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27・先輩のお宅訪問

「ここがあの先輩のハウスか」


 いかにも、いいとこのお嬢様が住まう洋風のお屋敷。

 部屋数えげつないほど多そうなそれが、目の前に堂々と建っている。

 見たところ、築五年とか十年とか、そんな最近に建てられたという感じではない。文化的なものへの目利きなんかさっぱりな俺でもわかるほど、年季というか、重厚な歴史を漂わせている。

 ……まあ、雰囲気に呑まれてそう思いこんでるだけで、実際は近年の建物かもしれないが……。


 いつ建てられたのかは、ともかくとして。

 立派なお屋敷だ。

 相続税って言葉がすぐに浮かんできたくらい立派だ。

 グロリア先輩、あの人に相応しいお屋敷である。


「おや、気が早いな」


 応接間とかで豪華な椅子に腰かけて紅茶でも飲みながら待ってるかと思いきゃ、フットワークが軽いらしく、玄関から先輩が姿を現して、こちらにゆっくり歩いてきた。

 何度か学校の廊下でも見たことのある、優雅な足取り。

 同じお嬢様でも、間狩のような、研ぎ澄まされた凛々しい動作とはまた違う。

 しゃなりしゃなりという効果音がつきそうな歩き方だ。


「どーも」


「ごきげんよう、天外くん。御華上家へようこそ」


 車から降り、こちらからも先輩のほうに近づき、簡潔に挨拶をかわす。


「…………今日はまた、大胆なゲストを連れていらしたのね」


 先輩の視線が俺からそれて、俺の後ろのほうに移った。

 視線を追って上半身をよじり、後ろに顔を向ける。


「大胆なゲスト、ですか」


 そういう言い方もできないこともないが、なかなか苦しい言い方をしたものだ。

 そんな、先輩が言葉を選んで評した人物が、それた視線の先にいる者が誰かは、言うまでもないだろう。

 無論、ディバインだ。

 銀の剣を持ち、レオタード姿を普段着にしている、箱被りの美女。

 時と場所を問わず危ういビジュアルだ。これが先輩ではなく他の者なら、遠慮なく、不審者とか変質者という言葉を使っていたに違いないし、使われても仕方ない。妥当だ。

 ディバイン本人は自身の姿を美しくカッコいいものとして認識しているようだが……。


「大胆? 誰のことだ?」


 ディバインは首を傾げ、不思議そうにしていた。


「お前だよ」


「何を言う。別段、豪快な振る舞いなどしていないぞ。我ながら落ち着いたものだ。大胆不敵というならば、フフ、その通りだが」


「そうじゃない。内面的なものじゃなくて、服装だよ服装」


「この姿のどこが大胆だ。遊びのない、機能性を優先した装いではないか」


「本気か?」


「当然、本気だ。冗談の介在する余地などない」


 よし、これはもう駄目だ。

 話が通じない。


「……ということ、らしいっす」


「つまり、そちらの方にとってはそれが実用的な正装だと、そうおっしゃりたいのですね。やはり、人ならぬモノは、羞恥心も人とは違うのでしょうか」


「あ、わかります?」


「わかりますわよ。気配が、生き物のそれとは明らかに違いますもの」


 バレてしまった。

 困ったな。

 となると一から説明しなきゃならん。


 幸いなことに、俺とディバインだけでなく根ノ宮さんも来ている。俺じゃなく根ノ宮さんの説明なら、グロリア先輩も納得してくれるだろ。


「でも、そんな警戒しなくてもいいっすよ。こいつね、悪い人外じゃないんで。ちょっと融通のきかないポンコツですけど」


「失礼な」


「ちょっと黙ってろお前。すんません根ノ宮さん。後の説明よろしく頼みます」


「はいはい」


 そういうわけで先輩への現状説明は根ノ宮さんにおまかせすることにした。



「少し面倒な事態が起きているのよ。それは──」


「もしや、この町にはびこり始めた死人たちは──」


「可能性は──」


「そんな人形たちが、争いを──」



 てっきりお屋敷の中でお茶でも出してもらえるのかと思ったが、玄関前の広い駐車スペースで話は続いていた。

 もしかして、この話し合いが終わったら、そのまま町中に繰り出すのかもな。ゆっくりティータイム楽しむ暇などないくらい町中がゾンビまみれだったりして。


「あ、そうだ」


「どうしたユート」


「その、死人を操るスキル持ちのアサルトマータ……フラ…………フラッドだっけ」


「ああ」


「そいつ、どんなやり口を好むんだ? やっぱ、コソコソ隠れて姿を見せずに、ゾンビどもをこき使うのか?」


「そうだな。うろ覚えだが、そんな感じだ」


「それなんだけどさ」


 俺は、ある疑問をディバインにぶつけた。


「その死人どもって、あれか? お前や他の人形どもをどついたりして破損させることができるのか?」


「そこまでの力はない。ただ、身体のリミッターが外れていて、肉体に負荷がかかるのを無視して馬鹿力を出せるから、少しは手を焼くがね」


「なら、そいつは、ずっとゾンビ任せにして隠れてはいられないわけか。お仲間を倒すには、人海戦術ではなく自身の力でやらないといけない、と」


「そうなる。だが、それはあくまでも、()()()()の話だ。奴が新たなスキルを有していれば、また話は変わる」


「お変わりないことを祈りたいな」


「フフ、変わりがあったらあったで、楽しめそうだがな」


 二回も油断して大ダメージ喰らったやつがよく言えたもんだなおい。

 この調子なら、また想定外の攻撃で壊されて、俺の息でまた直してもらって、感じまくって、三度目の正直ならぬ三度目の生き恥をかくことになるぞ。俺の息を吹き込まれるのが病みつきになるかもな。





 ──これが悪い冗談ではなく、ある種の予言めいたものになってしまうとは、この時の俺は一ミリも一グラムも一セコンドも思っていなかったのである。

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