24・繰り返される潰し合い
俺の地元を舞台に、アサルトマータというおかしな戦闘人形どもの生き残りバトルゲームが始まりだした。
大迷惑である。
いや、俺の地元だけでなく、地元も含めた広範囲で好き勝手にやってるのかもしれないが……全貌を把握するのは難しい。それは根ノ宮さん達に任せよう。
俺にできるのは、次から次へとやって来る危なっかしい変なのを仕留めたり知り合いになったり捕まえたりするくらいだ。
ドリルとカラスを捕まえられず逃がしてしまったが、また機会はあるだろ。あいつらが他の人形どもに敗れてなければだが。
朝から二回もバトったので今は休憩。
俺とディバインしかいないロビーでゆっくりくつろぐ。ディバインはともかく俺はさして疲れていないけどね。
「ところでさ」
「何だ?」
「お互いの見た目や能力知ってるってことは、もしかしてこれまで何度もやり合ってるのか? それとも、あらかじめ記憶に刻み込まれてるとか?」
「前者であり、後者でもある」
とんちめいたことをディバインが言い出した。
「そう難しい話ではない。身体能力やスキル、性格傾向については前者。容姿については後者。それだけのことだ」
「要するに、倒すべき同類の見た目だけは教えておくから、あとは実際に遭遇、対戦して理解すべし……って、そんな意図なのかな」
「どうなのだろう。そう考えたほうが腑に落ちるが、絶対そうだとは言い切れん」
「知っているのは造り主だけか」
「ああ」
「しっかし、こんだけ荒っぽい対戦を過去に何度もしてるなら、お前らとっくにケリついて一体だけになってそうなもんだが」
当然の疑問を俺は口にした。
「なったぞ」
「え?」
「私のメモリーが確かなら、過去に二度、この闘争を制したものがいる。それは──私と、コラプスのはずだ」
とんでもない事実をディバインは俺にぶつけてきた。
にわかには信じがたい内容。
「待て待て。それはおかしいだろ」
「何がおかしい?」
「いや、だって……」
少し考える。
考えるが……やはりおかしい。
ディバインの話はつじつまが合わない。
もし、その話が事実なら。
ディバインの記憶が、本人の言うように確かなら。
そこで生き残りゲームは終了のはずだ。
潰し合って完全なる一人とやらになるのが、こいつらアサルトマータの目的らしいのだから、一からやり直してまた始める意味などあるはずがない。
「その、お前かあの軍服女か、どちらが一回目の勝者かわからんけど……そこはまあどっちでもいいとして……なんで、そこで決着にならなかったんだ?」
「わからない」
首を横に振るディバイン。
嘘をついている風ではない。
だいたい、わからないなんて嘘をつくくらいなら、最初からこんなことを言わなければいいだけだ。
「……この話、根ノ宮さんやちーちゃんさんには言ったのか?」
「まだだ。そこまで重要なことでもないと思ったからな」
「いや重要だろ……」
だが、ディバインの気持ちも理解できないこともない。
過去に誰が勝っていようが、それはもう終わった話だ。今回の生き残りゲームに影響などあるはずもない。
不可解ではあるが。
「優勝取り消しにでもなったのか」
「それもわからない。わかるのは、勝ち残ったことがあるという結果、それのみだ。その後、どのような事が起きたのかも……」
ディバインは難しい顔をしていた。
鏡がないから見えないが、きっと俺もそんな顔をしてるのだろう。
「でも、そうなると、今の状況は悪い流れではないな」
「それはどういう意味だ、ユート」
「こういうことさ。かつてこの潰し合いを制した二体のうち、一体がさっき脱落。そして──」
ディバインの顔を指差す。
「──もう一体であるお前がここにいる。てことはつまり、他にもう優勝候補はいないってことだろ、違うか?」
「なるほどな。だが残念なことに、その理屈には穴があるぞ」
「へえ、どんな穴だ?」
「君の言うようにコラプスは倒れ、沈黙した。しかしその力をかすめ取ったカラスがいる。忘れたわけではあるまい?」
「忘れてないさ」
「奴は本来の特性に加え、さらに『崩壊』の力まで得た。コラプスよりも手強くなったとは思わないか?」
「そいつはどうかな」
俺は不敵に笑ってみせた。
「?」
「使えると、使いこなせるは、また別の話だろ?」
「どちらが優勢?」
手持ち無沙汰になった俺とディバインが(ロビーの隅に置かれた本棚にあった)リバーシを楽しんでると、そこに用事を終えた根ノ宮さんが来た。
誰も押していないし電動でもないのに動く車椅子に、いつものように乗って。
「三連勝っすね。俺の」
「ルールは知っていたが、意外と奥が深いな……」
お気楽プレイの俺と対照的に、ディバインは真剣に盤上を睨んでいる。
「だから言ったろ? 決め事や使用法をわかってても、それだけで安易に勝てはしないってことだよ」
「うぅむ」
「裏を返せば、充分に経験を積みさえすれば、ものになるわけだが……」
この短いスパンで戦いあってるこいつらにそんな経験を得る暇などあるはずもない。
使用はできても活用など到底無理だ。
「経験を積むための時間がなく、付け焼き刃で終わるのが関の山──そう言いたいのか」
「過信は禁物だけどな。あのカラス女、なかなか頭が回るようだから、少しはこざかしい使い方をしてきそうだ……はい、そこの隅もいただき」
「ぐぬぬ」
「四連勝も近そうね。星を見るまでもないわ」
俺が二つ目の角を支配下に収め、ディバインがうめき、根ノ宮さんが微笑んだ。