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<R15>15歳未満の方は移動してください。

恋愛シミュレーションゲーム世界の定石。

作者: 高橋 香織

〈あらすじ〉何らかの恋愛シミュレーションゲームの世界に転生してしまったモブ子が、主要人物たちを遠巻きから眺めている話。

〈キーワード〉R15、異世界転生、女主人公、ハッピーエンド、ゲーム、ハピエン厨


よろしくお願いします!





 前世でよく読んでいた異世界転生モノ。なんちゃって中世ヨーロッパな世界観。ほんのり魔法があって、妖精やなんやらの逸話もあって、近所に伯爵令嬢のキラキラした美少女が住んでいた。ご令嬢というよりは、子供らしく天真爛漫な女の子。


ははーん。さてはこの娘が主人公の乙女ゲーな世界か。

そして平凡地味で宮廷貴族令嬢な私はモブだろうなぁ。

まぁこの世界の元となるゲームに心当たりは全くないけど。


 ご近所のキラキラ美少女を初めて見てそう閃けば、この世界というかこの国は貴族でも恋愛結婚が推奨されているし、何よりお誂え向きの舞台があった。

 おそらくゲーム本編となるのは15歳から三年間通うことになる王立学園だ。王侯貴族はもちろん、平民でも裕福層の子供は大抵学園に行っているし、貧しくても才能があれば奨学金で通うことができる。

 お誂え向きの「学びの場」兼「出会いの場」だ。


 あの美少女は伯爵令嬢なので当然通うだろうし、私も一応貴族の端くれ。何より将来親に続いて文官を目指しているので学園入学は必須だ。優秀な成績で卒業して就職に繋げたい。



 乙女ゲーといえばキラキラしいイケメンなわけだけれど、今のところ目ぼしいイケメンは見当たらない。第三王子が三つ上で丁度卒業と入学が入れ代わりだ。王族で同い年なのは王女様。王女様がいわゆるライバル令嬢ポジションなんだろうか。よくある宰相やら騎士団長やらのご子息は確か第一王子と一緒でだいぶ上のはず。王子同様次男三男がいるのかもしれない。


 推定主人公の美少女とよく一緒にいるのは同じくご近所の子爵令息。幼馴染み枠の攻略対象かと思いきや、このご令息は全くもって地味で平凡。長い前髪で目元がよく見えないし、服装も所作もなんというかもっさりしていて垢抜けない。隣にいるのがキラキラしい美少女なだけに、没個性が個性に見えるぐらいのモブっぽさ。

 これで攻略対象だとしたら、実は伝説級の才能があって、さらに前髪で隠された目元があらわになるととんでもない美形じゃないと話にならない。

 …いやぁ、いくらなんでもそれはないだろう。主人公本位のご都合主義がまかり通る乙女ゲーの世界だとしても。たぶん彼は単なるモブくんだ。




 この世界がどんなお話なのかに興味はあれど、積極的に関わりたいとも思わない。話の中ではモブであっても私は私。自分の人生がある。

 同じ貴族と言えど爵位も違うし、あちらは領地と行ったり来たりだがこちらは領地なしの宮廷貴族。親同士も特に仲が良いというわけでもない。前世でいうと小学校入学な年頃だけど、この世界ではお雇い家庭教師による自宅学習が主流。ただ王都のタウンハウスが近所というだけで、幼少期の今は特に関わり合うこともない。


 おそらく本編である学園には否が応でも同時期に通うことになるわけだし、今は気にしていても仕方ないなと推定主人公の美少女を横目で見ながら、私は私で普通に暮らしていた。






 ある日、街に買い物に出掛けた。高位貴族なら邸に商人を呼ぶんだろうけれど、しがない宮廷貴族でしかない我が家。お供はつけるけれど普通にお店に行く。

 目指す雑貨店までウインドウショッピングを楽しみながらぷらぷら歩いていると、いつもと違う雰囲気が漂う一角が。どうもやんごとない御人がお忍びで来ているようだ。忍んでなくてもそっとしておくのがマナー。とはいえ気にはなる。

