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復活したはいいが何故か人食いのチート怪物と化した天外優人の奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第三章・人形狂想曲

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11・野心に燃える早咲ゆりなの行く末

 この国には、異能を有する者たちが集う、いくつもの組織や団体がある。

 それ自体は他国も同様……なのだが、日本においては少し、いやかなり毛色が違う。

 異能者の種類や神話宗教が多種多様にして乱れ混じり、節操の無いバリエーションに富んでいるのだ。

 この乱雑さは海外の比ではない。

 理由はこうだ。

 『海の向こうから来たものは全てありがたいもの』という古来の認識によるものなのか、積極的に新たな技術や神秘を取り入れ、しかも伝統も重視することを忘れないという風土の産物である。

 オカルトの分野において日本は、実に混沌としたグローバルな対応を取っていた。


 そういった懐の深い集まりにも、やはり、はみ出し者は現れる。

 一匹狼。

 嫌われ者。

 役立たず。

 組織のスタンスとソリが合わず、抜ける者も少なくはない。



 早咲(はやざき)ゆりなも、その一人だった。



 見た感じはいかにも二十代後半の事務方OLという姿だが、中身は立派な異能持ちである。霊媒師の家系の分家筋にあたる生まれであり、そこからの縁で、地元の退魔業界に踏み込んだ。

 実力は申し分なし。

 高慢な面はあるものの、トラブルも大きな失敗もこれといって起こさない。

 使い勝手のよさそうな新人──というのが上からの評価だった。


 しかし、彼女の中に不平不満はつのっていた。


 自分は有能だ。

 こんな地方のせせこましい組織で終わる女ではない。

 事故物件の浄化だの、つまらぬ雑魚妖怪の退治など、こんなことを引退するまでやり続けなければならないのか。


 その不満が溜まりに溜まり、ついにゆりなは組織を抜け、関東に向かった。

 実力は確かだったし、機転の利く頭もあったので、食いっぱぐれることもなく、実績やコネも増えていった。


 数年も経つと、金にはうるさいが腕はたつ、グレーな依頼も報酬次第で引き受けるフリーランス──『リリー』の名で退魔業界でそれなりの知名度を得るようになっており、生活も、他者からの評価も、預金額も満足のいくものになっていた。

 順風満帆。

 まさしく最近の彼女の生活はそうだった。


 恐るべきあの者と出会うまでは。





「はぁはぁ……クソッ! どうなってるの!?」


 木製の長い棒を片手に、ゆりなが荒い息で毒づく。

 昔から使っている文字通りの相棒だ。

 霊木の太い枝から作られた、ゆりなの力を高めるためのブースターであり、打撃武器でもある。ダウジングまでできるのだ。


「な、なんなのさコイツは! こんなのがいるなんて聞いてないよアタシ!」


 驚愕に彩られた叫び。

 これはゆりなの声ではない。

 ボンテージ姿の上から派手なコートを羽織っている、鞭使いの女性の声だ。

 年齢は三十代なかば。婚期にあせる頃合いである。

 手元の鞭からは、バチバチと電光がほとばしっていた。スタンガンのような仕組みではなく、彼女本人の異能によるものだ。



 戦の舞台となっているのは、深夜のとある港だった。


『中東から秘密裏に運ばれてきた呪物を奪われないよう護送してほしい』


 これが今回、ゆりなが引き受けた依頼である。


 まともな依頼ではない。


 危険度の高い呪物を国内に持ち込むのは基本的に禁止されている。もしそんなことがバレようものなら、あの七星機関が動きかねない。そうなれば致命的だ。

 しかしそれだけに、報酬もデカい。

 とても欲深で、成功に成功を重ねたせいで自身の実力を高く見積もり過ぎていたゆりなが、それを断るはずもなかった。

 得意気に承諾した。


 一方、その呪物を強奪するという、犯罪以外のなにものでもない窃盗依頼を引き受けたのが、この女王様めいた服装の鞭使いであった。


 そうして、この両者が激突して間もないところに、

 ある少女が、

 そう、少女の形をした、何かが、現れたのである。



「……これがそうなのかな」


 紅く、不気味に輝くルビーが額にはめ込まれた頭蓋骨。

 呪物である。

 それをもてあそぶように手に取り、掲げ、色んな方向から眺めている謎の少女。


 少女の足元には、浅黒い肌の男たちが、バラバラに引き裂かれて倒れている。

 この呪物を日本まで持ってきた中東の呪術師と、そのボディガード役の黒服たちだ。

 一人残らず、死んでいる。

 潮風の香りをかき消すほどの、むせ返るような血と臓物の匂いが、夏の夜の港に漂っていた。


「うん、これなら悪くはないわね。それなりのパワーアップが期待できそう」


 嬉しげな少女の周りや上空には、夜の闇にまぎれた、保護色のごとく溶け込んでいる黒いものが無数に飛び交っている。

 カラスだ。

 月の光も雲にさえぎられた、この暗い世界に、鳥目であるはずのカラスが平然と群れをなしているのだ。

 あり得ない事である。


 しかし、現実に起きていた。


 夜中でありながら日傘を差した、高校生くらいの年齢に見える、灰色の髪を腰まで伸ばした白いワンピースの美少女。

 アサルトマータ──『ネヴァモア』によって。





 それから。


 一時休戦からの急造タッグで挑んだリリーと鞭使いの女王様であったのだが。


 そのような間に合わせの付け焼き刃で対抗するのは無理があった。

 絶え間ないカラスの猛攻。

 少しは食い下がったものの、やはり凌ぎきることかなわず、二人とも重傷を負いはしたが、その場を逃れることができた。

 ネヴァモアの狙いが彼女らではなかったために、運良く見逃してもらえたのだろう。





 ──その後の二人について、今後どうなったのか語るとしよう。


 鞭使いは、傷を癒し復帰するのに、一ヶ月ほどかかった。

 幸いなことに欠損も後遺症もなく、以前と同様に、鞭を元気に振り回しながら非合法な活動に精を出すようになったという。

 ただ、トラウマというほどの事でもないが……カラスが大嫌いになったそうだ。


 ゆりなはというと、命にこそ別状はなかったが、左足に後遺症が残るほどのダメージを受けた。

 一人で歩けないことはないのだが……引きずるような歩き方しかできない。これまでのような派手な活躍はもう無理だろうと、そう悟った。

 マンションを引き払った。

 故郷に戻り、再び古巣に雇ってもらうことにした。

 素早い動きはもう無理だが退魔師としての実力に衰えはなく、むしろ磨かれていたくらいだったので、喜んで受け入れられた。


 若気の至り。

 過ぎた野心と欲望の末、満足に動かなくなった片足と引き替えに手に入れたのは、二千万ほどの預金残高だった。


 これを妥当とみるか、稼ぎ過ぎとみるか、少ないとみるか。

 そのあたりは読者の皆さんに委ねよう。

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― 新着の感想 ―
好き勝手やって命を拾ったんだ、上等じゃね
「そういうの」に関わって左足一本しかもとれてないとか奇跡って古参のおじさんに言われそう。 最近そういうの(ユウト・ナユタみたいなの)多いって噂に聞いてたとか言ったらさらにこころおれそう。
こんにちは。 まぁやべークソ人形たちに無惨に殺された人がいる中、ご同輩に関わった上で命を拾えたのは間違いなく幸運だったんじゃないですかね?
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