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2005年 春 東京都目黒区
4Fから見える目黒川の桜がきれいだ。天気もいい。頬に当たる春風が心地よい。都会のビル群の中でピンク色は鮮やかに映える。夏は公園の緑、秋には黄色い銀杏並木、冬は一面の雪景色。モノトーンな都会の中で、自然色は季節を知らせてくれる。夜の繁華街は鮮やかなネオンで昼間と変わらない明るさで、上空は季節を感じさせない灰色がかったピンク色だ。クリスマスや年末年始のイルミネーションは、華やかではあるが寂しさを感じさせる面を合わせ持つ。
ここは首都高ジャンクションの予定地であり、夏にはマンションから立ち退かなければならない。周りの建物は殆ど無くなり、視界が広がっている。都会の一角でいきなりビルが全部無くなるのは、こういった大規模工事がある時だけだ。そのおかげで、数百m離れた目黒川が見えるようになった。この部屋は20畳のダイニングキッチンがあり、広さの割に家賃が安かった。ミニカーを走らせたり空手の型をしたりパターゴルフをして遊んだりなど、広さを利用して遊べるのが気に入っていた。もう少し長く住めると思っていたが、5年で引っ越しする事となった。
昨日の夜は、紙飛行機をいくつか作り室内で飛ばして遊んだ。よく飛ぶごく普通のへそ型紙飛行機だ。上下を逆にして前の辺を少し上側に折り曲げ、空気を下側へ流れるようにした新しい形のも作った。全体的にゆるいV字型になるようにし、上下が安定するようにしてある。基本形は同じだが、少しずつ折り目の位置、幅、角度を変えて作ってある。少し上を向け強めに飛ばすと、部屋の端から端まで飛ぶ。それらの紙飛行機を、全部ベランダから飛ばしてみた。4Fから飛ばしているから、そこそこ遠くまで飛ぶ。滑空距離も長い。滑らかに飛んだり、大きく円を描きながら飛んだり、中には急降下、上昇、失速を繰り返し、アルファベットのJを描くような飛び方をするのもある。思っていたのと違う。何を期待していたのだろうか。距離、時間、角度、速度、何に対して納得していないのか分からない。普通に飛んだから面白くなかったか。何に閃いて紙飛行機を折ったのか。そもそもそこからかもしれない、上下を逆にしてまで飛ばそうとしたのは、何を考えていたのか。飛び方をずっと見ていた。飛ばしたのだから見ているのは、当たり前と言えば当たり前だ。でも何かを期待し、そうならなかったから違和感がある。こうじゃない。こんなんじゃない。全然違う。
1994年 冬 神奈川県川崎市高津区
夜中にコンビニへ出かけ横断歩道を渡ろうとしたら、右袖を引っ張られた。ん? 振り返ろうとしたら、目の前を自転車がすごいスピードで通り抜けた。危なかった。あのまま進んでいたらぶつかっていただろう。「ありがとう」を言おうと振り向いたら、誰もいない。白髪で茶色い服の杖をついたお婆さん。確かに後ろにいたはずだ。どこに消えたのだろう。前にも似たような事があった。埼玉県浦和市に住んでいた頃だ。夕食の帰り道、横断歩道を渡ろうと一歩踏み出そうとした時、右袖を引っ張られ、目の前を黒いバイクが横切った。危険回避にお礼を言おうとして振り返ったら、黄色い帽子を被った赤いランドセルの女の子は、消えていた。
袖が風を受けただけで、人の気配を感じたのは気のせいだったのかもしれない。
1998年 秋 東京都練馬区
ん? ピッポ ピッポ ピッポ。歩行者用信号の音で我に返った。あれは何だったのだろう。何年か前に見た3尺玉花火より大きい。3尺玉花火の高さは約600mで直径は約550mの大きさの花を咲かせる。はるかに高い所にいるのに同じ視野角だった。低い雲は500mから2kmの間に出来る。仮に倍の高さにあったとすると単純計算で直径は1.1km以上になる。ジャンボジェット機の長さが約70mだから15機分の大きさになる。低く垂れこんだ薄い雲の上に、直径が1km以上もあるとてつもなく大きくて見えない何かが浮かんでいた。雲はそれを避けてその形に添って流れていた。楕円形か卵型のような形をしているが、下側半分しか分からない。もっと上空の筋雲と青空が透けて見えていた。しばらく見とれていると次々と流れて来る雲で、形が崩れ何かは消えていった。横断歩道を渡り、周りの人に話しかけようと思ったら、皆、普通に歩いている。真上だから誰も気が付かなかったのか。今日はなんだか疲れているようで、帰る電車の中では席に座ると、すぐに寝てしまった。
その日の夜のニュースをワクワクしながら見ていたが、あれに関しては一言も触れなかった。翌日も翌々日もニュースで流れなかった。あの時、真上だから気が付かなかった人がいたとしても、数キロも離れれば上空のあの大きさの物を見逃すはずがない。絶対に全員見たはずだ。ビルの中にいた人、地下にいた人、あれのある方向を向いていなかった人を除いても、数百万人は見ていたはずだ。小学生の頃から、上空に浮かぶ不明な物には興味があった。近づいてきたら飛行船やヘリコプターだったりする。殆どがニュースや新聞、天文雑誌などで騒がれた理由が載っていた。観測用気球、規定ルート以外の戦闘機、流れ星、火球だったりする。いつのまにか上空に浮かぶ小さな点には興味が無くなった。UFO、心霊現象の番組があると、この映像はどうやって作ったのかと、クリエイター目線で考えるようになった。夏休みの宿題みたいな作品から映画並みの作品まで、製作工程を想像して楽しむようになった。UFO動画では撮影前から出てくる場所が分かっていたり、ゆっくりとビル陰に回ってもカメラを持っている人が追いかけなかったりする。ホラー動画などは、ちょこっと加工してナレーションでフロア階数、場所、人数などを偽誘導するだけで、人は簡単に騙される。カメラを振り戻しさせ、幽霊役が物陰から出て待っていたり写真を貼っただけだったりする。夜の撮影で1階の窓の外に人がいてもなんて事はないが、ここは10階ですと言われれば、人が浮いている事になる。でも今回は違う。直接見た。そもそも何を見たのか、雲を乱さずどうやって移動したか、数百万人が見たのに、噂にもニュースにもならないのはなぜだ?
2001年 春 東京都中央区
午後の予定にギリギリ間に合いそうだ。歩行者用信号がなかなか青にならず、イライラしている。信号が青に変わり急いで渡ろうとした時、右袖を引っ張られた。ん? その時小さな宅配便の車が勢いよく目の前を通り過ぎた。危なっ。お礼を言おうと振り返ったら、制服を着たOLはいない。周りはスーツを着た男が大半、女性はイベントか何かの派手なウィンドブレーカーを着ている人が数人だけ。もう一度周りを見渡すと反対側の歩行者用信号の下に、花束がいくつか置いてあった。えっ、そういう事! 霊感などは持ち合わせてないが、さすがに似たような経験が3回目になると考えてしまう。今からホームや横断歩道では一番前に立つのはやめよう。虫の知らせと言うのがある。これとは違うがあれは何なのだろう。ふと誰かを連想した時、突然その相手から電話が鳴る。予知夢やデジャブなど誰しもが経験していると思う。昔飼っていたダックスフントのパルや野良猫のチーが、数年おきに足元で寝ている事がある。寝返りしようとした時に足元に重みを感じるのだ。おっ、また来た。うれしくて消えないように、寝返りを打つのを我慢したりする。実際は何度か寝返りを打っているうちに、足に布団が絡み団子になっているのだと思う。霊感や超能力なんてものは信じない。スプーン曲げやカード当ては手品のトリックだ。信じられる超能力はオリンピック選手くらいだ。
2004年 夏 東京都目黒区
撮り溜めたビデオを長時間見て疲れた。少し横になりうつらうつらと寝ていたら、全身を押さえつけられた。手足、肩、腰、どこも動けない。これが金縛りという奴か? 脳が半分起きていて体が休んでいる時に、起こると聞いている。ベッドから手がたくさん出て手足や体を押さえつけている。空中からも肘から先だけの手がたくさん浮かんでいて、体を押さえつけている。マジか! さっき見たホラー番組のタイトルバックのイメージが強すぎで残っているのか、掌がペタペタと沢山画面に張り付いているのが現実化したようだ。面倒くさっ! 右足を思いっきり空中に蹴り上げたら、全ての手が消えた。体が軽くなりゆっくりと寝られるようになった。
2007年 秋 東京都渋谷区
昼間、コーヒーを飲みながら、ぼ~っとしていたら、壁を叩く音がする。お隣に家族が遊びに来ているらしい。トントントン。子供が壁を何回か叩きながら移動する。部屋の隅まで行ったら隣の部屋へ。そして北側の壁へ。えっ? ここは3階の角部屋だから外は空中だぞ。お隣と接しているのは東側の壁だけだ。北側、西側と周り、南側のテラスのある部屋の壁へ。どういう事だ。なぜ壁を叩く事が出来るのか。不思議だ。それ以上音はしなかった
週末に洗濯物を干そうとテラスへ出たら、小さな歯型がついたゴルフボールくらいの大きさの柿が落ちていた。カラスか、誰かが投げ入れたのか。道路からわざわざそんな事をするには無理がある。数日前の壁を叩く音を思い出した。子供が外を見ながら食べている時に落としてしまいここまで転がって来たのか。それとも座敷童か。だったらいいな。幸せになれるかも。
2020年 春
「ぐはっ!!!」突然の眩しさ、轟音、全身の皮膚や筋肉の痛み、頭痛に吐き気、口の中はざらざらしている。全身をスライスして細かく刻まれたような感覚だ。そしてそれら全てがすぐに消えた。
赤から紫に徐々に変わる色を見た。低い音から高い音へ徐々に変わる音、いろいろな楽器の音、自然の音、生活音を聞いた。いろいろなものを食べたり、匂いを嗅いだり舌ざわりを味わったりした。つるつる、ざらざら、指や手で触った。砂浜や大きな砂利、畳やフローリングを足の裏で感じた。全身の関節を伸ばしたり縮めたりした。何かを持ち上げたり、背負ったりした。走ったり幅跳びしたり飛んだり、健康診断か体力測定か、なんかそんな事をしていたような気がする。具体的に何をしていたかは覚えていない。どっと疲れた。大きくゆっくりと息を吸い込んでみた。息は上がってない。なぜ深呼吸をしようと思ったのだろう。目は開けているつもりだが真っ暗で何も聞こえない。
私は浮かんでいるのか、姿勢がよく分からない。手足を曲げたり伸ばしたり、腰を軽く曲げたりねじったりしたがどこにもぶつからない。足の裏も背中も何も感じない。立っているのか寝ているのか、私は死んでしまったのか?
