さらに余計な増援が加わったら、そのままフラッドを倒されてしまうかもしれない。それで邪魔させてたんだな、うん。
二人とも無傷のようだが、すぐに片付けて事務所に入らなかったところを見るに、強さはさほどではなかったにせよ、手間はかかったようだ。なかなか厄介だったのかもな。
(……手駒を全て動員したかどうかは、ちょい怪しいな。何人か手元に控えさせてるかもしれない。気をつけよう)
この後、俺一人でやり合わなきゃならんからな。
向こうが何をしてくるか、俺がどう動くべきか、走りながら色々と想定し、考えておくか。
──生き残りバトルから脱落したフラッドから漏れ出た、二つの力。
その力をナビ代わりに、裂けたシャツと埃まみれの短パンをはいているだけの俺は、アスリートが裸足で逃げ出す速度で町を駆けるのだった。
一句。
暑い午後、裸足をビビらす、裸足かな。




