12話:奪還
「……えぇと。取り敢えず目標はあの爺さん達の制圧とという事にしましょう。その為に必要なのは……」
「彼らが持っている偽装信号を止める必要があるね」
「リョウ、それは、AIの指令を装った偽物の信号って認識で良い?」
「それでいいよ。こちらでそれを複製しても良いけど、推奨は出来ないな」
「複数の相反する信号を同時に実行してしまい、予想外の衝突や倒壊が起きる恐れがあります」
ドローンの映像を見るに、向こうのドローンや装甲車は数が多いが、質はあまり良くなさそうだ。既製品の残骸を継ぎ接ぎしてできた物に見える。
「手数がぜんっぜん足りないわ。リョウの権限でその地面の動作に干渉はできないの?」
「向こうが正規の機器を奪って尚、それを書き換えて扱える技術を持ってると考えると現実的じゃないね。迂闊にやると対策されて完全に手が付けられなくなりそう。不意をつけたとして5秒とかじゃないかな?」
苦しいな。如何せん物量がおかしいし、先にもぬけの殻になった管理塔から色々ネコババしていったのであればまだ出来る事も有りそうだし。不意を突いてひといきに爺さん達をどうにか無力化した方がいいかな……
「じゃあ、監視の中を突っ切って行きましょう」
「ドローンを!?」
「落ち着いて、ハック。視界がいくら広くても、確認する目は有限なはずよ。画面に張り付いていて監視している訳じゃないと思うし、自動検知をしているタイプのドローンを判別してそこを通れば平気よ。問題はどうやって不意を突くかだと思うの」
「現実的にそれは不可能ですね。はい。平地で身を隠すにしても無理が有りますし、歩く時の振動を観測されたらバレます。人為で滅茶苦茶に地面を動かされると、振動をキャンセルする機構を作るのも無理でしょう」
「んー、でも、地面をグチャグチャに動かして色々漁ってるって事は、多少の法則性はあるのよね?」
「餌で釣ることは出来ますね」
「そこで一肌脱いでもらいたいことがあってね……」
私は休息をとりながら、届けて貰った防護服を試しに付けてみた。
「ささやかですが、マントルに落ちたりするくらいなら無傷でどうにかできます。とはいえ、内部衝撃等を防ぐのにリソースを使いすぎて、機動力はイマイチですね。重いでしょう?」
「けっこう、重いわね…… 特に頭が……」
「近くの歴史館の宇宙服を参考にしたんですけど、素材が如何せんなくってですね。機能を盛れば盛るほど重くなるんですよ。あと、これはいわゆるスタンガンです。ぶっちゃけご主人は殴ったほうが殺傷能力が高いのでこっち使ってください」
「そんな事ある?」
「ハックさんには渡すべきでしょうか?」
「まあいいんじゃない?」
工場から持ち出したもので、別の場所に根城を作り、そこでこちらも多少の数を増やす。いくつもの使い捨て偵察機を送り、人の監視がある場所を探し出す。暫くするとこの施設も見つかり、乱暴に引き寄せられ始めた。
「また瓦礫の山になるのね」
「あの人たちも伊達に歳月を費やしてないわけですねぇ」
「よっし…… やるぞ! ベッキーはここで待っててくれ」
「正義の味方ヅラしちゃって……」
こちらを向いたハックにもルートの説明をする。人に視認されうる場所を避け、AIでの監視のみを行っている場所だけを通るには一度迂回するだけだが、うっかりすると大変だ。
「正直こんな事、AIとしてはやっちゃいけないんですけど、そこが我々違法AIの強みですね」
「人間に危害が及ぶ可能性が産まれうるからね。……違法AIって言い方ヤだなぁ」
「でも、演算ではその可能性をゼロになってるんでしょ? 合理的思考って奴よね」
徐々に倒壊して引き寄せられていく小さな広場。その隣のビルの上階に潜む私達は極めて大きな揺れを感じた。リョウの動かした地面の動きと、摩耗と細工で脆くなった下部が崩れて倒壊し始める。
「ひいいいぃぃ! 怖い!」
「言い出したのご主人ですからね!」
「し、死ぬ……?」
「ハック! もうちょっとこっち!」
浮遊感を得たような数秒間。身体に衝撃を感じたが、問題は無さそうだ。
「よし、行くわよ! ……ちょっと?」
「こ、腰が……」
「あぁもう! じゃあそこにいなさい!」
「こればっかりはハックに同情しますね。言い出しっぺですけど」
仕方ないので私は一人で瓦礫を飛び出した。防護服が余りにも重い。時間を掛けたら私の体力が先に尽きちゃうな……
奴等のたまり場まで、直線距離ならそう遠くない。混乱に乗じて白衣をバタバタと舞わせながらドローンの監視を無視して迂回する。物陰に隠れて一息ついた。
「誤作動? プログラムの構築を間違えたんじゃないかい?」
「流石にオリジナル彫刻作成キットの応用では無理だったか」
「しかし、何というか、良い気分だわい……」
「カネが稼げるよりも面白い、って言うのが先に来るね。AIに任せてたのがもったいないくらいの技術だ。弄び甲斐があるさね」
……ダメだ、立ってるだけで疲れる。私は意を決して人の群れに突っ込んだ!
「だ、誰!?」
「宇宙人!?」
その異様な出で立ちに混乱する人に電撃銃を乱射した。バッタバッタと人が倒れる。
「し、しし、侵入者ー!」
くそっ! 威力が足りないせいで、口までは封じれない! お年寄りな上個人差も大きければ、余裕のあるやつも出てくるか!
「エイムヘタクソですよ! 全然じゃないですか!」
「仕方ないじゃない! その装置を持ってる奴はどこ!?」
「今逃げてます! あっち!」
ひとまとまりになって倒れている人達の中から抜け出すようにして走っている人影がある。老人らしい走り方だが、私も正直もう体力がない。倒れた爺さん達が後ろから何かしてきているのを見るに、防護服を外すのも危険そうだ。
「ま、待ちなさい! ふ、ふぅ…… うわっ!?」
その時足元が少し動き、その勢いで転んでしまった。やられた、と思った時にはもう遅い。どうにか起き上がった頃にはもう人影はかなり小さくなっていた。
「うぅ……」
なんとか後を追おうとしたが、肩で息をしている今ではとても無理だ…… 意気消沈して辺りを見回すと、ヤクミが縛られたまま寝ているのを遠目に見つけた。あそこまではなんとか歩ける……
「んぐぐぐぐぐ…… はっ! いやぁありがとうございます、麗しい御方! また会いましたね!」
「あ、あぁ、そう……」
「やはり我々被差別者同士、助け合っていかねばなりませんね!」
反論する気力が湧かないな…… もう少し離れたら、この防護服はとっとと脱いでしまおう……
「あ、ご主人。ハックを誘導したらさっき追ってた奴捕まえられましたよ」
「はぁ!?!? 美味しい所だけ持っていくじゃない!」
「おっと、うちのを上手く使ってくれたようで何よりです。ささ、こちらへ」
あっけないし、なんとも締まらないな…… 私はあまり何も考えずに、言われるまま移動して防護服を外した。
「手を出した場合は56秒以内に我々が手段を選ばず反撃します」
「おぉ、怖い」
「あぁ、疲れた……」
「いやはや。お話をするのは、休憩の後がよろしいですか? 周囲は私が気にかけておきましょう」