パチン どこからか指を鳴らすような音がしてだんだん明るくなってきた。白い空間にいるようだ。光源は無い。一様に明るい。眩しい事もなく暗いわけでもない。明るいグレーのような白だ。だんだんと足の裏に重みを感じてきた。少しふらつくがぶよぶよとした水面に立っているような感じだ。とてつもなく大きな空間の中に浮いている。ここはどこだ。何なんだ。
「お~~~い」とりあえず叫んでみた。声の反響音はない。この空間の端すら分からない。壁も床も天井もない。目印になるものがないからこの空間の広さが分からない。壁や天井までなんとなく10mのような気もするが100mだと言えば100mの様な気もする。今、私は服を着ている事に気が付いた。叫ぶ前は裸だったような気がする。思わずポケットの中を調べると、家の鍵、財布、小銭入れ、手帳、ハンカチなど、全て揃っている。それらに気が付くと重みを感じてきた。みんなが持つようになった携帯電話やPHSはまだ持っていない。みんなが持っているなら、私は公衆電話から相手に掛ければいいと思っていたからだ。あっ、カバン! そう思った瞬間、足元に落ちているのに気が付いた。急いで中を確かめると、本、ファイル、ノート、筆記用具など、全て入っている。おかしい。さっきまで何もなかった。しかも裸だった。次々と何かが出現して来る。どういう事だ。
ここに来る前、心地よい日差しを浴びて外を歩いていた。稲光か、何かの音か、空気の振動か、何かを感じて上を見ようとしたのを覚えている。いや、上を見て驚いたような気がする。何か見たのかもしれないが、その辺から先を思い出せない。
突然、何もない理解できない場所で目覚め、しかも何もする事がない。いつここから出られるのか、ぼ~っとしていても仕方がないからカバンを持って数歩歩いた。ぶよぶよした水面は相変わらず見えないが浮いている状態には変わらない。歩いても何も変わらないので大の字なって寝てみた。ぷよぷよが気持ち良い。靴も靴下も脱いだ。後頭部、手足、背中を軽く包んでくれる。手のひらで見えない水面らしきものをぴたぴたと叩いたり摘まんだり揉んだりしてみた。さらさらしているようでもあり、ねっとりともしている。不思議な感触だ。癒される。昔、スライムのおもちゃが流行ったな。ウォータベッドの中が水銀ならこんな感じで浮くのか。リラックスしている場合じゃない。ここから脱出するにはどうしたらいいか考えなきゃ。道具も何もない。持っているのは財布や筆記用具類だけだ。何も出来ない。ここから出られなかったらどうする。私の人生はここで終わりか。死を感じた時、人は人生を走馬灯のように思い出すというが、何も思い浮かばない。ここは前向きに考えて、まだ死が近づいているのではないと考えよう。
暇つぶしに自叙伝を書くとしたらって言う体で、人生を振り返ってみた。喜怒哀楽いろいろあった。年齢別、感情別に頭の中に表を作っていく。にんまりしたり嬉しかったり悲しくて涙を流したり、何も言い返せなくて悔しくてキリキリしていたり。今、この状態を他人が見たらきっと変に思うだろう。一人でにらめっこの様に変顔したり顔を歪めたりしている。そこそこ思い出を楽しんだ後で、ふと気が付いた。おかしい。ちょっと考えるというか何かを思い出す度に映像以外に、周りの音、何かを食べた時の味、風や匂いがリアルに甦ってくる。不思議だ。リアルすぎる。こんなに鮮明に思いだせるものなのか、まるで時間を戻しその場にいるようだ。小学生時代に時間を戻したら、猛勉強して別の人生を歩んでいただろうか。いやいや無理だな。仮に戻る事が出来てもやっぱりサボり癖は治らない。勉強は嫌いだ。嫌いなものは嫌いだ。性格が変わらなきゃ似たような人生を繰り返すだけだ。別の選択肢を選んでもきっと似たり寄ったりだろう。
パンパン 手拍子が2回する音がした。横になったままそちらの方向を見ると、誰かが寝ている。立ち上がって見ると、相手も同じように立ち上がって来た。立ち上がった私がこっちを見ている。同じ服装で驚いた表情をしている。突然、人が現れたのだから当然だ。正対して軽く両手を広げた。相手も同じ動きをする。無意識に腕を組んだ。同じ動きをする。これはなんだ。自然に首が傾いた。腕の組み方では左右が違っていても気にならないが、首の傾け方は向きが逆になるから違和感がある。驚いた顔をしていたのは、相手が私と同じ顔をしていたからだ。鏡のように左右逆の映り込みではないから他人だと思っていた。試しに右手を挙げてみると、相手も右手を上げる。こちらから見て右側の左手を上げるのではなく、左側の右手を挙げている。90度の合わせ鏡のようだが境目が分からない。SF映画に出てくるような立体ホログラムなのか。触れるのか。覚悟を決めゆっくり深呼吸しながら近づきハイタッチした。掌がぶつかりパチンと音がした。目の前にいるこの人は誰だ。お互いにまじまじと相手を見ている。後ろから見たいと思ったら、相手の動きが止まった。回り込んで後ろ姿を見た。ほ~。私の後ろ姿を50cmの距離で見たのは始めてだ。そりゃそうだ。自分の蝋人形でも作らない限り見る事は出来ない。すごくリアルだ。実際にそこに私がいる。首が少し前に傾いていて服の背中に数本のしわが付いている。横に並んでみた。横に並んだ瞬間に相手も動き出した。当然同じ動きをする。5人いたらアイドルグループの様に一糸乱れず、なんて思ったら前後左右に私が並んで5人になった。前後左右に歩いたりステップを踏んだりくるくる回ったりジャンプしたり、両腕を上げたり水平にしたり、なんだか楽しくなってきた。ピラミッドの様な組体操もできるかも。いつのまにか10人以上の私の集団が現れた。無言のまま暗黙の了解があった様に、下が5人の5段のピラミッドが組みあがった。私は一番上にいる。合唱や輪唱もできるのか。また私が5人現れ円を描くように並びすでに歌っている。空手の組手、ボクシング、中国拳法や剣道などの練習もできる。目の前に拳が飛んできて顔面の5㎝手前で止まった。慌てて手を払いのけ横へずれた。これは私の負けだ。いつの間にか空手着を着ている。周りを見ると他流試合しているのもいる。それぞれ競技の道着を着ている。柔道やレスリングの関節技の組技系は、戦い方を知らないから戸惑っている。あーでもない、こーでもないと思案しているようにも見える。見渡すと私が50人以上いる。これはなんだ。どうなっている。何が起きている。しばらく見ていると、近くにいた一人が一回拍手した。全員が動きを止め、こっちを見ている。
拍手した私にそっくりな人は右手親指を胸に当て、次に人差し指をこちらに向け、少し手を引き、掌をこちらに向けゆっくりと左から右へ振った。私とあなたは違うと言っているようだ。そりゃそうだ。私にそっくりなあなたは私じゃない。だからどうした。私にそっくりな人は左手親指を胸に当て、次に右手人差し指をこちらに向け、少し手を引き左手親指と右手人差し指をくっつけた。掌を開きながら90度ずらし両手を組んで硬く握り合わせた。そして右手人差し指を上にあげ、こめかみを指さし、最後にその指をこちらに向けた。私とあなたは一緒と言っているようだが、後半の動きの意味が分からない。私にそっくりな人は、薄笑いをしたようにも見えた。
その時、ここにいる全員の体験記憶がある事に気が付いた。私を見て、見られ、ピラミッドでは下で支え肩に重みを感じ、合唱輪唱でそれぞれのパートを歌い、格闘技では撃ち防ぎ、それぞれがゼスチャーの会話を見ている。多重記憶、多重現実か。どういう事だ。一番近くでゼスチャーを見た記憶が、私の本物の記憶でいいのか。ゼスチャーを見ている二人も他の体験記憶もすべて本物のように感じる。
私そっくりな人達は、どこからか立ち込めた濃霧で色あせ薄くなり、山水画のように遠くから順に消えていき、白い空間だけになった。
ヒュ~~~ン 何かが落ちてくるような音。目の前の床あたりに幅約1mの円形、三角形、四角形が現れた。幅約3cmの黒いラインで縁取られている。トトトトトントトントン 大きなグレーの積み木みたいなのが10mくらいの高さから突然現れて床に落ち跳ね返る。見た感じは発泡スチロールのように軽そうだ。数は15個くらいだ。何かが始まるのか。しばらく見ていたが何も始まらない。ラインだけ残して積み木が消えた。落ちてくる音、床にぶつかる音、積み木が落ちては消えるのを繰り返している。
なんかうざい。いつまで続くんだ。イライラする。立ち上がって靴下と靴を履き、積み木のそばまで寄ってみる。積み木の厚さは10cm、面や辺は円形になっていたり直線だったりする。角はほとんどが直角だが、ところどころ60度ぐらいだったりする。黒かったラインが白く輝き点滅した。どういう事だ。よく見るとラインが黒くなっている時は、積み木は小さな音をから立て細かく震えている。ラインとブロックを交互に見た。ラインの形に積み木をあてはめろという事か。私は幼児か。暇だし付き合ってやるか。辺が直線じゃないのは円。直角でない角を持つのは三角。残りは四角。周辺を固めてあとは隙間の大きなギザギザを合わせていくか。つまらん。すぐに終わる。持ち上げようとしたら、勝手に全ての積み木が移動してラインの中に納まった。もぉ、今やろうと思ったのに。