 なんとなく巡らせた視線の先には地味な装いとアンバランスなほどキラキラした美少女がいた。…あれはどう見ても王女様ですよね。ご近所の推定主人公ちゃんに負けず劣らずというか、王族ならではの神々しさなのか、姫様というより王女様がしっくりくるギラギラに限りなく近いキラキラ感の美少女。さすがライバル令嬢ポジション。眼福です。

 つと視線をずらすと王女様の前にはなんと件のモブくんがいた。何かやらかしたのかね…ドンマイ。

 触らぬ神に祟りなし。何もなかったかのように通り過ぎた。




 またある日、近くの教会のバザーに出掛けた。一応貴族な我が家も多少寄付している縁もあってバザーの際は毎回行くんだけど、ちょっとしたお祭りみたいな雰囲気でいつも楽しみにしている。

 ぷらぷら歩いていると、シスターの隣で店番を手伝うキラキラした美少女がいた。教会に併設された孤児院の子のようで、お下がりなのかサイズも大きめでレースも飾りもない質素なワンピース姿。それが逆に素材を引き立たせるようなキラキラした美少女。「未来の聖女は君だ!」という清廉なキラキラ感。

 平民で孤児だけど聖女なんて、近所の天真爛漫令嬢が主人公だと思っていたけど、こっちが主人公かもしれない。

 そんなことを考えながらしばらく見ていると、美少女に話しかける男の子が現れた。例のモブくんだった。

 美少女好きだなモブくん。そりゃ地味で平凡な子より可愛い子のほうがいいに決まっているけれど、キラキラ眩しい美少女に話しかけられる強心臓は素直にスゴい。私なら自分のモブさに怖気づいて、キラキラのイケメンに話しかけようなんて全く思わない。ああいうのは鑑賞用だ。

 モブくんすげぇ。なんて思いながらまたぷらぷら歩きだした。




 またまたある日、図書館に行きたくて街の中心部に向かった。王都だけあって、図書館の広さも蔵書量も半端ない。幼児向けの絵本から閲覧制限のある専門書まで幅広く取り扱っている。読書スペースも、勉強会にもってこいな大型のテーブルを囲むタイプから籠り感のある一人掛けソファーまで随所に趣向を凝らしてあって、本を読む以外にも楽しめる。

 内心ワクワクしながら図書館を目指してぷらぷら歩く。街の中央広場を通りがかった時に突然子供の泣き声が聞こえた。そちらに目をやると女の子が派手に転んだらしく倒れたままギャンギャン泣いている。あらあら可哀想に。保護者は近くにいないのかしら? と思いながら遠巻きから見ていると、女の子に手を差し伸べる男の子が現れた。モブくんである。

 顔を上げた女の子はべそべそ泣いていてもわかるほどのキラキラした美少女だった。普通泣き顔なんてぐちゃぐちゃなはずなのに。立ち上がった姿を見れば最近流行りのリボンを取り入れた可愛いデザインの服で、裕福な商家のお嬢さんなことがうかがえる。

 というかまたモブくん美少女に声かけてるじゃん。モブくんの美少女遭遇率パネェな。




んん…?

タイプの違う美少女たちとモブくん…?



 ご近所の美少女を見たときのような閃きが広がる。



――あれ? あ。もしかしてこれ…、モブくんが主人公のギャルゲーか?

前髪で目元見えない系の冴えない主人公の。

前世知識の感覚で、ちょっと一世代かふた世代ぐらい前に流行ってた系の。

そんでこれ、幼少期の思い出エピソード的なやつ――?



