34・バカ退場(後編)
果たして生き残るバカはどちらなのか
はたまた共倒れなのか
自分の策は賢い行為。
他人の策は卑怯でつまらない行為。
そんな独りよがりな理屈をこねる奴に好感など持てるはずもないし、話も聞きたくない。
さっさと壊すに限る。
実際にさっさと壊せるかどうかは、また別問題だが。
「とんだがっかりアマゾネスだな」
まさか「勝ち負けなんぞ知るか戦えたらそれでいいんだ」系ではなく「終始優勢なままスカッと勝ち切りたい」系だとは思わなかった。
そんな大層な武器持ってて遠距離攻撃ばっかりとか何なのこいつ。ガワが戦士で中身が魔法使いって、もう見た目の時点から裏をかく気満々ですやん。
「何ががっかりだ、テメーの期待なんぞ知るかよ!」
それはごもっとも。
「だいたいよぉ、何だそのニョロニョロしたのは! これ見よがしにいくつも伸ばしやがって、んなもんでビビらせようってか? やっぱガキの考えることはショボいなぁ!」
「ん? ああ、これね」
八本ある背中の触手。
その内の1本を、指差す。
(ビビらせる……か)
それもそうか。
わからないなら、そう思ったりもするよな。ハッタリかましてるだけの可能性だってあるもんな。わかるわかる。
でも、不幸なことにそれは違う。
これらはさ、ビビらせるための張り子の虎じゃなくて、八つ裂きにするための凶器なんだよ。
これを俺が出した時点で、それなり以上の切り札か防御策がないと、問答無用で敵さん──今の場合だとお前のことだな──は、終わるのさ。
「なんだぁ、黙っちまいやがって。オレがビビらなかったのが計算違いだったか? ハハ、残念だったなぁ!」
怒ったと思ったらまた笑う。
人形のくせに感情豊かなことだ。
「ふふっ」
「あ? 何がおかしい?」
「どこまでもやかましいお人形さんだと思ってさ。ひょっとして、頭だけじゃなくて、声のボリューム調整までバカになってたりするのか?」
「あぁん!?」
お、今度は怒った。切り替えの早いこと。
「さっきからバカだの何だのと…………! クソったれのクソガキがクソ寝言こいてんじゃねえぞゴラアアァ!!」
「クソクソうっせえな。もうさ、その手の脅しは聞き飽きてんだよ。ほら、吠えてないで、いいからかかってこいメス犬」
「……ッッ~~~~!!」
おや。
ムカつきのあまり、言葉が出てこなくなったご様子だ。
とことん攻められ慣れてないんだな。堪忍袋が小さすぎるぞお前。
俺が煽りに煽ったせいで、ブレイザーの顔は歪みに歪みまくっている。
野性味のある美貌はいまや邪悪な鬼神の面だ。
針でつついたら盛大に破裂するんじゃないかってくらい、その顔には、顔の奥には、怒りが充満しているのがよくわかる。
「…………やれるか?」
怒り狂いかけているブレイザーに聞かれないくらいの小声で、身を起こし、片膝ついてるディバインに問いかける。
「問題ない、と言いたいが……かなり、効いた。正直きついな」
「そっか。わかった。無理すんな」
「すまん……」
「自分の身を守ることだけ専念しろ。あれがどう動くかわからんからな」
やる気の塊みたいなこいつが弱音を吐くってことは、本当にガタがきてるんだろうな。
無理はさせられそうにない。
そして、性根のひん曲がってるメス犬アマゾネスにだけ集中してもいられない。
敵は一体だけじゃない。
あれもいるからな。
水を操る、紫髪のゴスロリ──フラッドが。
(しっかし、不気味だな)
こいつは、どうしてこの期に及んでも、何もしようとしないのか。
このまま俺がブレイザーを倒してもいいと、ライバルが一人減るならそれでいいと割り切ってるのか? やはり、ネヴァモアのように漁夫の利を狙ってるのか?
それに、気になることがもう一つ。
(先輩と根ノ宮さん……どうしたんだ? どこで油を売ってる?)
あの二人の性格からして、道草モグモグしながらノンビリやって来るとは思えない。もうここに来てなきゃおかしいんだ。
なら、なぜ。
一向に姿を見せないのか。
(…………まさか、足止めされている?)
もし、そうだとしたら。
ずっと沈黙を守っている、このフラッドが、方法まではわからないが、事務所の外で二人に妨害でもしているのかもしれない。
「どうしたクソガキ! さんざん舐めた口きいといて、なにやる気無くしてんだあ!!」
ブレイザーのがなり声が、思考を中断させてきた。
……ああ、そうだった。
悩むのは後回しだ。まずはこいつを破壊するところから始めよう。全てはそこからだ。
「テメーが減らず口叩いたり黙ったりしてるうちにな、もうこっちはパワー充填完了なんだよこの間抜け! 余計な時間与えちまった自分の愚かさを恨むこったな! ハハハハハッ!」
ブレイザーが大斧を振りかざす。
大層なことをぬかしてるが、やることは変わらず飛び道具か。どこまでいってもこいつはこいつのままだな。
「そこの燃えカス未満と仲良く燃え尽きちまいな! この『バーストランページ』でなぁ! あばよゴミども!!」
気の早いことにもう勝ち誇っているブレイザーが大斧を振り下ろし──蓄えられた炎の力を、俺達に向けて開放した。
バーストランページという呼び名の炎の竜巻が、渦を巻きながら俺とディバインを呑み込んで、灰すら残さず焼くために突っ込んでくる。
「終わるのはお前のほうだよ」
力を溜めていたのは俺の触手も同じだ。
いまだによくわからない、光のような気合いめいたものを八本全てに宿らせ、炎の竜巻へと殺到させる。
こいつの切り札と、俺のそこそこの本気。
──軍配は、やはり俺の触手に上がった。
神にも痛い目にあわせてやったこの乱打をたかだか人形ごときの全力で退けるなど、無理にも程があったのだろう。
炎の竜巻は砕け散り、無数の火の粉となって部屋の中に舞った。
そしてそれだけで済むはずもない。
触手を焼くどころか相殺もできなかった、その事実を受け入れる暇もないブレイザーに、炎の竜巻を撃破した八本の刺客が、勢い止まらず襲いかかる。
「嘘だろふざけんなぁぁああああ!!」
ブレイザーの、絶叫。
鈍く、重い、いくつもの打撃音。
バキャ、だの、
メキャア、だの、
ドゴッ、だの、
潰れる音や砕ける音や引きちぎれる音が、重なりあって響く。
「があああぁ……!」
後に残ったのは。
手足がもげ、あるいはへし折れ、首もおかしな方向を向いている、胴体がばっくり裂けた、哀れなボロクズと化したブレイザーだった──