右側に音と共にまた積み木が降ってきた。今度は直径5mくらいの円形のラインだ。積み木の山はさっきより増えている。
とりあえず円の周辺をあてはめていくか。適当に隙間を空けつつ並べていこう。持ち上げようとしたら積み木は浮かび円の周辺に張り付いた。考えるだけで動くなんて楽なパズルだ。これはこっち、あれはあっち、裏返したりしながらギザギザを合わせていく。内側に三角形の穴が開いている。今度は三角か。組み込んでいくと内側に四角形の穴が現れた。すべてを埋めて組み上げた積み木を少し離れた所から眺めた。丸、三角、四角、バラバラだったのが一つになっただけの形だ。つまらん。
また右側に音と共に積み木が降ってきた。5mの円形ラインが新しく描かれている。積み木の量はさっきの5倍はありそうだ。今度は積み木の厚さが約10cmから約50cmまで5種類あるようだ。
とりあえず厚さごとに分けて、さっきのように周りからそろえていくか。厚さ50cmで周りが円形の積み木を持ち上げようとしたら勝手に動き出し、厚さごとに分かれ5つの山ができた。厚さ50cmで周りが円形の積み木が円周にいくつか張り付いた。さっきの繰り返しか。面倒だな。そう思いながらこれはこっち。あれはあっちへ。いくつか組み立て始めたら、突然残りの積み木が一斉に、ふわっと浮いて次から次へと動き出し、一番薄いのが一番上に5層に重なり大きな円柱が勝手に組みあがった。同じような事、分かり切った事はしなくてもいいという事か。
また右側に音と共に積み木が降ってきた。先ほどあった1mの円形のラインがまた出て来た。少し離れた左側に四角形のラインが立ち、右側には三角形のラインが立っている。どちらも幅は約1mだ。今度はほとんどが曲線を持っている積み木だ。組み立てて表面ではないと思われる部分は大きなギザギザだ。直線や90度の角度が付いているものは少ない。
これを組み立てるのか。どんな形にだ。さっきとは違う事は分かるが、具体的にどう違うのだろうか。なんとなく周りをぐるぐる回ってみた。四角形と三角形のラインが立っている理由が分かった。3方向から見て円形、三角形、四角形に見える状態にするという事だ。円柱の片方をつぶしたような形だ。イメージが出来ればあとは簡単だ。まずは底の部分の円と一番上の両角を作り、隙間を埋めていけばいいだけだ。一番下になる円を埋め、横に上に乗せる両角とその隙間を埋めた形ができた所で、残りの積み木がまた勝手に動き出し、中間部分まで組み上げ横に作って置いた角の部分が浮かび上がりパズルを完成させてしまった。ありゃま。考えはあっていたが、自分で作ったという達成感が湧かない。なんだかなぁ。そう思ったら、3方向に組みあがった積み木とラインは、濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。
ボッ 突然、低い音と供に空中に黒いピンポン玉が一個突然現れた。手を伸ばすと届きそうな距離だ。ボッ 音と供にまた空中に黒い球が横に一個現れた。そのまま見ていると、3個、4個、5個、音と供に横に並んでいく。少し離れて6個、7個と続き10個まで並んだ。黒い球の出現と同時になる音は少しずつ高くなっていくようだ。一瞬、間があって1行10個が10列並んだ。100個だ。100に並んだ面が後ろへ倒れ、10段積みあがり立方形に並んだ。1000個だ。立方形に並んだ塊が同じように横に10個、10列、10段と順に増えていきまた立方形に並んだ。100万個だ。
ボッ 右側に低い音と供に空中にまた黒い球が1個浮かんだ。横に1個増えて2個になった。2個が2列並んで4個が四角く並んだ。4個がもう一組出てきて上に重なり立方形に並んだ。8個だ。立方形に並んだ塊が横に2個、2列、2段と順に増えてまた立方形に並んだ。64個だ。立方形に並んだ塊が同じように横に2個、2列、2段と順に増えてまた立方形に並んだ。512個だ。
ボッ また右側に低い音と供に空中にまた黒い球が1個浮かんだ。横に1個増えて2個になり3個になった。3個が3列並んだ。9個だ。9個の面が3段積み上がり立方形に並んだ。27個だ。立方形に並んだ塊が横3個、3列、3段と順に増えていきまた立方形に並んだ。
分かるか~。立方形に並べるのが好きなようだ。桁数が多い数字には3桁おきにカンマを入れるのはそのためか。カバンから電卓を取り出して計算してみた。729個だ。10進法、2進法、3進法、そこまではなんとか分かった。なんだこれは。算数のテストか。数を数えるだけならいいけど、ここまでにしてくれ。これ以上進んで数式が出て来たらついていけない。そもそも数学でも化学式でも数式を理解する能力がないから、何を意味しているのかさっぱり分からない。大きい、小さい、どのくらいの差などの単純なイメージにしてほしいものだ。そう思ったら、私の周りに3方向に並んだ立方形の黒い球の塊は、濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。
ポワッ 泡のような音と供に現れたのは縦の円柱で空中に浮いている。下が赤、順に、オレンジ、黄色、緑、青、そして一番上が紫のグラデーションになっている。一番下の赤の底の部分に薄い白いリングが浮いている。「わぁ」みんなで一斉に叫ぶような声と供にまた黒い球が現れた。またかっ。「わぁ」叫ぶような声と供に隣に黒い球が現れ横に増えていく。「わぁわぁ」煩いな。今度はなんだ。年末年始のカウントダウンの中にいるようだ。声と数字か。そう思った瞬間、目の前に文字が沢山並んだ。左側に算用数字の12345、アラビア数字、漢字数字の一二三四五など、右側にアルファベットのone、two、three、four、five、キリル文字、ハングル文字など、中間には、漢字の十百千万、エジプトのピラミッドに描いてあるような絵文字、見た事もないような絵や文字が並んでいる。左側は表意文字、右側は表音文字、真ん中は表語文字なのだろう。過去から現在までの世界中の数字の5だ。
世界でこんなに多くの表現がある事に驚いた。もちろん読めない。「わぁ」と聞こえていたみんなで一斉に叫ぶような声は、それぞれの文字の発音を同時に発したからだった。黒い球が6個になった時、表現も一斉に変りそれぞれの文字が同時に声を出している。黒い球が並び始めた。気が付くまで待っていたのか、今度は10進法だけの早送りバージョンだ。立方形に並ぶと小さい球の塊になり、横、縦、段と順に増えていき、立方形になる動きを繰り返す。永遠に繰り返すかと思った時、何か変化が起きている事に気が付いた。何かが違う。球か円柱の色か、なんだろう。気になりしばらく見ていると、白いリングがさっきより少し上に浮かんでいる。単位が大きくなれば上に上がるという事か。なるほど数字をイメージに直すとこういう事になるのか。でもまだ底から少し浮いただけだ。一番上の紫は相当な桁数の数字になるだろう。それこそ宇宙サイズ、天文学的数字か。そんなに大きな数字を使う時があるのだろうか。
大きな数字を扱える事は分かったけど小さな数字を表す時はどうするんだ? と思ったら、グラデーションの円柱が上下反転した。今度は赤が一番上になっており、白いリングが一番上に浮いている。なるほど! どこまでの小さな桁数が表せるのか知らないが、先ほどの白いリング上がり方を考えると素粒子レベルの先まで表せるという事だ。きっと指数的な桁上がりがないと白いリングの動きは目立たないのだろう。
重さは? いや質量か。重力の強さで重さは変わるけど質量は変わらないんだっけ。違いがいまいちはっきり分からない。いつの間にかグラデーション円柱は、竹を割ったような半円柱になっている。一番下の赤に薄い白い円盤を刺したような状態になっている。単位の目安は分からないが相当な大小の質量を表せる事は理解できたと思う。
それなら時間は? 今度はグラデーション円柱が横になった。さっきとは違う。両端が紫で真ん中が赤だ。白いリングはちょうど真ん中の赤の所にある。このグラデーション円柱のメモリスケールから見れば、永遠の時間と思える数億年でも、そんなに大きく動かないのかも。でもこの大きさ、質量、時間スケールはいつ使うのだろう。
黒い球の塊、数字を表す文字、グラデーション円柱は濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。
