11話:人災は止まらない
私が二人の前に姿を見せると、少年の方は尖った瓦礫を私に向けてきた。ノルン達が臨戦態勢を取ったのが分かる。瓦礫は私が昔刺された刃物の半分にも満たない大きさだ。多分なんとかなる。私は念のため一呼吸おいて冷静を保ちながら詰め寄った。
「そんなんじゃ脅しにならないわよ」
「うるさい!」
「しかしどういう事? あんな嬉々としてごうと……」
言いかけた所で私めがけて瓦礫が投げられる。身体が反応する前に、ノルンが制御権を奪ったドローンがそれを弾き返した。咄嗟に腕で防御し、尖った金属によって腕に薄っすらと切り傷が付いたようだ。それを見た少女が後ろから飛び出てきたが、そのまま支えを失ったかのように倒れてしまった。背中に酷い傷跡が見える。
「ノルン!」
私は咄嗟に少女を引き寄せた。こちらに走って来る少年は、見えない何かに勢いよく衝突して悶絶した。どうやら車両を仕込んでおいたらしい。そのままドローンに引き渡す。
「手当てできるものある!?」
「ある、ある!」
リョウが工業用の薬品や器具を大量に持ち出してきた。後ろを振り返ると少年は瓦礫とドローンに押し潰されそうなほどにきつく取り押さえられていた。
「よし、これで楽に話せる。観念してよね」
「くそっ……」
「取り敢えず、何があってここに転がり込んできたかを教えて?」
「どうしたも何も…… 師匠とはぐれて、逃げ回ってたうちにこうなった」
「あの子は?」
「知らない。会った時にはもう怪我をしてた」
「それで? 気が変わって助けたって?」
「……うん」
本当だとしたらとんだ半端者だな。まあ、死にかけの人を見たら考えもブレるか……
「どちらにせよ、変な真似をしたら叩き出すわよ。というか、誰かに襲われて怪我したんだとしたら、追われてこっちに連れてきたりしてないでしょうね?」
「……」
ダンマリだ…… 連れ去られた少女が気にかかるのか、連れて行った方向をせわしなく見ている。その一方で、私の事を観察しているようにも見えた。
「……あなたも模倣者?」
「うん? 模倣者?」
「はい。生まれつき高い能力を持った人間は、そう呼ばれて排除されると聞きました。人間の皮を被った怪物扱いまでされるんです。師匠は幼い頃にそんな烙印を押された人々を狙った殺戮事件の生き残りなんですよ」
うん? 私達のことかな……? いや、おかしいな。あの時は私達以外に生き残りが居るはずない。
「模倣者なんて単語、聞いたことないわよ」
模倣者という単語を同じ意味で使っている集団は確かに存在するようです、というノルンの小さな音声に反応する前に、赤い靴のロゴは一部で使われていますね。と欲しかった答えを言われてしまった。
なるほど。ちょっと信憑性が増した。
「声高に叫んでも陰謀論扱いされるだけだから意味無いけど…… そうやって一部の人を陥れようとする奴等は確かに居るんだ。そういう醜い人間の仲間入りはするなってさ」
「その割に強盗をしてたみたいだけど?」
「わ、悪いやつの物を取って何が悪いんだよ!」
実の所、私はけっこうその通りだと思っている。人を嬉々として傷つける人間は何をされても文句は言えない。……その仲間入りをしないように気をつけないといけないのがネックだけれど。
「師匠と同じくらい速く走れる人なんて、初めて見た。やっぱり師匠の言う事は本当だったんだ!」
今更だが、あいつを放り出したのを少し私は後悔し始めた。
「なるほどね…… ヤクミと次に遭ったら簀巻きにして色々聞きたいものね」
「なんでそんな事するんですか!? 仲間でしょう!」
「私とあの小悪党を一緒にするな!」
はぁ、全く。もうすこしまともな人から話を聞く事を期待したかった。
「ご主人。彼等はどうします? ここに置いておいた方が良さそうですが」
「置いておいていいけど、ここに留まって良いのかどうか、ね」
「ドローン飛ばしまくってるから、どうせ場所バレちゃうしなぁ。かと言って隠蔽したら効率が駄目になっちゃうし。頭が痛いよ。でも、単純な総戦力なら負けないよ」
「彼女はどうなった?」
「拒否反応が起きないように調製した金属で応急処置をしました。違和感はあるでしょうが、生命活動に問題は起きないでしょう」
「おっけ。外の様子は?」
「人が集まってるけど、この程度なら再起動した防犯システムで事足りる。ほっといて危険な行動したら制圧で良いかなぁ」
「飛んで火に入ってきたか……」
私は外に出て辺りを見回した。粒のように見える遠さの人達が見える。一部はこちらに向かっているようだ。まぁ、一段落ついたしここは大丈夫かな。ヤクミもそのうち見つかるだろう。先にウィンクル工業区画へと向かって、跳ね橋工業へ行ってみようか…… そう思った矢先、端末から酷く情けない声が流れてきた。
「ご、ごしゅじぃん……」
「ん? どうしたの?」
「こっちに、大量の装甲車と、ドローンと、ビルが迫って来てます!」
「ん、え、ビル?」
「そうです! 詳しい話は今度しますけど、地面の弛緩プログラムを悪用してるものと思います!」
「弛緩システムって、転倒する直前に地面を柔らかくする程度の介護技術じゃなかったの!?」
「できちゃったんだからしょうがないでしょう! 逃げますよ! 防犯システムで移動を止めても、倒壊してぺしゃんこになったら終わりです!」
リョウに叩き出されるようにして外に出された二人を呼び寄せ、私は取り敢えず、それら迫って来るとされた方向から逃げた。起動済みの防犯システムで移動を止めたが、それにより倒壊が起きて、私たちが居た安全地帯はおじゃんになってしまった。
「これはまずいです。我々は技術はあっても道具はありません。向こうは管理塔から事前に随分と良いものをネコババしていたようです」
「……じゃあ、大元を狙った方が良い?」
「ご主人……」
「そんな溜め息つかなくていいでしょ。こっちにも、さっき作った大量のドローンがあるんだし、不意打ちするのは簡単だから、下手に逃げるより良いでしょ」
「何で放棄して逃げる選択ができないのかなぁ」
「やかましい! ほっときなさい」
私達は大きく迂回して、見回りをドローンに偵察して貰いながら大元の連中がいる場所へと進んでいった。道中は、引き摺り回したような波打った更地がそこかしこにできていた。
「奴等を叩きのめしましょう!」
少年は少女がある程度回復したのもあり相当張り切っている。私より過激だぞ、こいつ。
「あ、そうだ。僕はハックって言います! 師匠に会ったらよろしくお願いします!」
「よろしくじゃないんだけどね」
「ベッキーです……」
「あ、よろしく。貴方は隠れるのを最優先にしてね」
私が胸ポケットの端末の画面を見ると、こんな事をしているのは前に遭った老人たちであることが分かった。……そこには、簀巻きにされたヤクミの横でナラクが立っている。
「あぁ、嘘だ、師匠!」
慌てて駆け出すハックの襟首を、私は後ろから掴んでやらないといけなかった。




