16話:思想の共有
「あはは、分かんない!」
「何これ。何のためにあるの?」
ガチャガチャと機器を弄り回すごとに、エラーコードが高く高く積み上がっていく。素人でも作れるようなシステムはここにはないらしい。
「せめて、"ダニでも出来る相方作成キット"でもあればいいのに」
「あれを人が作ったと認めたくはないですね。あんなの10割補助機能頼りじゃないですか」
とはいえ…… 黙って見ているだけというのもなんだかって感じ。何かの間違いで意思のあるAIができてしまう可能性も否定できない。こっそり抜け出すにしても、思ったよりも人が多い。私達が隅に行っても気に留める事無く、小さなタッチパネルを三人でいっぺんに操作しようとしたり、その画面を覗き込もうとして軽い押し合いになっている。
感情デバイスの生産をするAI、作っちゃうべきかな? それは即ち工場の警備諸々も解決するから、散乱した使用済み感情デバイスも、無断でデバイスを乱用する連中も一掃される。……だが、そんな事をすれば、恨みを買って面倒だ。……そうだ! 作らせちゃえばいいんだ!
私はナラクの影でディスプレイを隠し、どう闇雲に入力しても、ここの工場の管理AIとなるプログラムに補正させるインチキツールも併せて、彼らが弄っている端末に遠隔からこっそり送信してやった。まだ見られていない部分に差し込んでおいて、勝手に掘り出して弄るのを待つ。
「氷川、氷川女史?」
「ん?」
「何をしている?」
「こっそりウソのプログラムツールを放りこんで、彼等自身の手でここを直させるのよ。そうすればAIは直ってこのパーティも終わるし、かといって恨まれる事もないでしょ?」
「それ、彼等自身の手で作らせられないか?」
「なんで?」
「ふむ…… 君、AIを作るのは好きか」
「そりゃ勿論」
「こんなデバイスに頼るよりずっと楽しいだろう」
「うん」
「彼等にその感覚を共有できる者がいるかもしれないぞ」
「……」
……まてよ?
「感情デバイスでモチベを上げさせて、楽しくAIについて学習させる……? 世界中の人をこれで技術者にできるんじゃない? 5億全員エンジニア化計画でも作っちゃおうかしら」
「……冗談に聞こえないんだけど」
「良いアイデアだと思います」
「相方の…… まともな方、名前は何と?」
「誰がまともじゃない方ですか!」
あんまり騒ぐと注目を集める。ノルンが上げた音量をまた戻す。
「人の感情を私欲で弄るのは危険な思想だからやめなさい」
「ちぇっ」
「それで、できるか?」
「既存の作成補助ツールの設定をいじって差し替えたから、これで平気」
「……そういうものか?」
「そういうものよ」
補助ツールが優秀なら、使う側が何を作りたいかさえ分かっていれば、何だって作れる。……そこに学習用データが落ちてるでしょ! それを拾うようにお願いして! 気づいて! ……ダメか。
「……」
あ、その処理はもうさっき入力して貰ったプログラムに入ってるんだって! 重なり方が悪いから、データを参照する位置が滅茶苦茶になってしまっている。処理が循環して…… このままでは自分自身を学習し続ける謎のAIの誕生だ。
「……」
「教えてやればよいのではないか?」
「大丈夫? それで直ってデバイスを回収されたら、私、工場外で待ち構えられて袋叩きよ?」
「その場合、ご主人専用車両を突っ込ませますかね」
「まあ、その後は上手くやろう。一人でも生き甲斐にしてくれればいいのだが……!」
なんか乗せられてる気がして気分悪くなってきたな…… いや、やらない理由が思い浮かばないけど。
取り敢えず、人が群がるタッチパネルに横から無理矢理割り込んで、光学ディスプレイをオンにした。
視線が一斉に投影された光のディスプレイに集まる。操作しようとするが、タッチパネルの操作と競合してしまって上手く行かない。
「はい! 注目! 今難航してる、132行目の内容について話していくわよ!」
部屋の中の全員が一斉にこちらを向いて手を止めた。
「結論から言うと、これは呼び出してきた処理と、その直前の処理が被ってるのがいけないの! これは……」
「学習させるデータはここに入ってるものでいいから、今作ってるものの最終目標は、このモジュールを学習させることよ。目的を頭の中で書き換えておいて」
「断片的な処理は全部適当でも勝手に補正してくれるでしょ? 完成品がすぐに見れて、なんのためのものかは自分で設定して分かってるんだから、完成品から逆算して、ひとつひとつ働きを調べるのがカンタンよ」
……一から説明するのは難しいな。父さんから教わった時はどうしてたっけ。……なんか、ずっと褒められてただけで、内容ぜんっぜん覚えてない。あくせくと話しながら暫く経って、漸く完成の目途が立った。
「お、いけた!」
その一言を聞いて、一度本を置いて退散する。
「説明、上手いな?」
「そう?」
「ああ。私もできそうだと思った…… それで、何の本だ? それは」
「”一ヵ月で世界を震撼させる大物になれるAI知識”ね。布教用として30冊持ち歩くのが家訓よ」
「酷い家訓だ……」
「ちなみにタイトルはホントよ。今になってその分野に入って来る人が存在するだけでびっくりだもの」
「まったく、酷いことをする…… ところで、大丈夫か?」
「え?」
「顔が真っ赤だぞ」
「あれ、そう? おかしいな…… 確かにちょっと眩暈がするかも」
「デバイスと本人の高揚が相まって、脳がバグってるようです。一度外に出た方が良いです」
「……とはいえ、大丈夫なの? 外に出ても。追われない?」
「その時はなんとかしよう」
なんとかって。とはいえ身体が不調じゃ仕方ない。
「おかしいな。デバイスで健康被害が出る事なんてある?」
「いま、現に…… いや、なんでもない」
「どちらにせよ、今日は早めに寝る事です」
外の空気を吸うと気分が一気に落ち着く。目の前で窓を跳び越えて、バレバレだが、どうする?
「盛り上がってるところ、申し訳ない! 今君達に説明をしてくれた彼女だが、次の目的地があるため移動をする予定だ。少し休憩したら出発するから、希望者は準備をしておいてくれ!
凄い勝手な事言ってるぞ、あいつ…… 建物の壁に寄りかかっていると、ナラクが戻って来た。
「次の場所でも多少の講演をしてくれ」
「私としても、AIに触れる人が増えるのはありがたいけどさぁ。そこまでする?」
「そうだな…… この世には才能の無い者が多すぎるから、せめて埋もれてるものを掘り起こしたいんだ」
「才能って?」
「幸せに生きる才能だ。生まれつき殺人でしか幸せになれない人も存在するかもしれない。君は排除を選ぶかもしれないが、私は出来る限り共存すべきだと思っている」
「ふーん」
「この点についてはお互い、絶対に相容れないと思う」
「ま、理解はするわよ」
思ったよりも大所帯になってしまい、徒歩で移動する羽目になってしまった。