さっき、声と一緒に世界中の数字の表記が出ていた時、気になる文字が左の片隅に見えていた。どこの文字だか知らないが、数字が増えると縦に伸びていく表記だ。細かく変わるのだが、上に伸びる分にはゆっくりだから気になったのか。縦書きでも下に伸びていかないから気になったのか。数字、ギリシャ文字も桁が増えると新しい文字が増える。その見えていた文字は桁上がりのタイミングがずれていたから気になったのかもしれない。
ボッ 突然、低い音と供に空中に黒いピンポン玉が一個、縦線が2本現れた。ボッ 音と供にまた空中に黒い球が縦に並んで2個現れた。さっきと違う。黒いピンポン玉、縦線2本は少し下に下がって、その上にピンポン玉が2個。縦線だと思っていた一つは数字の1だった。数字の1の上に2。縦線の上にスラッシュのように傾いた線。2の表記が少し下がって3の表記が現れた。帯のように上に表示が増えていく。3は横線 4は逆スラッシュ 5は縦線が2本11のように並んだ。横に円の下半分、アルファベットのUのようなものが表示されている。これが5という事か。6はUに縦線が重なった。黒いピンポン玉は縦に5個並び1個が右下横に並んでいる。7はUにスラッシュが重なった。8はUに横線が重なった。9はUに逆スラッシュが重なった。10は円の上半分、アルファベットのUを上下逆にしたような形が表示された。11は逆Uに縦線が重なった、黒いピンポン玉は縦に5個が2列並び1個が右下横に並んでいる。1つずつ数字が増えていき14までは6から9までと同じように、逆Uに傾きに意味のある線が重なった。15は二重線のUと丸が表示された。16は丸の中に縦線が入っている。黒いピンポン玉は縦に5個3列並び1個が左端下の角手前に並んでいる。16から29までは丸の中に1から14まで図形が入っている。黒いピンポン玉の増え方も同じだ。30は二重丸と横に十字の上に縦線がある。黒いピンポン玉は縦5個横3列前後2段に並んでいる。30段に垂れ下がった帯はかなり長くなった。31は縦に縦線2本が並んでいる。黒いピンポン玉は30個の塊から少し離れて上に1個並んだ。32は縦線の下にスラッシュだ。ずっと見ていると、31から59まで縦線の下は1から29までの繰り返しだ。黒いピンポン玉の並び方も同じように並んで増えている。60は十字の上にスラッシュで黒いピンポン玉は30個ずつの塊が縦に2つ並んでいる。90は十字の上に横線。十字は0を表しているようだ。たぶん30進法だ。試しに899まで待ってみた。驚いた事に870まで一気に早送りのように表示され、870からさっきまでの表示スピードに戻った。帯はかなり長く伸び数十メートル垂れ下がっている。899は丸の中に逆Uと逆スラッシュが重なっている図形が縦に2つ並んでいる。900は縦に並んでいた図形がそれぞれ十字になり上に縦線が新しく表れた。黒いピンポン玉の30個ずつの塊は縦5個横3前後2段に並んでいる。やっぱり30進法だ。3桁になった。この文化は数字を上へ伸ばしていくようだ。黒いピンポン玉の並び方は数えやすくする意味ではなく、30進法の考え方を表していたのだ。そういえば2本の縦線、二重線のU、二重丸は1回しか出てこなかった。数字や記号の並んだ帯が上昇し、一番下にあったスタートの1の所が目の高さに戻った。900までの表示がそのまま残り塔のように立っている。やっぱり5、15、30の時だけだ。2本の縦線は二重線と考えれば、二重の表現の時に共通の意味があるのだろうか。30は小さい方からの3つの素数、2、3、5を掛け合わせた数字だ。丸と二重丸、Uと逆Uと二重線のU、4種類の傾きのある線と二重線は、それぞれの素数と同じ数になる。二重線は小さな繰り上げを表す表現ともいえる。それぞれのくくりの中の一番小さい表示を、二重で表示しているという事なのだろう。
他にももう一つ気になる上に伸びていく表記がある。数字の表示の仕方は違うのだが、上へ増えていくタイミングが今見ていた数字と同じだったような気がする。
ボッ 体の右側に低い音と供に空中にまた黒いピンポン玉が1個、数字の1、スラッシュが並んで表示されている。さっきと同じように1段下がり、元の場所に、縦に黒いピンポン玉が2個、数字の2、逆スラッシュが表示された。また一段下がり、黒いピンポン玉3個がL字型に並び、数字の3、スラッシュと中心より左側に縦線が重なって表示された。一段下がり、黒いピンポン玉4個が四角形型に並び、数字の4、逆スラッシュと中心より左側に縦線が重なって表示された。一段下がり、黒いピンポン玉が5個になり四角形型の横に1個追加され、数字の5、スラッシュと中心より右側に縦線が重なって表示された。一段下がり、黒いピンポン玉6個が縦2横3に並び、数字の6、逆スラッシュと中心より右側に縦線が重なって表示された。1段下がり、黒いピンポン玉が7個になり縦2横3に水平に並んだ上、左手前の上に1つ重なって乗っている、真ん中に数字の7、スラッシュに重なるように右上に逆スラッシュが付いている。1の表記に逆スラッシュが増えたようだ。7から12までは1から6の繰り返しに逆スラッシュが追加されたようだ。13から18までは右上の逆スラッシュが右下のスラッシュに移動している。19から24までは左下に逆スラッシュに移動した。25から30までは左上にスラッシュに移動した。30は6の表記の左上にスラッシュを重ねているが、その横に大きな横線とその上に1の表記であるスラッシュが表示されている。黒いピンポン玉は縦に2個、横に3列、それが5段になっている。30個の塊だ。31になった時、1の表記であるスラッシュが、上下に2つ表示された。大きな横線は0を表すようだ。31から899、そして900へと表示が一気に流れた。黒いピンポン玉30個の塊が縦に2個、横に3列、それが5段になっている。900個ある。横にはスラッシュと2本の横線が縦に並んで表示されている。こちらも表示方法が異なるが30進法だ。
縦横斜め線が複雑にからんだ表記が難しい。早送りのような表示で分かったが、線の場所が決まっているようだ。スラッシュと逆スラッシュ、縦線は左右に2か所、斜め線は角に4か所だ。0を意味する単独表記の横線。
縦2個横3列上下5段の黒いピンポン玉の塊が動き始めた。縦2個上下5段になった面をこちらに向け左右に分かれ元に戻った。回転し横3列上下5段の面をこちらに向け左、中、右と3列に分かれ元に戻った。縦2個横3列の角をこちらに向け上下5段に分かれ元に戻った。上3段が少し離れ下2段だけ、上1段だけが少し離れて下4段だけで、縦2個や横3個の面をこちらに向けて同じ動きをしている。30の塊が一つ増えて30の塊2つが同じような動きをしている。上下2段ずつに分かれた60個の動きが加わった。次に30の塊が上に少し隙間を空けて永遠と思える高さまで積みあがった。塊の隙間の手前には縦横斜めの記号が浮いている。今度は動きがなく所どころ光っている。光っている場所は、一番下は左奥、手前中央と手前右端。2~4段目は手前の両角。5段目は手前の右端、少し離れた次の塊の6段目は左端、7段目から上の段は手前の両端、左端、右端が順不同で光っている。しばらく見ていると上に積みあがった30の塊はすべて消え30の塊がひとつだけになった。回転と分裂の動きがまた始まった。その一連の動作を何度か繰り返している。
動きや光っている意味が分からない。縦2個横3列上下5段の塊になっているのだから、15個、10個、6個に分けることが出来る。素数2,3,5の掛け算だという事も分かっている。
黒いピンポン玉の塊、縦2個横3列上下5段の辺の部分に当たる場所に、縦線横線斜め線が現れた。2個の辺には手前側にスラッシュ、奥側に逆スラッシュ、3列の辺には左から順に無、左寄りの縦線、右寄りの縦線、5段の辺には下から順に無、右上に逆スラッシュ、右下にスラッシュ、左下に逆スラッシュ、左上にスラッシュが表示された。縦横高さの記号が内部に入り立体的に組合さり30種類の数字が表記された。
縦横斜め線で表現された数字の意味が分かった。スラッシュは1,逆スラッシュは2、縦線の左は2,右は4,斜め線は右上角から右回りに6、12、18、24を意味している。数字は多くて3画で、記号の足し算で数字の意味を表していた。スラッシュは奇数、逆スラッシュは偶数、逆スラッシュと右縦線の組み合わせは6の倍数、スラッシュと左縦線の組み合わせは残りの3の倍数だ。でも4と5の倍数の表記はない。10進法だと5の倍数は1桁目が0か5で分かりやすいが、こちらの表記では分かりにくい。もっとも10進法では、1桁目だけで倍数を判断できるのは2と5だけだ。しかも2の倍数は5個もパターンがある。こちらの数字では、時計計算の12、24、60は計算しやすいかもしれない。そうか。さっきの妙な動きは30だけでなく12、24、60の約数も動きで表していたんだ。
