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35・踊らされたバカ

・前回のあらすじ

 期待外れアマゾネスを触手でしこたま殴りつけた。



「ギ、ギガガ……オレが、オ、オ、オレェ……」


 叩きのめしたらグロテスクなオブジェみたいになっちゃったアマゾネスから聞こえる声は、まさしく壊れかけという感じだ。

 ダメージによる破損が深刻な域に達しているのだろう。まともに呂律が回っていない。

 ……この状態で喋れるだけでも大したもんだけどな。

 普通の生き物や、普通じゃない生き物だって、ここまでしぶとくはない。


 アサルトマータ。


 この生命力(人形の場合、生命力と呼ぶべきかどうかわからんが)の強さこそ、こいつらの最も恐るべき、警戒すべき特徴だ。

 そこを見誤って、煮え湯を何回飲まされたことか。ディバインが。

 部外者と当事者の中間くらいにいる俺ではなく、当事者そのものな箱被りがどうして同じ失敗を繰り返すのか不思議でたまらない。首を傾げるばかりだ。記憶とか反省を司る頭脳回路に不具合でも起こしてるのかね。


「……やったな」


 ディバインが、床に手をつき、立ち上がる。

 負傷はほとんど変わってないけど、体力や活力は、わずかながら回復したようだ。本調子には程遠そうだが、これなら己の身を守るくらいはこなせるかもな。


「やったはやったが、喜ぶのはまだ早いよ」


「ああ、わかっている。まだ……あいつがいるからな。しかも、無傷で……」


「それもあるけどさ、なんかこう……怪しいっつーか、キナ臭いんだよな。そこがさ」


 無傷。

 ディバインはそう言った。


 それは正しい。

 俺の目にもそう見えるし、傷や疲労をばれないように隠してるそぶりもない。本当に無傷なのだろう。

 だからこそ、おかしい。


(なんで無傷なんだ?)


 俺とディバインが急いでここに来る前、二階のそこの壁がぶち抜かれたのが見えた。

 あの火力。やったのは、そこで半壊以上全壊以下に成り果てているブレイザーで間違いないとみていいだろう。

 そこは問題ではない。

 問題なのは、そんなスキルを放たれていながら、なんでこいつは、傷はおろか服すら破れていないのかということだ。


 威嚇の一撃だった?

 いや、そんなわけない。

 何のためにそんなことをするんだよ。当ててしまえばいいだけだ。壊し合う関係なんだから、脅しで済ませる意味がない。

 そんな無駄なことして、その隙を、ウォーターカッターみたいなスキルで突かれたら、元も子もないじゃないか。


 なら、隙を見せることを承知のうえでフラッドを後回しにして、死人どもを先にまとめて始末した?

 そこまでやるほど、あのヤクザゾンビ連中が厄介か?

 アサルトマータ相手じゃ戦力としては論外で、肉盾や偵察くらいしか役に立たないんだぞ?

 しかも、俺達が参戦したときにはもう部屋のあちこちに屍が散らばっていた。ほとんど片付いていたはずだ。そこからさらにスキルまで使うこともないんじゃないか?


