18話:正す者
「よし、次は…… ”AIの中枢部の書き換えにおける人類の優位性”か、”歴史から学ぶ、AIと共に行く金銭を介さない実物的生き方”、或いは”百万里徘徊老婆事件を発端とした、AIの認知を視覚からバグらせる23の方法”のどれかにしましょう!」
「氷川、待ってくれ、やりすぎじゃないか、なぁ、これでは君も扇動者じゃないか、落ち着こう、な?」
まさか、ここで話を切るなんてとんでもない。
「馬鹿言わない! こんなの初歩の初歩…… いや、一般常識であるべき内容よ! ここからがもっと面白いの!」
「その台詞をもう3回聞いたんだ。なんだ。正直、なぁ。君がそんなに話し上手だとは思わなかったんだよ。専門的な話なんて、長時間聞いて貰える筈も無いと高を括っていたんだ。凄く専門的な話をしているのは分かるのだが、なんで40分近く話してまだ半分以上が聞いてるんだ?」
「2割は床に転がってますけどね」
床には私ともみ合いになってやむを得ず叩き伏せた人たちが川の字に並べられている。序盤の掴みが良くなかったらしく、実用性が無い話だと言われて激怒して殴りかかってきたためだ。ゴミみたいな話、と断じられてつい私も怒って反撃してしまったが、その様子を見てみんなが大人しくなったから結果オーライかもしれない。
正直自分でもかなり驚いている。これなら、世界中の人々にAIという存在の何たるかを叩き込んで回るのも良いかもしれない…… ノルンが身に付けたロマン溢れる機能から、軍事移動要塞群”ハニカム”と”レーゲン”を制御するAIたちが下した判断に至る経緯まで、語れる相手を山ほど作ろう!
「ふ、ふふ…… はーい! じゃあ、挙手が多かった”メルディス百万里徘徊事件”について話して行くわね!」
いけない、いけない。 あんまりニヤニヤしちゃあいけない。
「もうご主人は止まりません。どうしましょうかね」
「撃たせて! 止めないで!」
「人体に、ましてやご主人に危害を加えられる訳ないでしょう! こんのやろう!」
音声の発信元も心配して、ナラクはこちらに少し目配せをする。私はそれに気が付かないふりをした。
「この事件は、メルディスお婆さんが行方不明になって捜索願が出されたものの、見つかるまでに一ヵ月以上かかった挙句、別の星まで移動しちゃってた事件なんだけど、今では、三大禁忌とも称される、AIのアイデンティティや問題に関わる大失敗を悉くやらかしてるの! その間、お婆さんの服装も髪型もそのまままだったから、捜索願を出したら、一般の人によってあっさり見つかったんだけどね」
これはAIに関わるうえで絶対に知っていなければならない知識だ。これを話せずに終わる事がなくてよかった。でも、やっぱり注意事項だからか食いつきが悪いな。さっき話した”市販のAI「よし、次は…… ”AIの中枢部の書き換えにおける人類の優位性”か、”歴史から学ぶ、AIと共に行く金銭を介さない実物的生き方”、或いは”百万里徘徊老婆事件を発端とした、AIの認知を視覚からバグらせる23の方法”のどれかにしましょう!」
「氷川、待ってくれ、やりすぎじゃないか、なぁ、これでは君も扇動者じゃないか、落ち着こう、な?」
まさか、ここで話を切るなんてとんでもない。
「馬鹿言わない! こんなの初歩の初歩…… いや、一般常識であるべき内容よ! ここからがもっと面白いの!」
「その台詞をもう3回聞いたんだ。なんだ。正直、なぁ。君がそんなに話し上手だとは思わなかったんだよ。専門的な話なんて、ずっと聞いて貰える筈も無いと高を括っていたんだ。なんで40分近く話してまだ半分以上が聞いてるんだ?」
「2割は床に転がってますけどね」
床には私ともみ合いになってやむを得ず叩き伏せた人たちが川の字に並べられている。序盤の掴みが良くなかったらしく、実用性が無い話だと言われて激怒して殴りかかってきたためだ。ゴミみたいな話、と断じられてつい私も怒って反撃してしまったが、その様子を見てみんなが大人しくなったから結果オーライかもしれない。
「自分でも、驚いてるわ」
「僕は姉御の格闘能力に驚いてるよ……」
こんなに聞いてくれるなら、世界中の人々にAIという存在の何たるかを叩き込んで回るのも良いかもしれない…… ノルンが持つロマン溢れる機能から、軍事移動要塞群”ハニカム”と”レーゲン”を制御するAIたちが下した判断に至る経緯まで、語れる相手を山ほど作ろう!