最後の光の意味はなんだろう。一連の動作をしている時に高く積みあがり所どころ光っている時に、もう少し見ていたいと思ったら動きが止まった。
まだパッと見て何の数字か分からないから、縦横斜め線で現れた記号を足して光っている場所の数字を書き出してみた。一番下の塊は2、3、5、7、9、11、13、17、19、23、29だ。もしかして素数か。試しに上の塊も算出してみた。上の塊は、1、7、11、13、17、23、29だ。それぞれに30足してみた。やっぱり素数だ。飛び飛びではあるが素数は手前の両角にしか現れない。こちらの数字表記は約数や素数が分かり易いのかもしれない。線を引きながら数える時、漢字文化では正の文字を使い、欧米では縦線4本と5番目の斜め線で束め、英語を使わない地域では四角形の4辺と5番目の斜め線で束ねる。想像であるが線を引きながら数える時、最初の30進法を使うこの文化では、5を基準として+とXを重ねた4本線と、次の5はU、逆U、〇を使い分けて束ね15まで数える。2番目の30進法を使う文化では、6を基準としてXと縦線3本を重ねた5本線に、次の6は斜め線を4か所の角で使い分けて束ね5回目の6は大きな斜め線で束ね30まで数えたのではなかろうか。
10進法が生まれた理由は、人間の指の数からだと考えられている。指を全部広げたら10本。1から9までの数字と0である。
30進法の文化を持つ生物は指が30本あるのだろうか。片手に15本ずつ、カニのハサミが左右で大きさが違う種類があるように11本と19本、13本と17本とか。黒いピンポン玉を縦5個横3列前後2段に並べて説明した数字文化を持つ生物は、小さな繰り上げがあるから同心円状に指が中心から5本、3本、2本とあるのかもしれない。その場合はタコやイカのように真ん中に口や目を付けたくなる。2本の腕の先が3つに分かれそれぞれに指が5本、それとも太さの違う腕が3本あってそれぞれに5本、3本、2本の指、利き腕があるように細かい作業用の細い腕の細い5本指、物をつかむ用の太い腕の太い2本指とか。腕が3本なら左右と前なのか上下に3本なのか。沢山の組み合わせが考えられるからどんな姿をしているのか気になる。もう1つの黒いピンポン玉を縦2個横3列上下5段に並べて説明した数字文化を使う生物は、昆虫の手足の様に3対の手を持ちそれぞれ5本の指を持つのだろうか。手は左右と前、上下に対になっているとか。どんな形なのか想像だけなら切りがない。
仮に腕が3本なら性も3種類。図形にするなら、丸に棒をつけた先に2本の線を付けて矢印のオス、3本の線で十字のメス、4本の線でエックス。オス、メス、エクスがいて2種類の性の親からもう一つの性の子が生まれるとか。好き嫌いな食べ物があるように、毒性の食物連鎖から3種の性により食べられる物が違うとか。性の遺伝情報は同時に3種類では不安定で成り立たず、2種類なら安定しもう一つの性が生まれるとか。
読み方はどうなんだろう。さっきから聞こえている風が吹くような水の流れるような火が燃えるような擬音化した音。これって数を発音しているのか。九九を覚えるのも大変だ。10進法だと81個で済む。インドでは19の掛け合わせだから361。30進法だと29の掛け合わせだから841。そんなに覚えられない。この文化の小学校に入学したら卒業するには苦労しそうだ。風呂場で肩まで浸かって「九九が言い終わるまで出ちゃだめよ」なんて親に言われたら毎日のぼせてしまいそうだ。考えてみれば世の中にはコンピュータの2進法、時間では1000、60、24、7、30、12、365があり、ミリ秒から年までの進法、単位、くくりがごちゃ混ぜだ。時間が12進法なのは、2、3、4で割り切れる一番小さい数字でありその倍数も使い、1週間が7日なのは月の満ち欠けの周期である28日を4等分したと考えられている。30進法だと4で割り切れないのが気になるところだ。パスワードは数字とアルファベットで36進法だ。大文字小文字を区別させると62進法だ。人類は10進法ではなく5進法でもよかったのかもしれない。指を閉じた時のグーを0、開いた状態のパーを5、左手を2桁目、右手を1桁目とすれば、左手の指の数に5を掛け右手の指の数を足せば30まで数えられる。右手の5は左手の繰り上げの1と右手0の表現のイチゼロと同じ意味になり無駄な動きとも言える。5本指だから効率よく6進法でも良い。同じように左手の指の数に6を掛けるだけで35まで数えられる。素数は1桁目が1か5の時にしか出てこなくなり数字の扱いや考え方が全く違ってくるかもしれない。この30進法を使う文化の文字はどんな表現なのだろう。くさび型文字、ひらがなやアルファベットのように音と一対一の文字。漢字や壁画のような象形文字。ピクトグラム、アイコン、絵文字。30進法を使うのだから高度文明の文字は洗練されているのだろうか。文法は単純で分かりやすくになっているのだろうか。
ヒュ~ チョロチョロ ボワ~ 風の吹くような音、水の流れるような音、何かが燃える火のような音が同時に聞こえた。正面からは水の流れる低い小さな音から高い大きな音までの4段階が順に繰り返し聞こえる。四角形の半分の枠、デジタル表示のCを寝かせたような形、短辺の長さが長辺の半分で表示されている。4段階の音の大きさに連動して、図形の開いた部分が上右下左に回転し右横に増えていき4つ並んだ。音が鳴る時は対応する文字が明るく光る。音が聞こえない時は何も起こらない。文字が光る時、音の大きさに比例して湿気の強さも感じる。湿気はどこで感じているのか分からない。指先でもなく体全体で感じているわけでない。塩味も感じるし獣の匂いもする。湿気と同じように音の大きさと比例して味や匂いの強弱を感じる。
左側からは風の吹く音が低い小さな音から高い大きな音までの4段階が順に繰り返し聞こえる。縦線の上の左側に返しのついた黒い線が表示されている。4段階の音の大きさに連動して、これも返しのある向きが上右下左に回転し右横に増えていき4つ並んだ。音の大きさに比例して冷気の強さも感じる。こちらからは甘い味がするし花の匂いもする。
右からは燃える火の音が低い小さな音から高い大きな音までの4段階が順に繰り返し聞こえる。四角形の一辺がない枠の図形が表示されている。4段階の音の大きさに連動して図形の開いている向きが上右下左に回転し右横に増えていき4つ並んだ。音の大きさに比例して熱気の強さも感じる。今度は辛い味がして酸っぱい匂いを感じる。
文字に読み方があるように感覚。味覚、嗅覚があり五感を伝えているようだ。他の感覚器官、未知の第6、7の感覚にも対応しているのだろうか。どういう仕組みで感じるのか全く想像すらできない。3系統4種類で12文字の文化なのだろうか。視覚だけでなく五感を持つ文字だからこれだけで伝わるという事なのだろうか。アルファベットが26文字。日本語は50音、濁点等を入れればもっと多くなる。中国では数千文字を使用する。8万5千文字以上、漢字を収録してある辞書がある。数が多ければいいという訳ではないが、12文字しかないってなんか拍子抜けした。
文字列が突然動き出した。風、水、火の4つの文字列が縦横高さを持つように3次元に並んだ。手前に風文字の返しついた線の向きが左から順に上右下左と並んでいる。奥に向かって水文字の半四角形の開いた部分の向きが手前から順に上右下左と並んでいる。上に向かって火文字の四角形の開いた部分の向きが下から順に上右下左と並んでいる。左手前端の隅は何もない空間だ。それぞれの3軸が交差し、それぞれがパーツとして一つの文字は中心から順に風、水、火と組み合わさった。発音無しと4種類で5種類の3乗で125文字の一覧の立方体が出来あがった。何となく文字の一つを見つめてみた。例えば、風の横棒の左側に返しがある図形、水の半四角形の下線のない図形、火の四角形の右側が開いた図形を選んでみた。意味は分からないが、風、水、火の音が聞こえ、冷気、湿気、熱気の感覚や味覚、嗅覚が音の4段階の大きさに比例して感じる。どれが母音なのか分からないが、発音は母音、子音、孫音として発音するのだろうか。数字も文字も3画で表す文化だ。数字と文字を見間違えそうだが、数字は直線か丸っこく、文字は返しが付いていて角張っている事で区別出来そうだ。数字は表意文字、文章は高等な表語文字を使うようだ。使われた時代が違うかもしれない。絵文字、ヒストグラムも使うのだろうか、文化が違うと常識も違うし通じないから意味がないかもしれない。
