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9話:無法地帯

「よし、これで完璧よ!」

「あっさりできるもんですね」

「複雑だ……」


 私は朝起きてすぐ、リョウの内部を閲覧して、念のために今の監査AIに対し最適化した白衣を設計してノルンに渡し、作って貰った。夜間に集めた情報によると、リョウは例外中の例外で、他の殆どが音信不通だ。望みは薄いだろうな。少なくともその時に彼らがまだ感情を覚えていなかった事を祈るほかない。


「何かあった場所にまたAIを作ってまた犠牲にしたんじゃお話にならないし、ノルン経由でリョウがそこら辺の復旧や、指揮をして貰う感じでいい?」

「ゲームやりながらでもいい?」

「支障が出なければオッケー」

「やった!」

「カエルの身体を使ってることは忘れないようにね。身体を動かす動作って負荷が大きくなるから」

「はーい」


 リョウは素直な印象を受けるな。AIは、感情を得る前に行っていた仕事に対して最も適性の高い人格を持つと言われているが、事実と言って問題無いかもしれない。


「じゃ、適当に様子を見てくるわね」

「くれぐれも危険な行動をしないよう、お願いしますよ」

「他の場所のAIはまともに動く元気もないみたいだし、別方面で苦労しそうね」


 私は記憶用可塑チップとデータモジュール素体を気持ち多めに持って出て行った。


「ご主人、電車よりもホバーカーの方が速いですよ」

「でも、電車の方が安心できるのよね。なんというか、空で速度を出すと、誰かがぶつかってきそうで気が気じゃ無くって」

「むむ、まだ高所への恐怖心が存在していたとは。で、あれば仕方ありませんね。貴重な感覚を無下にしてはいけません」

「自分で飛び降りるのと、放り出されるのとじゃわけが違うもの」


 その後の出来事といえばリョウを一度質問攻めにしたくらいで、アグリカ地区に到着した。


「なんかここ、ちょっと焦げ臭くない?」

「えっと、氷川さ…… あー、えっと」

「呼び方は別に何でも良いけど、どうしたの」

「あー、姉御? その駅燃えてると思う」

「あね……? いや、そうか、管理ができてないのね……」


 直ぐに鎮火するとは思わないが、ここが燃え広がるような素材で出来ている訳でも無い。どこかの装飾や照明が、ボヤを起こしたとか、そんなところだろう。


 曲がり角を曲がろうとした時、誰かの声が聞こえたので、止まって耳を澄ましてみる。


「お、何かあるぞ!」

「なんだよ、ただの備蓄じゃねえか」

「只の、とはなんだ。重要な食糧だぞ」

「メシなんて腐るほどあるだろ?」

「いいや、持っていく。これだって奪い合いになる…… いや、奪い合いを起こせば良いんだ。そうすれば出来る事が増えるかもしれないだろ?」

「へぇ、頭が良いな!」


 愉快そうに話す二人の声を聞いて、私はその二人をどうすれば火の中に突き落とせるのかを一瞬考えたが、すぐにやめた。


 私はその場を離れ、誰とも会わずに外へ出た。放火なんかができる連中がいるのだから、監査AIは機能していないだろう。一刻も早く管理塔に行って治安を回復させなければ、何が起こるか分からない。農業プラントは二の次だ。


「……はは、はぁ、クソ」


 視界が開けた瞬間、目の前にいくつもの廃墟が映った。つい最近まで使用されていた形跡のある義体工房に、使われている形跡のない飲食店、煙を溢れ噴き出している原形の無い建物。どれもいつ崩れてもおかしくない。


「倫理外武器だ……」

「倫理外?」

「ご主人、赤色の瓦礫の影に!」


 私は慌てて手近な瓦礫の影に身を隠した。


「監査AIは例外的に独断で一部武器の製造が許されているのは多分わかるよね」

「特定抑止武器の事?」

「うん。だけど人も武器を持つのに制限があるんだ」

「あぁ、思い出した。 威力のおかしい武器は無条件で取り上げて良いんだっけ」

「見る限り、その制限を明らかに超えていると思うんだ」


 こんな短期間でそんな事をするには、事前にAIの無力化を予見した上で、没収されないレベルで事前準備を揃えておく必要がある。……そんな準備をしてきた相手と鉢合わせたら、一巻の終わりだな。