そう思えば同世代にイケメンがいないことも説明がつく。ギャルゲーかぁ〜なるほどねぇ。

どっちにしろ元ネタは全くわからないし私がモブであることは変わらないから関係はないんだけど。


 なるほどなるほど。と思いながら再びぷらぷらと図書館を目指して歩いた。




 ついでに後日、公園でチャンバラごっこをしているモブくんたちの中にキラキラした美少年がいた。いや、たぶん100%男の子の格好をした美少女だけど。きっとモブくんは少年だと思ってて、再会した後に発覚するんだろう。知ってる。






 モブくんが主人公のギャルゲーだと確信したわけだけれど、関係のないモブの私は目標の文官に向けて勉強に励み、平凡地味()()になった。見た目を気にする思春期で眼鏡をしている人は少ないがいないことはない。地味なガリ勉グループにカテゴライズされるだけで悪目立ちはしていないはずだ。というか、そのカテゴライズで合ってるので特に問題はない。


 ただ、学園入学を目前にして私はふと不安になった。


 ギャルゲーはギャルゲーでも、全年齢じゃなくて18禁だったらどうしよう、と。


 いや、モブ女の私が被害に遭うことはないにしても、同じ学園内でそんなことが起こってるのが単純に嫌だ。

 この教室で、あっちの準備室で、中庭で、階段で、ナニかあったんだと思いたくない。なんか、うわぁってなる。座ってる椅子が、触れている机が、使っている教材や設備が、今歩いている場所が、もしかしてナニかの現場かもなんて思ったらドン引きどころの話じゃない。他所でやれ。

 モブの悲しき役割で観衆の一人にされたりしたら、将来のことをかなぐり捨てて即行で退学したい。



 ギャルゲーの世界でも全然いいけど、18禁展開だけはやめてほしい。せめて学園を卒業してからか私と関係ない他所でやってくださいお願いします。どうか全年齢な健全青春恋愛ゲームでありますように――




 そんな不安を抱えたまま挑んだ入学式。かつて目撃した美少女たちが勢揃いしていた。

 天真爛漫幼馴染みちゃん

 才色兼備ツンデレ王女様

 儚げ清楚聖女さん

 流行最先端ギャルちゃん

 猪突猛進女騎士さん

バリエーション豊富な美少女たち。なかなか壮観である。


 モブくんはやはり垢抜けない地味さだったが、終始幼馴染みの美少女と一緒にいたので多少注目されていた。

 ちなみに私は誰とも同じクラスにならなかった。私の教室はとりあえずナニかの現場にはならなそうだとほっとした。


 学園では春の体育祭、夏は星祭り、秋は学園祭、冬のダンスパーティーと各季節に大きな行事があり、学年毎にもイベントがある。それぞれの節目にペーパーテストもあるし、部活のような同好会もあったりする。前世の実体験より華やかでキラキラした雰囲気で、学園全体が陽キャオーラに包まれている。さすが恋愛ゲームの世界。



 一年目。

 入学早々オリエンテーションを兼ねた遠足があった。モブくんは幼馴染みちゃんを選択したようだ。モブくんの隣には男友達もいて仲良くワチャワチャしている。若干チャラくて遠目からでもコミュ力オバケ感が伝わってくるフツメン。きっと彼はやたらと女の子の情報に詳しくて、これからの三年間色々アドバイスを授けてくれるだろう。モブくんよかったね。

 その後の行事は、体育祭は女騎士さん、星祭りは聖女さん、文化祭は王女様、ダンスパーティーはギャルちゃん、とモブくんは各キャラクターと満遍なく好感度を上げていく作戦のようだった。


 とりあえずこの一年間で年齢制限があるような話ではなさそうだと安心した。




 二年目。

 体育祭は聖女さん、星祭りはギャルちゃん、2年生行事の合宿は王女様、文化祭は女騎士さん、ダンスパーティーは幼馴染みちゃん。

 一年目同様満遍なく選択しているモブくん。ハーレムエンド狙いのように思っていたが、なんだか当たり障りなく誰とも親密になった様子はなかった。




 三年目。

 たった二歳差なのに新入生を見ると若いと思ってしまうのは何なんだろうか。

 キャピキャピした新入生達をぼんやり眺めていると、その一人が「お兄ちゃん待ってよ!」なんて言いながらモブくんの友人(例の情報通)を追いかけている。真新しい制服を翻し幼さの残るキラキラした美少女は、兄の友人であるモブくんと早速知り合っていた。

 なるほど年下枠が残っていたのか。モブくんの本命がこの子だから、この二年間誰とも親密にならなかったのだなと納得した。残りの一年は思う存分楽しめるねモブくん!