「ふ、ふふ…… はーい! じゃあ、挙手が多かった”メルディス百万里徘徊事件”について話して行くわね!」
いけない、いけない。 あんまりニヤニヤしちゃあいけない。
「もうご主人は止まりません。どうしましょうかね」
「撃てば止まるよ」
「ご主人に危害を加えられる訳ないでしょう! こんのやろう!」
音声の発信元も心配して、ナラクはこちらに少し目配せをする。私はそれに気が付かないふりをした。
「この事件は、メルディスお婆さんが行方不明になって捜索願が出されたものの、見つかるまでに1ヵ月以上かかった挙句、別の星まで移動しちゃってた事件よ。AIの三大禁忌とも称される大失敗を悉くやらかしてて、教材にもなってるのよ」
これはAIに関わるうえで絶対に知っていなければならない知識だ。これを話せずに終わる事がなくてよかった。でも、やっぱり注意事項だからか食いつきが悪いな。さっき話した”市販のAIの過剰なフールプルーフ”が強すぎたかな。AIの簡易修復機能を使った復旧方法もしれっと教えちゃったし。知りたいことをもう教えちゃった感があるかも。このままじゃまずいな…… そうだ。実演でもしてみようか。
「と、言う事で…… 見て、これ。さっき拾った、唯一まだ何か使えそうなマニピュレータ。腕っていうのは、情報を取得してAIに送って、それで毎回行動パターンを修正して貰っての繰り返しだから、拾える情報がバカにならないのよね。この中に直接AIを導入して、その三大禁忌をやってみましょう。マネしないでね」
ノルンも一緒になって私に何か言ってるなぁ…… 都合の悪い時の音量下げだ。言語は…… まあ、こいつでいいか。
「それじゃ、”ルミナス”を使ってAIを作るわよ。はい、ゴミ拾い、と…… 作成完了。まったく。AIを作るのにAIの手を借りてちゃ。ヒトの持つ利点をドブに捨てる行いね。全部手打ちして初めて、素晴らしい子が産まれるのに。これじゃ機械と変わらないわ。まぁ、実験用にはちょうどいいけど」
こんな作業画面をでかでかと映し続けても仕方が無い。私はマニピュレータを持って床に近づけた。視野もまともに確保できない中でも、壊れた腕を上手く動かして、黒いゴミを一か所に纏めている。
「じゃあ、これが禁忌1つ目。”AIの分割”ね。これは分かりやすいわ」
マニピュレータのデータを一度外部に送信して、もう一度受信し直す。徐々ににマニピュレータの動きがぎこちなくなっていき、軋んだ音を立てながら暴走し始めた。
「画面を見る通り、AIが増えたわ。送受信する時って、データを少しずつ送るでしょ? そのせいで、送られた部分が勝手に自己修復しようとして、どんどん増えていった挙句衝突して喧嘩し出すの。簡単に対策できるようで、これが案外めんどくさくてね…… AIには専用の扱いが必要なのはこれが原因。まあ、ツールを通して扱いましょうってだけね。ただ。これが万一に自我のあるAIだとおっそろしい事になるの。自分のコピーが目の前で増えていく光景は恐怖そのもの。そのせいで錯乱した子が事件を起こす事もあるわ。その場合、やらかした本人がターゲット筆頭になるからね。下手すりゃ死ぬわよ」
手で視界を遮っても、マニピュレータの動きがあまり変わらないな。視覚で自分の手が実際にどれだけ動いたか、フィードバックしてないのか。独特な仕組みだ。ルミナスが流用したらぎこちなくなるわけだ。生みの親の特定が楽そうだ。
「次は、”不明瞭な上下関係”ね。まあ、これはなんでこうなるのって言われると説明が難しいんだけどね……」
マニピュレータを色々な角度から見直しながら、AIの増殖を止める。作られたプログラムをバラして、最大権限の命令者が複数いる状態にしておく。権限を持つ者同士で、どちらの権限を優先するか話し出した所で、画面に映した。
「ここから丸く収まると思うでしょ? ならないのよね、これ」
……さっきまでは、少なくとも表情などに反応があったのに、急にみんな、動きを止めたな。左腕がやけに軽い。手元を見ると、持っていたマニピュレータが消えている。辺りを見るが、どこにもない。全員の顔が向く方向に顔を向けると、煤けた壁に良く馴染む、灰色の装備で全身を覆った2人がこちらに歩んでいた。
「軍人……?」
その静寂を破るかのように、2人の真横から壁を突き破って、1台の輸送車が突っ込んだ。轟音と共に舞い上がった煤が喉を刺す。
「に、逃げるんだ!」
ナラクの声が響く。大量の足音。視界が完ぺきではないが、奥に、真っ二つになった車体が転がっているのが見えた。2人をよく見ると、火器のようなものを背負ってはいるが、両手には何も持っていない。私も逃げ出そうとする視界の隅で、彼等が物凄い勢いで迫っているのが見えた。
「あいつら、処分の許可を求めてる!」
「リョウ、どういうこと?」
「分からない、ただ、傍受できた! とにかく、早く! 消しに来てる!」