アラビア数字は指と同じ数の10種類。ヨーロッパにインド数字が伝わる時に、アラビア人から教わったからアラビア数字と表現されるようなったと伝えられている。何もないという意味の0の発明と位取りの扱いにより、筆算しやすく言語の境界を越えて使われるようになった。同じような事が30進法の文明にも言えるのだろう。インド数字からアラビア数字への形の変化は角の数を図式化したとも言われている。俗説ではあるが数字の形を覚えるには分かりやすい方法だ。2はアルファベットの「Z」、3はギリシャ文字の「Σ」のように角の数を図式化して 数字の形を成り立たせている。他の数字は小さな角を付けたり、線を延長させたり、特に9はこじつけのように思えてならない。角の数から数字を新しくデザインするならば、1は「L」、2は「T」、3は「F」、4は「+」の組合せの方が単純だ。今ある文字を角ばらせて角を強調した形で、例えば5は漢字の「七」、6は「干」、7はカタカナの「モ」、8は「キ」、9はひらがなの「も」、0は角のない「0」のまま。あとは「Σ」と「3」のように向きを変えれば文字と数字は見分けがつく。
数字は指の数から成り立ったとしても、文字はいきなりこんな構造体に出来上がった訳ではあるまい。文化の統合など長い歴史を経てこうなったのであろうが、2文字で125の2乗の1万5千以上の表現、3文字で3乗の190万以上の表現が出来る。200万近くの意味を持つ言葉を話す文化ってどんなのだろう。「これとあれがそうなって、やがてこうなった。私はこっちになった方がよかったと昔は思っていたけど、今はこう思う。あなたはどう思う?」こんな会話が3文字で終わるのだろうか。3文字は無理だな。これあれそれなど、事柄の数だけ文字は必要だ。それにしても常用単語は2文字で表すのだろう。文法は分からないが時間軸、疑問文など洗練されているのだろう。日本語と英語でも文法は全く異なる。日本語は主語と述語が離れているから、最後まで聞かないと、疑問文か否定文かさえ分からない。
立方体に並んでいた文字が崩れ始め、それぞれが勝手に動き始めた。
あっ、ここで考える事を止めた。目をつむって、両手を広げ目の前に押し出した。ストップ! 10からZEROまでゆっくりと頭の中でカウントダウンさせた。10秒間の思考停止、何も考えない無の境地になるにはこれに限る。これ以上は無理。また何か新しい事、例えば文法などの何かが始まりだしたらもうついていけない。それに疲れた。五感を使って意思疎通が一瞬で終わる文化なんて想像がつかない。もっともその前に共通概念が必要だ。この文明と道徳、価値観が同じならいいが、違いすぎると共存できない。敵対する事になったら・・・。この先は考えたくない。そっと目を開けて見た。
数字の塔と文字一覧のキューブは、濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。
ヒュ~~~ン 何かが落ちてくるような音。目の前の床あたりに 一辺の長さ約30cmの図形が現れ、幅約3cmの黒いラインで縁取られている。またか。見ていると三角形、四角形、三角形、五角形、三角形がぐるっと回りを囲んだ。トトトトトントトントン また10mくらいの高さから、音と共にグレーの長さ約30cmの棒が降ってきて山になった。今度はなんだろう。しばらく待ったが何も変化しない。図形の辺の長さと棒の長さの見た目は同じのようだ。
とりあえず棒を1本、手に取ってラインの1本と合わせて確かめてみようと思った。1本の棒が浮き上がり横に動き最初に描かれた三角形の1本と重なった。同じ大きさだ。とりあえず全てのラインの上に棒を重ねてみよう。突然、棒が一斉に動き出し、驚いて後ずさってしまった。見ていると棒はフワッと四方八方に散らばり床のラインの上に重なった。そうだった。考えるだけで物が動くんだった。1本ずつならなんとも思わないが、一斉にバラバラに動くと驚いてしまう。行ったり来たりしなくて済むから楽。単純作業は同時並行処理で時間短縮になるのは確かなのだが、最終形のイメージへ一気に物が動く事に慣れない。横を見るとまだたくさん残っている。線の数である18本使っただけだ。こんなに沢山何に使うんだ。ログハウスでも作るか。絶対違う。なぜ三角形が3個あるのだろう。ラインの角に棒を立てて同じ三角柱を3つ作る事は間違いなのは確かだ。同じ向きで重ねて高い壁のログハウスでは棒の数が足りなさそうだ。何をしていいのか分からず、とりあえず立ててみるか。また一斉に棒が動いてラインの角に棒が垂直に立った。椅子やテーブルを逆さにしたような形になった。三角足、四角足、五角足ができた。柱の上部を棒でつないで蓋みたいにする。四角柱はサイコロになった。当たり前だ。他は三角柱が3個、五角柱が1個。なんか違和感がある。サイコロには薄い半透明なグレーの幕が張っている。
どういう事だ。サイコロ以外の図形の蓋の部分を外し、床と柱が立っているだけの状態にした。それぞれの柱を中心に傾けたり広げたり、花がつぼみから開くようなイメージだ。三角形の一つ、3本の柱を真ん中に寄せて、4面体の状態にして止めた。面に薄い半透明なグレーの幕が張った。
そういう事か。正多面体になった時に幕が張る。三角形、四角形から4面体、6面体ができた。五角形もできたはず。それぞれの一辺に五角形を作るように周りを囲むように立て、同じ形を作り上下逆にしてかぶせた。12面体だ。すぐに幕が張った。
三角形があと2つ。鏡の上に三角錐を乗せたイメージが浮かんだ。三角形4つで作った4面体を面で繋げた形になるように、棒を9本使い、6面体を作り三角形のラインの上に置いた。斜めになっているが6面体は三角形でも四角形でも作れる。しばらく見ていたが何も起こらない。置き方が雑だったのかと思い、ラインからはみ出ないように置かれているか確認した。実際に手で置いた訳ではなく、勝手に動いて乗るから雑な性格は関係なかった。なぜだ。今までと何が違う。ぐるっと回りながら眺めてみた。繋ぎ合わせた面の頂点は棒が4本になっている。繋げる前の4面体では頂点から出ている棒の数はどこも3本だ。これがいけないのか。もう一度考え直してみる。三角形の辺に三角形を作り、立てて頂点を繋ぎ、逆三角形を作り、同じ形を作って上下逆に重ねて・・・。違う。7面を2つ重ねて14面体を作ろうとしたが8面体が出来ている。上の三角形は下の三角形を180度回転させ角と角をつなぎ合わせた形だ。なんてことはない。一歩横へずれて上の三角形の辺を手前にしてみるとピラミッドの底を上下に付けた8面体だ。三角形を底にしているだけでこんなに分かりにくくなっている。8面体を理解したからか、いつの間にか幕が張っている。
あと1個。隣の五角形をもう一度見た。三角形6個だと平面になってしまう。正三角形5個で五角錐を作ればいいんだ。12面体の上に作った5角錐を重ねていく。大きな60面体になる。棒の色が所どころ白っぽいグレーになっている。それを残りの三角形の上に乗せた。しばらく見ていたが何も起こらない。組み上げた5角錐の頂点の一つが光り周りの棒も光った。つなぎ合わせた五角錐の辺の頂点が光り周りの棒も光った。2か所が交互に光る。どうして幕を張らないんだ。あっ、頂点から出ている棒の数が違う。五角錐の頂点からは棒が5本。五角錐3つが組み合わさった頂点からは棒が6本ある。正八面体の時と同じだ、同じ失敗をしている。単純に三角形で五角錐を組み上げるだけではダメなんだ。三角形6個の六角形の平面は辺に折り目を付ければ、3軸の星型になり重ねればひし形や三角形にもなる。平面でしか考えない思い込みが間違いを誘ってしまった。60個の三角形を組み合わせた五角形や六角形が見える多面体は、サッカーボールの柄と同じで12個の五角形と20個の六角形から構成されておりフラーレンという形だ。白っぽいグレーの棒があるのは使いすぎたからなのか。正多面体にしなくてはいけない。正多面体の定義はなんだっけ。同じ形の面でどの角も同じ数の面を持てばいいんだっけ。球の中に入れた時、どの角も球面に接するんだっけ。全部でいくつあるんだっけ。5種類でいいのか。最初にやり始めた時と同じようにそれぞれ辺に三角形をつけ立てて、今度は隙間に2個ずつ三角形を増やして作った。同じ形を作り上下逆にして上にかぶせた。これって5角形の傘、周辺のそれぞれの辺に三角形をつけ上下に向き合わせた形だ。どこから見ても5角錐が見える。正20面体だ。いつの間にか幕が張っている。
棒は使い切った。1本も残ってない。これで出来上がりなんだろうけど、もっと棒が欲しい。同じ長さ、半分の長さ、2倍の長さ。それらを辺の角、辺の真ん中から三角錐、四角推をつけて角をつけたい。同じ形の正多面体の中心を重ねてずらせて星形に尖らせたり、らせん状に成長させたりしたい。間違えて作ってしまったフラーレンもどきのように三角形、四角形、五角形、六角形を組み合わせて球を作りたい。そんなことを思っていたら、5個の正多面体は濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。