「キナ臭い? 何を……そんなに心配する? ああなってはもう終わりだ。今の私でも、たやすく仕留められる」


「いや、駄目だ」


 また猪武者になりかけているディバインを制止する。ほんの少し元気になっただけで、またこれだ。

 体力がちょびっと戻ろうが身体は焼け焦げたままなんだから落ち着いてくれよな。


「なぜだ。これこそ絶好だろう」


「罠だ」


「罠? あの、惨状で? まだ奴に……余力があるとでも?」


「あいつじゃない」


 俺はフラッドを睨み付け、こう言った。


「もうそいつは、とっくにやられたあとなんだよ。そこのゴスロリ女にな。……そうなんだろ?」


「は? 何を馬鹿なことを──」





「──キャハハハハハハハハ! キャハッ、ハヒッ、クキャキャキャキャッッ!!」





 ディバインの声をかき消すように、フラッドが突然大笑いした。


「ハハッ、キャヒッ、キャハハッ! すごい、凄いわぁ! 名推理よキミ! どうして、ねえどうしてわかったのぉ!?」


「ほら白状した」


「えっ、いや、どういうことなんだ。さっぱりわからんぞ……?」


 ディバインは困惑しておろおろしている。

 まあ俺もハッキリわかってはいなかったから、今の断言は、カマかけの意味もあったんだがな。

 どうやら的中したらしい。


「説明してやるから落ち着け。あいつも聞きたいらしいし」


「聞きたい聞きたい~~♪」


 両手を握って顎の下に揃え、紫のツインテールを揺らしながら、可愛らしいポーズでフラッドがおねだりをした。

 そうしていればただの痛い子だが、中身は、人間を使い捨ての道具にしか思ってない怪物だ。

 ある種の擬態だな。悪魔の擬態だ。


「まず、おかしいと思ったのは、やり合った形跡があるのに、どちらも目立った外傷がないことだ。あんなスキルで壁までぶち抜かれたのに、あいつの衣服にコゲひとつついてない。奇妙だと思わないか?」


「そ、それは確かに」


「ふんふん、なるほどぉ」


「今思えば、俺達がこの建物のそばまで来たときに、そこのガラクタが偶然乗り込んできたのもタイミングがよすぎる。あれは、そういう風を装ったんだろうな。どこかに待機させてたんじゃね」


 既にブレイザーがどこかで死人たちと一戦交えたのなら、それはフラッドも理解しているに決まってる。

 敵がこちらに向かっているのに、俺達の車にちょっかいかけてる場合じゃない。

 なのにちょっかいかけてきた。

 しかも、事務所前の死人どもは、ブレイザーの襲撃を迎え撃つ備えを全くしていなかった。車内でじっとしてるだけ。俺達がこの場所に来るかどうかまではわからなくても、ブレイザーが来るのはわかっていたはずなのにだ。


「で、タイマンやってたの装ってから、俺にそいつをぶつけたはいいが……方針を変えた」


「どうしてだ?」


「きっと俺が、こいつの想像していたよりも、ずっと難敵だったからじゃないかな」


「ブレイザーで仕留めるのは無理かも……と、そう読んだわけか」


「ああ。本来は俺をさっさと殺して二対一でやりたかったが、出来るかどうか雲行きが怪しい。だから、そいつを使って、俺の実力を図ることに切り替えたんだろうな。それで動かなかった。外にいる俺の仲間の足止めもやらなきゃならないから、余裕もあまりなかった。違うか?」


「ど~だろね~♪」


「そして、役目が終わったそいつにディバインが最後のトドメを刺そうとしたとき、危ない仕掛けを発動させようとした──だいたい、こんなとこだろ」


ぱちぱちぱち


「うん。ほぼ合ってるよぉ」


 乾いた拍手で、フラッドが俺の予想を称賛してくれた。


「ほぼ? どこか、玉に瑕だったか?」


「足止めって、と、こ、ろ。私ね、そんなことまでしてないよ。キミのお仲間さんたちはぁ、単に油でも売ってんじゃないのぉ?」


「はは、まさか」


 あの二人がそんな、玉鎮みたいな不真面目なことをやるわけがない。いやアイツが不真面目なのかどうか知らんけど。

 まあそこはいい。

 今やるべきことは、こいつをどうするかだ。

 なんで先輩や根ノ宮さんが来ないのかは、後から本人達に聞けばいい。だからさっさと来いや。いつまで俺とディバインにばかり働かせてんだか。



 ──と、心の中で愚痴をこぼした時。

 意識が脇道に逸れ、隙っぽいものを見せてしまった、その瞬間。



 ブレイザーの胸部真ん中辺りを、鋭く、とても細い、錐のような何か──液体のレーザーが突き破り、俺とディバインをまとめて切り裂こうと噴射されたのだった!

玉鎮「は、は…………くちゅん! なんだ、誰かアタシの噂でもしてんのか?」

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