32・敵も味方もバカばかり
頭がヒートアップしたアマゾネスに襲われそうになっている。
現代日本にあるまじき話だ。
さっきまでゴスロリ相手に暴れていたのが鎮火して楽しげにしていたかと思ったら安い挑発で再び燃え上がり俺に喧嘩売りだした。
感情でしか動いてない。
そんなだから同種からバカって言われんだよこのバカ。
そんなわけで、大斧かついだバカと闘うことになったのである。
なんか当事者の箱被りより俺のほうがこいつらと戦ってないか? 壊れ性能のお助けキャラかよ俺は。
「オイ、一撃で死ぬとかナシだぜ? 期待外れすぎて萎えちまうからな。メインディッシュを平らげるのに支障が出ちまう」
モチベ落とした状態でディバインやフラッドと戦っても、満足いく戦いができないとか、そういうことかな。
「俺は前菜かよ」
ある程度大股で近づいたところで、ブレイザーは、ゆっくりと、距離を一歩詰める。
また一歩、詰める。
「ハハ、前菜にもらならねえかもな。パクッと一口で終わりそうだしよぉ」
「ふーん」
「だが、その落ち着きぶりは悪くねえな。いい肝の据わりっぷりだぜ」
そんな感心されてもな。
「もうどうしようもないから諦めてるだけだったりして~」
キャハハ、とフラッドが笑う。
同時に、またブレイザーが一歩踏み出す。
歯を剥いて飛びかかってくるものかと思ったが、急に勿体ぶりだした。
理由はなんだ。
じっくり牛歩で進むことで、俺の恐怖を煽るつもりなのか。あるいは、俺の窮地に居ても立ってもいられなくなったディバインが斬りかかってくると読んでいて、迎え撃つ腹積もりなのか。単に強そうに見せたいだけなのか。
予想できる答えはこれくらいだな。
(…………どうでもいいや)
狙いが一番と二番だったとしても、不発に終わるだけ。
俺はビビらないし、俺の強さを知るディバインが、俺の身を案じて動くこともない。
三番だとしたら、特に意味はない。
つまり、無駄に時間がかかっているだけだ。
だったら。
(いっそ俺のほうからも詰めてやるよ)
すっ、と。
俺からも、前に一歩進んでやった。
「あららら、自分から死に向かうんだ。恐怖のあまり壊れちゃったのかな~~かわいそ♪ キャハ、キャハハハハッ!」
実に楽しそうに笑うフラッド。
笑い声だけなら無邪気なものだが、発言は悪意そのものだ。
「笑ってる余裕あるのか?」
「え?」
俺の問いに、フラッドはきょとんとした顔でこちらを見た。
「この斧女の次は、お前の番だぞ?」
意味がすぐ理解できなかったのか、フラッドはしばし停止していた。
次はお前の番。
その言葉が意味するものとはつまり──
「アハハハハハハ!!」
ブレイザーが足を止め、耐えられないとばかりに、のけぞって大笑いした。
さっきキレてたのにこの爆笑。感情の揺れ幅おかしいだろこいつ。
「言うねえ坊主! よく言ったよ、ああ、この土壇場でよく言ったもんだ! なんだかよぉ、ブチ殺すのが惜しくなってきちまったぜ! ハハハハッ!」
「だったら、やめるか?」
「ハハ、やめるわけないだろ」
瞬時に、ブレイザーの笑い顔に闘志と殺意がみなぎる。
同時に、大斧が漂わせていた炎が、一気に激しく燃え盛り、
「そういうクソ度胸のある奴を殺るのが──最高にいいんだろうが!」
下から掬い上げるように大斧を振り、さっきこの部屋の壁を破壊したであろう爆炎の一撃を、俺にかましてきた。
打撃斬撃ではなく、全てを打ち砕く炎。
──まあ、それをやるのは読めていたというか、
こいつの言動からして、いきなりデカイの一発ぶちかますんだろうなと、なんとなくわかっていた。
なので。
「オラッ見えないビーム喰らえっ」
いつもの詳細不明砲で迎撃する。
結果は──相殺。
俺とブレイザーの間に、閃光と衝撃が生まれる。
「ぐうっ!?」
「きゃっ!?」
呻きや悲鳴。
まさかの事態に驚き、体勢を崩す、ブレイザーとフラッド。
吹き飛ばされるほどの衝撃ではなかったが、思いがけない展開に動揺し、それでつい、よろめいたのだろう。
だから、それを承知していたディバインは声をあげていない。俺がどうにかするとわかっていたから動じてないのだ。
ブレイザーは、本気ではあったが、楽しもうとしている様子からしてまだ全力は出さないと踏んだのだが……やはりこちらは片手だけで正解だったようだ。
「どうなってやが──」
「ホイ二発目」
俺が突き出した手の平から放たれた何かが、自分の技と相討ちになり、ブレイザーは軽く困惑していた。
そこに追撃の砲撃。
「ごばぁあっ!?」
何がどうなったのか理解できてないところに二発目の砲撃を受けるブレイザー。
もろに吹き飛び、後ろの壁に激突した。
さっきのは右手。
今のは左手。
回避する暇も冷静さもブレイザーにはなく、今度は、まともに食らった。さっきブレイザーの攻撃を読みきって両手撃ちしなかったからこそ、これができたのだ。
俺の実力が想定していたよりもはるかに強いという現実。
その現実をうまく呑み込めずにテンパってるうちに、できるだけ痛めつけておくのだ。
こいつら、なまじ固いだけに、叩けるときに叩かないと長期戦になりかねない。大技使っていいならさっさと終わるがそれをやると周囲に洒落にならない被害が出て機関から抹殺指令が下されかねないので無理。日本の敵になるのは勘弁だ。
あまり周りに迷惑かけない範囲で暴れよう。
「……や、やるじゃねえの、人間なんぞのくせに。褒めてやんよ……うぅ…………」
大斧を杖代わりに、情けなく体を左右にふらつかせ、ブレイザーが立ち上がる。
今から人生初のスケートやりますってくらい、足をガクガクさせながら。
「んー……」
怪しい。
これは怪しい。
大根役者すぎる。隠しようのない素人演技の臭いがぷんぷんする。
いくら、俺の砲撃が威力あるといっても──これは効きすぎである。
まだ身体に目立ったヒビも入ってない奴が、たった一発でここまで弱るもんか? 防御力がそんなに薄いのか?
いや、ないね。
あったとしても隠すに決まってる。
この露骨さは、嘘だ。
好機とみなして襲いかかったところに奥の手ドーンだろうな。そんな見え見えの餌は食わねーよ。
「ど、どうした、来ないのか。ならオレから……」
「覚悟っ!」
ディバインがあっさり食いついた。
そうなると、どうなるか。
詳しい話は後ほど(次回)説明するが、今はただ、全身丸焦げになりかけるくらいディバインが燃やされたとだけ言っておこう。敵もバカなら味方もバカである。