ヒュ~~~ン 何かが落ちてくるような音。パタタタタパタタパタン また10mくらいの高さから 音と共に板が突然降ってきて、目の前の床に山が3つできた。左の山には、3枚の板が山の上に立って浮いている。板の色はグレーで厚さ約1cm一辺約30cmの正三角形だ。グレーの板が2枚、黒い半円が3辺に一つずつ描かれているグレーの板が1枚。半円は直計約5cmで直径部分と正三角形の辺が接するように描かれている。下の山には辺の中心に黒い半円が描かれていたりいなかったりする。中央の山には、2枚の板が山の上に立って浮いている。板の色はグレーで厚さ約1cm一辺約30cmの正方形だ。グレーの板が1枚、黒い半円が4辺に一つずつ描かれているグレーの板が1枚。半円は直計約10cmで直径部分と正四角形の辺が接するように描かれている。それぞれの板の中央には、小さな上向きの矢印が濃いグレーの色で付いている。下の山には辺の中心に黒い半円が描かれていたりいなかったりする。右の山にも、同じように2枚の板が山の上に立って浮いている。板の色はグレーで厚さ約1cm横幅約30cmの正六角形だ。グレーの板が1枚、黒い半円が6辺に一つずつ描かれているグレーの板が1枚。半円は直計約5cmで直径部分と正六角形の辺が接するように描かれている。それぞれの板の中央には小さな上向きの矢印が濃いグレーの色で付いている。下の山には辺の中心に黒い半円が描かれていたりいなかったりする。今度はなんだ。とりあえず枚数の少ない一番小さい山、左の正三角形の板を、絵柄が見えるように全部並べてみよう。板が動き出し一列に並んだ。やっぱり慣れない。一斉に動き出すとビクッとなってしまう。9枚ある。同じ絵柄はない。裏側はグレーの一色で全部同じだ。
ポポン 太鼓を叩く様な音がして黒い半円が2つ、並べた板の上に現れた。くるっと回転し直線部分がくっつき円になり消えた。同じ映像が何度か流れる。板を円で繋げろという事か。9枚の板を並べる簡単なパズルだな、まず真ん中に3辺全てに半円のある板を置き、2辺に半円のある板でくるくると回転させ向きを変えながら繋げていき、1辺にしか半円のない板で繋いだ。半円の書いてある板は7枚だからすぐに終わった。何も書いてない板が余った。隣に大きな正三角形の黒いラインが現れた。完成形が正三角形になるように作れという事か。パタパタと繋げてやってみた。何枚か組み直し、角にグレー一色の板を置いた。なんてことはない。幼児用の知育玩具並みだな。
中央の正方形の板の塊全体がほんのりと何度か点滅した。今度はこちらをやれと言う事か。中央の正方形の板を、絵柄が見えるように全部並べてみた。板が動き出し縦横4列に並んだ。16枚ある。同じ絵柄はない。今度は回転しない。板の真ん中にある矢印は全部上を向いている。裏側はグレーで全部同じだ。まず真ん中に4辺全てに半円のある板を置き、3辺に半円のある板で繋げていき、次に2辺に半円の板、1辺にしか半円のない板で塞ぐだけだ。三角形の時と大して変わらない。パタパタと繋げてやってみた。あれあれあれ。半分も並べないうちにこっちが足りないあっちが余る。やり直しだ。そんな簡単な問題じゃなかった。なんとなく渦巻形の絵柄になるのかと思っていた。あれこれやっているうちにやっとできた。何も書いてない板が余った。これでいいのか。思った通り隣に大きな正方形の黒いラインが現れた。今度も同じように完成形が正方形になるように作れという事か。今ある凸凹に並べた形から正方形に並び変える。どう見てもできそうもない。何となくこの板を回転させればこのつなぎをこっちに向けてって考えていたら、中央に描いてある矢印がすべての板から消えた。一斉にそれぞれの板が少し自転し元の位置に戻った。今度は回転させていいんだ。あれこれやっていたら正方形に並べることが出来た。何も書いてないグレーの板は凹みのある場所に納まった。また隣に大きな正方形のラインが現れた。今度は真ん中に矢印が付いている。矢印の向きをそろえて正方形に並べろという事か。消えていた小さな矢印はそれぞれの板の真ん中に復活していた。そんな事が出来るのか。4辺に半円が付いているのを真ん中に置き、最初からやり直した。今までの経験から、どの板をどの場所に置くと後が続かないとか分かってきた。あれこれやっているうちにやっと出来た。完成だ。できないと思っていた事は間違っていた。
隣の山の正六角形の板の山を見た。きっと各辺に半円の有る無しで、2の6乗で64枚なのだろう。とりあえず枚数を数えてみたらやっぱり64枚だった。最初の半円を繋げる事さえ、かなり時間がかかりそうだ。これも最終的に組みあげると外側に半円のない巨大な正六角形になるのだろうか。そもそも正六角形になる枚数なのだろうか。ハニカム構造の並び方になるのだから、中央に1枚1周目6枚2週目12枚3週目18枚4週目24枚だから合計で61だ。3枚余る。正六角形にはならないけど、点対象に並べる事が出来るのだろうか。仮にこれをクリアしたら次は何が出てくるのだろう。
ヒュ~~~ン 何かが落ちてくるような音。パタタタタパタタパタン また10mくらいの高さから 音と共に板と箱が降ってきて、少し離れた所に大きな山が3つ増えた。さっきと同じだ。一つ目の山は、小さくなって幅約10cmの正方形だ。2枚の板が山の上に立って浮いている。グレーの板が1枚、4辺に赤、黄、緑、青の半円が一つずつ描かれているグレーの板が1枚。こちらもそれぞれの板の中央には小さな上向きの矢印が付いている。二つ目の山は、幅約10cmの正六角形の板だ。巨大な山の手前にグレーの板が1枚、6辺に赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の半円が一つずつ描かれているグレーの板が1枚浮いている。こちらもそれぞれの板の中央には小さな上向きの矢印が付いている。三つ目の山は、幅約10cmの正六面体、サイコロだ。巨大な山の手前に全面がグレーの箱が1個、6面が赤、オレンジ、黄、緑、青、紫に色分けされた箱が1個浮いて自転している。こちらも一つの面にだけ中央に小さな矢印が付いている。
一つ目の正方形の山はかなり大きい。さっきは各辺に黒い半円の有る無しだったから、2の4乗で16枚。今度は5の4乗で625枚。最終完成形は色合わせで繋げた縦横に25枚ずつの正方形。本当にできるのか。ジグゾーパズルと同じように、まずは周辺に置くであろう1辺に半円のないのとに2つに分けて・・・。山の中から1辺に半円のついてない四角形の板があちこちから浮かび上がり小さな山が一つできた。思っていたのよりかなり多い。周りの数だから96枚になる。最初のやり方に戻ろう。16枚の時でさえ3段階で考えた。分け方を変えよう。真ん中に置く4辺が半円のカードに繋がる3辺が半円のカード、それに繋がる2辺が半円のカード、残った1辺が半円のカード。3つの山が出来た。矢印の向きの色分けはまだしていない。やっぱり無理だ。数が多すぎる。考える気も起きない。
二つ目の山の正六角形の板の数は、今までの流れから、7の6乗で・・・、とりあえず6桁の個数だ。これも最終的に組みあげると外側に半円のない巨大な正六角形っぽい形になるのだろうか。スタジアム並みの広さのモザイクタイルの芸術品になる。
三つ目の山の箱の数も、二つ目の山の板の数と同じはずだ。これの完成形は巨大な箱で外側がグレーで、中にそれぞれの面を同じ色で繋げた箱が組み込まれるのだろうか。色は同じ条件だから外側の色も好きな色にする事も出来るはずだ。
4色の四角形。6色の六角形と六面体はそれぞれの大きな形に組み立てられるのだろうか。勝手に出来るものと思い込んでいるが、数式を並べて出来る出来ないを説明されても理解できない。図解で説明してほしいものだ。
これもクリアしたら次は何が出てくるのだろう。これは何かのテストか。私は迷路のモルモットか。観光地にある5つのポイントを回って脱出する巨大迷路で遊んだ事はある。出るまで3時間くらいかかった。途中でズルして下をくぐって隣の通路へ移動したが、なんか負けを認めたようで悔しくて、ゴールへたどり着いても心から喜べないような気がして、元の場所へ戻ったのを覚えている。晴れていれば太陽の向きでどの方向へ進んでいるのかわかるが、曇りの日は方向感覚が無くなり、もっと難しくなる。平面の迷路だったが、将来、民間人が宇宙ステーションへ旅行出来るようになれば、多層階建てのブロック状の迷路は、人気のアトラクションになるかもしれない。床、壁、天井は全く同じ柄で、上下前後左右も判断できなくなり相当難しい迷路だ。くしゃみでもしようものなら、体が自転し目を開けたら、今まで来た方向もわからなくなるかもしれない。エッシャーの絵のように、無限階段や床、壁、天井をつなぐねじれた階段、メビウスのような通路。目の錯覚を利用した通路。いろいろあって楽しそうだ。部屋は立方体より球をつなげた方が面白いかもしれない。斜めもありだから、球の通路を通り抜けたら正20面体の部屋があって丸い通路も20個。だめだ、難しすぎる。戻って来た時、どこから来たのか分からない。富士の樹海、鍾乳洞の探検と同じだ。目印かロープで繋がなきゃ戻れない。いろいろ考えていくとできない事ばかりで、なんか面倒くさくなった。そもそも試験は嫌いだ。山の一つでも蹴散らしてやろうと、3歩ほど走り右足を蹴り上げた。が、蹴りだした足が山に接触する直前に山は突然消え、足は空を切った。八つ当たりもできないなんて、なんか欲求不満だ。