「ご主人が乗って来た車両が止まっている以上、人が集まって来るかもしれません」


 私は息をひそめて周囲を伺った。段々足音がいくつか聞こえてくる。


「なんであんなものが動いているんだ? ずっと動いてなかったんじゃなかったのか?」

「誰かが来たのかもしれない。こうなるんだったらどこか壊しておくべきだったか」

「それって大丈夫? 私達、危ないんじゃない?」

「平気だろ、こっちにはこれだけ人数がいるんだ」


 足音が数えきれない。10人以上はいそうな気がする。彼等は駅に入って行ったようだ。


「大丈夫そう?」

「車内の暴徒鎮圧ようの装置を外部に向けて掃射できるようにしたので、帰りはご心配なく! リョウ、動くものが見えたら全部撃つんですよ!」

「人に向けて先制攻撃していいのかなぁ……」

「死ななきゃなんでも良いです!」

「えぇ……」


 大騒ぎになるであろう駅を後にして、管理塔に歩く。人の気配はしない。建物は無差別に破壊されているように見える。


「どう思う? 特にリョウとしては何か思い当たることがあったりする?」

「人命を狙ってる感じではない気がする。住居は比較的被害が浅いみたい。略奪目的かな? あとは、被害にすごくムラがある。爆発物でドカンとやってるのが目の前の建物で、その左はめちゃくちゃに叩き壊してから火をつけてて、なんでやり方を変えてるのって疑問に思った」

「そうなの?」

「素人目だとどっちも同じに見えますねぇ……」


 という事は複数のグループが居る可能性が有り得るのか。頭に入れておかないとな。しばらく歩いていると、また集団が歩いているのを見かけた。私はすぐに脇道にそれて隠れた。遠すぎて良く見えない。端末を胸ポケットから取り出して、通りに少し乗り出させた。


「どう?」

「義体製作用の工具だ。あれはオールドマン工房の物だと思う。出力可変型レーザーメスに、凝固シートや液状レミルズ合金…… 近づいたら危ないのは間違いないと思う」

「聞いたことある名前ね……」

「先代が良く通ってる工房ですよ。ご主人も数回行ったはずです」

「うわ、サイアク……」

「人数は8人くらいですかね。一人だけ灰色の外套を纏っている人物がいます。何か吹き込んでいますね」

「内容は?」

「流石に聞こえないです」


 どんなに小さな繋がりでも、知ってるものがこんな下劣な行いをしているのは気分が一層悪くなる。私はそのまま様子見を続けようとしたが、後ろから気配がしたので引っ込んだ。その間際に、黄色い袴を着ている男がこちらに走って来ていたのがちらっと見えた。


「まだ、ネズミが残っているとは思いませんでした」

「師匠! あの人、大きな荷物を持っていました!」

「では、有難く頂くとしましょう」


 私はものも言わず走り出した。瓦礫を跳び越え、散乱物を後ろに放り投げる。運よく男に当たる軌道をし、私に続いて飛び越えようとした男は一度身をのけぞらせた。


「ぎゃあっ!」


 その後ろにいた少年の悲鳴が聞こえた。


「ねえ、どっち行く!?」

「右から駅に戻るのは最悪の場合が想定できません! 左はお察しの通りです!」


 私はそのまま曲がり角を左に曲がった。


「良いですね! その足にいくらかかったんですか?」

「これは自前よ! クソ野郎!」


 駆動音が微かに聞こえる。後ろをふと見ると男の手のひらに小さなドローンが乗っていた。プロペラの下に筒のようなものが付いている。それがゆっくりと浮き上がった。それが私を狙おうとした瞬間……


「む!?」


 私は白衣を男の方に投げつけ、方向転換して男の方へと走った。ドローンは硬直し対空している。そのまま奪った視界の後ろから男に蹴りを入れた! 倒れ込む男に多い被さり、左腕で首元を抑えた。右腕にはナイフを持っていた事に気が付いたので掴んで捻り上げてやった。


「ありえない、こんな膂力の義体は、存在する筈が無い!」

「あっそ。ま、じっくり話を聞いてみるとしましょうか……」

「はは、冗談じゃない……」

「おっと、そこのお二人さん、動かないでくれないか」


 背後から突如として声がした。振り返るとスプレーを持った老人と、その隣に灰色の外套の男がいた。


「二人とも、持っているものを置いて行きなさい。私がこれを噴射したら、君たちの身体は二度と動かなくなってしまうぞ。私は素人とはいえ、充分危険だろう」

「と、言う事だ。ここは荷物を置いていってはくれないだろうか」

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