 おわかりかと思うが、もう私は幼少期から見ていたせいもあって、モブくんには伝説の何かに祝福されて恋愛成就するハッピーエンドを迎えてほしいと思うようになっていた。情報通の友人に慰められるエンディングは是が非でも回避してほしい。がんばれモブくん!



 そんなことを思っていたのに、モブくんは相変わらず当たり障りなく満遍なく美少女たちとイベントをこなしていく。


年下枠の美少女が本命じゃないのか? なんでだ?

ギャルゲーの世界だと思っていたのは私の勘違いだったんだろうか。それともハーレムエンド的なものを目指しているんだろうか? でも、どう見ても全員との友情エンドにしかならないような親密度しかないように思える。

 テストも行事も特に目立った活躍がないままだし、何かに打ち込んでいる様子もない。

 このままじゃハッピーエンドを迎えられないよ!? どうすんのモブくん!

 


 夏頃まではハラハラ見守っていたけれど、秋には焦りを感じ、冬を越え、――もはや絶望である。



なんということだろうか。

たくさんの時間もイベントもあったというのに、誰とも頬を染めるような関係になっていない。平凡地味なモブくんが、いろんな美少女と出会い、仲良くなれるチャンスがいくらでも転がっていたというのに何もモノにできていない…!


 私の頭の中は『(うせ)やろ……!?』という思いでいっぱいになった。





 絶望の中で迎えた卒業式。

 モブくんは美少女たちと言葉を交わしていたが、特別なことが起こるような雰囲気も何もないまま最後のダンスパーティーの時間になった。

 本当なら結ばれた誰かとキラキラしたエンディングを迎えていたはずの時間だ。



モブくんにはガッカリだ…!

モブくんのバカヤロー…!

モブくんにハッピーエンドを迎えてほしかったのに…!

モブくんは幸せになれたのに!

モブくんは幸せになれるはずだったのに…!

モブくん…! モブくん!

モブくん――――









「あの、…俺と、踊ってもらえませんか?」


 俯いていた顔を上げると、私の目の前に手を差し伸べる男の人がいた。

 相変わらず長い前髪で目元は見えないし、平凡地味で垢抜けない野暮ったさのモブくんだった。



 いつもより上等な服を着て、いつもより背筋を伸ばし、いつもより近くて、いつもと違って私を見て、いつもと違って私に話しかけて、その差し出された手は少しだけ震えていて



 私がよく知っていて、初めて知るモブくんが目の前にいた。



「…ぇ…っ、うそ…っ」


 信じられなくて、何だかよくわからないのに涙が溢れそうになる。


「っ向こうに、行きましょう」


 手を取られて、ホールを抜け、中庭に出た。

 そこは、卒業式の日だけ現れるふわふわと光る何かがいくつも浮かんでいてキラキラしていた。



「俺と踊ってください」



 改めて向き合ったモブくんに請われて、声が出なくて、なんとかこくりと頷く。

 ホールから漏れ聞こえる音楽に合わせて、モブくんは私をしっかりリードしてステップを踏み出した。




「知ってますか? 卒業の日に、ここで一緒に踊ると、その二人は永遠に結ばれるって伝説があるんですよ」




 幻想的な光りの中で見上げるモブくんの目元はやっぱりちゃんと見えないけれど、ほんのり赤くなった頬で照れたように笑うモブくんは、たぶんきっとハッピーエンドを迎えられたんだと私も笑った。





fin.



 





だいぶ懐かしいタイプのギャルゲーを思い浮かべながら書きました。モブ子は何かよくわからないけどたまに出会う隠しキャラとかたぶんきっとそんな感じ。


お読みいただきありがとうございました!

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