他のすべての山もラインも三角形や四角形に並べた板も、濃霧の中に消えていき、そしてまた白い空間だけになった。
横になって白い空間をボーっと見上げていた。本来なら天井か青い空に浮かぶ雲が見えているはずだ。ふと上はどっちだなんて思った。今横になっているから、見ている方向が上、重力の反対方向が上とも言えるし、頭と足を基準軸にすれば頭の方向が上とも言える。左右は変わらないが、鏡に映す文字は左右逆になる。鏡の前では右手を上げると左手を上げているように映るが、目の位置から見れば右側左側に映る方向は変わらない。真ん中は真ん中だ。
ポワッ 泡が破裂するような音がして「上、中、下、左、右、前、後」突然7個の漢字が目の前に現れた。文字の持つ意味の場所にそれぞれの文字が浮かんでいる。そりゃそうだ。違っていたら違和感に悩まされる。黒いピンポン玉の数え方からどの母国語を使っていたのか観察していたのだろうか。「上」の文字の周りには天井、神、鳥。お上など文字が浮かび、それぞれの後ろには、屋上、神話、鳥の種類や部位、政治や政治家の名前などの文字が並んでいる。それぞれの7つの文字のすぐ後ろには同じ意味の他言語文字が沢山並んでいて、周りには単語から連想される別の単語が沢山並んでいる。後ろや周りの単語にもそれぞれ多言語や関連単語が並びどこまでも連続している。当然の事だが殆どが分からない。多言語しかり、難しい漢字、熟語は読めないし意味も分からない。一瞬にして白い空間は文字の連続で埋め尽くされ、後ろの方は別れたり合体したり連続している列の中にもぐったり、まるでジャングルの中のツタのようだ。文字には発音の他に、映像、音、匂い、感触、味が付いているのを感じる。遠く離れた文字、例えばリンゴなら、リンゴと言う発音や、かじった時の租借音、匂いや味を嗅ぎ分け手触りなどの五感が伝わってくる。仕組みを理解はできないが、何かを選ぶように意識すると伝わってくる。歴史上の出来事も辞書を引くように単語を意識すればその場で見ているように体験できる。いつのまにかそれぞれの単語は、全て半透明で表面が銀色の球体に変わっている。表面には他の銀色の球体が映っている。数珠のように並びところどころ数十本枝分かれしている。複雑に絡み合い白い空間を埋め尽くしている。球体の連続はここから見ると、くしゃくしゃに丸めた網の中にいるように見える。この網の塊を外から見たら、脳の形でもしているのか? なんて思ったら外側にいた。瞬間移動したらしい。銀色の網球が複数集まり一つの巨大な塊になっている。網球の中には小さな網球がたくさん集まり絡み合い、何重にも入れ子になり、それぞれが複数の網球と沢山の数珠でつながっている。網球や数珠のように見えるのは、全て並んだ半透明の表面が銀色な球体で、ものすごい数だ。一つの巨大な塊となった網球の表面は外側に向けて数珠が針山のように沢山立っており、遠くのものは産毛のように見える。大きな網球の一つに近づいてみるとここは科学分野っぽい。もっと近づいて行くと中の小さな網球は科学分野が細かくカテゴリー分けされている。巨大な塊をぐるっと回ってみると、ここは哲学、ここは宗教、医学、建築、工学のように大きなカテゴリー別にまとめられている。中心はどうなっているんだろう。中心へ向かって潜っていくと、思った通り本能の知識だ。衣食住性で4つに枝分かれている。衣食住の3つかと思ったが、食、住、性がメインで衣は住から枝分かれしたような感じだ。一番大切な性の知識、性欲がないと子孫繁栄は出来ない。性の根からたどって一番外側は医学、病理学、栄養学などになっていた。有史以前、類人猿とも人類とも判断のつかない時期からの、人類文化の歴史をたどるようにまとめられている。
外側から見るこの巨大な塊の網球の凸凹や密度は文明の進み具合なのか。産毛が発達し絡み合い束になりやがて網になり発達していくのだろうか。この文明の網球は、他の文明の網球と比較したり文明レベルを表しているのだろうか。インターネットで何でも調べられる時代になり情報共有が進んだが、この網球のように五感でリアル体験できるようになるにはまだかなり先の話だ。横になって一息つこう。
ドクン、ドクン 心臓のような音だ。「わっ!」突然どこから現れたのか、気が付くと周りに人が沢山いて一方向を向いて前後左右に整列している。驚いて立ち上がった。裸のリアルな人だ。右側に男、左側に女、後ろに並んで行くほど小さく若くなっていく。並んでいる方向の前に行くほど年を取っている。前後は年齢別か。左右は性別と筋肉、内臓、神経、血管、リンパ腺など、内部構造別のように沢山並んでいる。理科の実験室にある人形みたいだが動いている。さっきは気が付かなかったが、下の段には背中を少し曲げた類人猿や筋骨隆々な人類もいる。同じように年齢別構造別に前後左右に並んでいる。類人猿の下にもちょっとずつ違う種が並んでいる。前後左右に並んだ行列が上下に並び枝の様に見える。ずっと下には人や猿へ分岐した幹が見える。たどって行くと先端つまり一番外側にはゴリラやチンパンジーがいる。上下は進化の過程か。全体像は? 思った瞬間、樹木のような大きな構造物が一目でわかる外側へまた瞬間移動していた。正確に言えば移動したのか見ている物が小さくなったのか分からない。他に比べる対象物がないからだ。生い茂った太い樹を何本か集め根っこを中心にして球体にしたような形だ。とても巨大だ。それぞれの端、つまり表面には全ての生物が実物大で並んでいる。動物界、植物界、菌界、細菌、古細菌とあらゆる生物が表面にある。バクテリアや菌に近づくと、縦向きの大きさを表すグラデーション円柱が左側に現れた。赤が上だ。リングが少し下がっている。拡大されているのだ。食物連鎖など気になる事が沢山出てきた。小さな文明の網球が右側に出てきたと思いきや、対象物の周りに銀色の球体がたくさん並ぶ。こちら側半面が透明になりその中は、3D映像で捕まえ方や食べ方、鳴き声などの生活情報が流れている。食物連鎖の順に生物を思うとすぐに移動でき、あちこち表面を飛び回ってみた。地球は植物や虫、海洋生物が中心の世界のように見える。表面から中に入ると、横向きの時間を表すグラデーション円柱が頭の上の方に現れた。中心の赤には白いラインがある。白いリングは中心より少し左側の赤の中にある。実物大の恐竜がいたり、巨大な花や昆虫がある。生物が大きくなるのは酸素濃度が濃くなったからであり、その原因と成り行きなどの情報が、文明の網球が3D映像で流れている。もっと中心に行くと、白いリングは少し左側に動き。白いラインとの間が広まった。アンモナイトや三葉虫がいる。輪切りで見たいと思えば、瞬時にいくつものスライス状態に別れる。しかも切り口は自由に変えられ角度も変えられる。こちらの意図を読まれているような感じだ。アンモナイトの輪切り、ヒマワリの種の並び、中でも花粉やウィルスのように小さくなるほど幾何学的なアートに見えてくる。進化の樹木球を見ると、現在生息している生物はすべて勝ち組に見える。内部で樹木が何度もバッサリと切れ、同心球になっていて隙間が空いている。地球は今までに大量絶滅が10回以上ありその原因は、銀河系の宇宙線、太陽系内外の隕石、太陽の状態、火山や地震などの気候変動である事を、文明の網球が3D映像で表示している。同心円の球体から細い枝がいくつも伸びて枝分かれし増えていくのは、僅かな生き残りから、種の多様性、形態や生活を変え、環境に適した者が生き延びて大量に増えていく事が見て取れる。文明の網球は、種が違っても同じ形、違う形でも同じ機能を持っている進化の過程や、自然界の生物の中には、医学の発展に役立つもの、寄生では宿主の養分を取るだけでなく、宿主を餌にして食物連鎖を利用し目的の種へ到達する方法を得た経緯など、進化における手段の多様性を表示している。
進化の樹木球で対象物の周りに並んだ、いくつもの銀色の球体の3D映像は、見ていて面白い。しかし、数式、化学式、表やグラフは殆どが理解できなかった。有識者が見れば科学の発展に役立つだろう。私には小学生の図鑑レベルの利用しかできなかった。
文明の網球、進化の樹木球、各種グラデーション円柱、全てが濃霧の中に消えていき、白い空間だけになった。