1・不本意な転生チャレンジ
──俺はとんでもない衝撃を受け、宙を舞っていた。
下校中。
いつもの帰り道。
額の汗をぬぐいながら、信号が変わるのを待っていた。
ここの信号は昔から妙に長い。
一度捕まるとしばらく拘束される。
行き交う車はまばらだった。
青になるのを待たずに左右確認して、小走りで向こうまで行ってもよかったが……急ぐ理由もない。
なので、じっとしていた。
のんびり屋なんでね。
そしたらトラックが来た。
運転席にいる、おっさんらしき人物の頭は、カックリと下を向いていたように見えた。
居眠りか。
病気で意識を失ったのか。
どっちだとしても同じことだ。俺が死ぬという事実に変わりはない。
死ぬのか。
こんなつまらない他人のやらかしで、こんなところで。
まだ十六なのに。ピチピチの男子高校生なのに。
あと二週間くらいで夏休みだったのに。
お前の事情などお構い無しとばかりに、死神の鎌と化したトラックが、面白いくらいゆっくりと近づき──
(こういう時って本当にスローモーションになるんだな)
もう助からないと諦めてるせいだろうか。
妙に頭は冷静だった。
(そうだ)
予告無しでいきなりやってきた死に動転していたが、大事なことを忘れていた。
(ここで死んだら、俺の中の『これ』ってどうなるの?)
いつ気づいたかは、はっきり覚えてない。
幼稚園に入るより少し前の気がするが、そうでない気もする。
自分の身体の中に、よくわからない、何かしらの『力』がある。
なんとなく、それを感覚で理解した。
それが何なのか。
その気になればいつでも解放できる感じなのだが、取り返しのつかない事になる感じも同時にあった。
なので抑え込むことにした。
あまりに何もかもわからなすぎて、怖かったから。
でも何度か解放しかけたこともあった。
小三の頃。
確か、博物館だったと思う。
そこに見学に行くときのバス内で、後ろの席の女子がリバースした時。
その翌年。
学校の帰り、近所で放し飼いにされていた犬に追いかけ回され、危うく噛まれかけた時(俺は助かったが一緒に帰っていた飯田はケツをやられた)。
中二の頃。
なぜか殴りかかってきた隣のクラスの乱暴者をタックルで押し倒し、馬乗りパンチを連発してた時。
いずれも危うかった。
特にバスのやつ。
(もし解放してたら、どんなことになってたのかな……)
俺はそんなことを思いながら、ゴミクズみたいに吹き飛ばされていた。
飛行能力に目覚めたわけでも翼が生えたわけでもない。
存分に助走をつけたトラックの体当たりに耐えられなかったのだ。
速度も、質量も、硬度も、俺が大幅に負けていた。やはり人は車に勝てないのである。
こうして俺は、よくある交通事故の被害者となった。
走馬灯が脳内で流れては消えていく。
どこにでもいる中肉中背。
顔も頭も中の中。
そんな俺こと天外優人は、早すぎる年貢の納め時となった。
意識も薄れ、地面に叩きつけられ、全てが真っ暗に──
──目が覚めた。
見知らぬ部屋のベッドで、寝させられていた。
「……………………夢、ではないよな」
お約束として自分のほっぺたをつねろうかと思ったがやめた。あまりに古臭い。
「どこよここ」
ゆっくり立ち上がる。
周りを見渡してから、そうボヤいてみたが、まあなんとなくわかる。
きっと霊安室だ。
刑事ドラマでこんな部屋見たことある。
娘役が父親の遺体役に泣いてすがりつくシーンだったかな。
でも病室じゃないってことは……きっと、一度死んだんだな、俺。
異世界転生じゃなく現世復帰か。
自分の姿をじろじろと見てみる。
鏡がないので、後ろ姿を見るのはちょっと無理だが。
「お粗末な服だなぁ……」
なんか見たことない変な服に着替えさせられていた。
シャツとスカートが一体化したような、薄い無地一着。
マジでこれだけ。パンツすらない。
「もっとまともな格好したいが、ここだと無理そうだな。いいや、外に出よう」
このまま誰か来るの待ってもいいけど、こんな辛気臭いところに居続けるのもな。
せめてスマホあれば……。
そうだ、俺のスマホどこいった。それに財布や制服もだ。
部屋の中には無い。
どこかで保管してくれてるのか?
「事務室とか受付とかかな。証拠品として警察が持ってったとかは勘弁してほしいぞ……」
まあ、考えるのは後回しだ。
今はまずここから出よう。
ドアに鍵はかかってなかったので、すんなり出れた。
そりゃ鍵なんかかけないよな。死体泥棒なんて普通いないもの。
薄暗い廊下を進むと、上へと続く階段があったので上ることにする。
すると目に入る『↑1F』の文字。
ここは地下だったようだ。
そうしてやってきた地上は──血の海でした。
壁や床や天井に、過激な抗議活動したみたいに真っ赤な飛沫が飛び散り、色々と欠損した人体が、そこらに転がっています。
いったい、この病院に何が起きたのでしょうか。
「何だよこれ……血を粗末にしやがって」
人の肉はそんな好きじゃないからどうでもいいけど、血は美味しいんだからさ。
こんな勿体ないことするなよな……。
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