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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第三章・人形狂想曲

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12・居候剣士

 夏休みも末も末、そろそろ二学期がすぐそこまで迫っていたある日の早朝。


 アサルトマータとかいうやばい人形どもの争いに首を突っ込んでしまったこの俺──天外優人は、自分が所属する組織が有する建物、その一つにいた。

『生体総合科学研究所』

 いつもながら何をしてるのかわからない施設名である。

 三回に一回はこの名称を思い出せなかったりするのはひとえにこの無個性さのせいであって俺の記憶力のせいではないはずだ。


 ここに来たのは、当然俺だけではない。


 帽子のように木箱を被り、銀の剣を持つ、レオタード姿の美女。

 アサルトマータの一体『ディバイン』も同行していた。

 ……いや、そうじゃないな。

 今回の件のメインは俺じゃない。

 謎ばかりのこのレオタード剣士を根ノ宮さんに会わせるため、俺が同行しているのだ。



「──では、詳しい話を聞かせてもらいましょうか」


 研究所の一室。

 あまり広くない部屋だが、俺とディバインと根ノ宮さんだけなら充分すぎる。

 手近なパイプ椅子に腰掛け、ササッと互いの紹介を手短に終わらせると、根ノ宮さんが切り出した。


「わかった。順を追って話そう」


 ディバインの口調にはまだ堅苦しさがある。警戒心を完全に解いてはいない。

 けれど敵対心はない。

 箱も脱ぎ、両膝の上に置いている。

 いつでも箱から剣を抜き放てるようにしてはいるが、常に柄を握っているよりはずっと友好的で平和的だ。

 根ノ宮さんに対して、悪い人ではなさそうだとなんとなく感じているのかもしれない。

 流れ的に仕方なくディバインを助けてやった俺が(それなりに)この人を信用してるというのも、あると思う。

 でも怪しい人だけどな。とらえどころがない人だ。


「まず私は人間ではない」


「そのようね。天外君から大まかな話は聞いていたけど、こうして目にすると、それがよくわかるわ」


「理解が早くて助かる。私はアサルトマータ。アサルトマータとは、とある目的を有して造られたヒトガタだ」


「ふぅん…………初耳ね。そんな存在がいるなんて」


 世界は広いわ、と根ノ宮さんは言った。


「この世には私を含め、八体のアサルトマータがいる。その存在理由は『完全なる一』となること。互いを破壊し合い、最後の一体となるまで戦いを続けろというオーダーが思考中枢に刻まれている」


「漫画とかでありがちだな」


「トゥーンではない。事実であり真実だ。そして目的でもあり命題でもある」


命令(オーダー)……と言ったわね。あなたに達にそんな命令を与えたのは、いったい何者なの?」


「わからない」


「わからないのかよ……」


「うむ」


「心当たりとかもないのか?」


「さっぱりだ。そもそも他者の情報など、他の七体についてくらいしか知らん。その知識も頼れなくなってきた。スパイラルがあの調子なら、残りの連中も、性能向上や新たなスキルの開発を成している可能性が高い」


「スパイラル?」


 聞き覚えのない名前に根ノ宮さんが聞き返す。


「あー、そんな名前のお姫様に襲われたんですよ」


「ドリルらしき武器で橋桁を壊しながら、そこの彼女に突撃してきた女性のこと?」


「ええ。それで合ってます」


「そう。名は体を表す──かしらね。そちらについては、まあ、表向きはただの陥没で済ませましょう。現場に残されていたそのドリルも、浄に回収させたから問題ないわ」


「済まない」


「別にあなたが壊したわけじゃないし、気にしなくていいわ。悪いのは節操のないそのドリル使いよ」


「あの感じなら、ここの建物を突き破ってまた奇襲してくるかもしれないですよ」


「警戒を強めたほうがいいわね」


「つくづく済まない」


 またディバインが謝った。


「あちこちで無作為に暴れ回られるよりはまだマシよ。ところで……」


「何だろうか」


「もし、あなたが良ければだけど──うちの組織の一員になる気はない?」


 根ノ宮さんからの提案に、ディバインと俺は思わず顔を見合わせた。


「スカウトしたいと?」


「その通りよ」


 なるほどな。

 連れてこさせた最大の理由はそれか。

 確かに、暴力兵器として優秀な手駒になりそうだもんな。普通の人間なら死に至るダメージでも自己修復できるし、使い勝手は良さそうだ。


 しかしこの誘いにディバインが乗るか?

 ディバインのほうにあまりメリットがないように思えるぞ。

 金とか衣食住とか別にいらないだろうし、なんならこの組織の庇護さえ不要なくらいだろ。

 でもさっきの油断を見ていると、単独で動いていたら変なポカしてあっさりやられそうな気もするが……そうなったらそうなったで、それがこいつの運命だったと割り切って、俺が仇討ちでもしてやればいいか。知り合った縁ってやつだ。


「しかし、私は人ではないぞ」


「そこについては、さして問題ないわ。そこに前例がいるでしょ」


「なんだと?」


 車椅子の美女が俺を視線で示した。


「……君も人間ではなかったのか」


「元、だけどな。今年の夏に人間やめたばかりの新米怪物だよ」


「そうなのか」


「色々あってね。人に歴史ありってやつさ」


 本当に色々あったからなあ。

 トラックにはねられて死んだり、病院で生き返ったり、クラスメートに退治されかかったり、この組織にご厄介になることになったり、高級車ごと爆破されたり……。

 これ、一日の出来事だからな。


「俺の身の上はいいとして」


 ディバインのほうに向き直る。


「どうする? 俺の意見としては、受けたほうがいいと思うぞ」


「そうか?」


「拠点がないって不便だろ。その点、ここは防衛もきっと固いだろうし、ねぐらにするには絶好じゃないか?」


 説得する。

 こいつのためというのもあるが、根ノ宮さんの機嫌取りが一番の理由だ。


「居候代として、退魔師みたいなことをやることになるとは思うが、そのくらい別にいいだろ? 使い潰されるようなことにならないのは、俺が保証するよ」


「ふむ」


 悩むディバイン。

 実際、そう悪い話じゃないからな。

 タダで居座る代わりに働かされる。

 妥当な話だ。


「わかった。その誘い、乗らせてもらおう」


 ディバインが立ち上がる。

 つかつかと根ノ宮さんの前まで歩くと、おもむろに右手を差し出した。

 その手を、根ノ宮さんが、同じく右手を伸ばして掴んだ。

 掴む前に、俺のほうをちらりと見た。


『上出来よ』


 根ノ宮さんの目は、そんな風に語っていた。


 説得成功。

 こうして、橋の下で見つけた箱被りのレオタード剣士は七星機関の食客となったのである。



 ……そういえば、ナユタの件はどうなったんだろうな……居場所の捕捉とかできたんだろうか……。

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― 新着の感想 ―
人間だと食い物に見えるから人形をヒロインにする…合理的だ
人外ヒロインはいい感じなのに、人間ヒロインことヒドイン達ときたら…いや主人公が人外だから正道ではあるか…?
まともだ…。 人形がヒロイン候補として、すごくまともだ。 …正ヒロインが人形。 うーむ。
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